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AAバトルロワイアル7

1 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/17(木) 16:14:03 ID:WUExahgJ
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               ,ll!!!゙゙゙゜



保管庫(AABR4)  http://www.geocities.co.jp/Playtown-Part/1772/index.html
    (AABR5,6) http://aabatoru.hp.infoseek.co.jp/
雑談スレ http://aa5.2ch.net/test/read.cgi/aasaloon/1153904379/


2 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/17(木) 16:15:20 ID:WUExahgJ
生徒名簿 AABR担当官:ギコ教授

【男子1番】イマノウチ      【女子1番】あい            
【男子2番】ウワァァン     【女子2番】あめねこ       
【男子3番】おにぎり      【女子3番】アリス           
【男子4番】ギコ         【女子4番】あゃなみレイ        
【男子5番】ゲララー      【女子5番】えー      
【男子6番】ジャスティス    【女子6番】ガナー
【男子7番】ショボーン     【女子7番】花瓶 
【男子8番】ターン        【女子8番】しぃ       
【男子9番】タカラギコ     【女子9番】じぃ       
【男子10番】ッパ        【女子10番】ダーヤス   
【男子11番】テナー       【女子11番】つー      
【男子12番】ドクオ      【女子12番】づー  
【男子13番】二ダー       【女子13番】でぃ    
【男子14番】ノーネ     【女子14番】ニラ茶娘   
【男子15番】野間ネコ     【女子15番】ねここ       
【男子16番】ヒッキー       【女子16番】みるまら    
【男子17番】フーン      【女子17番】モニカ         
【男子18番】マニー      【女子18番】モネー      
【男子19番】モナー      【女子19番】モラリ    
【男子20番】モララー     【女子20番】リル子       
【男子21番】モマー       【女子21番】ルルカ

武器一覧
イングラムM10サブマシンガン、デザートイーグル 、M16自動式小銃 、レミントンM31RS 、ポンプ式ショットガン 、ボウガン 、ワルサーPPK
スミスアンドウエスン 、ベレッタ 、コルト・ガバメント 、コルト・ハイウェイパトロールマン 、M18・357マグナム 、ブローニング 、エアガン
軍用ナイフ 、カマ 、ナタ 、牛刀、日本刀 、斧 、ブッシュナイフ 、果物包丁 、アイスピック 、チェーンソー 、手榴弾 、特殊警棒 、金属バット
金槌 、火炎瓶 、木刀 、メガホン 、双眼鏡 、簡易レーダー 、防弾チョッキ 、毒薬 、ピコピコハンマー 、フルフェイス 、うまい棒 、スタンガン
ヌンチャク 、荒縄 、暗視ゴーグル 、生体探知機


3 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/17(木) 16:16:08 ID:WUExahgJ
基本ルール
・地図 ttp://repeter.hp.infoseek.co.jp/map00.gif
・期間は無期限(正確には全てのエリアが禁止エリアになるまで)ただし24時間死者が出ない場合は全員処刑。
・ライフラインは停止しているが井戸などはある
・廃棄されてどれだけ経過しているかは未定。期間によっては保存食などが期待できる
・ゲーム開始時に渡されるデイバックには武器以外に多少の水と食料、地図、時計、コンパスなどが入っている
・武器は銃器からおもちゃ紛いのものまでピンキリ。極端に強力な武器には制限も(弾が少ないなど)
・禁止エリアは二時間ごとに追加。最初はスタート地点で以降はランダム
・六時間おきの放送で死亡者と禁止エリアの発表
・禁止エリアに入ると首輪が点滅を開始し数十秒後に爆発
・会場の端は、陸側は高圧電流有刺鉄線、海側は障害は無いが海上に船が待機している
・他、AABRオリジナルルール(未定)


4 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/17(木) 16:16:50 ID:WUExahgJ
いま、俺達のクラスは大移動している。

決まった時間に決まった席につき決まった日程をこなす。
そんな『いつも』と、今この時は違いすぎるくらいと言ってもいいほど違っていた。

「いやぁ、楽しみモナね。モララーくん。」
前の席のおっとりした表情の男の子、【男子19番】モナーが隣に座っている男の子を
全く気にしていないという風に、振り向き、俺に話しかけてくる。
「いつになくはしゃいでるなモナー。」
「そりゃあ勿論モナ!何年かに一回の大イベントだからね・・・はしゃがない方が異常モナよ!」
じゃあ俺は少し異常なのか?と思いつつも、あえて口には出さないでおく。
「ところでさ。」
俺の隣に座っている【男子18番】マニーは、いつものように上品で裕福な香りの漂う語調で喋りだした。
「僕らの目的地は狂都だろう?・・・僕金持ちだからさ、プライベートで何度か行った事あるんだけれどさ・・・」
こいつの話はいつも回りくどい。
「何が言いたいんだい?マニー。」
「あのさ・・・この道、来た覚えないんだよね。このバス、ホントに狂都に向かってんのかなぁ?」
「「は?」」
疑問符が口を突く。珍しくモナーと俺の言葉がかぶった。
一度モナーと顔を見合わせた後、俺はなだめるようにマニーに言った。
「あのなー、お前通った道一つ一ついちいちいっちいち覚えてないだろ?
せっかくこうして気持ちよくバスの旅楽しんでんだからさー、不気味なこといわないでくれよ。」
「ああ・・・まぁ、ただちょっと気になっただけだから・・・うん・・・」
マニーはひどく納得がいかないようで、うなだれて何かブツブツ言い始めた。
その様子を見て、なぜだか分からないが妙な”不安”?のような感情が俺の心にふと湧く。
気がつけば俺は目の前のモナーにワケの分からない話をしていた。
「なぁモナー。これは一種の”仮定”だが・・・聞いてくれないか?」
「なにモナ?」
「もし・・・マニーの言ったとおりこのバスは本当に狂都に”向かっていなくて”、
もし別の場所に向かっていたんだとしたらどうする?」
「エ?」
「そうだな・・・たとえば、死刑台とか、とにかく恐ろしいところ・・・
 あくまで”仮定”なんだけどさー・・・とにかく、そうだったとしたら、どうする?」
「いや、どうする言われても・・・モララーくんなんか変モナよ。おかしい言ってからわないでモナよ。」
モナーは笑いながらそう返した。ああ、もっともらしい反応だ。
たしかに何を言ってるんだ、俺。マニーの発言に少しだけだろうが不安がって・・・馬鹿らしい。
俺はバスを見渡した。
見慣れぬ光景の中見慣れた連中が思い思いの行動をとっている。


5 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/17(木) 16:18:04 ID:WUExahgJ
おにぎり頭のチビ、【男子3番】おにぎりが、座りながら踊っているのが目に入った。
目線は、隣の席の人間に注がれている。
「わっしょいわっしょい!!あわっしょい!!
みんなもっと盛り上がっていこうよ!!ヒッキーくんも元気出して・・・」
「・・・・・・・・・」
「せっかくの大イベントなのにそんな薄暗い雰囲気出して!!一緒に踊ろうよ!!わしょーい!!」
「・・・・・うぜぇ」
「はぅ?!」
自業自得だろう。

一番後ろの席ではエラのはった男子・・・【男子13番】二ダーがなにやらやかましい。
「狂都の起源は韓国ニダ!!狂都市長には謝罪と賠償を要求するニダ!」
「ぎゃは!!マジで言ってんのおまえェ〜?!ぎゃははは!!!おンもしれェ〜〜!!」
「ふーん。謝罪と要求?馬鹿だろ。」
笑っているのは【男子5番】ゲララー・・・冷めた態度をとってるのは【男子17番】フーンか。
ニダーは最近やってきた転校生だが、転校初日からあの不良生徒二人にいびられてばっかりだ。

「アーイドルは〜〜♪ぐぇあ〜〜♪」
突如バスのスピーカーからあまり音程の取れてない歌が聞こえてきた。
大方アイドル気取りの【女子15番】ねここと【女子21番】ルルカだろうとか思っていたが、本当にそうだった。
「ねここぢゃあ〜〜ん!!」
「ルルカたーーーーん!!」
何人かが声援を送っているのが聞こえる。同じクラスメイトのくせに・・・
と、ふと前方に視線をやったら目の前の男もはしたなく声援を送っていた。

ふと視線を移すと、女子席に行って女子となにやら話してる影が二つあった。
【男子4番】ギコと【男子6番】ジャスティス(個人的にコイツはどこかいけすかない)だ。
「しぃ・・・俺と・・・・・・」
「あら・・・・・・そ・・・」
「モギャー」
「やかましいぜゴルァ・・・・・・こ・・・・」
話の内容はよく聞こえないが、おそらく色恋めいたことでも話してるんだろう。


相変わらずやかましいが、何もかもが日常と変わらない俺のクラス。
”万が一”にも・・・この連中がなにかトラブルなんかに巻き込まれるはずがあるだろうか。いや、ない。
マニーの発言に変に不安を感じていた自分が、ますます馬鹿らしい・・・
俺は隣に座っているマニーを静かにあざ笑った。


・・・気づかぬ間に夜が来ようとしていた。


6 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/17(木) 16:18:39 ID:WUExahgJ
「モララー・・・」
「ん?」
モナーが俺の名を呼び振り返る。どこか瞼が重そうだ。
「健康優良児の僕は、もう眠る時間みたいだモナ。狂都には朝ごろつくんだっけ?起こしてね・・・」
「ハイハイ。」
モナーは何度か瞼をこすると席に座りなおし、すうすうと寝息を立て眠り始めた。
今は・・・まだ21時。こんなイベントであろうがなかろうが
普通このくらいの年の人間はこんな時間には寝ていない。
モナーの健康優良児っぷりに感心しながらも、俺はなにとなくバスを見渡した。

・・・意外なほどに、眠っている人は多かった。

男子生徒は半数とはいかずとも見る限り結構な人数が眠っているし、
女子生徒は恐らくほぼ半数、俺の隣に座るマニー、みな背もたれにもたれかかり眠りこけている。
なんだ、このクラス意外と健康優良児が多かったのか?たしかに実際このクラスの人間の生活姿勢を俺はほとんど知らない。
・・・かくゆう俺にも、どこからか睡魔がにじり寄ってきている。
(・・・おかしいな、昨日はたっぷり寝たはずなのに・・・)
目をこする。異様に瞼が思い。気を抜けばかなり早くに眠れそうだ。
ふと窓に視線を移す。
街灯などの類が一切ない林道をバスは走っていた。
窓ガラスには眠そうな俺の顔が映っている。

「おいおいおい、マジかよォ?!お前ら寝るの早すぎるぜー!!ぎゃははは!!!」

ゲララーが笑っている。静まり返ったバス内では彼の笑い声は余計に目立つ。
気がつけば、いつのまにやらバス内は驚くほどの静寂に包まれている。
ゲララーが笑い出さなければ、みんなの寝息と走行音くらいしか聞こえない。
・・・もう一つ、なにやら不思議な音も聞こえるのだ。
寝息でもなし、走行音でもなし、無論ゲララーの笑い声でもなし。
・・・・・・何かを、吹き出すような・・・・・・?

意識が飛んでいく。

瞼が鉛のように重い。もう我慢できない。
ゲララーの声も聞こえない。
それに、なんだろうか。眠気のせいか分からないがバス内の視界がなにやらぼやけている。
ああ、もうだめだ。
瞼が完全に落下しきる前に、俺は不思議でとても奇妙な物を見た。


ガスマスクをつけた
運転手


俺はこれから起きる『究極の非日常』を一切予測しないままに
眠りに・・・落ちた。


7 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/17(木) 17:45:49 ID:YU8flB1E
糞スレ。

8 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/17(木) 19:49:50 ID:gPe3i4zv
>>1
おつ

9 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/17(木) 21:05:09 ID:A3k/59IE
けして良い目覚めとは言えなかった。それはこの後、ガナー(女子6番)を襲う未曾有の艱難辛苦を余地していたのかもしれない。
人は、眠りが深い時に目覚めるとすっきりした気分で起床する事ができ、眠りが浅い時に起こされると目覚めが悪いと言う。
確か九十分起きに深い眠りの時間帯が訪れるとか訪れないとか。じゃあ今は丁度眠りが浅かった時だったんだ?ていうか、あたしはさっきまで何をしていたんだっけ?
目覚めて真っ先にガナーが感じたのは木の匂いだった。部屋全体から染み出て鼻腔を刺激する木造家屋ならではの匂い。
顔を上げると眼前には教壇があり、その後ろには、当然黒板があった。見慣れたガナーの定位置(ガナーの席は教壇の真ん前なのだ)である。

あぁ、そう言えばバスの中で……寝ちゃったんだっけ?

しかし、何故かガナーの心臓は不自然な速さで脈を打っていた。寝起きだから?いや、違う。体が、本能が何か今の状況に違和感を覚えて信号を出しているのだ。

そう言えば、修学旅行に来ていたはずなのに!何であたしは教室にいるの?あっ!それよりもみんなはどうしたの?

ガナーが起床してからここまでの経過時間、わずか七秒。思うや否や、ガナーは即座に右を向く。ショボーン(男子7番)の横顔が目に入った。
ショボーンはガナーの真後ろにいるガナーの双子の兄、モナー(男子19番)のほうを向いて話をしていたが、突然ガナーがショボーンのほうを向いたので、
くりっとした黒目がちの目を見開き、電気ショックでも受けたかのように小さく体をシェイクさせた。
そのまま真後ろに視線を移すと、モナーがいつもの人当たりの良い笑顔をガナーに向けた。
「おめざめモナ、ガナー?」
「何、お兄ちゃん、これ……どうしたの?」
そう言いながらガナーは窓のほうへ目を配る。
窓には赤黒い錆びた鉄板と思われるものが一面に取り付けられており、外の景色は見えなくなっている(日中なのか夜なのかもわからないじゃない?)。
この教室内はうす汚い蛍光灯の光だけで保たれていた。モナーのほうに向き直ると、また気になる点が目に付いた。
首には金属製と思われる、首輪のような物が首にぴったりと巻き付けられていた。

お兄ちゃん、良い趣味ね。ペット志望?四つんばいになってリル子(女子20番)あたりと一緒に散歩していたら違和感ないんじゃないかな?
お嬢様とその忠犬……なんてブラックジョークを言ったら瞬時にマジのシャイニングウィザードが飛んでくる。

「聞きたい事は山ほどあるだろうけどさ、モナ達もさっき起きたばっかなんだモナ。席を立とうとしたら……」
そう言って教室の入口付近を指差すモナー。そこには迷彩柄の服とヘルメットを身につけた、一目見ただけで百パーセント搾りたて軍人とわかる男達が。
教室の両角の出入り口に各二人、肩に突撃銃を吊るして直立していた。
「……あれに静止されるモナ。無理に移動しようとしたらマジで銃殺しそうな感じモナ。モナ達まだ厨三なのにこんな不思議体験しちゃっていいモナ?」

10 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/17(木) 21:09:14 ID:A3k/59IE
いつも通りの陽気な口調ながら、声をややひそめてそうモナーが言う。
一方、ショボーンは土砂降りの雨の中で野ざらしにされている捨て犬のような潤んだ目で小刻みに震えながらガナーを見つめていた。
今気付いたが、彼の首にも兄と同じ銀色の首輪が巻き付いていた。今のショボーン君には似合ってるかも……って、これも怒られるよね。ごめんなさい。
ふと、首の違和感にようやく気付き首をさする。案の定、ガナーの首にも首輪が付いていた。
誰なの!こんな馬鹿みたいな事するのは!?叫びが心の中でリフレインする。答えは勿論返ってこない。
そして、窓や入り口を見渡す時に気付いたのだが、他の机や椅子にも本来の教室の席順どおりにクラスメイト達が座っていた。
うつ伏せで眠っている人、椅子に反り返ってぼんやりとしている人。体を縮こまらせてショボーン同様震えている人もいた。当然、彼(彼女)等にも首輪が付いているわけだ。
とりあえず今は起きている兄、モナーやショボーンと話をするほうがいいだろう。(見張りの目も気になるし)
「お兄ちゃん、これって……」
そこまで言って、ガナーは黙りこくった。何て言えばいいのだろう?この理解不可能な状況を説明できる言葉……何かが頭の奥で引っ掛かっていた。
記憶中枢が記憶する事を拒否して脳内の最奥に放り出してしまった何か……
「ガナー、これはモナとショボーンが話した結果の推理なんだけど、聞いてくれるモナ?」
兄の言葉に興味津々の顔で頷くガナー。もっとも興味津々とは言っても、何か面白い内容を期待する表情には程遠い、脱出口を捜す窮鼠のような面持ちであったが。
「今の教室の状況……クラスメート集団拉致だモナ言ってみればこれは。それと軍人……あれはヘルメットのマークからしてテロ組織とかじゃない。
 専守防衛軍(この国の軍人。志願兵のみで構成されている)だモナ。極めつけはモナ達自身モナ。モナ達は厨学何年?」
そこまで聞いて、ガナーの脳裏に脳内に放置して埋没していたキーワードが一瞬浮かんできた。プ……プロ……
突然、静寂(ひそひそ話はあったが)を破り、椅子の足が床をこする音が教室内に響いた。皆の目がその一点へ集中する。
「トイレ、行って来る」
そう言って席を立ち、入口のドアへ歩いて行ったのはフーン(男子17番)だった。彼はその目上の者に対しても高慢な態度を取るため、不良というレッテルを貼られている生徒だ。
両手をズボンに突っ込んだまま、入口のドアまであと二メートルという距離まで歩み寄り、そこに立ち塞がる兵士達を睨みつける。
鋭い眼光で兵士を見上げる様は威圧感抜群で、一番入口に近い席のえー(女子5番)も怯えながら彼を見据えるほどだった。
「トイレは後だ! 蜂の巣にされたいのか?」
その威嚇にもフーンは怯む事はなかった。すると兵士はライフルを構え、天井に向けて威嚇射撃を行った。
銃声が教室内を縦横無尽に駆け巡り、銃弾に削られた天井の破片が季節外れの粉雪となって降り注ぐ。


11 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/17(木) 21:18:44 ID:A3k/59IE
「キャーッ!」
「うわー!」
「助けてー!」

この銃声で、眠っていた生徒も一斉に目を覚まし、半狂乱で叫び狂う生徒を見ては今の状況を整理しようと先ほどのガナー同様に回りを見渡していた。
続いて兵士達が叫び狂う生徒の机を銃撃する。弾け飛ぶ木片を感知して反応するロボットのように生徒はピタリと叫ぶのを止めた。
ガナーも驚いて声を出しそうになったが、モナーが両肩を掴んだ為に正気を取り戻した。
フーンとはと言えば、舌打ちをして渋々ながら予想外にあっさりした調子で席へ戻って行った。
ライフルが実弾なのか、そして本当に射撃するのか確認しに行ったようにも思える。だがそれはあまりに無謀な考えに思えた。
「おぉ、派手にやってるなぁ。」
突然、教壇側のドアが開き、教授風のギコが入ってきた。皆の目が釘付けになる。ガナーは既に先ほどのモナーの言葉で思い出しかけた言葉の事など忘れてしまっていた。
ガナーが付けている丸型の女性用腕時計の時間は、0時十二分を示していた。
突然教室に入ってきた教授風のギコは教壇で立ち止まり、名簿と思われる黒いファイルと何枚かの白い紙をホッチキスでまとめた物を教壇の上に置くと、
教室全体をゆっくり見回してから不自然な笑みを皆に向けた。
「皆さーん、寝起きはどうですか? 顔を洗いに行きたいかもしれませんが、もうちょっと我慢して下さいねー。
 えー、私が今回の担当教官を行う事になった、ギコ教授(担当教官)でーす。以後宜しくー」
?そんな先生、うちの学校にはいないじゃん。ガナーは、一瞬そんな事を考えたが、これはどう見てもそういう次元の話じゃないというのにすぐさま気付く。
「アイゴー!チョッパリはウリを拉致して外交カードにするつもりニダか!?」
ニダー(男子13番)が急に立ち上がったと思うと机を叩きながら叫ぶ。
すぐさま近くに立っていた二人の兵士にライフルを突きつけられる。それを見ると、開いた両手を前方に出して兵士を制止するギコ教授。
「うんうん、ニダー。そうだなー、まだ先生は説明をしていないから意味がわからないよな。じゃあ今から説明をしまーす。今から私語は禁止ですよー。静かに先生の話を聞いて下さいねー」
まだ一部でざわめきが聞こえる。しかしギコ教授が不思議な威圧感を持った眼光をその方向へ向けていくと、ざわめきは順を追って消えていく。やがて教室を静寂が包んだ。
「はい、良くできました。じゃあ説明を開始しまーす。修学旅行の途中の皆さんにガスで眠ってもらい、ここまで来てもらったのは他でもありませーん」
別に来たくて来たんじゃないよ。そもそもガスって……大丈夫なの?脳に後遺症出ないでしょうね?あなたもそれ吸ってみなさいよ、眠ってる間に家に帰っちゃうから。
「皆さんは、抽選にて名誉ある今年のプログラムの対象クラスに選ばれましたー、おめでとうございまーす!」

 プログラム!

そうだ、ガナーが忘れていたその言葉、プログラム!今までにニュースで何度か見てきた。確か国防上必要というふざけた名目で行われる戦闘実験シミュレーション。
厨学三年生のクラスを毎年ランダムで50クラス選抜して、選ばれた生徒達は最後の一人になるまで殺し合いをする。
生き残った一人だけが生還する事ができるってあれ!選抜される確率はとても低いからほぼ全ての生徒が「自分は選ばれない」って思いながら厨学三年生を過ごしているけど、
厨学一年生の時に学校でも「隣の○○学校のクラスが選抜されたんだって」という話は流れた事がある。シミュレーションなら終了後に生き返らせて終了させなさいよ。
次の人がすぐ遊べるように元に戻しておくのがルールってもんでしょ?
そんな事をガナーが考えている間にあゃなみレイ(女子4番)やタカラギコ(男子9番)が何か質問をしていた。
それを皮切りに次々とギコ教授に質問が投げ掛けられる。中には『家に帰して』等のストレートかつ聞き入れられるはずもない懇願をする者もいた。

12 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/17(木) 21:20:25 ID:A3k/59IE
「はーい、皆さん静かにー。先生は一人しかいませんからね。いっぺんに答える事できませーん。では手を挙げて下さーい。順々に答えますからねー」
二度目の質問タイムが始まり、ギコ教授はそれに意外にも要領良く答えていく。徐々に高まる皆の不安と絶望感。そんな中、ガナーはずっとギコ教授を睨みつけていた。
冗談じゃない!あなた、絶対に許さないからね!

【残り42人】

13 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/18(金) 18:57:16 ID:cvGuB7Pv
【男子4番】ギコは焦燥していた。
プログラムという言葉は勿論知っている。
だが、そのプログラムの対象が自分達になるとは、考えてもいなかった。
いや、やはり少しは考えたときもあったのかもしれないが、『交通事故』や『通り魔』などと同じく
『普通は起こりえないもの』として頭で処理していたのだろう。
現に、いまギコはこのプログラムを受け入れられないでいる。
『これは嘘だ』と、心の中で何度も復唱しているのだ。

「ぎゃははははは!!!」
突如、教室中に笑い声が響いた。
みな、その方向を一斉に向く。【男子5番】ゲララーだった。
「おいおい、マジかよォ・・・くはは、ウケるーーー!!」
ゲララーは、腹を抱え、顔をゆがめ、これ以上ないというくらいに爆笑しながら席を立った。
「きさま、動くな!!」
銃口がゲララーに向けられる。しかし、ゲララーは笑うのをやめようとしない。
「はいはーい、えっと・・・ゲララーくんか。笑うのをやめましょう。私語厳禁ですよ」
ギコ教授が諭すように言うと、ゲララーはようやく笑うのをやめた。
しかし席に座ろうとはせず、そのまま少しまだ笑いの残った声で言った。
「いやァ・・・すいませーん。なんだか馬鹿らしくってさァ・・・つい笑いを堪えきれなくなっちゃったんですよ」
「馬鹿らしい・・・?どういうことですか?」
ギコ教授の血管がピクリと震えるのを、ギコは見逃さなかった。
しかしゲララーはそれにまったく気付いていないようだ。
「ありえないですよォ。プログラム?殺し合い?ハァ?ってね。
これさぁ、ドッキリとかそういう類のもんでしょ?先生達も人が悪いよなーー!ぎゃはは!!」
また笑い始める。兵士が銃口を当てると、ゲララーははき捨てるように一度プッと吹き出しまた黙った。
「ドッキリじゃありませーん。あなたたちは正真正銘プログラムの対象クラスなのです。
大変名誉のあることなのですから、もう少し自覚を持ってくれないと困りますねー」
ギコ教授は表情を変えないまま言った。
そのあまりの無表情さに、ギコは、いや、おそらくほとんどの生徒が悪寒を感じていた。
「またまた〜。なんでそこまで徹底するんでしょうね〜」
ゲララーは何も気にしていないかのように、クスクス笑いながら言っている。
よっぽど鈍感なのか、喧嘩を売っているのか、定かではないが、誰の目にも『ゲララーの命の危険』は明らかだった。
・・・・・・ゲララーはよくフーンとつるむ事が多い不良生徒で、目上の人には必ず挑発的な態度をとる。
まさかこんな場でも変わらず挑発的だとは。もはやただの馬鹿としか言い表しようがない。
「じゃあさ、なにか『証明』してくれないと困りますね。ここにいる大半の人がその『名誉』なんて自覚しちゃいませんよ」
ゲララーは変わらず挑発的だ。
誰もが、不安の色を隠せなくなる。
「証明・・・・・・ですか?」
ギコ教授は、スッと懐から銃を取り出した。
「あら、銃。モデルガンですかい?ウチのクラスにも1人詳しいのがいるんスよ。」
ギコ教授はその言葉を全く無視すると、ゲララーに銃を向けた。
ゲララーの顔が、少しだけ緊張に歪む。
・・・・・・おそらく、その場の誰もが叫びたくなっただろう。
しかし、誰一人叫ぶものはいなかった。

・・・それは、恐怖からか。緊張からか。・・・はたまた、ゲララーの言う事を少しでも信じてみたかったからなのか。
・・・ともかく、それは次の瞬間、全てが『後悔』へと変わったことだけは確かだ。

ドン

14 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/18(金) 18:57:48 ID:He3IEZTq
           i::::::::/'" ̄ ̄ヾi
           |:::::::| ,,,,,_  ,,,,,,|
           |r-==( 。);( 。)
           ( ヽ  :::__)..:: }
        ,____/ヽ  ー== ;  ほほう それ・・・
     r'"ヽ   t、   \___ !
    / 、、i    ヽ__,,/
    / ヽノ  j ,   j |ヽ
    |⌒`'、__ / /   /r  |
    {     ̄''ー-、,,_,ヘ^ |
    ゝ-,,,_____)--、j
    /  \__       /
    |      "'ー‐‐---''
                ζ     (⌒Y⌒Y⌒) ____
            / ̄ ̄ ̄ ̄\/\__//∵∴∵∴\
           /         \/     \,∴∵∴∵∴\
           /\   ⌒  ⌒  |⌒   ⌒ \ /   \|
           |||||||   ( 。)  ( 。)| ( 。)  ( 。) | ( 。)  ( 。)|
           (6-------◯⌒つ |     つ  |    つ  |
           |    _||||||||| | ____ | ___ |
        ,____/\ / \_/ /  \_/ /   \_/ / ほほう それでそれで?
     r'"ヽ   t、  \____/\____/.\____/
    / 、、i    ヽ__,,/   ヽ__,,/    ヽ__,,/
    / ヽノ  j ,   j |ヽ j ,   j |ヽ j ,   j |ヽ
    |⌒`'、__ / /   /r  | /   /r  |, /   /r  |
    {     ̄''ー-、,,_,ヘ^ | ''ー-、,,_,ヘ^ | ̄'ー-、,_,ヘ^ |
    ゝ-,,,_____)--、j____)--、j____)--、j
    /  \__       / _       /_       /
    |      "'ー‐‐---''  "'ー‐‐---''  "'ー‐‐---


15 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/18(金) 19:00:07 ID:cvGuB7Pv
「きゃあああああああああーーーーー!!!!!!」
「うあああああああーーーーーー!!!!」
「ぎゃああああああああーーーー!!」

教室中が、悲鳴で包まれた。
悲鳴の節々で、1人の名前が飛び交う。

「あめねこちゃん!!」
「あめねこ!!」

ゲララ-の後ろで、【女子2番】あめねこが、横たわっていた。ただ頭部が誰の目にも明らかに滅茶苦茶に壊れている。
悲鳴を上げ、何人かの女子生徒、男子生徒があめねこの元へ駆け寄る。
「うっきゃあああああああああああ!!!!!!!!」
【女子1番】あいが奇声が上げた。しかし、無数の悲鳴の中に溶け込み、
それを気にするものは誰一人としていない。
「静かにしろ!!黙れ!!」
兵士たちは、また威嚇するように機関銃を天井に向けて乱射する。
木屑の雨が降り注ぎ、生徒達はあっさりと声を上げるのをやめると、席に座った。
・・・・・・気持ち悪いほどの、『あっさり』だった。
ギコ教授は得意げに微笑みながら、まだ立ちすくんでいるゲララーに向かって言った。
「・・・・彼女は、後ろでなんかゴチャゴチャ私語をしていたから死んでもらったんだ。
どうだい、いい証明になっただろう?ゲララーくん?」
ゲララーの顔からは、すっかり笑みが消えている。
いや、それどころか今にも泣き出しそうな顔だ。
「・・・・・・そうですね。過激すぎてビックリですよ」
「納得したらさっさと座れ。お前も殺すぞ」
ゲララーもまたあっさりと席に座った。
一部の女子生徒がゲララーに怒りの視線を向けた。

・・・・やはり、このプログラムは本当のことだった。
『私語』をしただけで殺される、そんな狂った世界に来てしまったんだ俺達は。
いや、まだ夢という線も捨てきれないぞ。そうだな、夢だ、夢かもしれない・・・

・・・・・そう思ったのはギコだけではなかったが、なぜだか頬をつねる者は誰一人としていなかった。
「では・・・これで質問タイムを終わりにしましょう。ルール説明に入りまーす。」
ギコ教授は一度咳払いし銃をしまうと、黒板に色々と書きながらなにか喋り始めた。

16 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/18(金) 19:57:26 ID:cvGuB7Pv
・・・・・延々と、ルール説明が続けられた。
みながみな、奇妙なくらい真面目にその話を聞いてる。
目を皿みてぇにして黒板を見つめて。いつから優等生クラスになったんだこのクラス?
・・・とは言ってみるものの、俺だってルール把握に必死だ。
決して人殺しがしたいわけじゃないが、聞かないで後々なにか後悔したら損じゃないか。
・・・・みんなそうだよな?まさか人殺ししたいヤツなんているわけないだろう。

「・・・・・以上、これでルール説明は終了。みんな、ちゃんと理解したか?」

みんな無言で頷く。俺も無言のまま頷く。随分元気のないクラスだ。
とりあえず、俺はルールの要点を暗唱した。


・地図 ttp://repeter.hp.infoseek.co.jp/map00.gif
 お、サンクスあるじゃねーか!ここのフライドチキン、美味しいんだよな。脂っこくて。
・期間は、禁止エリアが島を埋め尽くすまで。
 つまり、時間制限があるということだが、なんで時間制限とかつけるかなあ?意味無いよな。
・禁止エリアに入ると首輪が点滅を開始し、数十秒後に爆発。
 うっかり入ったらどうすんだよ!馬鹿か!!爆発って事は死ぬのか?人殺しめ!
・禁止エリアは二時間ごとに追加。最初はスタート地点で以降はランダム
 ランダムて!もしはさまれて出れなくなったらどうすんだ。ボンバーマンか。
・ライフラインは停止しているが井戸などはある
 水道とかガスとか電気とかくらいは普通、通しておくもんだろ?サバイバルオタクか担当官は!
・ゲーム開始時に渡されるデイバックには武器以外に多少の水と食料、地図、時計、コンパスなどが入っている
 多少とかふざけんな、大量に入れとけよ!殺し合いとかふざけたことさせんなら少しくらい俺たちに気ィ使えゴルァ!
・武器は銃器からおもちゃ紛いのものまでピンキリ。極端に強力な武器には制限も(弾が少ないなど)
 ますますゲーム気分だな、政府のやつらめ。畜生、畜生。
・六時間おきの放送で死亡者と禁止エリアの発表
 六時間おきって長くね?
・会場の端は、陸側は高圧電流有刺鉄線、海側は障害は無いが海上に船が待機している
 ん、なんだか意外に簡単に突破出来そうじゃないか??


・・・・思い返せば思い返すほど無茶苦茶で悪辣非道なルール達だ。突っ込みどころ満載過ぎて頭が痛い。
殺し合いってだけで馬鹿げてるのに、無駄に凝ったルールつけやがって。
おかげで、どこか非現実的だ。
やっぱり、夢じゃないのか?夢っていつも大抵バカだし、これも夢じゃないのか?
いや、夢だ。絶対夢だ。夢じゃないならこんなに心に余裕があるわけない。

17 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/18(金) 20:03:16 ID:cvGuB7Pv
「ところで、今からプログラム開始するまでにみなさんにやってもらうことがあります」

突如、担当官の声が俺の思考に割り込んでくる。
割り込み禁止だぞゴルァ!死にてぇか!!
「みなさんは、これから殺し合いをしまーす。
でも、いきなり『殺す』と言っても、なんだか抵抗があるというか、むつかしいですよねっ」
当たり前のことを言い出しやがって。っつか抵抗あるどころか殺し合いなんて出来るワケねえだろ。
何期待しちゃってんだコイツは。だからさっさと帰らせろ。
「だから・・・・・・ちょっと今からみなさんに『殺し』をしてもらいますっ」
担当官は信じられない事を言い出した。
今から?何を??どうやって???
大量の疑問符が頭を埋め尽くす。ちょ、そんなに湧いてこられたら整理整頓が大変だろが。
「あー、きましたきました。」
何人かの兵士達が、小さい木箱とナイフを持ってきた。
一人一人、机に木箱とナイフを置いていく。
俺の机にも置かれる。これで何をしろって言うんだ。こんなゴツいナイフじゃステーキは切れないぞ?
ガタゴト!
え・・・・・?
ちょっと待て、この木箱動いてるぞ!!
お、俺は気付いてはいけない事に気付いてしまったんじゃないのか。
いや、俺の箱だけ特別なのか?え、じゃあ俺選ばれし男?じゃあ帰らしてくれたりすんの?マジ?
慌てて辺りを見回す。
どの木箱も、かすかに動いてる。小さな音を立てている。俺だけが特別なわけではないようだ。
ふと、俺の脳味噌の美麗液晶に、いきなりさっきの担当官の言葉が映し出された。

”だから・・・・・・ちょっと今からみなさんに『殺し』をしてもらいますっ”

まさか・・・・・!!
何かとてつもなく薄ら冷たいものが俺の背中を走り去っていたようだ。
「さっ、遠慮せずその木箱を開けてくださいよ。」
担当官は、見るからに笑いを堪えているかのような表情をしている。
突如、怒りやらなんやら物凄く冷たくドス黒い感情が俺を襲う。

「キャッ!!」

女の子の悲鳴が聞こえた。誰の声だか、そんなことはどうでもいい。木箱の中身を見て、驚いて、悲鳴を上げたんだよな!?
俺はすぐに木箱を開けた。
心臓が、ギョクンと大きく波打った。はしたなく悲鳴を上げそうになる。

「『そいつら』を、殺すんですよ!そのナイフで、ザクってね!ははは!!」

ネズミ

大小関係ない五匹程度のネズミの群れ

動いてる。とても元気だ。元気すぎてほほえましい。家族?家族なのか?それを今から殺すのか?
で取って食うのか?焼かないで生で?コロッケにしないでいいの?どこの難民だよ。
脳味噌のビジョンに、大量の言葉が無整列に滅茶苦茶に映し出されては消えていく。

冗談めいた言葉や意味不明な言葉。まるで湯水のように湧き出る、湧き出る。
俺は咄嗟に頬をつねった。

・・・・・激痛がした。

【残り41人】

18 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/19(土) 17:32:24 ID:+liSSoPD
生徒達の机から鮮血に染まったナイフとネズミの亡骸の入った木箱が回収される。
モララーは俯いたまま脳内で状況の整理をしている。
俺達は抵抗もできなければ逃げることもできないネズミをこの手で葬った。何故?殺されるから。殺さなきゃ殺される。
簡単だった。ホウ酸団子でネズミを駆除しているものだ、と俺は自分自身に言い聞かせながらネズミを捌いた。
俺はゲームに乗っていない。乗りたくない。俺に言わせれば乗った時点でゲームオーバーだ。

「はい!よくできましたね! ではゲームを開始する前に最終確認です。何か質問はありませんか!?」
「・・・はい」
一人の生徒の手が挙がり、ギコ教授もまた素早く一人の生徒を指し示した。
「……したらば先生は、どうしたんですか?」
発言許可を得たねここ(女子15番)が、ギコ教授へと訊いた。それは、誰もが訊きたかった事だろう。
ギコ教授よりも、担任のしたらば(担任)のほうが、遥かにモララー達の事を理解し、それに応じた配慮をしてくれるはずだ。
したらばならば、何とかしてくれるかもしれない。そんな空気が微かに漂った。したらばは、生徒を見捨てて殺し合いをさせるような人物ではない。そう信じていた。
それは、間違いではなかった。だが、生徒達はしたらばを信じたがゆえに更なる絶望の淵へと落とされる事となった。
「あ、したらば先生ですかぁ。う〜ん・・・じゃあせっかく生徒が会いたがっているんです。呼びましょうかね。」
ギコ教授がドアのほうへと歩いた。すると、二人の兵士が軽く一礼をしてギコ教授と共にドアの外へと消えていった。足音が遠ざかっていく。
すると先ほどからギコ教授の隣で日誌のようなものを書いているしぃ助教授(担当教官補佐)がねここのほうへ笑顔を向けて、大人の女性の艶っぽい声で言った。
「あなたはねここちゃんよね? したらば先生の事は、好き?」
「え? ……先生の中では、生徒の事を考えてくれているほうだと思いますけど……?」
ねここの返答が気に入ったのか、しぃ助教授は更に目元を緩める。それから、どういうわけか右手を口に被せて小さく笑い出した。
生徒達の誰もが、不可解な顔でそのしぃ助教授の様子を眺めていた(自己紹介を受けていないため、何者かわからないからだろうか)。
間もなくしぃ助教授は笑い止み、それから再び話し出した。
「朝に校長先生としたらば先生を呼んで、プログラムの事を話し合ったんですよ。したらば先生はとってもいい先生ですね。私、感動のあまり反吐が出ちゃいましたよ。」
しぃ助教授が一旦言葉を切り、含み笑いのようなものを零した。ギコ教授達は良からぬ”何か”をしようとしている。モララーは、極めて不吉な予感を覚えた。
「プログラムを止めてくれって必死でお願いしてきて、何を言ってもわかってくれないんです。大東亜で、防衛上に必要なプログラムなのにです。
 いけませんね。自分のクラスだけ見逃して欲しいとか、そういう人は『国家の恥』なんですよね。ホント。」
小さなざわめきが起こった。皆も漠然とながら危惧を感じたのだろう。少なくとも、これはしたらばがどうにかできる代物ではない。
今更ながら、モララーを含む数人の生徒は理解した。その時、部屋のドアが開いてギコ教授と兵士二人が戻って来た。
途端、ねここの瞳が驚愕で揺らいだ。二人の間には、護送される容疑者のように両腕を抱えられた状態でしたらばが立っていた。
更に、両腕は胴体ごと荒縄でぐるぐる巻きにされていた。それを見た誰かの小さな悲鳴が響く。
「したらば先生!」
数人の呼び声を、再度軍服集団の銃口が塞いだ。したらばはそのまま部屋の前列中央、丁度ギコ教授の前に立つ形で立たされた。
「したらば先生。みんな、先生に会えるのを楽しみに待ってましたよ。何か掛ける言葉はありますか?」
ギコ教授がしたらばへと問い掛けた。したらばはギコ教授へ目もくれず、枯れた声でモララー達のほうへと張り叫んだ。
「みんな! こんな、プログラムなんかに乗っちゃ駄目にょら! 大切な友達にょら! お願いにょら! みんなー!」
したらばの目が涙で濡れていた。したらばが生徒に愛された一番の理由は、生徒の身になって物事を考えてくれる点ではなかっただろうか。
放課後、自らの時間を潰しても生徒達の進路や友人関係の悩みを聞き、したらばなりの解決策を与え、また、解決した後も生徒達にその事後経過を聞く事を怠らなかった。
叫びは、実にしたらばらしいものだった。数人の生徒は、”プログラムで殺し合うななんて無茶を言うな”と思ったかもしれない。
けれど、それがしたらばの偽らざる切なる本意である事は理解できたし、それが返ってしたらばに無理な期待を寄せてしまっていたのだと知った皆の胸を痛めた。

19 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/19(土) 17:42:20 ID:+liSSoPD
ギコ教授の指パッチンの合図と共におもむろにしぃ助教授がしたらばの左のこめかみ付近へと手を伸ばす。途端、小さな破裂音が響いた。
したらばの頭部が痙攣に似た小さな揺れを見せ、そのまま上体ごと傾いだ。
「うるさいんです。先生は。」
ギコ教授が、したらばの頭を右手で鷲掴みにして呟いた。したらばはと言えば、それに抗う事もなく、視線は虚空を泳ぎ、だらしなく口を開いていた。
したらばの顔は、既に死人の物と化していた。よくよく見ると左の耳元付近が真っ赤に染まり、首筋へと向かい伝わり出していた。
しぃ助教授が脇から小型の拳銃のようなもので撃ったんだろう、そう思った。
「さ、仕上げだ。」
そのままギコ教授はしたらばの亡骸を引き摺ったままでドアのほうへと歩いて行く。そして兵士達の前に立つと、掴んだしたらばの体を背伸びしながら高く掲げた。
その馬鹿力――ギコ教授当人はいたって涼しい顔をしているが――に驚く間もなく、生徒達のほうへと顔を向けたしたらばの背中へ、兵士達が同時に銃口を押し付けた。
「キャァ!」
「うっ!」
直後の惨劇を予想した何人かが、耳を塞いで机に顔を伏した。
刹那、凄まじい轟音と共に室内の壁に机に椅子、生徒達の鼓膜は勿論のこと制服から両手両足にまで震えが走った。
したらばの胸部から下腹部の間が派手に弾け、血液から骨の欠片、更には内臓の断片までもが室内中へ飛び散り、部屋に真紅の水玉模様を描いた。
両腕を拘束していた荒縄は銃弾で切断され、投げ出された両腕がだらしなく宙を泳いでいた。下半身はほぼ骨だけで繋がっているようなものだった。
「悲しいけど、これはプログラムなんでーす。政府の実験に反対する人は、こうしないといけない規定なんです。」
ギコ教授はしたらばの頭から手を離す。したらばの亡骸は、空気の抜けた浮き輪のように地面へクシャリと落ちた。
「し、した…ら……」
ねここが涙目で震える唇から涎をたらした状態で、抜けた腰を椅子へと落とした。他の多数の生徒も、力なく息を吐いて椅子へともたれ込む。
絶望を示唆させる空気が、室内中でより濃く漂い始めた。ギコ教授は、してやったりと言う表情で生徒達を見回している。
おそらくは、見せしめの公開処刑の予想以上の効果にご満悦なのだろう。それでモララーは言語を絶する怒りを覚えたが、先程の事を思い出してどうにか堪えた。
噛み締めた歯からは軋む音が響き、呑み込んだ怒号に代わって先程以上に荒い鼻息が漏れた。

【残り41人】


20 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/19(土) 17:56:41 ID:+liSSoPD
「それじゃあいよいよ出発でーす、一人ずつ二分間隔で学校から出て行ってもらいまーす。出口は教室を出て右、廊下の突き当たりでーす。
 先程も言いましたが、この学校付近(D−6)は全員が出発してから二十分後に禁止エリアになるので早く立ち去って下さいねー。
 それから机の端に掛かってる自分の鞄は持って行ってもらって構いませーん。さーて、最初の出発者はあらかじめくじで決めてまーす。それでは発表しますよー」
最初の出発者、これは重要かもしれない。
もしも最初の出発者が”やる気”で、更に支給品が強力な武器だった場合は、出口で待ち伏せした最初の出発者と開始直後から勝ち抜き戦が始まってしまう可能性もあるのだ。
逆に言えば最初の出発者は安全ということになる。

 神様!出来ればモナを… 否、モナはいつでもいいモナ!妹だ!モナの妹のガナー(女子6番)を最初にして下さい!お願いします!

しぃ助教授(担当教官補佐)が日誌と思われるものに挟んであった茶封筒を取り出し、ハサミで封筒の端を切り取って、内封された白い紙をギコ教授(担当教官)に渡す。
前の方の列のモナーからは白い紙に赤い文字が透けているのが見えた。女子だろうか?
「では発表しまーす。女子20番、リル子さん」
その言葉で皆の視線が窓側の後方の席へ注目する。
リル子(女子20番)がかすかな笑みをたたえて(え、笑ってるの?)これまた優雅な足取りで教壇のほうへと歩を進めていった。
それでもすぐにギコ教授の脇へと着いた。ギコ教授に促されるまま、リル子がディパックを受け取って戸口の外へと消えていった。
モナーの周囲で小さな呟きが起こった。絶望の呟き。
「えっと、次は男子17……」
「わかってんよ、キョーカンさん」
ギコ教授が点呼を言い終えるよりも早く、後方の席のフーン(男子17番)が立ち上がった。
その不良らしいと言えばらしい挑戦的な眼つきでギコ教授を睨み付けながら、フーンもまたギコ教授の脇へと歩いていった。
「おい、俺の鞄。よこしな。」
フーンが右手を伸ばしながら不躾な口調を飛ばし、兵士は不愉快そうな顔でフーンへ鞄を投げ付けた。
それからギコ教授達を無視するように左手の腕時計へ視線を向け続ける。
「じゃあ……」
フーンは時間になったのを確認すると、ギコ教授が声を掛けるよりも早く部屋を出ていってしまった。ギコ教授と言えば、憤慨する事もなく口元に手を添えて苦笑していた。
次に呼ばれたじぃ(女子9番)もギコ教授を睨み付け、何事かを呟きながら出発した。
ニダー(男子13番)は、すっかり青ざめてしまった顔で歯を鳴らし、ディパックを抱き抱えながら足早に部屋を去っていった。
「男子20番、モララー君」
モネー(女子18番)が愚痴りながら部屋を後にして間もなく呼ばれたモララー(男子20番)が椅子を引いて立ち上がった。
皆の目が、机の間を進むモララーへと集中した。彼なら、あるいは脱出策を閃くのではないだろうか?
皆の期待を込めた眼差しには、そういう意味合いがあるのだろう。それでいて、モララーは飾らない性格で誰とでも気さくに付き合っていた。
何らかの反抗を考えている誰もが、モララーとの合流を望んでいるであろう事はモナーも想像に難くなかった。

21 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/19(土) 18:00:46 ID:+liSSoPD
モララーは兵士からディパックをひったくると、中腰のままでギコ教授を見上げ、言った。
「ただじゃ終わると思うな。覚悟しておけ…。」
静かな物言いだったが、言葉にははっきりと”怒り”の感情が内封されていた。しぃ助教授は澄まし顔で首を軽く持ち上げると、微笑した。
「フフ… 無理ですよ。特にあなたみたいな厨如きには」
「? 咆えてろよ、池沼が」
モララーは吐き捨てると、駆け足で外へと出て行った。ギコ教授は、何事もなかったように手元の紙へと目を落として、点呼を続けた。
「女子番6、ガナーさん。準備して下さい」
ガナーが、ぎこちない動きで椅子から立ち上がろうとしていた。
「ガナー……」
ガナーが立ち上がろうとした時、モナーは小さな声でガナーの名前を呼んだ。
ガナーはモナーへと顔を向けて何か言おうとしたが、兵士達が突撃銃を持ち上げた事で、断念してギコ教授のほうへと歩いていった。
瞳は涙で潤んでいたが、その奥には強い輝きが見えた。兄の呼び掛けは、少しでもガナーに気力を与える事ができたのだろうか。
ガナーもまた、ギコ教授に押されて部屋の外へと消えていった。小さくなっていく妹の姿をしばらく名残惜しそうに見詰めていた。

【残り41人】

22 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/19(土) 19:49:57 ID:26zvWkyz

30番くらいしてようやく呼ばれた自分の名前。
その頃には、深夜1時をとうに過ぎていた。
デイバックを無言で貰い、学校から出てすぐデイバックをあけたのは数十分前。
歩き始めて何分たっただろうか。
光の全く差し込まない森林地帯の中、腕時計を読み取るのは不可能だった。

全員が出発してから、恐らくまだ1時間も経っていないというのに、エリアの端の方から銃声が聞こえた気がする。
足音や木々、葉の音をあまりたてないようにしながら、【男子4番】ギコはふぅとため息をつき足を止めた。

「みんな……無事なのか」

自分の目は暗いところでも多少はものを見ることはできる。だが、見渡すかぎり木、木、木。
よほど正確な射撃か、弾丸をばらまけるような銃器でないかぎりは安全だろう。しかしこちらには武器が―なかった。

防弾チョッキ。
デイパックから出てきた、自分の武器。

どこか近くに学校や建物でもあればそこから何か調達できるだろうが、武器よりも安全性のほうが大切だと直感したギコはまず真っ先に森のある方角へかけだした。
耳を澄ませば、ほんの少しちょろちょろという音が聞こえる気がするから、恐らくB=4付近だろうか。
とりあえず適当な場所に座り、懐中電灯をなるべく光が漏れないようにデイパックの中を照らすように点灯して水を飲み一息ついた。
ここに待機していれば、運が良ければ1日は大丈夫だろう―

1日。
たった1人で。
武器もなく。

額にぽっかりと穴が空き、そこから血が一筋垂れながら倒れる自分を想像して、ギコは震えが全身に広がった。
下唇を思わず噛み、切れてしまい口の中に血の味がする。
ギコは地面に口の中の違和感をまとめてぺっと吐き捨て、クソ、と呟いた。
「こんなところで、死んでたまるか……」
地面に拳をたたき付けた。

そのわずか数秒後、後ろの草むらから誰かが動く音がして、ギコの体にまた戦慄が走った。

「誰だ!」
声の震えを何とか押さえ、ギコは叫んだ。わずかに見える人影が、銃のようなものを構えている。
すぐ逃げ出せるように身構えた。
「その声は…ギコ君?」
か細く響く声は、良く知るグループの中の友人の一人、【女子8番】しぃだった。

23 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/19(土) 19:51:40 ID:26zvWkyz
「お前は…しぃか。良かった、お前なら安心だな」
はぁと安堵の息を漏らし再び座り込んだ。しかししぃのほうは、微動だにしない。否、それどころか持っている拳銃すら落とさない。
「どうした?お前もこっちに来いよ。」
「駄目よ。そっち側には行けない」
予想だにしていなかった言葉に、ギコは眉間にしわを寄せた。
「何でだ?俺が信用できないっていうのか」
「動かないで!」
「…どういう事だよ、俺たち友達じゃないか」
「武器をおろしなさい!」
「武器なんて持ってない!」
話がかみ合わない。いつもならしぃは相手の言っていることや話したいこと、それに相手がどんな感情なのかも察して話をするのが得意なはずだったのに。
何かがおかしい。
―――プログラムは、人をこうも変えるものなのか?

「しぃ、どういうことなんだよ、俺はお前を殺そうとなんかしてない!」
言いながら前に出た。足が勝手に動く。でも、止めるべきだとはなぜか思えなかった。
「お願い、動かないで!」
「しぃ、教えてくれよ、なんでなんだよ!」
言っていることを無視し、デイパックをおいてかけだした。何故だか知りたかった―信頼してもらえないのかを。

「駄目!」
その声も、聞こえなかった。

直後がさりと音を立て、ギコが座っていた場所のほんの数m後ろの茂みから笑い声とともに現れた人影―【男子5番】ゲララー。
「バーカ、ぎゃは、はははは!!」
ギコが走りながら振り向きその姿を確認した瞬間、彼の持っていた大きな銃―イングラムM10サブマシンガンが、ぱらららららと音を立て数秒間にわたる幾発もの弾丸のシャワーをはき出し始めた。

気づかなかった。
物音を立てやすい状況の中に居るはずなのに、何故、こいつは?―

酷くゆっくりに感じた数秒間。
弾丸が高速のスピードで鈍い音を立てて木々にぶつかり、
地に放ったままのギコのデイパックが何発かの弾丸によって射抜かれ宙に浮き、
大量の弾丸が漆黒の闇に吸い込まれるように飛んでいったあと、
何発撃たれたのかもわからないまま衝撃がギコの腹部や胸部から全身に伝わっていき、
向かっていた進行方向へ吹っ飛んでいった。

どしゃあ、と乾いた枯葉の上にあおむけに倒れた。撃たれた、とギコは真っ白な頭で理解した。
撃たれた部分から、涙も出ないくらい、人生初めて味わうような衝撃と痛みが押し寄せて―こない?
がば、とギコは起き上がった。放心して腹部や胸部をさする。小さな穴が何カ所もあるが、痛くない。強いていえばわずかに残る鈍い衝撃と、倒れたときにうちつけた腰が痛いくらいで―
ともかく、防弾チョッキは立派に作用していたし、防弾チョッキが防護する範囲外には一発も弾丸が当たっていなかったのだ。

「ん?まだ生きてる?…ああ、防弾チョッキか。ぎゃははっ」
ぞくっとする笑声がして顔を上げた。目の前に、イングラムを構えたゲララーが居た。
正確に頭をねらっている。今度こそ鮮明に額を射抜かれ死んでしまう…
明確になった死の恐怖に目を瞑った時、ぱん、という乾いた銃声があたりに響いた。

24 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/19(土) 19:52:46 ID:26zvWkyz
自分が立てた音に近い、大きなものが倒れる音が目の前で聞こえて、ギコはおそるおそる目を開いた。

こめかみに小さな穴を開けて、
後頭部の斜めから頭部の中身をまき散らして、
ゲララーはひきつった笑顔で絶命していた。

音のした方向へ目を向けると、しぃが、震える手で銃を構えていた。
すぐさま彼らと同じようにどしゃあと音を立て後ろに倒れる。

初めて目の当たりにする人の死に、頭が回らなくなる。
しぃが撃たなかったら自分は死んでいたという事に気づかず、頭は混乱し始める。
嘘だろ。
お前がやったのか?
お前もやる気なのか?
ヤラナキャヤラレル?
お前は、お前はお前はお前はお前は…?


唐突に覚醒した。呆然としていたのかわからないが、目の前の景色が先ほどと違う。さっきよりも視点が高いし、同じ木々の中ではあるがほんの少し違う。
何をしていたんだか、一部分だけ抜けている。確か、ゲララーの死体を見て訳が分からなくなって…?
どうかしてる、と思った。少しの間でも記憶が飛んでいる事、それにしぃが助けてくれたのに、自分はなんてことを考えたんだ、とギコはまばたきし、ふと視線を下に向けた。

一言で言えば「肉塊」。
ぼろぞうきんのように穴だらけになった、しぃの姿。

「しぃ…?おい、どうしたんだよ」
がくんと膝から力が抜けた。しぃ「だった」塊のそばに座り込む。
ゲララーにやられた、と思った。しかし、よく考えてみれば、これだけ弾丸が当たっていれば普通即死するはずだ。しぃが自分を守るためにゲララーに発砲できるはずが…
しぃの体を抱きかかえようとして右手を伸ばしてようやく気がついた。
右手でしっかりとゲララーが使っていたイングラムを握っている。
「え……?」
自分の体を見回す。見渡す限りの血、血、血。
さーっと記憶がよみがえってくる。

ゲララーの右手からイングラムを引っぺがし、しぃがいた方向へ歩き出す自分。
迷いもなく、数秒でたどり着いた。すでに仰向けに倒れているしぃの体を見下す。

「ギコ、君…」
全身に、穴という穴。腹部や胸部、腕や腿からは赤い血が噴出している。
まだ右手で銃を持っているが、もう動きそうにない。放っておいても勝手に死ぬような怪我だ。
でも、まだ生きている。

すっとギコはしぃの体へイングラムを構えた。
ためらいもせずにイングラムを発射する体。何秒たっただろうか、弾丸がなくなるまで引き金を引き続けた―

思い出して体が震えた。しぃを殺したのは、自分?
イングラムを持つ手まで震えて数秒後、あまりのショックにギコはしぃの体に重なるように倒れ、気絶した。

【残り39名】

25 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/20(日) 18:27:02 ID:vlkW6mkq
「男子20番、モララー君」
死の宣告に久しいギコ教授(担当教官)の点呼は、モララーにも例外なく訪れた。
モララーは重い腰を上げ、教壇上に立つギコ教授の表情を窺った。さも面白そうに不敵な笑みを見せている。
不愉快の一言に尽きた。どこか芝居じみたものすら感じた。政府に傾倒するとここまで堕ちるものなのか。一通り連中の顔を見回した後、教壇へと進む。
「ただじゃ終わると思うな。覚悟しておけ…。」
精一杯の言霊(!)を込めて呟く。ギコ教授は何とも厭らしい笑みを浮かべる。
「無理ですよ。特にあなたみたいな厨如きには」
「? 咆えてろよ、池沼が」
その後、室内からしぃ助教授の含み笑いが届いていたが、気にも留めなかった。

既に室内で出発直後の予定を練っていた事もあり、動きは迅速だった。廊下を駆け足で進み、曲がり角の直前で腰を下ろす。
やる気の生徒の”出待ち”はないようだった。早急にディパック内を確認して離脱せねばならない。
モララーは理由なしにクラスメイトを殺すつもりはなかったし、ギコ教授達に対する怒りが感情の大半を占めていた。
勿論生徒に襲われた場合はどうにか対処せねばならないだろうが。ともかく接点のない生徒は入口付近に隠れてやり過ごすのが理想だろう。
ディパック内からは日本刀の刃と思われる物体が出現した。刀身はご苦労様によほど研磨されたのか、強い光沢を帯びていた。
と、更に刀の柄も続けてディパック内に確認できた。こちらは柄全体が吸い込まれそうな黒い輝きを放っていた。
銘は消えかかっていたが、「上野介正国」という文字は確認できた。モララーは刀剣マニアではないのでどのような刀工なのか知る由もないが。
この日本刀は、はたして当たり武器なのだろうか。銃器の存在を前にしては否定の意を掲げざるを得ないが、当面はこれで戦い抜くしかなさそうだ。
その他の中身は教室で聞いた通りの共通支給品が詰め込まれていた。もう充分、とディパックを閉じて肩に担ぐ。
学生服の隙間から差し込む夜風の冷たさが肌を突いた。厚手のシャツが多少防寒してはいるが、長時間立ち続けるのはさすがにご勘弁だ。

「ふーん、呑気に考え事かよ?」
突然背後からトーンの低い声が響いた。モララーは振り返ると身構えたが、すぐに刀の刃先を下ろす。
校舎と体育館を挟んだ狭い道の入り口に、腕組みをする彼――フーン(男子17番)の姿があった。
「…待ちくたびれたぜ、モララー」
フーンは腕組みを解くと、不敵な笑みを浮かべてモララーを見据える。傍らにはディパックが置かれており、体育館の壁にはチェーンソーが立て掛けられていた。
その言葉から仕草から、冗談では済まされぬ嘲りが窺い見えた。
全身に余す事なくやる気のオーラを漂わせているフーンの姿は、正に殺人鬼と表現するに相応しい。
「フーン? どうしたんだ・・・?お前・・・」
その場の空気の苦しさを噛み殺しながら、モララーはフーンへと話し掛ける。フーンが頭を少し持ち上げ、猟奇的な笑みを浮かべた。
「何も気にしなくていいぜ、モララー……」
表情とは裏腹に、優しく穏やかな声だった。しかしその声はモララーを弄ぶかの如く一変する。
「……俺は生きて帰るって決めちまったんだからよ。そのためにまず脱出なんて馬鹿な事考えそうな手前から消すんだ。」
決意宣誓と共に、フーンはチェーンソーを掴んでモララーへと刃先を向けた。

26 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/20(日) 18:35:09 ID:vlkW6mkq
「モララーさん・・・!」
突然脇から悲鳴に近い呼声が上がり、モララーは横目で窺う。分校から出てきたガナーが驚愕の表情でこちらを眺めていた。
「ガナー! さっさと逃げろ!」
語尾を上げ、らしからぬ強い口調で言い放った。ガナーは少し足裏を地面に這わせた後、踵を返して駆け出していった。フーンがそれを見送りながら口笛を吹く。
「ふーん、優しいじゃん、モララー。けど人の心配してる暇はねえぜ?」
フーンがチェーンソーを両手で構えた。途端、その刃が凄まじい速度で回転を始める。
ギュィィィインというけたたましい駆動恩が耳朶を打つ。フーンが扱い辛そうにチェーンソーを横薙ぎに構え、モララーへと視線を固める。
後発のモナーや先ほどのガナーの事を考えると、ここはどうにか刀で撃退するより他なさそうだ。
しかしこの派手な音響に引かれ、誰かが乱入する可能性もある。その生徒が銃を手にしていたならば。
不安要素は後を立たないが、それでもモララーは刀を構えた。それを見たフーンが愉快げに喉を鳴らす。
「ファンタジー映画のクライマックスみてーだよな」 
回転の弱まり始めたチェーンソーを一度振り上げ、両手で再び強くグリップする。耳障りな駆動音が場に戻ってきた。
「けどな、残念ながらラストは放送禁止だ。」
疾風を思わせる速度でフーンがモララーへと迫る。選択肢は最早一つしかなさそうだ。ここで止めねば、フーンは願わぬ殺戮を重ねる事となる。
虚空を切り裂き、フーンの刃がモララーへと襲い掛かる。幅の広い刃の側面がネオンを跳ね返して強い光を放った。
応じてモララーの刃も寒気を斬って真一文字に振り下ろされる。寒空の中で、金属音が高く高く響き渡った。
舞台演劇の一シーンさながらの光景だった。モララーは、激しく刀を打ち合わせながらフーンと死闘を展開していた。
刃の衝突でまた一つ、甲高い金属音と火花が生じる。二人の体がその反動で傾き、再び距離を離した。
モララーは息苦しさで肩を上下させ、同じく肩で呼吸するフーンを見据える。
「もう止めろ、フーン!」
「……ッの野郎!」
嘲りの仮面を脱ぎ捨てフーンが、本性を露にして刃を繰り返し振り回す。モララーの制止に応じる気は毛頭ないようだ。
彼の決意の深さは半端ではなさそうだ。問答無用の威力と殺傷能力を兼ね備えたチェーンソーを前に、モララーは後出しで防御に徹するしかなかった。
「逃げんじゃねえよ!」
またも刃と刃が接触した。回転する刃に刀ごと持っていかれそうになり冷や汗を滴らせる。フーンの武器は想像以上に厄介な代物である。
だがフーンも手の内に常時遠心力を抱えているわけで、扱い慣れぬ今は相当手を焼いている様子だ。うっかり肩に携える事もできない武器なのだ。
運動神経ならば僅かにモララーが優勢だが、体格などを考慮すればほぼ互角の戦況と言える。
溜め込んだ光を放ち、チェーンソーが再び唸りを上げ始めた
回転する刃先が地面を擦り、削られた地面が白い粉塵と化してフーンの足元をしばし漂う。その双眸はなおも殺意の光を湛えたままだ。
モララーは日本刀を構え直して舌打ちをした。間もなく次の出発者がこの現場にやってきてしまうのだ。
フーンに注意を向けたまま、横目で周囲を窺う。分校前方にあるマンション付近まで移動すれば…と考えた。
「フーン、来い!」
「モララァー!」
意識して南へと足を進め、斬撃を回避しつつ時折距離を大きくとる。そうしてモララーはフーンを誘導し、分校から引き離していった。

27 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/20(日) 18:42:49 ID:vlkW6mkq
いつフーンが捨て身の策に出るかもしれず、それは極めて危険な手段だった。
それでもモララーは神経をすり減らしながら、唸るフーンの凶刃を捌いて戦場を移していく。
時刻は既に次の生徒の出発時刻を回っていた。エリアは分校付近のD−6を脱し、E−6に突入しているはずだ。
眼前には寂れたマンションが見える。その外ではフーンのチェーンソーが絶えず駆動音を発している。
マンションの前に何本か植えてある欅を背にして、モララーは一息吐いた。フーンの刃を受け続け手はさすがに痺れ始めている。
大至急手を打たねばならない。それはすなわちフーンを倒す、ひいては命を奪う事を意味する。
何故自分達が殺し合わねばならないのか、自分の敵は誰なのか。答えのない答えに翻弄されつつも、早急な回答を迫られる現状があった。
モララーは欅に背を預けると軽く腰を沈め、フーンと目線を合わせてから呟いた。
「……何で俺達が殺し合わなきゃいけないんだ」
「ふーん、嫌なら俺が一方的に真っ二つにしてやってもいいんだぜ?」
刀の柄を持ち直したところで、フーンが突撃してきた。両手に握るチェーンソーの刃が物凄い速度で回転を続けている。
モララーは咄嗟の判断で、欅を盾にして後方へと退いた。欅の幹にチェーンソーの刃が食い込み、耳障りな破壊音と共に刃がその幹を横断していく。
粉と破片を散らし、離断された欅が音を立てて地面へと転がった。千載一遇の好機と言えた。モララーは腰だめに刀を構えると、それをフーンへと振るった。
同時に柄に添えた両手へと力を込める。刀を振るうモララーの両手に今までに無いほどの力が加わる。
空気を水平に切り裂いたその一撃は、体勢を戻しかけていたフーンの両手からチェーンソーを弾き飛ばした。
「!」
フーンの狼狽する様子がはっきりと窺えた。
チェーンソーは低く唸りを上げたままマンションの壁へと衝突し、地面に横たわりながらも未だ耳障りな音を発している。
フーンが一瞬モララーを睨み、すぐさまそれに手を伸ばそうとする。躊躇する余裕はなかった。
モララーは突き出していた刀を上段に構えなおし、フーンへと狙いを定める。
全身が促す抵抗を断ち切って手足に力を込めたその時、道路から銃声が届いた。たちまちマンションの壁にクレーターが生まれる。
飛び退きながら目を向けた先、マズルフラッシュの背後に黒髪の女子生徒の姿が見えた。
「馬鹿じゃないの?」
ブローニングを構え、吐き捨てるように言い放つリル子(女子20番)の姿には戸惑いの欠片すら感じられなかった。
リル子が有無を言わさずに銃撃してきた。仲裁目的ではなく、明らかにまとめて始末しようという感じだった。
第一、仲裁するのにまず銃をぶっ放す馬鹿はいない。
リル子は多少口が悪い事意外およそ非が見当たらず、モララーも彼女を殺し合いに乗る生徒として認識してはいなかった。
それだけにこの事実によって受けた衝撃は大きい。うろたえる暇はない。今のモララー達は遮蔽物のない、言わば格好の的なのだ。
リル子が撃ち慣れていたならばすでに亡骸と化していただろう。

28 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/20(日) 18:42:59 ID:QT8WrQ0S
「臨時放送でーす。
雑談スレでの協議の結果、『ひとまず』>>22-24はスルーみたいでーす。
みなさんそういうことでよろしくでーす。」

29 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/20(日) 18:48:16 ID:vlkW6mkq
「…ふーん…畜生が。」
膝立ちのフーンが心底口惜しそうに唾棄した。フーンはモララーを気に留める事なく、チェーンソーを手に駆け出した。
被弾によりマンションの窓の一つが砕け散り、枠だけを残している。フーンは跳躍一番、身を翻してそこへと飛び込んでいった。
すぐに次なる銃撃がモララーを襲ってきた。命中精度を上げようとリル子が距離を詰めてくる。モララーもまたフーンの後を追って窓枠を潜る。

 ――出発してから騒音尽くしだな……。

思いながら目を凝らした先、向かいのテーブルの陰で屈むフーンの姿を捉えた。フーンは変わらぬ険しい視線をモララーへと突き刺している。
「フーン……」
「ク ソ ア マ が。邪魔しやがって。」
フーンはそれだけドスの効いた声で呟くとテーブルを蹴り倒し、廊下へと通じる通路へと駆け出していった。
裏口から脱出するつもりなのだろう。新たな銃撃が壁を削ったが、フーンを射抜くには至らない。
フーンの姿が廊下の向こうへと消えていった。背にした壁の向こうで足音が響き、緊張が走る。
窓から飛び込んできたならば至近距離からの不意打ちも可能だが、入口から飛び込まれた場合は極めて分が悪い。
喧嘩と言う修羅場を幾度か潜ったモララーもプログラムを前にして死を覚悟せざるをえなかった。
まさか昨日までごく普通の女子生徒だったリル子に命の危機にさらされるとは夢にも想像していなかったし、そういう意味もあって改めて戦慄を覚える。
壁をブラインドにしつつ、日本刀を構えて聴覚を研ぎ澄ます。生きるも死ぬもこの後数秒間次第だ。
しかしリル子の声と駆け足はマンション内ではなく裏口へ回る感じで側方へと遠ざかっていった。
リル子の先読みが、転じてモララーを救う事となった。モララーは大きく息を吐くと、再び窓枠を飛び越えて外へと脱出する。
一周して戻ってくる可能性もあり、疲労で音を上げるわけにはいかない。
リル子に追われるフーンの安否が気がかりだったが、ここでは他人事ではない。数時間後、今度は自分が再び窮地に追い込まれるかもしれないのだ。
度重なるショックで頭がおかしくなりそうだった。どこか静寂の中で思考を整理せねば、自分自身もプログラムの闇に呑まれてしまう。
その判断こそがモララーの理性のファインプレーだったと言える。モララーは全速力で駆け出した。
初っ端から酷使し続けた筋肉が悲鳴を上げていたが辛抱してもらうしかない。
遠ざかっていくマンションの向こうでは、リル子のブローニングが銃弾を吐き出す音が木霊している。

【残り41人】

30 :>>22-24差し替え:2006/08/20(日) 20:06:05 ID:JsScYSxc
30番目にしてようやく呼ばれた自分の名前。
その頃には、深夜1時をとうに過ぎていた。
デイバックを無言で貰い、学校から出てすぐデイバックをあけたのは数十分前。
歩き始めて何分たっただろうか。
光の全く差し込まない森林地帯の中、腕時計を読み取るのは不可能だった。

全員が出発してから、恐らくまだ1時間も経っていないというのに、エリアの端の方から銃声が聞こえた気がする。
勿論、自分が出発する前にも謎のエンジン音や単発の銃声はしていたのだが。
足音や木々、葉の音をあまりたてないようにしながら、【男子4番】ギコはふぅとため息をつき足を止めた。

「みんな……無事なのか」

自分の目は暗いところでも多少はものを見ることはできる。だが、見渡すかぎり木、木、木。
よほど正確な射撃か、弾丸をばらまけるような銃器でないかぎりは安全だろう。しかしこちらには武器が―なかった。

防弾チョッキ。
デイパックから出てきた、自分の武器。

どこか近くに学校や建物でもあればそこから何か調達できるだろうが、武器よりも安全性のほうが大切だと直感したギコはまず真っ先に森のある方角へかけだした。
耳を澄ませば、ほんの少しちょろちょろという音が聞こえる気がするから、恐らくB=4付近だろうか。
とりあえず適当な場所に座り、懐中電灯をなるべく光が漏れないようにデイパックの中を照らすように点灯して水を飲み一息ついた。
ここに待機していれば、運が良ければ1日は大丈夫だろう―

1日。
たった1人で。
武器もなく。

額にぽっかりと穴が空き、そこから血が一筋垂れながら倒れる自分を想像して、ギコは震えが全身に広がった。
いつのまにか噛んでいた下唇が切れてしまい口の中に血の味が広がる。
ギコは地面に口の中の違和感をまとめてぺっと吐き捨て、クソ、と呟いた。
「こんなところで、死んでたまるか……」
地面に拳をたたき付けた。

そのわずか数秒後、後ろの草むらから誰かが動く音がして、ギコの体にまた戦慄が走った。

「誰だ!」
声の震えを何とか押さえ、ギコは叫んだ。わずかに見える人影が、銃のようなものを構えている。
すぐ逃げ出せるように身構えた。
「その声は…ギコ君?」
か細く響く声は、良く知るグループの中の友人の一人、【女子8番】しぃだった。

31 :>>22-24差し替え:2006/08/20(日) 20:10:50 ID:JsScYSxc
「お前は…しぃか。良かった、お前なら安心だな」
はぁと安堵の息を漏らし再び座り込んだ。しかししぃのほうは、微動だにしない。否、それどころか持っている拳銃すら落とさない。
真っ直ぐと狙いを定めた拳銃の向きは若干正確ではない。しかし自分の方に向けられているのは確かだった。
「どうした?お前もこっちに来いよ。」
「駄目よ。そっち側には行けない」
予想だにしていなかった言葉に、ギコは眉間にしわを寄せた。
「何でだ?俺が信用できないっていうのか」
「動かないで!」
「…どういう事だよ、俺たち友達じゃないか」
「武器をおろしなさい!」
「武器なんて持ってない!」
話がかみ合わない。いつもならしぃは相手の言っていることや話したいこと、それに相手がどんな感情なのかも察して話をするのが得意なはずだったのに。
何かがおかしい。
―――プログラムは、人をこうも変えるものなのか?

「しぃ、どういうことなんだよ、俺はお前を殺そうとなんかしてない!」
言いながら前に出た。足が勝手に動く。でも、止めるべきだとはなぜか思えなかった。
「お願い、動かないで!」
「しぃ、教えてくれよ、なんでなんだよ!」
言っていることを無視し、デイパックをおいてかけだした。何故だか知りたかった―信頼してもらえないのかを。

「駄目!」
その声も、聞こえなかった。

直後がさりと音を立て、ギコが座っていた場所のほんの数m後ろの茂みから歓喜の声をあげて現れた人影―【女子17番】モニカ。
「もらったぁ!」
ギコが走りながら振り向きその姿を確認した瞬間、彼女の持っていた大きな銃―イングラムM10サブマシンガンが、ぱらららららと音を立て数秒間にわたる幾発もの弾丸のシャワーをはき出し始めた。

気づかなかった。
物音を立てやすい状況の中に居るはずなのに、何故、こいつは?―

酷くゆっくりに感じた数秒間。
弾丸が高速のスピードで鈍い音を立てて木々にぶつかり、
地に放ったままのギコのデイパックが何発かの弾丸によって射抜かれ宙に浮き、
大量の弾丸が漆黒の闇に吸い込まれるように飛んでいったあと、
何発撃たれたのかもわからないまま衝撃がギコの腹部や胸部から全身に伝わっていき、
向かっていた進行方向へ吹っ飛んでいった。

どしゃあ、と乾いた枯葉の上にあおむけに倒れた。撃たれた、とギコは真っ白な頭で理解した。
撃たれた部分から、涙も出ないくらい、人生初めて味わうような衝撃と痛みが押し寄せて―こない?
がば、とギコは起き上がった。放心して腹部や胸部をさする。小さな穴が何カ所もあるが、痛くない。強いていえばわずかに残る鈍い衝撃と、倒れたときにうちつけた腰が痛いくらいで―
ともかく、防弾チョッキは立派に作用していたし、防弾チョッキが防護する範囲外には一発も弾丸が当たっていなかったのだ。

「や〜ね〜、まだ生きてるの?防弾チョッキでもつけてるのかしら?」
ぞっとする声がして顔を上げた。目の前に、イングラムを構えたモニカが居た。
まるで楽しむかのように言ったその台詞。こいつは、このゲームを楽しんでいる?
こんな、いつも脳天気で、学校帰りに友達と買い食いをしたりしていた今風のモニカが。信じられなかった。
そんな考えがギコの脳裏によぎったその時、モニカはギコの頭部へ、今度こそ確実に息の根を止めるためにイングラムを構えた。
恐怖から目を瞑った。首から上が穴だらけになって死んでいる自分の姿が瞼に焼き付いて離れない…恐怖で涙が出てきた。こんなところで、死にたくなかった。
そして数秒後、ぱん、という乾いた銃声があたりに響いた。

32 :>>22-24:2006/08/20(日) 20:11:50 ID:JsScYSxc
銃声がした直後は、死んでしまったと思った。
しかし、自分が立てた音に近い、大きなものが倒れる音が目の前で聞こえて、ギコはおそるおそる目を開いた。

こめかみに小さな穴を開けて、
後頭部の斜めから頭部の中身をまき散らして、
目の前で、モニカはひきつった笑顔で絶命していた。

音のした方向へ目を向けると、しぃが、震える手で銃を構えていた。
すぐさま2人と同じようにどしゃあと音を立て後ろに倒れる。

初めて目の当たりにする人の死に、頭が回らなくなる。
しぃが撃たなかったら自分は死んでいたという事に気づかず、頭は混乱し始める。
嘘だろ。
お前がやったのか?
お前もやる気なのか?
ヤラナキャヤラレル?
お前は、お前はお前はお前はお前は…?


唐突に覚醒した。呆然としていたのかわからないが、目の前の景色が先ほどと違う。さっきよりも視点が高いし、同じ木々の中ではあるがほんの少し違う。
何をしていたんだか、一部分だけ抜けている。確か、モニカの死体を見て訳が分からなくなって…?
どうかしてる、と思った。少しの間でも記憶が飛んでいる事、それにしぃが助けてくれたのに、自分はなんてことを考えたんだ、とギコはまばたきし、ふと視線を下に向けた。

一言で言えば「肉塊」。
ぼろぞうきんのように穴だらけになった、しぃの姿。

「しぃ…?おい、どうしたんだよ」
がくんと膝から力が抜けた。しぃ「だった」塊のそばに座り込む。
モニカにやられた、と思った。しかし、よく考えてみれば、これだけ弾丸が当たっていれば普通即死するはずだ。しぃが自分を守るためにモニカへ発砲できるはずが…
しぃの体を抱きかかえようとして右手を伸ばしてようやく気がついた。
右手でしっかりとモニカが使っていたイングラムを握っている。
「え……?」
自分の体を見回す。見渡す限りの血、血、血。
しかし体には傷は無く、
すぐさま返り血だと確信して
さーっと記憶がよみがえってくる。

モニカの右手からイングラムを引っぺがし、しぃがいた方向へ歩き出す自分。
迷いもなく、数秒でたどり着いた。すでに仰向けに倒れているしぃの体を見下す。

「ギコ、君…」
全身に、穴という穴。腹部や胸部、腕や腿からは赤い血が噴出している。
まだ右手で銃を持っているが、もう動きそうにない。放っておいても勝手に死ぬような怪我だ。
でも、まだ生きている。

すっとギコはしぃの体へイングラムを構えた。
ためらいもせずにイングラムを発射する体。何秒たっただろうか、弾丸がなくなるまで引き金を引き続けた―

思い出して体が震えた。しぃを殺したのは、自分?
イングラムを持つ手まで震えて数秒後、あまりのショックにギコはしぃの体に重なるように倒れ、気絶した。

【残り39名】

33 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/20(日) 21:10:00 ID:pFrFJP4C
【男子21番】モマーはE-8の林の中に身を潜めていた。
彼の支給武器は特殊警棒。片手にそれを握り締め、これからどうしようか考えていた。

モマーは正義感が非常に強い男である。
学校で虐められている子を見かけると、よく助けてあげていた。
時には虐めっ子に鉄拳制裁を喰らわし、全治数日の怪我を負わせた事もある。(学校内で問題になる事もあった。)
とにかく、彼の正義感は常人の何倍も強かった事は誰が見ても明らかであった。

人殺しなどという行為には手を染めたく無い。
しかし、他生徒を殺さなければ最後まで生き残る事は不可能だろう。
くそ……どうすれば良い。

パン!

突如彼の耳に銃声が響き、思考が停止する。続いて女子のものと思われる悲鳴。
誰かが襲われている! 直感的にそう思った。しかも今の銃声…この近くだ。
モマーは銃声のした方向へと駆け出した。


【女子5番】えーは逃げていた。
何故ならば、【男子11番】テナーが銃、スミスアンドウエスンを発砲しながら追いかけて来るからである。

何で…何で私を殺そうとするの?死にたくない、死にたくない!

テナーはクラスの中では不良の部類に入るであろう男子だ。
短気で喧嘩っ早い性格の彼は、廊下のど真ん中で他クラスの不良生徒と殴り合いの喧嘩をしたりする事もしばしば。
したらば先生も彼には少々手を焼いていた。
彼がこのゲームにのる事を決めたのも、その喧嘩っ早い性格からか。

テナーは走りながらえーに向かって4発ほど撃ったが、走っていて上手く狙いが定められない為か、幸いにも銃弾は一発も当たらなかった。
次第にテナーとえーの差が広がって行く。大丈夫、逃げ切れる。
彼女はそう思うと、さらに速度を上げて走り続けた。

ガッ

「!!?」
右足のつま先が何かにぶつかったかと思うと、次の瞬間彼女の体は宙を舞い、すぐに地面に叩き付けられた。
木の根に躓いてしまったようである。
「もう逃げられないっテナー。」
テナーが狂気染みた笑みを浮かべながら近付いて来る。えーの体に戦慄が走った。
逃げたいが逃げられない。恐怖で足がぶるぶると震え、立ち上がれそうに無い。いや、まず間違い無く立ち上がった瞬間撃たれるだろう。
「お願い……殺さないでください………。」
えーは泣きそうな声でそう言ったが、テナーは全く聞く耳を持たない。
テナーは無言でスミスアンドウエスンを両手で構え、えーの眉間に狙いを定めた。
ああ、私の人生もここまでか…。さようなら、みんな。
えーは覚悟を決め、目を瞑った。

34 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/20(日) 21:11:38 ID:pFrFJP4C
「ちょっと待ったあああああああああああああ!!!」

突然、横の林の奥から奇声に近いような大声が聞こえ、辺りに響き渡る。
二人はビクッとし、視線が横の林に釘付けになる。こちらに走って来る一つの影。それは紛れも無い、モマーであった。
モマーは右手に握り締めている特殊警棒を振り上げたまま、テナーに向かって突進した。
「悪党め!この俺が成敗してくれr」
「邪魔だ!!」
テナーは右手に構えたスミスアンドウエスンをモマーに向け、躊躇うこと無く引き金を引いた。

「ぐおあぁ!!」
とてつもない衝撃と共にモマーの右肩に鉛玉が減り込んだ。右肩が焼けつくように熱い。
彼は特殊警棒を振り下ろす間も無く取り落とし、左手で右肩を押さえその場に蹲った。
何と情け無い姿であろうか。
続いて更にもう一発の銃声。
自分には当たっていない。という事は、彼女が撃たれたのか?
すまない、君を守ってあげられなかった。

「…大丈夫ですか?」
女子の声がすぐ前方から聞こえる。誰かと思って、体はそのままの姿勢に顔だけを少し上に向けると、そこには心配そうな顔でモマーの顔を見つめるえーの姿があった。
辺りを見回すと、テナーがぐったりとして仰向けになっているのが目に入った。左胸に小さな穴が一つ開いており、そこからは赤い液体が流れ出ていた。
これは一体どういう事だ?何が何だかわからない。
混乱しているモマーに、えーが事情を説明した。
えーはモマーが撃たれている隙に、スカートのポケットに隠してあった支給武器、ワルサーPPKを素早く取り出し、テナーに向けて撃ったのだ。
弾は見事テナーの左胸をとらえ、テナーは何が起こったのかも分からぬまま屍と化した。という事である。
それを聞いてモマーは少し驚き、そして何だかとても恥ずかしい気分になった。
「ははっ、正義の味方のはずなのに、襲われている人に助けてもらうなんて、役立たずだよな…。」
「そんな事ありません。あなたが来なければ私はきっと殺されていたでしょうし、あなたは命の恩人です。」
えーはニコっと微笑んだ。
「あんたも俺の命の恩人だな。」
そう言って、モマーもまた、微笑み返した。

しかし何時までもこんな所には居られない。先程の銃声を聞きつけて他生徒がここにやって来る可能性がある。
もし、その生徒がやる気になっており、しかも武器が銃系統であるならば尚更危ない。
右肩の痛みは少しずつ治まってきたし、出血も大した事は無いが、油断はできない。
「移動しよう。ここは危険だ。」
彼はそう言って特殊警棒と、テナーが持っていたスミスアンドウエスンを左手で拾い上げ、デイバックに仕舞った。
そして左肩にデイバックをかけ、少しふらふらしながらえーと共にその場を歩き去った。

【残り38人】

35 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/21(月) 06:56:32 ID:noM6BbOf
【女子10番】ダーヤスは、どのエリアとも分からぬ岩場に腰を落ち着けていた。
後先のことなど考えず全速力で走っていたせいか体はひどく疲れ、ねばねばした汗が鬱陶しいくらいに体に張り付いている。
しかしそれだけ体の犠牲をはらったにも関わらず、頭と手の『しこり』は全くといっていい程に取れていない。
したらばとあめねこの凄惨な死に様が頭を支配し、鼠を殺した時のあの感触が、手を伝う。
「なんで、こんなことに……」
ダーヤスは呟き、体を一度おおきく震わせた。
昨日の今頃の時間は、修学旅行の前日だというのにいつもと変わらずテレビを見ながら携帯で友達と話していた。
そして、本当なら今頃には、真夜中にも関わらずバスの中で友達と大騒ぎでもしてたことだろう。
だが、現実はこれだ。修学旅行の予定はどこへやら、いつの間にか殺し合いの真っ直中。
明日の今頃は、私はどうなっているのだろう。生きているだろうか、それとも…
考えるだけで大きな身震いが起きる。『死んでいる可能性』なんて考えたくもない。

いや、考えたくもないというよりは考えられないと言った方が適切だろうか。
極限の状況なはずだが、ダーヤスは『きっと私は最後まで生きているはず』と考えている。
いや、ダーヤスだけではなく生徒ほぼ全員がそう考えていることだろう。
死をリアルに考えることが出来る者などいない。皆が皆、自分だけは特別な存在だと思いこむからだ。
人は誰しも、心の奥底では『自分が主人公』でありたい、いや、そうであると思っている。
無論ダーヤスもそうだ。ダーヤスの脳内には、確かに自分が生き残り島を後にする映像が見えている。
そして、それが現実になるだろうことを『確信』していた。自覚は恐らくないだろうが。

36 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/21(月) 06:59:56 ID:noM6BbOf
「あ、そういえば……」
ダーヤスはある事に気付いた。ディパックの存在だ。
ダーヤス自身殺し合いにはあまり乗り気ではないが、武器だけは確認せねばならない。
身を守るためには必要不可欠だ。
ダーヤスはジッパーを開け中をまさぐった。色々な物資に混じって、ゴツゴツとした固く太く大きい物に指が触れる。

まさか。

ダーヤスはすぐにそれを引っ張り出した。そこには、ダーヤスの『予想通り』の物が入っていたのだ。
銃。
説明書などは入ってないようで種類なんかはダーヤスには分からないが、それは間違いなく当たりの部類であろう銃だ。
(や、やったやった。これで安全だ)
銃、もとい遠距離攻撃が出来る武器ほど心強い物はない。身を守るのには最高最適の武器だ。
ダーヤスは、初めて握るそれの感触と重さに少し驚きながらも感動していた。
玩具を与えられた赤子のように、銃の至る所をぺたぺたと触っている。
ふと、その指が引き金に触れる。何かが囁いた気がした。
(……撃ってみようかな)
何かの映画で見たように、引き金に両人差し指を添えて前に突き出す。
片目を瞑り、幾本の木の一つに狙いを定める。
人差し指が、じょじょに曲がっていく。意外に柔らかい。もう少し、あと少し……

「ダーヤスさん?」

「ぶぎゃ!?」
突然の声に、銃を取り落とし尻餅をついてしまった。
ダーヤスは急いで立ち上がり銃を持ち直し、声のした方向を振り向いた。
「だ、誰よ!あ……」
その生徒の顔を見た瞬間、ダーヤスの顔が和らいだ。
それと同時に、先程あられもない声を上げてしまった自分に恥を感じる。
「ボクだよ、ダーヤスさん」
その男子は、いかにも温室育ちらしい裕福で清潔らしい顔をしていて、小学生としてもまだ通用するほどの童顔の持ち主だった。
「キミだったんだー!おいでおいで、マニーくん!!」

37 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/21(月) 07:03:49 ID:noM6BbOf
そこにいたのは【男子18番】マニーだった。
マニーはお金持ちのボンボンではあるが、その顔や意外な多才ぶりで特に女子に人気があった。
ダーヤスも、マニーを可愛がっていた女子の中の一人であるのだ。
「マニーくん、だいじょぶー?これからは一緒に行動しよね」
ダーヤスはマニーのピアスをぴんぴん弾きながら、心底安心しきったように言った。
マニーも、安堵しきった調子で反応を返した。
「うん!ダーヤスさんと会えて嬉しいよ。……ところでそれは?」
マニーは、ダーヤスの右手に握られる黒い塊を指差した。
ダーヤスの目には、そう言うマニーは少し怯えてるように見えた。
「ああ、これ。これアタシの武器だよん。だいじょぶ撃たないよ。」
「そっか」
ホッと溜め息をつくマニー。かわいらしいなとダーヤスは思った。
しかしその時、ダーヤスはマニーの手に武器らしき物が握られていないことに気付いた。
「あれ、マニーくん武器は……?」
訝しげに尋ねるダーヤス。マニーは無言でディパックをごそごそやり出すと、なにか棒のような物を取り出した。
長さは腕よりかは少し短いくらいで、太さは腕とは比にもならぬほど細いその棒。闇に照らされハッキリと姿が見えない。
「木の棒だよ」
「エ?木の棒?」
マニーは座り込み溜め息をつきながら棒をブンブン振った。
木の棒……そんな武器を政府は支給したのか?道端で幾らでも拾えそうなものを……
マニーを不憫に思うと同時に、政府への怒りが沸いて来る。
「まったく、冗談じゃないよ。ボクみたいなお金持ちには似合わないよなァこんな武器。」
マニーは棒をカタンと置くと、パンを取り出しイライラしたようにかぶりついた。

38 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/21(月) 07:06:05 ID:noM6BbOf
ダーヤスは感じ取った。
マニーはこのゲームにひどく狼狽している。精神を磨り減らし、平静を失ってきている……
「カサカサしてるなァこのパン。ボクの口には合わないや……
あ、ダーヤスさん食べる?あげるよ」
マニーがパンをダーヤスに差し出した。
マニーの食べかけのパン……ダーヤスは今すぐかぶりつきたかったが、そんな事してる訳にはいかない。
「ダメだよマニーくん。ちゃあんと食べないと」
ダーヤスはパンをマニーへ押し返した。マニーの顔が不服そうに歪む。
「マニーくん、だいじょぶだよ落ち着いて。……私がこの銃であなたを守るよ」
ダーヤスはマニーを励ますように、銃を構え、撃つ真似ごとをした。
「ダーヤスさん……ありがとう、ボクなんかをそこまで……」
マニーはダーヤスをまっすぐ見つめながらそう言った。
ダーヤスには、マニーは微かに涙ぐんでいるように見えた。
「ううん、気にするなっ!」
「うん、本当にありがとうダーヤスさん。落ち着かなきゃね……」
マニーは大変安堵したように息をつき、ディパックから水を取り出すと、キュコっと飲み始めた。
飲む音で、その小さい喉にドンドン水が通っていってるのが分かる。
(キュートな口元……)
飲み口を挟むマニーの唇に、ダーヤスは釘付けになる。
ダーヤスは、かつてない胸の熱さを感じていた。
(マニーくん……絶対私が守るからねっ!ふふっ)

バシャン

「あっ!?」

39 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/21(月) 07:09:03 ID:noM6BbOf
ダーヤスは困惑した。突如視界が塞がったのだ。なぜ?
無色透明の何かが、いきなりダーヤスの顔目掛けて飛んできたのだ。
「いたっ」
ダーヤスはその瞬間確かに目に、刺すような激しい痛みを感じ取った。
何かが目に入った。いや目だけではない、口。口にも。
……これは、水?
「ダーヤスさん」
マニーの声がダーヤスの耳に入った。とても心配そうな声だった。
マニーを必要以上に不安にさせちゃいけない。ダーヤスは水を拭うとすぐに飛び切りの笑顔を見せた。
「あは、だいじょぶだよ安心してマニーくん!私なんとも……」
――それ以上、ダーヤスは声を上げることが出来なかった。
あまりにも強烈な"違和感"が、ダーヤスの言葉を喉で詰まらせたのだ。
マニーが
マニーが

「イくかい、ダーヤスさん?」

マニーは、いつの間にかダーヤス目掛けて何かを振りかぶっていた。"月明りに輝く"なにかを。
「きゃ、あああああああ!!」
言いたかったこと全て、喉に詰まっていた言葉全てが悲鳴へと変えられ、突き出た。
「あは」
ダーヤスの悲鳴とほぼ同時に、マニーは"それ"を振り下ろした。無論……ダーヤス目掛けて。
「ぎゃあ!」
"それ"は、マニーの肩の肉へ深く食い込み挟まった。押しつぶされたような悲鳴を上げるダーヤス。
「いーね、いーねェ。んじゃま、もういっちょ行こうかダーヤスさんっ!」
マニーはいつも通りの無邪気な声を上げると、"それ"を思いきり引き抜いた。
同時に、ダーヤスの肩から夥しい量の血が吹き出した。
「ふぎいいいいいいい!!!」
痛みと混乱に野獣のような声を上げるダーヤス。
まだ状況をほぼ整理しきれていないその頭で、ダーヤスは"それ"を認識した。
引き抜いた勢いで高々と振り上げられるマニーの持つ武器……

カマ

(木の棒じゃ、木の棒じゃなかったのォォォォォ!?)
ダーヤスは全てを把握しきれていない頭の中で、それだけをハッキリと理解した。
木の棒は、私を油断させるための奴のブラフだった。
「ゴミンねー、ダーヤスさん」
あまりに心なさすぎる謝罪と同時に、マニーは再びカマを振り下ろした。
ダーヤスは認識した。しっかりと頭を狙われている。殺られる。あのマニーくんが、私を、殺る。
ダーヤスの頭の中に、整理されていない情報の断片がバラバラに表示されていく。
そんな中、ダーヤスはハッキリと声を聞いた。最もハッキリとした、声。

『こんなところで私は死なない』



40 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/21(月) 07:11:17 ID:noM6BbOf
「うがあ!」
「ろ!」
ダーヤスは、咄嗟に芝生を転がるようにして一撃を避けた。
カマは地面に突き刺さり、マニーの余白を生む。
「ん〜、やっるゥ」
マニーはカマを引き抜こうとしながらダーヤスの方を向くと、にいっ、といつもと何も変わりない笑顔をダーヤスに見せた。
かわいい笑顔。上品で裕福で清潔で、私の大好きな……
その時ダーヤスの中で、情報のパズルがようやく完成した。

マニーめ、私を騙したな、私を殺そうとしたな、私に飲み掛けの水をかけた上、カマで肩を切り付けたな
いいさやってやる、殺す!殺してやる、殺られるくらいなら殺ってやる!!

銃っ
ダーヤスは転がりながら、ほぼ無駄な動きをなしに右手の銃をマニー目掛けて構えた。
マニーの目の色が変わる。向けられる銃口にほんの少し顔つきを変えた。
「うあああああああああああ!!!!!」
脳を掠めるしたらばの凄惨な死体。鼠の無残な死骸。
――あんなにはなりたくない、そうなるのはお前だ、マニー。私は生き残る、いや、生き残れるんだ。
ダーヤスは銃口をマニーへ向けたまま、おそらくほとんどためらいなく引き金を引いた。
拍子抜けするほどの柔らかさだった。

パァン

発砲音は確かにした。
だが、光景は……発砲音のする前と変わっていなかった。

マニーがカマを引き抜いていた事を除けば。

ダーヤスは銃を睨み付け、叫んだ。いや、正確に言えば"まったく銃ではないもの"か。
「なんで、なんでよりにもよって!!!エアガンなんだよおおおおおお!!!!」

血を高く撒き散らしながら、ダーヤスの首が高く飛んだ。

41 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/21(月) 07:18:18 ID:noM6BbOf
「エアガンかあ。使えないなあ」

マニーはエアガンを一度拾いあげ、首のないダーヤスの体にぽいと放り捨てた。
「んー、汚いよ、血」
マニーの学生服には斑点のように点々と血がついている。
マニーはそれを、ハンカチで一つ一つ払い落としていった。
ずいぶん時間をかけ、ようやく血を落とし終える。
「いやあ、なかなかいい筋書きそれたじゃないかァ。カッコいいぜボク!」
マニーは誰にでもなく一人でニイッと笑い、小さく跳ねた。
……マニーは、正真正銘このゲームを楽しんでいる。
いや、"楽しむ余裕"が有り余るほどにあると言っていいだろう。

生まれ付いての富と才を利用し、マニーは厨学三年にして何もかもを体験し尽くした。
並の厨学生や工校生では到底足下に及ばないほどの人生経験を、マニーは積んでいるのだ。
クラスの友人関係も、このプログラムも、彼にとっては戯れにすぎない。
バスの行き先が前触れなく変わっていたときにはさすがに困惑したが、それにもすぐに適応した。
それは、恐らく大富豪特有の飽くなき"遊び心"、もとい果てなき"自尊心"から来たものなのであろう。

マニーは、恐らくこのクラスの誰よりも自分を、自分だけを特別視している。
自分が死ぬことなど微塵も考えていない。
その余裕こそ、彼の生まれ付いての富と才が生み出した物なのだ。
マニーは、また新たな筋書きを頭に描きながら、歩き出した。

【残り37人】

42 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/21(月) 07:28:15 ID:A/p5ubiL
西の沖合いでは巨大な戦艦が月明かりにその姿を誇示している。
広大な海原を臨む海岸(D−2)、身を凍えさせる夜風の中に一人の少女が身を屈めて震えていた。
少女の項を汗が伝っている。緊張に心身を強張らせながら、ガナー(女子6番)は数刻前のの恐ろしい光景を脳内ビジョンに甦らせていた。

出発直後、ガナーが目にしたのはモララー(男子20番)とフーン(男子17番)が各々の武器を手に火花を散らしている姿だった。
のっけから出現したクラスメイト同士の戦闘シーンに、ガナーは戦慄を覚えずにはいられなかった。
緊迫感漂うあのシーンは間違いなく話し合いなどではなかった。
ましてや、モララーと不良生徒フーンの敵対している者同士の対峙である。
殺し合いなどできないと思った。光景をシミュレートしても、腕を竦ませ尻込みする自分の姿しか映らない。
そこへ親友は鋭く光る剣を振り下ろしてくるのだ。
政府の言葉に影響されたようで癪ではあったが、確かにあの現場を目撃した直後では誰かを信用するという事は至難の業に思えた。
時を重ねて築いた友情が酷く薄っぺらい物に貶められたようで、悔しさまでも込み上げてくる。

ふと一人の男子生徒の姿が浮かぶ。それは双子の兄のモナーだった。ガナーが最も信頼を寄せていたのはモナーに違いなかった。
この状況においてガナーが求める人物はモナーであった。

現状、ガナーがモナーを探す事は不可能ではなかった。ガナーは岩の陰に身を隠しながら、ディパックよりポケットサイズの箱を取り出した。
その黒い鉄製の小箱には液晶画面が存在しており、今は何も表示されてはいない。
一見探知機に見えるそれはガナーの支給品で、簡易レーダーであった。まだ電源を入れてみた事はない。
ガナーは震える手で掴んだそれをデイパックへと押し戻すと、来た道のほうへと視線を移す。そこで、眼前に立つ男子生徒の姿にようやく気付いた。
彼――ゲララー(男子5番)はガナーの間近で、何と夜空の星々を見上げている。
それでも注意は払っていたようで、ガナーが首を向けると同時に目を合わせてきた。即座にゲララーが喜びに表情を歪ませ、ガナーは反応に窮する。
「ギャッハハハハ! ガナちゃんようやく気付いてくれたんだ? 遅い、遅いよ〜。思わず俺、星眺めちゃったじゃ〜ん。ハハハ…」
陽気さと粘着的な響きが混同した独特の口調で、ゲララーが話し掛けてきた。見たところ手元に武器の存在は窺えない。
人畜無害そうな穏やかな笑顔とは裏腹に、ゲララーのマイペースな態度と「不良生徒」という肩書きはガナーに畏怖を覚えさせる。
混乱しかける頭でどうにか簡単なシミュレートを済ます。その間ゲララーは口元を緩め、余裕に満ちた表情でガナーを眺めていた。
弾き出された結論は、”逃走不可能”だった。ガナーのレーダーは今は鈍器にしか使えず、立ち向かったところで太刀打ちできるとは思えない。
ガナーの脚力は女子生徒の中でもそれなりだが、それでもゲララーには及ばないだろう。
何より逃走時に背を向ける事には多大な危険がある。更に今のガナーの背後には海が広がっているのだ。

43 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/21(月) 07:34:41 ID:A/p5ubiL
「……ゲララー君は、あたしを殺……すの?」
絶望に脱力しかけながらも、必死で言葉を押し出した。死にたくない、その思いが全てだった。ゲララーは眉を持ち上げた後、破顔した。
「ぎゃっはははは!まさかぁ!君みたいな無抵抗な女の子を殺るほど堕ちちゃぁいないさ。」
相も変わらず人をくった物言いで、ゲララーが殺し合いに乗らぬ旨を告げた。続けて右手を腰へとやり、振り戻したそれをガナーへと突き出す。
手には自動拳銃ベレッタ M92が握られていた。それで再びパニック状態に陥りかけたが、ゲララーが銃口を下げた事でギリギリ正気を維持する。
「やる気なら問答無用でパン、パン、パン。こういくでしょう普通?ギャハハハハ…」
言葉と共に銃を数度振り、ゲララーは腰へとベレッタを戻した。
「ギャッハハハハハ! ガナちゃん、ビビッてやーんの〜。マジかぁわいい〜」
散々説明してくれた事で、ゲララーがやる気でない事は一応理解できた。やる気ならば既に三度は殺されていただろう。
ガナーは竦んで脱力しかけていた膝を地面に着き、溜め込んだ息を吐くとうな垂れる。その様子を見たゲララーが合わせて息を吐いた。
その顔は笑っていたが額では僅かに汗が滲んでいた。それでガナーはゲララーも多少緊張していたのだと理解し、遅れて安堵した。
「ハハハハ…はぁ…わかってくれたかい?」

ガナーはゲララーと共に場所を海岸の岩陰へと移した。
ガナーは体育座りをしながら周囲を窺い、ゲララーは呑気に足を伸ばした状態で会話を交わしている。
ゲララーはここまで誰とも遭遇していないらしい。ガナーもここまでの経緯を余す事なく告げた。
ゲララーの表情が俄かに曇り、少し考え込むような仕草を見せた。
「モララーもフーンも必死なんだなぁ〜。俺も見習わなくっちゃなぁ。ギャハハハハハハ…」
「ちょ、ちょっとゲララー君!?」
予想外の言動にガナーは思わず声のトーンを上げた。ゲララーは仰々しく目を見開くと、同じく大袈裟に手を出してかぶりをふった。
「いやいや、違うってばよ。生きたいってヤツでね。やっぱ前向きでないとね〜。もったいないじゃん? そう思わねぇ?」
「……う、う〜ん」
一応そこは頷ける部分だが、それでもゲララーの語り口や物腰はプログラムの緊張とは場違いの方向にあると思えた。
これを無神経と呼ぶならば、頭に”桁違い”を添えたいところだ。
「ちょっと話聞く時間あるかい?」
「えっ? ……うん」
頭の中、”桁違い”の更に頭に”超”を付け足してガナーは再度頷いた。
「俺達が生きてるってのは、それだけで凄ぇ奇跡だと思うわけよ」
話の出だしはどこか詩を彷彿させた。ゲララーの首がおもむろに上方へと向き、視線は空へと移った。
お陰さまで周囲への警戒は完全にガナーが請け負っている。
「仮に生まれ変われるとするじゃん? じゃあ今ここで死んでさ、次も同じ感じに生まれたいとしたらどれだけ生まれ変わりゃいいと思う?」
「次って?」
「そうさねぇ〜。AAで、今住んでる街に生まれる確率」
珍奇な質問だったが、ガナーはむしょうに気になって思考に没頭した。国の人口を市の人口で割り、その値で更に世界の全人口で割る。
天文学的とまでは言わないが、それだけで気が遠くなる数値だ。
「生物ってだけで哺乳類だの魚だの虫だの花だの。種類だって数え切れねぇし、人よりも虫とかの数のが全然多いだろぉ?」
奇跡という言葉の意味を少し理解できた気がした。ゲララーの話の本質が輪郭のみ浮き上がってきた気がする。
「で、人間に選ばれても受精だなんだで、もうこれだけで数千億とか下らない単位。そう考えると無駄になんてできないっしょ?」
ゲララーはなおもじっと星空を眺めていた。散りばめられた星々が幾多の造形を成しており、不意にその一つが流れた。
それは金色の糸に似た奇跡を空に残して水平線へと消え入る。奇跡は次第に色を薄め、やがて夜闇へと溶けていった。

44 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/21(月) 07:40:24 ID:A/p5ubiL
「命一つに、自分達が思う以上の価値があると思うんだ、俺は」
広大な宇宙を背に語るゲララーの言葉には妙な説得力があった。
「だからこそ。反省してもし切れねぇんだよ・・・。あめねこのことが・・・。」
声のトーンが急激に下がる。後半のほうは涙声にも聞こえた。彼の涙声を聞いたのはこのクラスでガナーが最初だろう。
ガナーはゲララーにかける言葉が見当たらなかった。今までの話を聞いてみると教室での彼の言動に悪気が無いのはわかった。
「・・・なんつったりしてな。悪ぃ、俺らしくなかったな。ハハハ・・・。」
その目には雫がうっすらと浮かんでいた。

ディパックを手に、ゲララーが立ち去ろうとしていた。多分、ガナーの行動意志の妨げになるのを嫌っているのだろう。
普段疎遠だったゲララーよりも、兄やしぃ達と運命を共にすべきという事か。ゲララーもまた、誰かを求めるのだろうか。
不良仲間で親しかったフーンか、それとも時折雑談に付き合っていたテナー(男子11番)辺りだろうか。
「じゃ、また縁があればな。」
生還枠は一つである。もし共に残っていれば殺し合い可能性もある。その時自分は無事でいられるだろうか、体も、心も。
不安が背を摩り、曇らせた双眸が下方へと滑る。再び視線を戻した時、ゲララーはまたも夜空を見上げていた。
その仕草に好奇心を駆り立てられ、ガナーは訊いた。これまでも少なからず意味のあった彼の行動に興味をそそられたのだろう。
「星見るのが好きなの?」
「いや〜、そんな好きなら天文部にでも入るって!ギャッハハハハハ…」
やんわりと否定した後、ゲララーが上空を指差す。冷たい風に包まれた空は、心なし普段よりも黒味が強く映える。
「だって凄ぇじゃん。俺達がこんなとんでもない事になっても、いつものまんまなんだぜ?ハハハハ!!」
期待を裏切らぬ、面白い答えだった。最初にそれを聞いていたならば、眉と首を揃って傾げていた事だろう。けれど――
ガナーは、ああ、と声を出して頷いた。今までのどれよりも明確な肯定意志だった。我ながら少しだけゲララーの感覚を理解してきたように思える。
宇宙という無限に久しい存在の下では、人のいざこざなと些細と呼ぶにも値しない微々たるものと言えるだろう。
そのスケールで物事を測るゲララーは、他の生徒には一種異質に見えるのも無理はない。
奇妙な達観振りだった。ゲララーが今後どのように立ち回るか、全く予測できない。意外と彼のような人物が生還への切符を掴むのだろうか。
「また、会えるよね」
「ん〜… ま、その為にはお互い達者で。けせらせら!なるようになるさ!ギャッハハハハハ!」
最後まで人をくったゲララーの口調に、ガナーは表情を綻ばせて頷く。その意図があったかはどうであれ、ゲララーとのひと時は彼女に勇気をくれた。
皆を信じてみようというガナーの色を甦らせてくれた。
「また・・・ また会おうね!」
立ち去るゲララーの背にそう放つ。ゲララーは振り返らぬまま、軽く右手を振り上げて言葉を返してきた。
「この空の下で。な。ハハハハハ・・・・」
この空の下で。その言葉は印象深く耳に残った。
願わくばモナー達も一緒に。ガナーは希望を胸にゲララーとは逆のほうへと歩き出す。
袂を分かつガナー達の頭上では流星が二つ、二人の姿を表現するように交差して水平線に消失する。
行く先がどれだけ離れても最終地点は同じ、死という広大で永遠なる存在。ならば、自分だけの軌跡を人生という空へ描いてみせよう。
星空の下で誓いを掲げ、ガナーは南へと駆け出す。漆黒の空は益々深みを増し、星は更に光を際立たせ始めていた。

【残り37人】

45 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/21(月) 20:13:22 ID:HusIFH7e
【男子9番】タカラギコはG-7の住宅街を歩いていた。
「まさかこんな事になるとは思ってもいませんでしたよ…アハハ。」
彼の顔は笑ってはいるが、微かに恐怖を帯びている。

彼は言葉遣いが良く、いつも笑顔を絶やさない人当たりの良い生徒である。
おまけに成績も優秀で、したらば先生からも高評価を得ていた。
友人関係は広く浅くといった感じだが、一部からは、
「笑顔がウザイ。」
「偽善者の臭いがプンプンするぜ。」
など、散々な言われようだった。

「まだ武器を確認していませんでしたね…。」
その場に立ち止まったままデイバックを弄った。
何か棒のような物が手に当たる感触。そしてタカラギコは驚愕した。
「政府はナメてるんですか!僕の事を!」
そう叫んで、彼は支給武器であるピコピコハンマーを地面に思い切り叩き付けた。
赤くて柔らかいバネの部分で叩くとピコ、ピコ、と鳴るアレだ。
タカラギコは焦った。こんな子供の玩具などがあっても、手ぶら同然。
相手が自分と同じくらいのはずれ武器で無い限り、簡単に殺されてしまうだろう。
……でも一応支給武器だしな…。彼はとりあえずピコピコハンマーを持って行く事にした。
ピコピコハンマーを右手に構え、注意を怠らぬよう周囲を見回しながら歩くその姿は何ともマヌケだ。

そういえば、周りに家が沢山ありますね…。包丁くらいなら調達できるかも。
もっとも、彼自体にやる気は無いのだが、最低限自分の身を守れる程度の武器が欲しかった。
「とりあえずこの家から調べてみましょうかね。」
タカラギコはいくつかある家の内、今自分が立っている場所から一番近くにある家から調べる事にした。
入り口のドアの前に立ち、ドアノブを捻る。
ドアに鍵は掛かっていなかった。家主が鍵を閉め忘れたのかな?
そう思ったのも束の間。

「うっきゃああああああああああああ!!!!!!」
ドアを開け目に飛び込んできたのは、物凄い奇声を発しながら何かを両手で思い切り振り上げる女子、【女子1番】あいの姿であった。
「!!」
タカラギコは脳から危険信号が送られる前に、後ろにピョン、と飛び退いた。
とほぼ同時に、彼が今立っていた場所には深々と斧が刺さっていた。
タカラギコの心臓の鼓動が急激に速くなる。

殺される…!

そうは思っていても、あまりに突然の事で、体が思うように動かない。一歩ずつ、ゆっくりと後退るのが精一杯であった。
あいが斧を地面から引き抜いた時、二人の目が合った。あいの目は狂気に満ちており、タカラギコの背筋が凍りついた。
「うっきゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
またも耳が痛くなる程の奇声を上げ、般若のような形相で斧を無茶苦茶に振り回しながら少しずつこちらに近付いて来る。
「あいさん、落ち着いて…」
タカラギコが彼女をなだめようと震える声を発した次の瞬間、風を横に切る音が彼の顔のすぐ斜め下で聞こえた。
驚愕のあまり右手に持っていたピコピコハンマーを取り落としてしまう。
あと15センチ前に出ていたら首を刈り落とされていただろう。
「う、うわああああああ!!」
タカラギコはその場から一目散に走り去った。意外にも、あいは追いかけて来ないようだった。
恐怖で足が縺れ、何度も転んでは立ち上がり、全速力で走り続けた。
落としてしまったピコピコハンマーの事、自分が今どこに向かって走っているのか、などはどうでも良かった。
ただ、二度とあの住宅街には戻りたく無いと思った。

【残り37人】

46 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/22(火) 00:10:05 ID:1Ti30dk8
静まり返った室内では一人の女子生徒が、移動を行っている。
彼女の立つ通路の両脇には厚いガラス壁が悠然とそびえていた。その奥は実に室内の八割に相当する面積を誇る、巨大な水槽がある。
魚の気配を失ったその水槽は広さを持て余しどこか寂しそうに見える。中ではアクアブルーの液体がゆらゆらと波打っていた。 
ねここ(女子15番)は歩みに身を任せつつ、流れゆく水槽の景色を眺めていた。
ここは卸売り市場も兼ねていたと思われる大規模な港の北側(B−2)で、戦場のちょうど西の端付近にあたる場所だ。
ねここは分校を出発した後にとりあえず身を隠す場所を求め、この場所へと向かっていた。
途中、連続して響く銃声とマズルフラッシュと遭遇してしまったため、強張る足を夢中で飛ばして、港へ駆け込んできた。
その数時間後、ギコ(男子4番)の物と思しき断末魔とも絶叫とも着かぬ声が遠方から響いてきた。
同グループの仲間の絶叫にねここは心配の色を隠せなかったが、応援に向かう勇気など持て余していなかった。
興奮冷めやらぬまま訪れたこの港で場違いに水を観賞するうち、次第に心は平静を取り戻し始めていた。
ねここは通路を歩いている間も、食い入るように水槽を眺めていた。丸石や海草が所々に配置されており、ジオラマを彷彿する。
水と水が衝突しあう合う波音が響く中で、思いを過ぎらせる。当面、誰も信用できない。無理もない。教室内で聞いた謎の駆動音。
刃物同士がぶつかり合うと思われる金属音。そして出発直後に目の前で見たマズルフラッシュ。それと共に聞こえた発砲音。
それらの『日常生活では到底聞くことのできない効果音』はねここに十分すぎる程の恐怖心を植え付けていた。
それぞれの背景、思い思いの殺意がある。生徒の数だけ”理由”がある。簡単に生還への椅子は譲ってもらえそうにない。

 ――結局命が懸かれば自分しか頼れないのかな…

ねここの力ない吐息はこの国、ひいては世の中に対する落胆の息と言えた。
生還に対する張り合いの薄さはクラスでも指折りであろう、思いながら指をだらだらと揺らす。
手には変わらずフルフェイスを握り続けている。眼前には奥の部屋へと続く通路が見えていた。
丁字路の分岐となったその場所では突き当たりの壁にお手洗いを指すプレート標識が貼られている。
矢印からすると左がお手洗いのようだ。右は港の奥へと続いているのだろう。建物の規模からするとこの先が最奥の部屋の気がした。
距離感を計るのは不得手で自信はないが、ともかく。物音を窺うも、露骨な音は耳に届かない。
波音はするものの、余程微弱な音でない限りは聞き逃していないはずだ。しかしやはりこういった場所では待ち伏せが怖い。
ねここは恐る恐る部屋の出口から顔を出し、次なる通路を覗き込んだ。 左は標識どおり、数メートル先に男女別に別れたお手洗いの入口が見える。
右は三メートル程度先の広い部屋に繋がっており、水槽が陳列しているのが見えた。普段は稚魚が飼育されていた水槽ではないかと考えた。
どこか不穏な空気がねここの心に更なる陰りをもたらす。

 ――念を入れて、引き返すべき?

不安に心を駆られた今、むしろ今来たばかりの背後にこそ姿なき恐怖を覚える。やはり進むべきと判断する。
ねここは、覚悟を決めて奥の部屋へと駆け出した。分岐路に飛び出したのと、右足に電撃が走るような痛みを覚えたのは同時だった。

 ――な、何?

違和感に顔を歪めながらも奥へと駆け抜けようとした。しかし右足のあまりの激痛に耐え切れず、ねここは体を右へと捻ったところで頭から床へと崩れ伏した。
脳天から指先に至るまでちくりとした痛みが広がっていた。脳震盪を起こしたのか、視界は薄ぼんやりと頼りない景色をねここに送り込んでいる。
全身に麻痺が広がる。頬に床の冷たさが伝わり、死の恐怖と共に肌に染み渡っていく。

47 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/22(火) 00:14:02 ID:1Ti30dk8
「クスクス… ねここさんの寝転がる姿、なかなか醜いね。」
ねここの聴覚が未熟な少年の声とお手洗いからの足音を捉えた。突然腹部に力が加わり、半回転の後に体が仰向く。
足で裏返された事に屈辱を覚えながら声の主を視界に捉えた。
まだ幼さの残る童顔、綺麗で『純真無垢』を思わせる輝きを満たしている瞳、場違いなほど清楚な笑顔。厄介な生徒と出くわしたと我が身を呪う。
マニー(男子18番)が、歓喜に満ちた表情でねここを見下ろしている。ねここの胸の内では怒りと絶望が絶妙なコントラストを織り成していた。
明朝5時の港内を徐々に淀んだ空気が満たし始めていた。筋肉の小痙攣に動きを封じられながらも、ねここは邪悪の根源を見つめる。
ねここを見下ろしているマニーの眼光は、暖かいようでどこか冷たい。港を舞台に、死闘が展開されようとしていた。
戦闘の火蓋を切ったのはマニーで、予告もなしにねここの喉笛を踏みつけてきた。上等そうなマニーの革靴がギュッと音を鳴らす。
ねここは圧迫感を堪え、しかし小さく呻くに留まる。弱みを見せるつもりはなかった。その様を眺めていたマニーが目を細め、一言吐き捨てる。
「ふふふふ… 蟲みたいに我慢強いね。僕の足に汚物なんか吐いたら承知しないよ?」
その人を人とも思わぬ物言いにねここは唖然とした。
ねここは他の女子達とは違い、彼にどこか冷たいイメージは常々抱いていたが、マニーがここまで排他的な冷酷さを内封していたとは夢にも思っていなかった。
歴史上に名を残した独裁者でさえ、もう少し上品な物言いをするのではないか。サディステックさとも違う純粋な冷徹精神は、ねここの背筋に冷や汗を伝わせた。
相変わらず右足からの激痛は病まない。心臓の鼓動のようなものも感じる。
「何なの……これ」
「あ、普通に口が利けるんだ?」
マニーが不都合そうに唇を尖らせるのが見えた。処刑を早めてしまっただろうかと焦りを生じさせる。しかしマニーは余裕からか、説明を始めた。
「ほら!僕の武器。かっこいいでしょぉ〜。この小汚い血はぁ、ねここさんのでぇ、こっちの薄汚い血はぁ、ダーヤスさんのだよぉ♪」
なんと、目の前の生徒はすでにダーヤス(女子10番)を手にかけていたのだ。ねここは戦慄した。
同時にこんな男の待ち伏せ策に容易にかかってしまった自分を腹立たしく思った。
「クスクス、おバカな虫ケラさんには説明するだけ無駄だったかなぁ?」
そう言い終えたマニーが、今度は腹部に革靴の爪先を幾度も幾度も食い込ませてきた。
ねここは苦痛に身を捩らせながら涙を浮かばせる。

 ――こんな狐の皮被ったお坊ちゃま君なんかに……!

マニーは国内でも指折りの財閥会長の御曹司である。なんでも大昔の公家の末裔だとかで。
マニーは財閥イメージキャラのモデルで、地元テレビ局のCMでも時折似合わぬスーツを着込んで仮面の笑みを振り撒いていた。
クラスメート達を含む何人の女性が偽りのスマイルに惑わされているのか、想像するだけで馬鹿らしくなる。
「あなたでも人の言いなりなるんですね。」
マニーに挑発的な言葉を送る。せめて心にだけでも打撃を与えておきたい、そうでなければ癪過ぎると思った。
「幼稚な挑発乙。僕の中ではこのプログラムは修学旅行のレクリエーションのひとつなんだよねぇ。
 それにゲームに乗ったのは僕のご意志なんだもーん。それに、醜悪な君達と机を並べる事がなくなるのは好都合だし、ね?」
無邪気な笑顔を変えず、マニーが反論してきた。
そもそも上流階級のマニーが公立の厨学校に入学したのは親がマニーに『厨学までは一般層とのコミュニケーションを築いて欲しい』との願いからだった。
当然これらの事情をねここが知るはずもない。

48 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/22(火) 00:18:04 ID:1Ti30dk8
ねここは持ち上げられたカマの先端へと視線を投じる。その腕は微動だにしていない。
マニーはどこを貫くべきか悩んでいるようだった。
「あっそうだ、ここ港だよね?クスクス… じゃあ、釣った魚は新鮮なうちに捌かないとね!」
そう言うと目標を定め、腰を下ろすとねここの脇腹へとカマを突き付けた。
「じょ、冗談でしょ?」
言うなればその台詞こそ冗談と言えたのだけれど。思わず口を突いて出たのはそんな言葉だった。
「虫ケラ相手に冗談を言う理由は無いよ? 待っててね。今、魚みたいに三枚に下ろしてあげるよ。」
予想通り(?)の返答と共に、カマの尖端が脇腹の薄皮を貫いた感触が生じた。マニーは殺人という禁忌に対して動揺を生じさせていなかった。
脇腹の肉にカマが差し込まれていく感触を感じながら、ねここは痛みと共に自らの終焉を悟った――つもりだった。
「ねここ…! マニー… 餓鬼がぁ!! 許さんぞゴルァぁ!!」
突然の声は側方、ねここがやってきた歩道から響いた。カマが体から離れ、不快そうに変化したマニーの顔が声のほうへと向く。
ねここは痺れが残る首をゆっくりと傾けた。同グループの親友、ギコが、険しい顔でマニーを睨み付けているのが見えた。
右手にサブマシンガン―――イングラムM10と、拳銃―――コルト・ハイウェイパトロールマンを構えていた。
天下無敵ともいうべき装備である。ネ申降臨!!一瞬にしてねここの心中に希望が満ち溢れる。
「ちぇっ!せっかちなんだからぁ…」
低い呟きを残してマニーが立ち上がり、館内の外へと駆け出した。
「ギコくん!ありがとう…」
ガシャン と二つの銃がギコの手から零れ落ち、音を立てる。
「う… うぅ… うぁあああぁあぁぁあああぁああああああ!!!!!」
突然ギコがその場に膝を突き、らしからぬ大声を張り上げて泣き始めた。
「えっ? えっ? ギコくん? どうしたの?」
ねここは訳もわからずただ問いかける事しかできなかった。

【残り37人】

49 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/22(火) 03:59:32 ID:sJoP/HGc
【男子3番】おにぎりはA-10の原っぱに腰を下ろしていた。
彼は分校から出た後、必死でここまで走って逃げてきたのだ。
「こんな所で死にたくないワショーイ……。」
彼はうつむきながら、そう呟いた。

おにぎりはクラス内では超がつくほど元気な男の子である。
彼は踊る事が大好きで、よく休み時間などにワッショイワッショイと歌いながら皆に踊りを披露していた。
そのせいで、クラスメイトの大半から煙たがられていたようだが。

殺し合いなんてしたくない。でも、こんな所でのたれ死ぬなんて嫌だ。
ああ、どうしようどうしよう……。

ふと前方に目をやる。
前方には月明かりを浴びてきらきらと輝く高圧電流有刺鉄線が張り巡らされており、左右に延々と広がっていた。
鉄線の向こう側にはこちらと同じように原っぱが広がっている。

…そうだ!
何かを閃いたかと思うと、デイバックから地図を取り出し、広げた。
地図を見る限り、この会場は孤島では無い。この鉄線を突破できれば、このゲームから脱出できる。
彼はそう思った。だが問題は、どうすればこの鉄線を突破できるかである。

しかしおにぎりは何かを決心したかのような顔をすると、鉄線の方へと歩き近付いて行った。
鉄線の50センチほど手前で立ち止まる。目の前には電流が流れているなど見た目からは想像もつかない有刺鉄線。
「…こんな物簡単に切れるはずだワショーイ。」
彼はそう呟くと、とんでもない行動に出た。

おにぎりは学生服のポケットに仕舞ってあった支給武器、軍用ナイフを取り出すと、それを振り上げた。
そして、後先の事を考えず、ナイフの刃を高圧電流の流れる鉄線へと振り下ろした。

「あがががぐが!!!!」
刃が鉄線に触れた瞬間、数百万ボルトの電流がナイフから右腕、右腕から全身へと伝わり、彼の体に強烈なショックを与えた。
ナイフは電流で上空へと弾き飛ばされ、そして刃先を下に向け後方の地面にトスッと突き刺さった。
それに続くようにおにぎりの体が仰向けにどう、と倒れる。
彼の両目はかっ、と見開かれており、口は光を当てれば舌と喉が確認できるほど大きく開かれていた。
そのままの表情で、彼は全く動かない。彼の心臓は完全に機能を停止していた。
因みに、鉄線には傷一つ付いていない。彼は犬死にだった。



「まさかあんな馬鹿な事をするなんて思ってもいませんでしたね。流石、脳味噌は梅干と言ったところでしょうか。」
しぃ助教授はモニターを見つめながら、ニヤニヤと汚い笑いを浮かべそう言った。
生徒達に着けられた首輪には発信機、盗聴器、小型カメラが取り付けられており、生徒達の行動は彼らには全てお見通しなのである。
「まあ、例えあの有刺鉄線を破ったとしても、こちらから首輪を爆破してやれば良いのですけどね。フフ…。」
ギコ教授は微笑してそう言うと、手元に置いたコーヒーを一口啜った。
時刻は5時23分を回っていた。

【残り36人】

50 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/22(火) 20:56:58 ID:81F+EK2G
縁がない。
そう、縁がないだけだ。

【男子12番】ドクオは考えていた。
殺し合いの事ではなく、女の子のことを。
クラスの人間を殺す事とか、どうやって生き残るとか、
そんなことはこれまでに、それこそ腐る程に考えた。
しかし考えども考えども一向に答えの欠片も見当たらなかったので、
とりあえず保留として別のことを考えているのだ。
心を落ち着くための、云わば気休めと言ってもいい。
ドクオは女好きだった。だから、気休めには女の子のコトを考えるのが最適なのだ。

ドクオは、古アパートでもう死にかけの祖母と二人暮しだった。
いや、正確には父も含めた三人暮らしなのだが、
父はほぼ家には帰らないため、実質的には二人暮しに変わりはなかった。
父の稼ぎのお陰で生活費や学費に困ることはないが、
祖母の世話や家事のために、趣味の時間を取れることはほぼなかった。
部活動やクラブ活動を嗜むことも出来なければ、友人と遊びにいく事も出来ない。
ドクオ自身は特に人間的に問題があるわけでもないし、
それどころかよく気がつくいい人間であり、クラスに人気が無かった訳でもなかったのだが、
ドクオは、突き詰めた友好関係や趣味が出来ないことを非常にもどかしく感じていた。
そして、毎晩アパートの隣の部屋から聞こえ感じるカップルのいちゃつきが、
その思考を『異性関係』の方向へと偏らせたのだ。

ドクオは、H-8の住宅地付近を歩いていた。
木のように立つ灯りの無い街灯、かつては車が通っていただろうことを示すアスファルトに白い線。
道路と遊歩道を分け隔てるガードレールには、『飛び出し禁止!』の看板が立てかけてある。
漢字で書かれては子供は読めないのではないかと些細な疑問が頭をよぎる。
ともかく、『殺し合い』という状況下でなければ、至って普通の街道に過ぎない。
いや、夜空に瞬く点のような星々や、そこら中にある何を意図して作られたかわからない造形物が、少しだけロマンチックだ。
こういう場所を女の子と歩ければ一体どれだけ――
ドクオはまた場違いなほどに暢気なことを考えながら、ガードレールを越え遊歩道に乗り出し、その一端にポツンと座っているベンチへ腰をかけた。
ディパックを隣に置き、水の入ったボトルを取り出す。一本全て飲み干す勢いで、ドクオは水を吸った。
贔屓目に見ても冷えているとは言い難いが、緊張に渇いたドクオの喉を潤すには十分な冷度だった。
それなりには満足し、水をディパックに戻そうとするときに、『支給武器』に手が触れた。
――これを引き当てたときには「マジかよ」と思ったもんだ。
ドクオは、数時間前に自分を驚かせた、――暢気な事を考える余裕を彼に与えたのであろうその武器を、再び引っ張り出し見つめた。
レミントンM31RS。早い話がショットガンだ。
胴長の銃身に、銃口の後方にあるポンプ機構が『いかにも』な雰囲気を醸し出している。
よほどのことが無い限り、真正面からの闘いで負けることは無いだろう。
だが・・・・・・
ドクオは、空のペットボトルと一緒に惜しむことなくレミントンをディパックにしまいこんだ。
身を守るには常に手に持っていた方が安全だが、それ以上に他人に『やる気』だと認識させてしまう可能性が高い。
か弱い女の子はまず近づいてこないだろうし、先手必勝の念で殺されてしまう可能性も高くなる。以上の理由から、ドクオは銃をしまっておくべきだと判断したのだ。

51 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/22(火) 20:59:24 ID:81F+EK2G
もうどれだけベンチに座っていただろうか。
ねずみ色だったはずの空にいつの間にやら、微かに青が染み込んで来ている。
夜が明けたのだろう。ドクオは思った。
いつの間にか。いつもそうだ。少し目を離している隙にいつの間にか夜が明けている。
夜が徐々に明けていく様をドクオは見たことが無い。
夜は徐々に明けるものではなく、コマ送りのように過程をすっ飛ばして一段階一段階明るくなっていく物なのではないか。そうとも考えてしまうほどだ。
時計は、5時30分を指している。ドクオの勘考が夜明けから定時放送のことへ移った。
たしかあと30分で定時放送のはずだ。
たしか、放送では禁止エリアの発表と、死者の発表を行うと言っていた。
死者・・・ここに来るまでドクオは何度か銃声や悲鳴やらを聞いたような気がしたが、もう何人が死んでいるのだろう。
1人も死んでいないかもしれないし、もしかしたら半数以上死んでいるかもしれない。いや、自分以外の生徒全員が既に死んでる可能性すらある。
ドクオは誰も死んでいない事に期待したかったが、やはり何人かは既に死んでいるのであろうことを分かっていた。
フーンやゲララーなどの不良生徒はともかく、女子生徒が集中的に死んでいたらと考えると、ドクオは胸を締め付けられる思いだった。
ドクオは一度浅くため息をつき、クラスの特にかわいい女子の事を思い返し始めた。

【女子4番】あゃなみレイ
陰のある女性だった。寡黙で、親しい友達はいなかった、ような気がする。
きっと彼女は望んで孤独になったわけではない。本当は賑やかな自分を出したかったのだ。多分。
【女子7番】花瓶
戦隊モノが好きで、女子プロレス部に入っていた。たしか。
勝気な子だったが、弱弱しく女性的な一面も隠し持っているのだろう。きっと。
【女子8番】しぃ
地味な女性だったが、【男子4番】ギコなど比較的男子生徒と仲が良かった。多分。
彼氏はいるのだろうか?いや、奥手な彼女の事だ、きっと仲がいい男が色々いながらそういった物とはまだ無関係なんだろう。うん。
【女子10番】ダーヤス
切れ長の目が小悪魔的だがそれとは裏腹に正直で賑やかな女性だった。
今風な女子中学生だったが、きっと家庭的な一面も持ってるんだろう。という願望。
【女子15番】ねここ
アイドルを目指し頑張っていた女子で、顔も勿論スタイルも抜群だった。
その割りにあまり歌のお手前があまりよろしくないところも愛嬌があって、とてもよろしい。
そういえばこの子もギコが仲が良かったが、付き合ってはいないはずだ。絶対。
【女子18番】モネー
大人びた女性で、噂によるとまぁ、色々とアレしてるみたいだが、
そんな事ないはずだ。きっと。多分。
【女子19番】モラリ
こちらも今風の女子で、たしかよく【女子17番】モニカと仲良くしていたが、
あまりパッとしないモニカを隣にするとより一層かわいく見えた。
【女子21番】ルルカ
こちらもアイドル志望の女子生徒で、またあまりお歌が上手でないものの、ファンはとても多かった。
クラス一のチビの俺と変わらないほど小柄で、小学生としても通じそうなほどのロリかわいい子だった。

『たしか』や『多分』ばかりで嫌気が差してくる。いかに自分が女性と疎遠であるかを再認識させられた。
疎遠というとそういえば、自分と全く真逆な生徒がいる。【男子18番】マニーだ。
そういえば今上げた女子の約半数が【男子18番】マニーのファンだ。
若干ショタコン気味の自分にとっては特に妬ましくはないどころか別の意味で気にはなるのだが、
やはり羨ましくて、彼と変わりたいと思うことが時折、いや、頻繁にあった。
・・・・・・ともかく、この中の誰かと、このプログラム中親しくなれるだろうか・・・?
ともかく、『縁』があれば・・・女子と出会えば何とかなる。コミニュケーション能力に自信がないわけではない。

誰に会ったらどう話そうかなど脳内シュミレートを続けている内に空の青はより優先度を増し、時計は5時50分を過ぎようとしていた。

【残り36人】

52 :細かく修正:2006/08/22(火) 21:04:05 ID:81F+EK2G
もうどれだけベンチに座っていただろうか。
ねずみ色だったはずの空にいつの間にやら、微かに青が染み込んで来ている。
夜が明けたのだろう。ドクオは思った。
いつの間にか。いつもそうだ。少し目を離している隙に気がつけば夜が明けている。
夜が徐々に明けていく様をドクオは見たことが無い。
夜は徐々に明けるものではなく、コマ送りのように過程をすっ飛ばして一段階一段階明るくなっていく物なのではないか。そうとも考えてしまうほどだ。
時計は、5時30分を指している。ドクオの勘考が夜明けから定時放送のことへ移った。
たしかあと30分で定時放送のはずだ。
放送では禁止エリアの発表と、死者の発表を行うと言っていた。
死者・・・ここに来るまでドクオは何度か銃声や悲鳴やらを聞いたような気がしたが、もう何人が死んでいるのだろう。
1人も死んでいないかもしれないし、もしかしたら半数以上死んでいるかもしれない。いや、自分以外の生徒全員が既に死んでる可能性すらある。
ドクオは誰も死んでいない事に期待したかったが、やはり何人かは既に死んでいるのであろうことを分かっていた。
フーンやゲララーなどの不良生徒はともかく、女子生徒が集中的に死んでいたらと考えると、ドクオは胸を締め付けられる思いだった。
ドクオは一度浅くため息をつき、クラスの特にかわいい女子の事を思い返し始めた。

【女子4番】あゃなみレイ
陰のある女性だった。寡黙で、親しい友達はいなかった、ような気がする。
きっと彼女は望んで孤独になったわけではない。本当は賑やかな自分を出したかったのだろう。多分。
【女子7番】花瓶
戦隊モノが好きで、女子プロレス部に入っていた。たしか。
勝気な子だったが、弱弱しく女性的な一面も隠し持っているのだろう。きっと。
【女子8番】しぃ
地味な女性だったが、【男子4番】ギコなど比較的男子生徒と仲が良かった。多分。
彼氏はいるのだろうか?いや、奥手な彼女の事だ、きっと仲がいい男が色々いながらそういった物とはまだ無関係なはずだ。うん。
【女子10番】ダーヤス
切れ長の目が小悪魔的だがそれとは裏腹に正直で賑やかな女性だった。
今風な女子中学生だったが、きっと家庭的な一面も持ってるんだろう。という願望。
【女子15番】ねここ
アイドルを目指し頑張っていた女子で、顔も勿論スタイルも抜群だった。
その割にあまり歌のお手前があまりよろしくないところも愛嬌があって、とてもよろしい。
そういえばこの子もギコが仲が良かったが、付き合ってはいないはずだ。絶対。
【女子18番】モネー
大人びた女性で、噂によるとまぁ、色々とアレしてるみたいだが、
そんな事ないはずだ。きっと。多分。
【女子19番】モラリ
こちらも今風の女子で、たしかよく【女子17番】モニカと仲良くしていたが、
あまりパッとしないモニカを隣にするとより一層かわいく見えた。
【女子21番】ルルカ
こちらもアイドル志望の女子生徒で、またあまりお歌が上手でないものの、ファンはとても多かった。
クラス一のチビの俺と変わらないほど小柄で、小学生としても通じそうなほどのロリかわいい子だった。

『たしか』や『多分』ばかりで嫌気が差してくる。いかに自分が女性と疎遠であるかを再認識させられた。
疎遠というとそういえば、自分と全く真逆な生徒がいる。【男子18番】マニーだ。
今上げた女子の約半数が【男子18番】マニーのファンだ。
若干ショタコン気味の自分にとっては特に妬ましくはないどころか別の意味で気にはなるのだが、
やはり羨ましくて、彼と変わりたいと思うことが時折、いや、頻繁にあった。
・・・・・・ともかく、この中の誰かと、このプログラム中親しくなれるだろうか・・・?
『縁』があれば・・・女子と出会えば何とかなる。コミニュケーション能力に自信がないわけではない。

誰に会ったらどう話そうかなど脳内シュミレートを続けている内に空の青はより優先度を増し、時計は5時50分を過ぎようとしていた。

【残り36人】

53 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/24(木) 22:13:49 ID:Lc/SHVjs
ガナー(女子6番)の腕時計の時刻は午前5時43分。ガナーは西の海岸のすぐ南にある公園の南側(E−3)に潜んでいる。
朝の放送の時刻になるまでこの場所で待機する事にしたのだ。
ガナーは分校を出てからモララー(男子20番)とフーン(男子17番)の戦闘を目撃した事により、全速力でとにかく西へ西へと駆け抜けた。
そこでゲララー(男子5番)と出会いやる気の無い生徒とわかると会話を交わした。

ガナーはゲララーに対しあまり良いイメージを抱いてはいなかった。登校しても約半日は屋上で過ごし、クラスの行事にも滅多に参加しない。
相手が目上の者であろうが女子であろうが少しでも気に障ることを言うと食って掛かる。自分の行動、言動に責任を持たない。
とにかく近づきがたい、というより近づきたくない存在だった。しかしガナーのゲララーを見る目は180度変わった。
この極限状態に閉じ込められてゲララーは人が変わったのだろうか?もっと早くゲララーの暖かい部分に気づいてあげたかったと心から後悔した。

恐怖感を押しのけようとそんな事を考えて時間が来るのを待つ。
だがやはり本能的な怯えはどうしようもなく、定期的に悪寒を感じて背後を振り返る。
不意に後ろの茂みの奥からガサリという物音が聞こえ、ガナーは反射的に簡易レーダーを取り出す。その際、周囲の草に触れてこちらも物音を立ててしまう。
「く…ぅ…誰?」
林の奥で誰かがのっそりと立ち上がり、こちらに苦痛な口調で問い掛けてきた。暗がりでよく見えないが、何か武器のような物を構えているようだ。
今のは聞き覚えのある声だったが、短く吐いた声だったので断定するには心許なかった。今のは確か……
「馬鹿じゃないの? 撃つよ?」
次の声でガナーは声の主を理解した。不良グループ系のリル子(女子20番)だ。
今、ガナーにとって一番問題なのはリル子が飛び道具を持っていると言う事だ。”撃つ”と言っている以上は間違いないだろう。
飛び道具相手では余りにも分が悪い。相手が相手だけに説得できるとは思えなかったが、まずは出ていくしかない。
「ちょ、ちょっと待って!」
そう言ってガナーは両手を上げたままリル子の前に立つ。二人の距離は約十メートル程だろうか?
リル子は右肩から左の腰あたりにかけてかなり深いと思われる切り傷を負っており、血にまみれていた。口元から血が滴り落ちている。
不意に武器を構えたリル子の胸元のシルエットが縦に揺れる。本能的に危険を察して再び身を伏せるガナー。
一瞬前までガナーの目前で爆音が走り、後方の木に何かが突き刺さった。
「じょ、冗談じゃない!」
ガナーはしゃがんだまま踵を返して四つんばいで駆け出し、数歩進んだ後に両手で地面の土を叩いて立ち上がり全力疾走を開始した。
その際に横目で木に突き刺さった何かを確認しようとした。その部分からは煙が上がっている。おそらくは銃だろう。
「モララーは取り逃がす、フーンには傷ひとつつけられない所かその上返り討ちにあう、ゲホッゲホォッ… どいつもこいつも…舐めやがってぇぇえ!」
リル子は胸元に構えていた武器を小脇に抱えながらガナーを追撃する。
ガナーは自分が手を上げた際に右手に握っていたレーダーがリル子に誤解を抱かせたとは気付いていない。
時折後方を振り向きながらガナーは公園を抜けて再び海岸のほうへ走った。ガナーの脚力はクラス女子でもトップクラスだ。
一方リル子は中の下だ。さらにあの大怪我である。リル子の姿がどんどんガナーから遠ざかっていく。
間も無く先程ガナーが出発した海岸が見えてきた。やがて海岸の岩に寄りかかり、辺りを窺ってから大きく一息吐く。
内臓がこぞって激しく躍動するのを感じていた。
「はぁ、はぁ……もう、嫌……こんなのが、ずっと、続く……の?」
目を細め、顔を歪ませながらガナーは思い出したように簡易レーダーに目をやった。背後よりひとつの点が徐々に距離を縮めつつあった。
「誰?リル子?でも撃ってこないし、まだ追いつかないはずだからリル子じゃない。髪形はよくわからなかったけど……ヒィッ!」
「ウワアァァアン!」

【残り36人】


54 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/24(木) 22:22:44 ID:Lc/SHVjs
モナー(男子19番)はガナー(女子6番)の声が聞こえたため数分前に通過してきた海岸へと舞い戻る。
そこでは倒れているガナー(女子6番)とそのガナーを組み伏せブッシュナイフを突きつけるウワァァン(男子2番)が。
ブッシュナイフを持つウワァァンの右手をガナーが両手で必死に押さえている。
信じ難い光景だった。実妹とクラスメートが眼前で殺し合いをしているのだ。何よりウワァァンの行動には何の躊躇も見られなかった。
普段は温厚なモナーでもこれを目の当たりにした事で一瞬にして理性が吹き飛んだ。絶叫一番、猛スピードでウワァァンへと接近する。
「何してんだモナァ!」
ウワァァンが声で振り返った時、既にモナーは跳躍していた。爆発したかのような勢いだった。
ウワァァンの背を踏み台にしモナーがウワァァンの顔面に膝を叩きつけると、声も出せずウワァァンが吹き飛ぶ。
「お兄ちゃん!」
「ガナー!」
涙目のガナーがモナーを呼び、モナーもそれに応える。互いにその手を伸ばしたが届く寸前、足首に圧迫感が生じた。
そのまま何かの力で引き倒される。窺い見た背後で鬼の形相をしたウワァァンの姿を捉える。背筋が凍る思いだった。
渾身の一撃がクリーンヒットしたはずなのに、何故。すぐに理解した。これは教室の喧嘩とは事情が違う。
敗北は死に直結するデスゲームで、膝蹴り一撃で倒せるほど甘くはないと。
「ガナー、早く逃げるモナ!」
そう促したが、ガナーは一向に逃げる気配は無い。むしろウワァァンに今にも飛び掛らんとしている様子だ。
「早く、逃げろぉ!!」
モナーがガナーの居る方へ顔を向ける。その隙を突いてウワァァンが跳ね起き、モナーの側頭部を蹴り飛ばした。
過去類を見ない痛みだった。リミッターの外れた力は半端ではないと文字通り痛感する。けれどそこからの反応は迅速だった。
身をウワァァンへと突き出すように低空蹴りを放ち、衝撃と共に二人の距離が離れる。
モナーは床で後方一回転した後、ディパックを掴み離脱を開始した。
「いい加減にするモナ!!」
なおも追い縋ろうとするウワァァンの頭部に火炎瓶を投げ付ける。カウンターの要領で激しく衝突したそれは、ウワァァンの額の上で木っ端微塵に砕け散る。
内封されていた透明の液体がしこたまウワァァンの頭を濡らした。間髪入れずに炎が一気にウワァァンの体を包み込んで人型の炎へと姿を変える。
「ウワァァァァアアアアァアアァアアアアン!!」
熱と痛みがウワァァンの全身を襲い出した。緩慢な痙攣から激しい躍動となる。
地面を転がり炎を消そうと試みるのは本能的なもので、既にウワァァンの思考回路は完全崩壊していた。

55 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/24(木) 22:27:18 ID:Lc/SHVjs
「ガナー、こっちモナ!」
すかさずモナーがガナーを手引きながら走り出した。
道路を渡り、やがて会場の中央付近にあるマンションまで辿り着くと二人は倒れこむようにして腰を下ろす。
「お兄ちゃん……さっきは助けてくれてありがとう。」
「兄が妹を守るのは当たり前だモナ?」
顔を見合わせて小さく笑う二人。その後、しばらくの沈黙の後にガナーが口を開いた。
「リル子もウワァァン君も、みんなどうして殺し合いに乗っちゃったんだろう?」
リル子の事は当然初耳だったが、そこを詳しく聞くのは後回しにしてモナーが答える。
「色んな理由があるモナ。生きて帰らないといけない理由があるのかもしれないし、いや、それ以前にこんな事で死なないといけない理由なんてないモナ」
「でも、それにはみんなと戦って、それ、で……」
ガナーは涙声になりながらも、潤んだ瞳でモナーを見上げて話を続ける。
「お兄ちゃん、も……生き残りたい、んでしょ? それで、あたし、とも……」
モナーは無言のままガナーの両肩を掴み、目を伏せて首を何度も振る。
ガナーはその後も何か言葉を継ごうとしていたが、モナーが首をひたすら振り続けるのを見ているうちにやがて言葉を失った。
「……モナは馬鹿でしょうも無い兄貴だモナ。でも最後の最後までずっとガナーを守って見せるモナ。」
モナーはそう一言だけ言うと、顔を上げてガナーを見る。
モナーの言葉に再び涙腺が緩み、どこに蓄えられているのだろうといわんばかりの量の涙で顔を濡らしながらガナーがモナーの懐に飛び込んだ。
「お兄ちゃん! ずっと、きっと一緒に居てね!」
それは、これから生涯で最も過酷な数日間を全力で駆け抜ける事になる彼らのわずかな安息の時間だったのだろう。
モナーはガナーを抱き締めながらマンションの前に立ち並ぶ木々のざわめきに耳を済ませていた。
機械的なノイズと共に、第一回放送が開始されようとしている。
クラシック曲が、徐々にマンションの中で木霊し始めていた。仲間達の顔が浮かぶ。それが血に染まる忌わしい幻影を振り払い、彼らの無事を願った。

【残り36人】


56 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/25(金) 21:29:18 ID:TUBtf0N/
『男子3番、おにぎり君。男子11番、テナー君。女子8番、しぃさん。女子10番、ダーヤスさん。女子17番、モニカさん。』
分校の奥ではひっきりなしに機械音や靴音が響いていた。しぃ助教授(担当教官補佐)がアナウンスマイクに向かい淡々と放送をしている。
『続いて禁止エリアです。午前8時からC−3、午前10時からE−1。以上。』
職員室の窓にも教室や廊下同様に鉄板が貼ってあり、朝陽の届かないこの部屋では唯一の照明源である天井の蛍光灯が室内に白色の明かりを放っている。
ギコ教授の向かいの机では、数人の兵士が各々の席に用意されたデスクトップパソコンのキーボードを揃って叩いている。
室内にはその他にも職員室では普段お目にかかれない数々の機材が所狭しと職員室内を占拠していた。
しぃ助教授が放送室から戻ってくる。
「おー、ご苦労様。さぁて、どうなるかねー」
ギコ教授(担当教官)は学校の職員室の机に座り、書類のような物を眺めていた。
やがてギコ教授は一枚の紙に、赤ボールペンで何やら二箇所チェックを入れるとしぃ教授のほうを向いて話し掛ける。
「どうだー、お前は誰が優勝すると思う?」
その言葉で、しぃ助教授がノートパソコンの画面に目を向けたまま返答する。
「私はモララー(男子20番)が優勝すると思ってますが。」
その返答に表情を緩めてギコ教授が返す。
「そうだなーモララーは勉学も運動も万能だしなー、人望もある。後は仲間を落としていく事ができれば優勝は固いだろうなー。
 本命中の本命ってとこだな。じゃあギコ子。お前はどうだー?」
その声に反応したのは、ギコ教授の向かいの席でパソコンを覗いていた女兵士であった。
ギコ猫をモチーフにしたヘルメットが特徴的なギコ子(専守防衛軍兵士)が言葉を返す。
「はい、私はフーン(男子17番)を推薦致します。実戦での戦闘力は一番ではないでしょうか。」
その返答にはギコ教授はゆっくりと首を数回往復させて呟く。
「フーンは教育長も買っておられる。運動神経は唯一モララーを凌ぐ存在だろうからなぁ。
 何より躊躇というものが微塵も感じられないのがいい。それじゃあ女子は誰かいないかー」
ギコ教授の言葉に、ギコ子とは別のパソコンを覗いていた女兵士が口を開く。
ギコ子同様にモナーをモチーフにした特徴的なヘルメットを被ったモナ子(専守防衛軍兵士)だ。
「はい、私は花瓶(女子7番)とつー(女子11番)を推します!」
「良い目をしてるなーモナ子、あの二人は運動神経も良いしなー。やる気になれば充分優勝を狙えるだろうな。」
ギコ教授は再び机のほうを向き、書類を手に取ってペンで何かを書き始めた。その書類には各生徒の詳細なデータとオッズ(倍率)が書き記されている。
生徒達のほとんどは、このプログラムが政府の連中の中で賭けの対象にされているとは夢にも思っていないだろう。
すでに退場した生徒の名前の脇に赤い×印が記された名簿を見つめた。

【残り36人】

57 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/26(土) 01:45:40 ID:R2ECKYAp
ようやく迎えた1日目の夜明け。
先程流れた定時放送は彼女に絶望を与えた。
聞き間違えなどでは無かった。
死亡者発表の時、【女子17番】モニカの名前は間違いなく呼ばれていた。

「何で…何で死んじゃったのよ……。」
彼女は涙声でそう呟く。
嘘だと思いたかった。いや、思った。
しかしモニカが死んだという現実は変えられない。
【女子19番】モラリはH-3の森の中でぺたりとその場に座り込み、そして小さく声を上げて泣き出した。
モニカはモラリの唯一の親友であり、良い相談相手でもあった。彼女は行動する時、いつもモニカと一緒だった。
二人で遠くまで遊びに行ったり、同じ部活で頑張ったり、ちょっと悪い事では、万引きなども一緒にやったことがある。
隣のクラスに好きな男の子がいて、その事を話したら、熱心にアドバイスしてくれた事もあったっけ。
毎日がとても楽しかった。
でも、その日々はもう二度と戻らない。
涙は枯れる事を知らず、目の奥から滝のように流れ出て来る。モラリは更に泣き続けた。
背後から誰かが近付いて来る気配にも気づかずに。

ゴッ!

突然、後頭部に衝撃が走ったかと思うと、酷い痛みが押し寄せてくる。
顔を苦悶に歪め、たまらずぎゃあと悲鳴を上げた。
前に右肘をついて左手で後頭部を押さえた、と同時に何かぬるっとした生暖かい物が左手指に触れる。
これは…血?
殴られた? 直感的にそう思った。
誰だ、私の頭を殴ったのは誰だ!!
後ろを振り向いた時には、もう遅かった。

「うがっ!!」
振り向いた瞬間、今度は前髪の生え際あたりを何かで思い切り殴られた。何かが砕けるような音がモラリの耳に響く。
モラリは仰向けにどさっと倒れ、呻き声を上げながら両手で頭を押さえた。
強烈な痛みで抵抗することすらできない。
人影はモラリの体に馬乗りになると、同じ所に更にもう一撃喰らわした。
モラリの額の上にゴルフボール大のクレーターが出来上がり、彼女の意識は途絶えた。
人影は手を休める事無く、4発、5発目と打撃を喰らわす。
殴る度に血がプシャっと音を立てて霧雨のように噴出し、彼の顔と制服に赤い点々を作っていく。
更に打撃を与える内に、モラリの割れた頭部から何かにゅるっとした気持ちの悪い物が露になった。
それでも彼は延々とモラリの頭を殴り続けた。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も………

58 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/26(土) 01:46:20 ID:R2ECKYAp
「はぁ…はぁ……。」
【男子16番】ヒッキーが肩で息をしながら、やってやったというような表情でモラリの体を暫くの間見下していた。
右手に、モラリの血を浴びて真っ赤に染まった少し大きめの金槌を握りながら。
彼女の頭部は血溜まりの中で原型を留めておらず、目から上は粉々に破壊され、そこら中に頭蓋骨と脳の破片が散らばっている。

「いやあああああああああああ!!」
突如、後方から女子のものだろう、悲鳴が響く。
ヒッキーがゆっくりと振り返り見たものは、尻餅をついて酷く怯えた表情でこちらを見つめる【女子14番】ニラ茶娘の姿だった。
返り血をたっぷり浴びたヒッキーの顔を見て、彼女はさぞかし恐怖しただろう。
「ひ、人殺しぃぃ!!」
ニラ茶娘はヒッキーに向かってそう叫ぶと、すぐにデイバックを持ってその場を走り去ってしまった。

遠ざかって行く彼女の背中を見つめながら、ヒッキーは思った。

僕は人殺しだ。

人を殺した。
それも、無抵抗の女の子を。
何故殺した?
生き残りたいから? 人を殺してみたかったから? 武器や食料が欲しかったから? それとも、ただ何となく?
自分にも分からなかった。
勝手に体が動いた、というべきか。
足元には頭の上半分がぐちゃぐちゃに壊れた、かつてモラリだった物。
僕が、殺した。僕が、この手で。僕が、僕が、あ、ああ、あああああ!!!
とてつもない罪悪感が込み上げてくる。

違う!違うんだ!!あいつらが、あいつらが殺し合いをしろって言ったから、僕はそれに従っただけだ。
だから僕は悪くない。僕は悪くない!!!

「僕は悪くないんだああああああああああああああああああああああ!!!!」
ヒッキーは目を瞑り、両手で耳を塞ぐような形で頭を押さえ、そう叫んだ。
彼はモラリのデイバックの中身を調べようともせず、彼女の死体から逃げるようにその場を走り去った。
彼の頭には『人殺し』という言葉が、何時までも引っ付いて離れなかった。

【残り35人】

59 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/26(土) 17:23:41 ID:808sBB6j
朝方、太陽が昇りはじめるは一日で最も冷たい時間帯である。陽光の当っていた時間から最も遠い時刻だからだ。
普段は漁師達が寒さに手を擦り合わせて清掃を行っている港の朝だが、今ここに人の気配は窺えない。
正確には気配が殺されているのだけれど。椅子には一人の女子生徒が行儀悪く腰掛けている。
二重瞼の下に形の良い目を宿し、瑞々しい輝きを放つ瞳を宿したその女子生徒は、重い足取りで窓のほうへと歩いていく。
「大丈夫? 落ち着いた?」
彼女――ねここ(女子8番)の目は、『心配』一色で彩られていた。ねここの前に呆然と立ち尽くす男子生徒の目には悲壮の色で満たされていた。
先ほどの放送によると、既に5人もの生徒が涅槃へと赴いていた。その中にはねここの親友であるしぃ(女子8番)も含まれていた。
否応にも殺戮ゲーム大好評開催中の事実がねここの鼓膜を通じて突きつけられた。
「だめだ… 俺はもう…。」
背後の声にギコ(男子4番)は振り返り、枯れた声で呟いた。約1時間前、合流した際からギコはしばらく泣きっぱなしだった。
ギコはねここがマニーによって惨殺されようとしている際、彼は二丁の火器を携えてねここを救った。
「ギコ君… 」
沈んだ声を冷たいフロアに落とし、嘆息する。ギコはねここに対し、出発後の行動の全てを打ち明けた。
しぃと出会ったこと、モニカ(女子17番)に襲われた事、そして――しぃを射殺した事。
「しぃちゃんの事は状況が状況だし、しかたなかったよ…」
ねここがギコの脇へと歩いてきた。並んで立つとちょっと良いツーショットに見えなくもない。
「俺はなぁ… 俺は親友を殺しちまったんだよぉ!! しかたねぇだなんて軽々しく言うんじゃねぇよ!!!」
ギコはねここの胸倉をつかみ、何度か揺すりながら怒号を浴びせるとねここを投げ飛ばした。
血が上り易い性格でギコが損している姿を幾度となく見てきたねここは、ギコを絶望の淵から助けてあげたかった。
もっとも、ねここがギコに惹かれるのは、自分としては憧れとも言えるそういった心の強い部分なのだろうけれど。
このお節介さが自分の短所なのかもしれない、思った事は数知れず。けれどその癖も生まれ持っての人の良さも修正できぬままここまできた。
「ギコ君は、ちょっと、少し、極端過ぎるんだよ…」
ねここが立ち上がりながら、ギコの背中越しにそう言った。
ちょっと、少し。程度の表現を言い直した辺りに、ねここがぎこの神経を逆撫でせぬよう配慮した感じが窺えた。
「ごめん、ねここ。だけど、俺は… 取り返しのつかないことを… 」
「もういい… もういいんだよ…」
朝陽を受け、ギコの悲哀の表情が見えた。
「しぃの敵を… 討ってくれ。」


【残り35人】

60 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/26(土) 17:27:19 ID:808sBB6j
「……え?」
余程混乱しているのだろう、ねここは繰り返し戸惑いの声を発するだけだ。
本当ならば『殺して欲しい』と言いたかったけれど、ギコはそれができるねここでない事は重々承知していた。
自分の弱さを知るギコには、すぐ未来に迫る何もかもが怖かった。プレッシャーに破れ、混乱し、政府に従って無闇に殺生する事。
壊れた自分の中の友情を引き摺りながら生還する事。何よりこれ以上親友が死んだならば、後で死に場所を無くしてしまうのが怖かった。
「俺が俺でなくなる前に片付けてくれ… ねここは今も前を向いてるだろうけど、俺ははもう歩けない。先を見るのが怖いんだ…」
口にしてから、切ない吐息が零れた。身勝手な願いである事は指摘されずともわかっていた。
辛い選択を迫るけれど、それがギコの切なる願いだった。
やがて発言の解釈から逡巡へと思考が切り替わったのだろう、ねここが俯いて沈痛な面持ちで涙を流し始めた。
その姿を矯めつ眇めつギコは唇を噛む。情けない話だけれど、自分が自分でなくなる前に。
「……だめだよ」
ねここが重い口調で呟いた。その様子を見たギコは腰に差しているコルト・ハイウェイパトロールマンを抜き出す。
ねここの体が震えているのが見えた。ギコはねここの心を読もうとせずに無言で銃のグリップ部分を押し付ける。
それからすぐに男性の呻き声が響く。ねここに飛び掛られて銃を奪い取られたギコはフロアの壁に崩れ落ちる。
ギコはその時を待った。ねここが自分の生涯にピリオドを打ってくれる、その時を。

 ――早く殺してくれ、ねここ。

「どうして…?どうしてギコ君は私の気持ちをわかってくれないの…?」
その言葉が耳に届いた瞬間瞬間、自分はとんでもない事を強要しているのだと感じた。理解してはいたつもりだったが、改めてその身勝手さを思い知った。
自分は己のやりたい事だけ行い、一人綺麗なままで地獄から顔を背けて逃げようとしている。
それも、心優しいねここを利用して。今更ながら最低の行為に思えた。
「さぁ、立って?ね?」
腰を屈め、穏やかな声でねここが訊いてきた。今まで銃が握られていた右手がすうっと静かにギコへと伸ばされる。
また胸が痛む。ギコは首を振るとその手を拒否し、ねここの脇に置かれたコルトを掴む。再びねここが困惑の表情を浮かべる。
ギコはコルトの銃口を自らの胸へと突き付けた。何故この方法を早く選ばなかったのか。迷惑をかける必要などなかった。
今度こそ自分の最後の選択を見出した確信を持つ。
「駄目ぇっ!」
ねここが甲高い声で叫ぶ。現状況への焦りからだろう、彼女の頬を数滴の涙が伝っていた。

今度こそ限界だった。一刻も早く、全てを――


61 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/26(土) 17:35:41 ID:808sBB6j
「ふーん、お熱いことで。」
双眸を瞑り視界を終了させた刹那、ねここ以外の何者かの声とともに駆動音が激しい唸りを上げて室内にその猛りを響き渡らせた。
驚きと共に今一度視界を復活させたギコの目に、とんでもない光景が広がっていた。
目の前に立つねここの背後からチェーンソーの刃のような物が出現しており、更にそれがねここの腹部の半分まで食い込んでいる。
ねここの黒目は背後を見ようとギコから見て左に動いていたが、すぐにその焦点を失う。
今ははっきりとチェーンソーの刃と確認できるそれは、激しく回転をしながら横一文字にねここの腹部を通過していった。
ねここの胴体が広く凶暴的な刃の上を滑り、斜めに落下してからギコの足元へと転がる。
鮮血が飛沫となって激しくねここの上半身を失った腹部から飛び散り、投げ出していたギコの足をおぞましい色へと変えた。
ギコは息を呑む。突如出現したチェーンソーの刃、自殺を試みた自分よりも先に失われたねここの命。
パニックになりかけたがねここの体の背後、失われた上半身の向こうに立つフーン(男子17番)の姿を確認して全てを理解した。
ねここの下半身がバランスを失い倒れる。学生服と肌、そしてチェーンソーを血で染めたフーンの目が、ねここの亡骸からギコへと動いた。
冷たく鋭い瞳は、ギコに未曾有の危機感を与えた。反射的にコルトを掴み、体を跳ね上げた。
フーンが接近を試みかけ、距離から断念したのか背後へと駆け出す。
一方、コルトの残弾を一、ニ発と記憶していたギコもすぐには撃ち出せず、再び建物奥の大型冷蔵庫へと身を隠す。
喪失感と痛恨の念が全身を浸す中、ギコは最大限の闘志を振り絞る。
生き残るつもりはないが、ねここを殺害したフーンの手にかかるのだけは御免だった。仇討ち、新たな最後の一仕事を前に気持ちが昂る。
『しぃの敵討ち』はフーンを殺した後で充分間に合う。ねここをフーンは殺害したのだ。
何の感慨も抱かぬ冷淡な目で、しかも不意打ちという卑怯この上ない手段で。

 ――許さねぇぞ、フーン! その汚ねぇ首をねここに供えてやる! 

先に動いたのはフーンだった。連なった水槽の裏側を駆ける音が響き、誘われるままギコは飛び出す。
反対方向から出現したところを撃ち抜き、額に風穴を空けてやる。血走った感情のままギコはコルトの狙いを水槽の列の終点へと定めた。
しかし予想外の展開が待ち受けていた。大型冷蔵庫を挟んだ向こう側から物音がするや否や、フーンが頭上から大型冷蔵庫を飛び越えてきた。
「死にたいんだろ? だったらオレはお前の願いを叶えてやるよ。」
恐るべき跳躍力である。その手には先のチェーンソーではなくイングラムM10――ギコが持ってきたものだ――が握られている。
間髪入れずイングラムの銃口から炎が噴き上がり、ギコの全身に強烈な衝撃が走った。
銃弾は防弾チョッキに覆われていない首を見事に捉えたようで、夥しい量の血が溢れ出している。
ギコは構えたコルトの銃口を床に落としたが、グリップは辛うじて右手に握り続けている。
フーンは手を緩めず、着地と共にイングラムを構え直している。ギコは無我夢中で腕を振り上げ、フーンのいる方向へとコルトを向けた。
射撃体勢を解除したフーンがフォークリフトのほうへと跳躍し、炎を纏った弾が遅れて空間をぶち抜いた。

62 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/26(土) 17:39:00 ID:808sBB6j
左腕と首筋に心臓が付いたように、激しい脈動が伝わってくる。ギコは逡巡した。刺し違えるべきか、それとも――
結論を待たず本能がギコを突き動かした。今度は自身がフォークリフトの列の裏へと駆ける。
背後で駆け足が聞こえた。フーンの俊足は理解している。これがギコのラストランとなるかもしれない。負けられない競争だ。
跳躍しながら、フーンのほうへと体を捻り銃弾を発射した。ギコはそのまま階段へと飛び、転がるように階段を落ちていった。
全身に次々と鈍い痛みが走り、視界は目まぐるしく回転する。それでも決してコルトは離さず、身を丸めて痛みに抗う。
ギコの体はすぐに埠頭へと到着した。体を起こすと同時に首脇を鋭い痛みが突き刺す。今の衝撃で鎖骨まで負傷したようだ。
しかしもう止まる事は許されない。階段へ駆けながら懸命に銃弾を一発詰め込み、クルーザーを背にしてもう一度だけ引き金を絞る。
フーンを足止めする為の威嚇だ。この細い道ではさすがのフーンも迂闊に追えないだろう。まだここでは終われない。
足元がふらついてクルーザーのボディへと体を打ちつけた。全身の痛みが一気に跳ね上がり、強く噛んだ唇から血が零れる。
崩れ落ちそうになった体を、クルーザー繋いでいる鎖を掴んでどうにか堪える。
弾かれるように渾身のダッシュを行い、その勢いで港の建物から飛び出した。
余力は僅かだった。残された力の全てを両足へと込め、文字通り必死に木々の緑へと走る。
ギコの執念に敬意を表したのか、もはや戦う力も無いだろうと確信したのか、それとも単に断念せざるを得なかったのか。
フーンの追撃の気配はなかった。

「ふーん、案の定手応えのねぇ野郎だったな。」
フーンは主に置き去りにされたギコのディパックを漁り、イングラムM10のマガジンをすべて取り出し、自分のバッグへ移した。
そして投げ出されたチェーンソーを拾い上げるとと、その場を後にした。

ねここ(女子15番)
フーンにより斬殺

【一名退場・残り34人】


63 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/27(日) 10:30:58 ID:UC/5C2yL
訂正:ギコはコルトの銃口を自らの胸へと突き付けた。→ ギコはコルトの銃口を自らの額へと突き付けた。

64 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/27(日) 23:19:57 ID:3UFjgTEM
朝日を背に、フーンは血に濡れたチェーンソーとイングラムM10を持ち、畑道を歩いていた。
ほどなくフーンは背後に生徒の気配を感じ、ゆっくりと振り向いた。

「やぁ、おはよう!」

その生徒は、フーンと目を合わせると同時に陽気に声をかけてくる。
「・・・・・お前は」
フーンはその人物をすぐに認識した。その生徒はクラスではよく目立つ生徒だったから、嫌でもその存在は視認せざるを得ない。
この殺し合いゲームにひどく場違いな爽やかな笑顔をフーンに向けるその男子生徒は、フーンと出席番号が隣り合う【男子18番】マニーだった。
「朝日がまぶしいねえフーンくん。その血に濡れたチェーンソー・・・・・・やだぁ。人殺したの?」
そのマニーの言葉はひどく冗談めいている。『人殺し』を目撃したものの態度とは思えない。
フーンは一度マニーの態度の異様さに眉をしかめたが、すぐに表情を無くしイングラムをマニーに向けて構えた。
黒い銃口が、ピッタリとマニーの童顔に合わせられる。
「あは、やる気だぁ。」
語調も表情も暢気そのもの。銃口を突きつけられた人間の台詞ではない。
どうやらまだこの殺し合いゲームに自覚を持っていないみたいだ。自分が殺されないとでも思っているのか?
「その引き金・・・・・・引けるの?ボクを殺せるつもりなの?」
まだ自分の危険に気がついていないらしい。この男はとんだ甘ちゃんだ・・・・・・
フーンは心中哀れみのため息をついた。
「お前は幸せ者だなっ」
フーンは低いトーンでそう一度呟き、マニーの顔に照準を合わせたまま躊躇うことなく引き金を引いた。
タイプライターを弾くような音が響き、同時にイングラムの銃口から炎が噴き上がる。フーンは冷徹な表情を崩さないまま、マニーの死を見届けた。
・・・・・・はずだった。

しかし、銃弾が噴き上がったその時には、既に銃口の先にマニーはいなかったのだ。
「!?」
フーンの余裕が一転して動揺に切り替わり、それから間もなくマニーと自分の距離が異様に縮んでいる事に気がついた。
マニーはフーンが引き金を引く瞬間、凄まじい踏み込みで一瞬にしてフーンとの間合いを詰めたのだ。
マニーはいまフーンの右前方すぐに屈んでいる。再び踏み込み今度はフーンの懐へと入るつもりだ。
フーンは腰を捻り、まだ弾を放出しているままのイングラムの銃口をマニーへ向ける。
しかし、フーンの懐が支配される方がそれよりも先の出来事だった。
「銃撃つのに少し躊躇ってるようじゃまだまだだ。」
マニーの甘ったるい声が響いたと思うと、フーンは激しい衝撃を腹部に感じ取った。
意外なほどの衝撃の強さと、いまだ弾を放出し続けているイングラムの反動があってか、フーンは身をくの字に折ると同時にイングラムをその手から取り落としてしまった。
「ぐはっ!」
呻き声が喉を突き破り外に出てくる。喧嘩という修羅場を何度も経験し潜り抜けてきた彼にも、これほどの声を上げてしまったのは恐らく初めての体験であろう。
つい少し前、いや、その存在を視認した瞬間から『甘ちゃんのボンボン』というレッテル貼りをしていたマニーからこれほどのダメージを受けるのは、
フーンにとっては完全に想定外の事であり、その脳内は混乱にぐちゃぐちゃに掻きまわされていた。

「あは、機関銃ゲッチュ〜〜♪」

マニーは素早くフーンと距離をとると、イングラムを手に高々と手を挙げ、踊るようにして喜びを表現しだした。
「このクソガキが・・・・・・」
フーンはドスの効いた声でそう脅したはずだが、苦しさのせいかほぼ呻き声と変わらないような声になってしまう。
マニーはそれを聞き、また高く笑い出した。

65 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/27(日) 23:20:32 ID:3UFjgTEM
「あはぁ〜〜、不良ごときがよくやるよ!!今まで銃器も触った事のないようなボンボンがさ!」

「はぁ・・・・・・?」
ボンボンという言葉がフーンの脳味噌を突き刺す。まさかコイツからその言葉を突きかけられようとは。
フーンの表情が、困惑から徐々に怒りに塗り替えられていく。
「冷徹ぶっちゃってさぁ。非情ぶっちゃってさぁ。昨日までは中学校通ってガキのおままごとやってたような坊主がよくやるよ。
 身の程を知れってのはまさにこの事さね。ましてや反抗するしか能のないウジ虫ごときがこんな・・・・・・クスクスクス」
マニーはそう言い終えてから、思い出したようにイングラムをこちらに構え、勝ち誇ったように含み笑いを浮かべた。
マニーの発言は、同じ中学生の発言とは思えない。
まるで大人、いや、それも資産家等の限られた大人が口にするような言葉を彼は軽々と口にする。
いくら資産家とはいえ、14年程度しか生きていない子供がこのようなことを口に出来るものなのか?
フーンの中で、『お坊ちゃん』のイメージがどんどん目の前の男に侵食されていく。
この子供は、通常ではない家庭に生まれ、どれだけ自分達とは違う事をこなしてきたのか?
「ふーん・・・・・・見くびってたよマニー。てめえは中々手ごたえがありそうだ」
フーンはあくまで冷静な表情のまま、挑発するように言った。
マニーは、その口ぶりに少しだけ彼の強情さを読み取る。
「おやおや、まだ勝算がおありかい?言っとくけどね、ボクは結構銃撃の経験深いよ。
 いつだかアメリカにホームステイに行った時に勉強したんだ・・・・・
 飲み込みが早いって、先生に褒められたよ。アメリカから帰る頃には、プロも唸らせるくらいの技術までは手にしてたよ!」
またもひどく場違いな自慢話を声高らかに語るマニーに、フーンは益々怒りを覚える。
しかし、フーンはあくまで冷静な表情とふてぶてしい態度だけは崩さないように心がけた。精神面の隙だけは見せてはならない。
マニーはそのフーンの態度を見て少し不快そうに目を傾かせ、そして更にフーンの強がりを抉ろうと言葉責めを仕掛けた。
「ボクにとってはこんなプログラムなんて遊びさ。余興、余興。退屈しのぎのごっこ遊びだ。
 それなのに君達は、君は、なんて必死なんだい。生き残ろうと、這い上がろうと、精子みたいにさ。ええ?」
マニーはイングラムを持たない方の手を高く挙げながら、吐き気がするほどに芝居がかった口調で語り続ける。
「きみサ、あっちの館の女の子殺したでしょ。後ろからズバーッ!ってその電動のこぎりで。
 せっかく盛り上がってたのに!キミのせいで台無しだったよ!」
マニーは意外なことを口に出す。フーンは先ほど手にかけた女子生徒【女子15番】ねここの事を思い出した。
ねここと【男子4番】ギコは、擦りよって何か叫び合っていた。フーンは目撃したと同時にくだらないと切りかかった。
あの二人の様子とフーンがそれに襲い掛かるまでを、このマニーは誰も気付かぬどこかで、おそらくドラマでも視聴している気分で楽しんでいたのだろう。
フーンは悟る。確かに、この男は余裕だ。自分よりも、誰よりも。
「まったく、どーせアンタみたいな不良、生きて帰ってもどーってこと無いだろォ?
 要するに自衛本能だけは超一流なわけサ。痛いのが嫌いだから、殺すんだろ。痛いのが嫌いだから、はやく優勝して帰りたいんだろ。
 死ぬのが嫌だとか優勝して帰らなきゃいけないだとかなんて、つまる所は痛いのを避けたいだけの言い変えでしかないじゃんかよ。
 キミみたいなクズがさ、ええ?必死にもがいちゃうからボクの楽しみがドンドン失われていくんだ。まったく、頼むよ!」
言い終えてから、マニーは半笑いのまま視線をフーンに刺した。
さぁ、どう反応するんだ。どう受け答えるんだ。というマニーの心の声が、ハッキリと聞こえてくる。
フーンは一度浅くため息をつき、冷静な表情と口調だけは一切崩さずに言った。
「・・・・・・二つ。お前は重大な勘違いしている」
「は?」
相変わらず余裕めいているフーンに、マニーは今度ははっきり難色を示した。
マニーは口を開きなにか喋りかけたが、フーンの発言がそれを上塗りする。
「一つ。俺は、・・・・・俺は、ハッキリとした『生還しなければならない理由』を持っている」
「え?」
「そして二つ目!」
笑いかけるマニーを圧伏するように、声を張り上げ言葉を遮るフーン。
気圧されたように黙るマニーを、フーンはその切れ長の眼でまっすぐ見据えながら、吐き捨てるように言った。

「そのマシンガンはおそらく・・・もう弾切れだっ」

「えっ?」

66 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/27(日) 23:24:12 ID:3UFjgTEM
鼓動が波打つ音、地面が擦れ砂が弾ける音、空間を切り裂く駆動音、虚しい弾切れの音。
全てが同時だった。
それからほぼ一瞬の間もなく、フーンの持つチェーンソーが横薙ぎにマニーに襲い掛かった。

「うひゃあ!マジマジィ!?」
胴体を狙い薙ぎ払われた筈のチェーンソーの一撃を、マニーは一度の跳躍で避けた。
フーンには流石に劣るが、中々の跳躍力だ。
着地してから間髪いれずマニーは距離をとろうとバックステップを踏んだが、フーンの追撃を外すには十分とは言えない距離だった。
今度はマニーの首付近を目掛け、凶刃は再び横薙ぎに振り払われる。
マニーは一瞬の判断で膝を折り、身を屈めた。再び刃は空を切る。
振り終わらぬまま、フーンは舌打ちし屈むマニーを睨み付けた。
マニーと眼が合う。そして次の瞬間、フーンはマニーの眼が大きく開かれるのを目撃し、
更に次の瞬間、緊張し身を凍らせるのには十分すぎるほどの物体をマニーの手元に見たのだ。
「あはっ!」
マニーは興奮し裏返った声を発しながら、ポケットからある物を取り出しフーンの目先に突きつけた。
黒光りする物体を、フーンは考える間もなく理解し、そして本能は顔を強張らせ体を固まらせた。

パン!

乾いた発砲音が響く。フーンは反射的に目を瞑った。
・・・・・・痛みが来ないのを不思議に感じたときには、もう遅かった。

「エアガンだよ、まぬけめ!」

「くっ!!」
フーンは頬骨に硬い衝撃を感じた。一瞬だけ意識が飛び、気がつけばフーンは地面に突っ伏していた。
断続的にモザイクがかかったようになるフーンの視界には、イングラムを振り上げるマニーの姿があった。
鉄の塊であり本質的には鈍器と変わりないイングラムをぶつけられれば致命的であろうコトをフーンは一瞬にして理解し、そして逡巡することなく体を動かした。
土の上を転がるようにして、フーンはマニーの一撃を避けた。
イングラムの銃口が乾いた土に突き刺さり、少量の砂しぶきが起こる。
マニーにもう一撃を繰り出される前に、フーンは素早く立ち上がりチェーンソーを構え直した。
「ふーん・・・・・・狐め、まさかエアガンだとはな」
言いながら、フーンは自分が息切れを起こしている事に気がついた。
「エアガンじゃなかったら死んでるんだってコトをちゃんと理解して欲しいな。ま、とにかくキミの運の勝ちって奴さ!悔しいな!」
また高笑いを上げながら、マニーは肩にかけられているディパックにエアガンをしまい込み、代わりに何か取り出した。
おじぎする刃とそこに付く錆色の血の跡が、その武器が鎌である事と、既に誰かの肉に食い込んだであろうコトを表現している。
「さぁ、二刀流だゾ〜?ご自慢の運動神経をもっと見せてくれよフーンくん!」
これから殺し合いを始めるとは思えないほどの笑顔を、マニーはフーンに向けている。
その笑顔の裏に隠されるドス黒い、いや、ある意味では純粋な無色透明の『殺気』が、たまらなく不気味なのだ。
フーンは逡巡した。戦うべきか、それとも――

フーンの決断は、その体をマニーのいる方向とは逆に走らせた。

「わっ、逃げるのか!?」
てっきり襲い掛かってくると考えていたマニーは面食らい、追う足を踏むのを遅らせた。
その間は、俊足のフーンをマニーに追わせない場所まで連れて行くのに十分すぎるほどの間だった。    
マニーはしばらく、フーンが駆け出し消えていった木々の間を睨みつけていたが、すぐに諦めたように視線を外し、手を広げながら高笑いしだした。
「・・・・・・あは、懸命な判断だ!」
マニーは、無意識ながらまたフーンと対峙するであろう事をその時感じていた。
無論その時は、お互いに銃器を持って・・・・・・
マニーは弾のないイングラムと鎌をディパックに仕舞い込み、クスクスと不気味な含み笑いを浮かべながらまたどこかへ歩き出した。


【残り34人】

67 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/28(月) 07:32:22 ID:DG5ZzZbb
いつしか風は凪へとその機嫌を直していた。日は随分と水平線との距離を広げており、にわかに空の青が薄み始める。
北西部で緩やかなカーブを描く川沿いの途中では、物騒な着弾跡と血の香りが漂っていた。
それだけでも学友達の戦いの傷跡が窺えるのだが、少し離れた場所では女子生徒の無残な亡骸までが放置されている。二体。
にも関わらず、その場所で悠然と寛ぐ少女の姿があった。
悠然と河川敷に腰掛け、手元の淡い光に向けて夢中で指を動かす少女。
「みるみるまらー♪ ふ、ふふ、余裕余裕。」
その少女――みるまら(女子16番)は、鼻歌混じりに生還への自信の程を口にしていた。
みるまらの手には最新型の携帯電話が握られている。手馴れた手付きで指を滑らせると、たちまち液晶画面には文字が埋まっていった。
ある程度文字を書き連ねたところで通話終了ボタンを押した。”メモを保存しますか”の表示を見るまでもなく、”はい”を意味する丸ボタンを押す。
画面が切り替わり、みるまら自身の姿が表示されたところで携帯電話を折り畳んだ。
それを懐へと入れながら死臭の源であるしぃ(女子8番)のなれの果てを眺めた。”自分は決してこうならない”と念じ直した。

 ――メッキの剥がれた紛い物は、正視に耐えるわ。

死ねばそれまで。その後は処理業者によって仲良く処理され、まとめて焼却葬にでもされるのだろう。多少不憫に思ったが、それが結果だ。
しぃだけではない。今までに死亡した生徒もその他大勢として処理される。輝き続けられるのは生還者だけだ。
河川敷に腰掛けたまま体を反らし、伸びを行った。
「結果には必ず必然が付いて回るんだよ。しぃちゃん?」
返答するはずもない亡骸へと声を掛けた。それからコルト・ガバメントを掴み立ち上がる。
腕時計へと目を落として嘆息する。

 ――ま、慌てなくても他が減らし合えば楽なんだけどね。

ただ、みるまらとしては幾分不満があった。頼れる相棒を得た以上は少しでも好成績を残して生還を成し遂げたかった。
それは後々、みるまらのステータスとなるであろうから。
みるまらは生来目立ちたがり屋だった。誰かの影でいる事はストレスとなり、みるまらを悶々とさせた。
その中で、常に光の当たる場所に立つ術を次々と見出していった。それはみるまらが満足な日常を送る為の”必然”だったと言える。
放送部への在籍も自らの声と存在を校内で誇示できるからという目的であり、昼休みなどは惣菜パン片手にワンマン放送をしていた。
部長の特権。選曲センスは悪くないので、今や昼の音楽放送と言えば校内で知らぬ者はいない。
生徒達からリクエストを受ける度、みるまらは誇らしい気持ちと共にこう思っていた。
『楽しい昼食も私あってのもの。皆様、オーケイ?』
一方、夜は『アウトロー同盟』と呼ばれる暴走族の一員へと早替わりする。
それはみるまらが一番上に立っている事ができない事ではあるが、それでも充実していた。人殺しのレッテルなどてんで気にならない。
帰りを待つ仲間達の為に必死に死線を越えて来た仲間を歓迎しない者など、それは仲間ではないと思った。
プログラム優勝はあくまでステータスである。現にこの国では”栄光ある偉業”として認められているのだ。
生還する必然をより多く持った自分こそ、生き残るに相応しい。それがみるまらの戦う目的であり、意志を繋ぐ生命線でもあった。
生還という結果をもって自身の価値を改めて証明する。その覚悟の前では大切な感覚を麻痺させる事すら厭わなかった。

68 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/28(月) 07:35:14 ID:DG5ZzZbb
瞬間、ふと覚えた心のざわめきがみるまらに南方の茂みを凝視させた。その隙間に制服姿の人影が見えた。
見えた時には流麗な動きで銃を構えていた。
「みるみるみるまら〜♪ 暇してるなら遊びましょ!」
まずは牽制がてら軽く引き金を引いた。銃声と共に火花が散り、小粒の凶器が木の枝を叩き折った。
身を引いた人影はどうやらゲララー(男子5番)のようだ。気の毒だが消えてもらおう、そう考えた。
格付け的には安全パイに位置する彼を前にして、自然と顔が綻ぶ。勝利への確信を抱くや否や、体をリラックスさせた。
「いい物持ってるでしょ? 私との遊びは天にも昇る楽しさよん。 略して昇天、なんちゃってね〜」
「ギャッハハハハハハ! 俺、みるまらちゃんとつり合わないしよぉ。一般市民層は帰ってもいいかなぁ〜?」
「つれない事言わないのっ」
語尾に銃声を被せ、更に射撃を行った。ゲララーが隠れた木の幹を銃弾で削っていく。妙な高揚感が、みるまらの口を更に滑らかにさせた。
「みるまらちゃんはファンとの間に壁を作りたくないの。ほら、出てきて、きてきて」
「ギャッハハハハハハ! はぁ、面倒臭ぇなぁ…」
心底億劫そうな声が耳に届いた。眉を寄せた矢先、ゲララーの足音が遠ざかり始める。どうやら逃走を図ったらしい。
「キ〜!超むかつく!」
みるまらはコルトガバメントを乱射しながらゲララーの消えた茂みの先へと身を突っ込ませた。
しかし、ゲララーは地形を利用して巧みに銃弾を避け続ける。林の中に、制服の背中が見えた。 
狙いを付けるべく両手で拳銃を携えた時、まさかの銃声が木々に囲まれた空間で轟いた。擬音化するならばダン、ダン、ダン、三連発の銃声。
「ひっ」
耳元で甲高い金属音が鳴り、みるまらは思わず情けない声を上げる。力の抜けた腰を落とし、不覚にもへたり込んだ。
ゲララーの背中は既に視界から消えてしまっていた。どうやらゲララーの銃撃がピアスを撃ち抜いたらしい。
鋭い痛みに左耳を触ると、戻した手には血が付着していた。顔面を蒼白にして、体を震わせ始める。
危うく油断で命を落とすところだった。これはみるまらが今回初めて抱いた、危機感らしい危機感かもしれなかった。
「あんの……半端ヤンキー……!」
遅れてやってきた怒りは烈火のようだった。鎮火するにはゲララーを屠るしかなさそうだ。昂る感情がみるまらの体を更に震わせる。
みるまらの背に宿った不可視の翼は禍々しく、どこまでも黒い。それは人を永遠の闇へと誘う、悪魔の物にも見えた。

【残り34人】

69 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/28(月) 21:22:25 ID:DG5ZzZbb
公園内の海岸(G−3)では、緩斜面に心地よい秋風が吹き付けていた。根を張る草木がさわさわと、波を打ちながら虚空の海を泳いでいる。
その片隅、岩の一つに身を隠して震えている女子生徒の姿があった。
「ここももうすぐ荒地みたいになるんだ……。ルルカの家と一緒、あそこと一緒、もう嫌ぁ……!」
女子生徒は神に祈るように両手を組んでいたが、別に神を信仰しているわけではなかった。
”神も仏もない”。彼女――ルルカ(女子21番)――の過去を顧みれば、そう思うのも無理がなかったかもしれない。
ルルカの両親は結婚を期に“あの場所”へと移り住み、愛娘のルルカはそこで産声を上げた。
その生まれ故郷を奪ったのは、他ならぬプログラムだった。ある日、突然家の中に専守防衛軍の兵士が数人やってきた。
「しばらくここを空けて頂きます」
その言葉で、ルルカの家族は荷造りの暇もなく強引かつ早急に家を追い出された。反発した住民の中には、有無を言わさず射殺された人もいた。
そこがプログラム会場に使用されたと知ったのは、プログラム臨時ニュースだった。
数日後、親戚の家に身を寄せていたルルカとその家族は慣れ親しんだ故郷へと帰ってきた。
帰郷したルルカの一家を待ち受けていたのは、この世の地獄だった。町中いたるところに施された真紅のペイント。立ち込める死臭。
変わり果てた町を見た母親はその場で卒倒し、その後数ヶ月パニック障害に陥った。
母親は回復するまで一人で外出する事すらできず、ルルカの生活もそれでまた随分と制限された。結局、家も引き払う事となった。
プログラムのせいで今の土地への移住を余儀なくされたルルカが、今度は移住先でプログラムに参加させられるとは度が過ぎた皮肉と言える。
なおも神の慈悲はなく、ルルカは今こうして海岸で身を縮めている。

ルルカは黙々と小声で歌を歌い続けていた。ルルカは幼少の頃より、乱れた心を落ち着ける方法として歌を始めるようになった。
これに没頭している間は、幾らか心の乱れが収まっていた。それはルルカのアイドルとしての素質を表していたのだろうか。
「……ふぅ」
それでもずっと歌いを続けている事もできず、ルルカは嘆息と共にディパック内のペットボトルを取り出す。
中の水を喉の奥へと流し込む。水を飲むと同時に歌をやめた事により再発した死の恐怖から目から涙が溢れてくる。
どんな形であろうと死にたくなんかない。ルルカは涙を拭い、鼻水をすすりながら支給品のヌンチャクを手に取った。
やり場のない怒りからそれを投げ飛ばそうと持ち上げかけ――そこで手を止めた。
斜面に配置された無数の岩の群れの中を歩く男子生徒の姿が目に入った。
まだルルカには気付いていないが、こちらのほうへと向かって歩いてくる。
「ヒッ」
ルルカは思わず掠れた叫びを出しかけて堪えた。
上半身が真っ黒で頭から煙が立ち上っている。その男子生徒は、やる気というよりも色に走りそうなウワァァン(男子2番)だった。
もう既に女子生徒が彼の餌食になったのだろうか。考えたが、それよりも今は自分の心配をすべきと思い直す。
海岸の真ん中を縦に貫く石階段を、ゆっくりとウワァァンが上がっていく。ルルカの隠れている岩の段へ、間もなく差しかかろうとしていた。
ルルカが身を隠す岩は海岸でも最も大きな物だったので、このままウワァァンが海岸の上の公園へ消えてくれれば助かりそうだった。
ルルカは身を縮め、両目を瞑ってじっとその時を待った。
ルルカにとって不幸だったのは、丁度ウワァァンがルルカの隠れている岩の近くへと差しかかった時に”その音”が鳴ってしまった事だった。
ピピッと一時間おきに鳴る腕時計のアラームが、微かな波音が聞こえるだけの海岸で響いた。
「誰かいるのか……うぉぅ、ルルカちゃんじゃないか!!」
「お、お願いですぅ、どっか行ってぇ!」
既に声は眼前で響いており、両目を開けば視界一杯にウワァァンの焼け爛れた顔が見えるのは明白だった。
ルルカは恐怖から、目を瞑ったまま両耳を手で塞いで叫ぶように懇願した。

70 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/28(月) 21:27:15 ID:DG5ZzZbb
しかし、手首に圧力が掛かったかと思うとルルカの両手は耳から放され、生温かいウワァァンの息が耳元に触れた。
「ウワアァァァン!!つれない事言わないでくれ、なっ、なっ!? 俺がちゃんと守ってやるからさっ!!」
目を開くと、興奮状態のウワァァンの顔が飛び込んできた。高潮させた耳と鼻。鼻息は荒く、目は大きく見開かれていた。
「やぁっ!」
反射的にウワァァンを蹴り飛ばす。ウワァァンは尻餅を付いたまま、舐めるようにルルカの様子を窺っていた。
口元は、これからのお楽しみを想像しているのか笑いの形を作っている。
更にルルカを恐怖させたのは、ウワァァンが右手に鋭いナイフを握っている事だった。
「いいねぇ、ルルカちゃんってこういう時は気が強いんだぁ? 屈させる快感っていうの? 最っ高……」
言い終わらぬうちに、ウワァァンが右足を振り上げてきた。右腕を蹴り飛ばされ、ルルカは苦痛で顔を歪めた。
「レッツ・プレイボーイタイム」
ウワァァンが余裕混じりでゆっくりと立ち上がり、ルルカを見下ろす。そのズボンは形容しがたいがとにかく――凄い事になっていた。 
夢中で身を翻し、ディパックも構わず駆け出した。あまりの精神的衝撃を受け、声を出そうとしても短い息が洩れるだけだった。
「ウワァァアアン!」
叫びと共に、後方からウワァァンの声が聞こえた。それから襟首を掴まれた仰向けに引き倒されるまで、あっという間の出来事だった。
ウワァァンが跳躍し、ルルカへと跨ってきた。圧し掛かられた腹部に歪な質感を覚え、急激に気分が悪化する。
ブッシュナイフが脇に放られ、空いた手がルルカの胸元へと伸びてきた。
続いてブレザーとYシャツのボタンが腕づくで引き千切らる。
ボタンが数個地面に転がり、露になった胸元から下着がのぞいた。
「うふぁふぁふぁ! ルルカちゃぁぁん、は、はやくぅ!ひ、一つになろう!!」
ウワァァンが焼け爛れた顔をルルカの胸に埋めながら叫ぶ。直視に耐えかねて首を横へ傾けると、瞳に溜まった涙が頬を直垂に伝っていった。

 ルルカの人生、こんなものなの……?

絶望と屈辱に暮れるルルカの涙越しの視界に、ウワァァンではない一つの人影が映っていた。
おぼろげながら、ナタのような武器を持っているのが窺える。膝上付近で揺れる布地から、女子生徒である事もわかった。
「る、ルルカちゃんを離して!」 
聞き覚えのある声と共に、その女子生徒はナタを一度粗放に振り上げてルルカ達のほうへと向けた。
やや色素の薄い目とボリューム感あるピンクの髪。花瓶(女子7番)が、恐ろしい剣幕ででウワァァンを眺めていた。

【残り34人】

71 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/28(月) 21:33:32 ID:DG5ZzZbb
眼前で展開されている友人の白昼強姦ショー。
花瓶(女子7番)は、ありったけの軽蔑を込めた怒りの視線をウワァァン(男子2番)を見詰めた。
ウワァァンは組み伏せていたルルカ(女子21番)から顔を上げ、挑発的な視線を送ってきた。
忙しなく体が揺れているのは、お楽しみのお預けをくらったからだろうか。
花瓶もまた直情的になって顎を軽く引き、見下すように睨み付ける。
いつも以上に下品に見えるウワァァンの焼け爛れた顔と、その背後に広がる太陽を映しこんだように煌びやかな海が対称的だな、と思った。
ウワァァンが足元に置いたブッシュナイフを掴み、緩慢な動作で立ち上がった。
「ウワアァァン!何だよお前は! 先に相手して欲しいのか、んー?」
ブッシュナイフの先端をちらつかせながらウワァァンが挑戦的に言い放つ。

 毎度毎度悪趣味な・・・。

睨みを効かせたままでウワァァンがゆっくりと距離を詰めてきた。大胆不敵と感じたが、それ以上の接近を許すつもりなど花瓶にはない。
花瓶もまたナタを、振り被った。ウワァァンの顔が強張り、眉を歪めて小癪そうな顔になる
「ウワァァアーン!!卑怯じゃねぇかよ。こんな武器の相手にそんなでかい武器でやるのか?」
ウワァァンが見せびらかすようにブッシュナイフを突き出して左右に振ってみせる。
花瓶の中で呆れと怒りが込み上げ、それは溜息となって口から零れる。
花瓶は持ち上げたナタをそのまま右肩に乗せ、ウワァァンに言い放った。
「そっちはそれで手ぶらの女の子を……!」
突然、言葉の終わりを待たずにウワァァンが飛び掛ってきた。
花瓶は砂の上にナタを突き立てるとウワァァンの一撃をかわし、カウンターの様に左の脇の下へ頭を差し込み、両の手で彼の両脇腹を掴む。
「てやぁぁぁあぁあ!!」
そのまま渾身の力を振り絞って上体を反らせ、後方へウワァァンを投げ飛ばした。
プロレスでいう所のノーザンライト・スープレックスという技だが、それはともかく。極めて無駄のない動きだった。
ウワァァンは彼女の脇を滑り、不恰好な逆立ち状態で砂を舐めた。
投げ出されたナイフが岩の一つに当たる。ウワァァンがふらつきながら立ち上がる。
「ウワァァァァアアアァアァン!!」
意識を戻すと唇の縁に付着した砂を腕で拭きながら、ウワァァンが咆哮する。
ナイフを再び掴んで振り向いたその目は、血眼と呼ぶに相応しいまでに充血していた。
我を忘れたウワァァンが、狂気に支配された顔で花瓶を見詰める。数秒の不気味な沈黙。
続いてウワァァンが闇雲にナイフを振り回しながら駆けてきた。彼の頭の中では”敗北=死”という方程式が無限に巡っている事だろう。
それでもウワァァンと同じ状況下に置かれたルルカをレイプしようなどと、認められるものではなかった。
この状況を利用して犯罪に走るなど、乗っているのと同意義だ。そこに正義はない。
躊躇する間はなく、花瓶はナタを両手で構えて振り抜いた。
大型のナタで重い為に大きい反動が予想されるので、まばらに雑草の茂る地面を強く踏み込む。
「あたしは戦う、友達を守るために!」
不意にそんな言葉が押し出された。出発時に誓った思い。そう、このプログラムでの宣誓だった。
同時に、海岸に吹いた一陣の風を切り裂いた。目の前に迫っていたウワァァンは、振り抜かれたナタを目を丸くして呆然と眺めている。
その背後で、赤いまだら模様に柄を染めたブッシュナイフが地面に落ちた。
「うわぁぁああぁぁぁああ!」
三秒の後、ようやく”その事”に気付いたウワァァンが金切り声を上げて地面を転がりだした。
手首から上を消失した右手からは、止め処なく血が流れている。左手で手首を掴んではいるが、焼け石に水のようだ。

72 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/28(月) 21:39:19 ID:DG5ZzZbb
「いゃッ」
しばらく放心状態だったルルカもそのスプラッタ色満点の光景で我に返り、小さな悲鳴を上げた。
花瓶はウワァァンに歩み寄りかけたが、一瞬早くウワァァンが体を起こして体当たりをくらわしてきた。
さすがにこれは虚を突かれた感じで、花瓶は倒れずともバランスを失って膝を着く。
「うぅっふぁっふぁっ!」
野卑な笑い声が響く。舌打ちをして振り向いた先には案の定、ルルカの胸元にナイフを突きつけて勝ち誇るウワァァンの姿があった。
「そうそう、ルルカがいたんだったなぁ? 形勢逆転っすよ花瓶た〜ん?」
痛みすら狂気で麻痺したのか、ウワァァンは歓喜しながら左手に持ったナイフでルルカの体を撫で回しだした。
右手のあった部分から流れ出す血が、拘束しているルルカの制服をみる間に染め上げていく。
ルルカはそれを見詰めたまま、ぶるぶると体を震わせていた。
「この後に及んで人質なんて、厳選された下種ね。 どうすればルルカちゃんを放してくれる?」
花瓶はナタを下ろして訊いた。答えは、概ね予想通りだった。
「まず武器を捨てろ、それから……その場で脱いで! 花瓶たぁん、パイパイ見せて下さいよ!」 
最後のほうは完全に花瓶を揶揄していた。心底憤りを覚えた。
「外道…! 冗談じゃっないっ!」
憤慨と共に、花瓶はナタを両手で構えてウワァァンへと向けた。
しかし、ウワァァンはルルカを盾にして立っており、飛び掛ればルルカが刺殺されるのは明白だった。
「来ちゃうの? 酷いよなぁルルカちゃん? 俺等に心中しろって。」
ウワァァンがルルカの耳元で愚痴愚痴と呟く。ルルカは変わらず恐怖一色の表情で花瓶とウワァァンを交互に見ていた。
「勝った気にならないでね。」
「ウワァァン!! 何やってんだよ、早く脱いでよ!」
焦れたウワァァンが叫んだ。花瓶は返答替わりにナタを左手を添えた右手で持ち上げる。
花瓶は一息吐き、ウワァァンへ向かい諭すように言った。
「これが最後のお願い。ルルカちゃんを放してどこかに……」
「ウワアアァァン! ふざけるなこいつの喉笛ぶっち切ってそれからお前の服裂いて楽しみまくってやるぅぅ!」
句読点のない口調が、止まらない狂気を表していた。ウワァァンの左手が振り上げられ、ルルカの喉を貫こうと勢いを帯びる。
「馬鹿ぁ!」
絶叫一番、花瓶はウワァァンの左腕目掛けてナタを投げつける。
ザシュッ という歯切れのいい音とともにウワァァンの左腕がナイフを握ったまま宙を舞う。
肩付近から噴き上がった赤い霧が晴れると、目を覆わんばかりの有り様が現れた。
ウワァァンの肩からはスイカの断面のように赤い肉が輪郭をなぞっていた。
「ウワァァアアアアン!! 武!! 器武器!! があ!! とれねえぇぇぇー!! なんでぇぇー!!」
ウワァァンは必死に自分の左腕からナイフをもぎ取ろうとするが、手首から上を消失した右手ではいくら掴もうと試みても掴むことなどできない。
その様子を見て、花瓶は胸が締め付けられる思いになった。
花瓶はナタを拾い上げると、一人ナイフと格闘するウワァァンを残し、放心状態のルルカの手を引いてその場を後にした。


【残り34人】

73 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/29(火) 01:57:04 ID:EK0ZwtKT
「どうすれば良いんだろう…。」

【男子10番】ッパはJ-6の小高い丘の上に腰を下ろし、水平線を見つめていた。
海は朝日を浴びて水面がきらきらと輝いており、一隻の船が浮いている。生徒がこの会場から逃げ出せないように監視している船だろう。
1時間ほど前に流れた放送では、あれから既に5人が死んでいるとのことだった。
こんな所で死にたくない。だからと言って、クラスメイトを殺すことなど自分には絶対出来ない。
脱出も考えた。しかし、どうやって?
会場の周りには高圧電流の流れる有刺鉄線。海には船が待機している。この会場に閉じ込められた訳だ。
さらに厄介なのは、皆の首に着けられているこの首輪だ。
この首輪には爆弾が内臓されているらしいし、少しでも不審な行動を取ろうものなら、首を吹っ飛ばされてしまう。
ああ、くそ。一体どうすれば……。

「おい。」

突然後ろから声をかけられて、ッパは肩をビクっと震わせた。
ッパは素早く立ち上がると後ろを振り向き、そして身構えた。
そこに立っていたのは、だらんとした垂れ目が特徴的な不良系男子生徒、【男子14番】ノーネだった。
「まあ落ち着くノーネ。俺はやる気じゃないノーネ。」
ノーネは穏やかな口調でそう言うと、肩にかけていたデイバックを地面に下ろし、両手を上げてひらひらと手を振ってみせた。
武器を持っていないというアピールだろう。ッパの強張った顔が少し緩んだ。
それを確認したのか、ノーネはッパのすぐ横まで来て、腰を下ろした。ッパも慌てて腰を下ろす。
「お前はここで何をしていたノーネ?」
「え?」
ノーネが唐突に問いかける。何て言えばいいんだろう…。
ッパが答えられずに口をもごもごさせていると、それを見かねたのかノーネが口を開いた。
「答えられないなら別に良いノーネ。それは良いとして、俺と一緒に行動する気は無いノーネ?」
「え、一緒に? 何で?」
「俺は一人で不安だったノーネ。学校を出てから誰とも会って無くて、彷徨っていたところでお前を見つけたノーネ。
 お前だって仲間が居た方が心強いと思わないノーネ?」
確かに仲間が居た方が心強い。でも、ノーネとは殆ど話をした事が無いから彼がどういう人なのか知らない。
分かっている事といえば、不良だって言われている事。あと、違うクラスのネーノっていう人とよく話していたな。彼についてはそれくらいしか知らない。
うーん、どうしよう…。

「まあ……いいよ、ノーネ君。一緒に行動しよう。」
とりあえず彼と行動を共にする事にしよう。ずっとここでマゴマゴしてても仕方が無いし、彼と一緒にいればこのゲームから脱出する方法も思い付くかもしれない。
「そう言ってくれると思ったノーネ。今から俺とお前は仲間なノーネ。」
ノーネは笑いながらッパの肩をぽんぽん、と叩いた。それに応えるようにッパも笑う。少しだけ気が楽になったように感じた。
何だ、良い人じゃないか。大丈夫、彼なら安心だ。

74 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/29(火) 01:57:47 ID:EK0ZwtKT
「ところで、お前の武器は何だったノーネ?」
あ、そういえば生徒一人一人に違う武器が支給されてるんだっけ。まだ武器は見てなかったな。
ッパはデイバックを開け、中身を確認した。彼の支給武器は猟銃に弓矢がついたような物。ボウガンだった。矢はセットされていない。
それを取り出しノーネに見せる。
「僕の支給武器はこれみたい。こんな物騒な物、いらないよね。ノーネ君の武器…は?」
ノーネの目の色が変わったような気がした。その視線はッパの持つボウガンに注がれている。
しかしノーネはすぐに視線をッパの顔に戻した。
「良い物持ってるノーネ。ちょっとそれ貸して欲しいノーネ。」
「ど、どうして?」
何か嫌な予感がする。自然とボウガンを握る手の力が強くなった。
「お前が持ってたって、多分使えないノーネ。だから俺がそれを使って俺達に襲い掛かってくる奴等を倒すノーネ。」
襲い掛かってくる奴等を倒す。それは即ち、クラスメイトを殺すこと。ッパにはそう聞こえた。
「駄目だよ! 皆を殺すなんて事は絶対に駄目だ! 何か他に解決策があるはずだよ!」
自然と声が張り上がった。今の強い口調とは対照的に、自分の目は何かを恐れている。
ノーネがこちらを睨み付ける。その目には殺気が宿っており、先程のような穏やかな表情は完全に消え去っている。
ッパはこのゲームが始まって以来、初めて身の危険を感じた。
「よこせって言ってるノーネ!!」
ノーネはそう叫ぶと、ズボンのポケットから黒いリモコンのような物を取り出した。ッパは思わず身構える。
「な、何をする気だよ!」
「素直にそれを渡せば見逃してやったのに調子に乗りやがって。もう絶対許さないノーネ!!」
途端にバチバチっと音がして、ノーネの右手に握られている機械の先から青白く光る線が現れた。スタンガンだ!
間髪容れずにノーネの右手がッパに向かって突き出される。
ッパは既の所でその一撃を右に転がりかわすと、すぐさま立ち上がり、ノーネに注意の目を向けながら後退る。ボウガンは両手に握ったままだ。
ノーネはゆっくりと立ち上がると、少し間を置いて再びッパに飛び掛った。勿論、右手にスタンガンを持って。
その時、ッパの体が本能的に動いた。
ッパはノーネが向かってくるのを見計らって、両手に持ったボウガンを横に思い切り振るった。
ボウガンは突き出したノーネの右腕に直撃し、持っていたスタンガンを弾き飛ばした。ノーネがぐぅっ、と呻く。
ッパは自分のデイバックを拾い上げると、全速力で駆け出した。

畜生、もう誰も信じないぞ。このゲームは安易に他人を信用したら負けなんだ。

ッパは自らの身をもって、このゲームの厳しさを思い知らされた。

【残り34人】

75 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/29(火) 13:03:26 ID:xrKR7YJJ
【男子20番】モララーは、岩場に腰をかけ力尽きた足を休めていた。
目線の先には、果てしない地平線が広がっている。
波が岩を削る音が止むことなく響き、それに耳を傾かせながら、モララーはひたすら地平線の奥にロマンを張り巡らせる。
無論それは余裕などではなく現実逃避の手段の一つではある事を本人も分かっていたし、
そうでもしなければ精神がどうにかなってしまう事も分かっていた。

モララーは、プログラム開始直後に【男子17番】フーンに襲われた。
フーンは、殺傷能力は十分過ぎるほどの大刃を操りモララーに容赦なく斬りかかった。
それから、どれだけギリギリの攻防を続けていただろう。モララーは思い出すだけでも生きた心地を忘れる。
その攻防の合間に銃器を持つ【女子20番】リル子にも襲われた事も思い出すとなると、なおのことだ。
ともかくモララーは二人の襲撃をどうにかパスし、自分でもハッキリとは思い出せない足取りで、ここI−2まで到達したのだ。
腰を休めている中、モララーはいま普段とほぼ何も変わらず自分の体を操れていることに、ただならぬ違和感を感じだした。
今が夢なのか、フーンらに襲撃されたのが夢なのか、どちらかが無かった事でなければ説明が付かない程に。
モララーは何よりもこのゲーム自体が夢である可能性を願いたかった。
だが、全てが現実である事も重々ではあるが承知はしていた。
そして、再びあのような状況に自分が陥ったら次はどうなるか、それが不安で仕方がなかった。

現実逃避を続けながらモララーはどれだけ経ったか分からないでいたが、
いつの間にか立ち上っていた朝日と続けて鳴り渡った定時放送が、その期間をある程度かモララーに知らせた。
しかし、その定時放送は時間以外に厄介な情報をモララーに与えた。
開始から5時間か6時間程度の時間に、既に5人ほどもクラスメイトが死んでいるというのだ。
教官の淡々とした口調にどこか非現実めいたものを感じながらも、モララーは冷静にクラスメイトの死を受け入れていく。
一つ名前が呼ばれるたびに、モララーは口には出さずとも並々ならぬ驚嘆の声を上げ、
そして一人一人に哀れみの念を示した。(しぃの名前が呼ばれた時に限っては、本人より先にギコの方に意識が流れたが。)
名を呼ばれた者たちの死を存外すんなりと受け入れられた事にモララーは少しだけ違和感を感じたが、
とりわけ親しくない者たちであったことがすんなりと死を受け入れられた原因であろう事を、モララーはすぐに理解する。
そして同時に、『特に仲の良いもの』の名前が呼ばれたときどうなってしまうか、それを考える機会がモララーに渡った。
脳内に、『仲の良かった者』の顔と名前が律儀に一人ずつ浮かんでいく。
何となくそれぞれの死の現場を予想してみるが、そのあまりのリアルさに、モララーはその思考をすぐに打ち切った。

小石を拾い上げ、朝日に向かって高く投げつける。
すぐに小石は地面の途切れ目に消えてなくなる。
面白みの欠片もない事を自覚してはいるのに、半ば習性のように小石を拾っては投げ、拾っては投げ。
殺し合いゲームから逃避する時間を少しでも延ばしたかったのか、モララーは拾う小石がなくなるまで小石を投げつけるつもりでいた。
しかし、そのノルマが半分も達成することなく、モララーは殺し合いゲームに引き戻されることになったのだ。
そのきっかけは・・・・・

波の音と鳥の声に混じって、土を踏む音がモララーの耳に入り込んできた。

モララーの目の色が変わる。何かが体の奥底から溢れでる感覚をモララーは感じ取った。
「だれ、だ!」
立ち上がり身を翻すと同時に、モララーは日本刀を真っ直ぐと構える。
その先にいたのは、【男子16番】ヒッキーだった。

76 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/29(火) 13:05:43 ID:xrKR7YJJ
相変わらずのしょぼくれた体格にしょぼくれた顔。
ただ、その手に金槌が握られている図は、初めて見る図だ。
金槌の先が赤く濡れているように見える。これはそういう模様なのか、それとも・・・・・・
気がつけば耳の横を冷たい液体が這っている。モララーは、開始直後のことを無意識に思い出していた。
「ヒッキー・・・・・・おい」
呼び止めるモララーを無視し、ヒッキーはおぼつかない足取りでじりじりと距離を詰めてきている。
その目は、しっかりとモララーを捉えている。
「やる気なのか・・・・・・?ヒッキー・・・・・・・」
ヒッキーは何一つ返事を返さない。
相変わらずのコミニュケーションの乏しさだが、どうやら今回はそれだけではないらしい。
モララーを睨みつける目の奥に潜む禍々しい物がそれを示唆している。
「落ち着け、落ち着くんだヒッキー」
なだめるように言うも、ヒッキーは何一つ返事を返さない。耳が付いていないか、はたまた口が付いていないかのようだ。
気付けばモララーとヒッキーの間合いはかなり近づいている。日本刀を突き出せば確実に当たる位置だ。
それなのに、モララーはヒッキーの睨みに気圧され、少しだけ後退りをした。
その瞬間だった。

「死んじゃええええええええええ!!!!!」
耳を劈く奇声。冷たい物が全身を舐め、モララーの体中の毛が逆立った。
ヒッキーは刀など問題でないというように勢いよく飛び出し、金槌を振りかぶりモララーを叩きにかかったのだ。
「ぐっ!」
頭だけを動かし金槌の一撃を避ける。
ヒッキーの首がぐるりと回転しまたモララーの目を捉えた。ヒッキーの目は異常なほどに大きくひん剥かれている。
空を潰したはずの金槌はまたモララーの頭蓋目掛けて振り下ろされた。
今度は体ごと飛び退り一撃を避ける。再び金槌は何もないところを叩き付けた。
「ま、待て!落ち着くんだヒッキー!!分かる?俺はモララー。そして君を殺す気はない!」
通じそうにない事を分かっていながらも、半ば惰性的にモララーは叫ぶ。
ヒッキーは意外にそのモララーの言葉に少しだけ身を固めたが、すぐにまた金槌を振り上げモララーに襲い掛かった。
「ちくしょう!」
首の動きと後ずさりだけで、ヒッキーの金槌の雨をかわしていくモララー。
しかし、ほどなく透明の壁がモララーの退路を遮断する。文字通り崖っぷちに立たされたのだ。
モララーは己の心臓の高鳴り方が尋常ではない事に気付いた。
日本刀とそれを握り締める手の間にも、気がつけば多量の汗が刷り込まれている。
前には狂気に駆られた男。後ろには崖。逃げ場はない。逃げ場はない。
「うああああああああああ!!!!!」
ヒッキーはまた甲高い奇声を上げると、金槌を一層大きく振り上げモララーに飛び掛った。

77 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/29(火) 13:07:22 ID:xrKR7YJJ
”あの”記憶がフラッシュバックされる。
耳障りな駆動音。目にもとまらぬ速度で回転する刃。それを持つ男の殺意に満ちた目。
ギュィィィインと、何故かあの音が聞こえてくる。
歯が震える。手が震える。体全体が震える。
死ぬ。殺される。体を引き裂かれ、肉も臓物も骨さえもその刃にしこたま巻き込まれて。
淡々とした教官の口調。死んでいった者達の名前。

「【男子20番】モララーくん」

殺られる。殺られる。
殺られる前に・・・・・・
殺・・・・・・


けたたましい金属音が鳴り響くと同時にヒッキーの右腕が大きく反り返り、続いて金槌が大きく宙を舞った。
間髪いれずに、モララーはヒッキー目掛けて飛び掛った。

「ひっ」
ヒッキーは、小さく悲鳴を上げる。
ヒッキーは先程と変わらずモララーを見続けているが、その形は先ほどとは真逆に恐怖の色に染まっている。
モララーは日本刀を振り上げ、ヒッキーの頭上に真っ直ぐ落とした。

殺られる前に、殺・・・・・・

モララーの握る日本刀は、ヒッキーの頭上でぴたりと止まっていた。
ヒッキーは目を潤ませながら、頭上に止まる日本刀を見上げ、次にモララーに視線を移した。
「チッ」
モララーは舌打ちすると日本刀をカラリと床に置き、目を潤ませるヒッキーを見つめ言った。
「いいかよ、人を殺そうだなんて考えるな。そんな事してたら、政府の思う壺だ」
ヒッキーは頷きもせずただ潤んだ目でモララーを見つめている。
聞いてるか聞いてないか分からないが、モララーは構わず続けた。
「俺と一緒に仲間を集めよう。そして、このゲームの脱出方法を考えるんだ」
肩に手を当て、ヒッキーを真っ直ぐ見据える。
波の音が一層大きく木霊する。それを見計らったように波音と同時にヒッキーはようやく口を開いた。
「脱出なんて、出来ないさ・・・・・・殺さなきゃ・・・・・・殺されるんだ・・・・・・」
波の音に打ち負けそうなほどにか弱い声で、ヒッキーはそう言った。
思えば、ヒッキーの声を聞いたのは初めてかもしれない。そう思いながらもモララーは反論した。
「そんな事ないさ。仲間を集め知恵を出し合えば、かならず脱出の方法を思いつく。みんなが揃えば不可能な事はない!」
その発言が恐ろしく不確定要素に満ちていて頼りないことは喋っているモララー自身承知している。
だが、ヒッキーを懐柔させるためには多少強引でもこうする以外にないのだ。
「大丈夫だヒッキー。お前は俺が守ってやるから!」
モララーは一層語調を強めた。
心なしかヒッキーの表情から狂気が薄れているような気がする。もう一押しか?
「そ・・・・・」
「モララーくん」
モララーの発言にヒッキーがのっけから被さってきた。
喉を出かかる言葉を引っ込め、ヒッキーの言葉に耳を傾ける。
「モララーくん・・・・・・あのね」
ヒッキーは下を向いて、隙間風のように小さく掠れた声で言う。
言葉を聞き取るモララーも大変だ。耳を更に近づけ、聞き逃しのないように神経を耳に総動員させる。
しかしヒッキーの次の発言は、耳を集中させる必要ない程にハッキリとしたものだった。

「ごめんね」

「え・・・・・・」

78 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/29(火) 13:09:57 ID:xrKR7YJJ
瞬間、衝撃と共にモララーの体は何歩分か後ろに下がった。
支えとなる地面が消えうせ、両足が空を踏む。
心臓が爆発する。モララーの口から絶叫がひねり出された。

「ぎゃあああああああああああああ!!!!!」

断末魔というに相応しい悲鳴が、波の音を圧倒的に打ち消し空間を支配する。
落ち、悲鳴を上げながら、モララーはほぼ無意識に手を崖渕へ伸ばした。
指先が渕に触れる。モララーは少しだけ正気を取り戻し、指先に力を込めた。
間髪いれずに、もう一本の腕も伸ばし、崖渕を掴んだ。
何とか即死は免れたが、たった十本の指では、モララーの全体重を支えるには余りにも貧弱すぎる。このままでは何分もせずに落ちるだろう。
かといって、指の力で体を持ち上げるほどの体力は残っていない。
モララーは、崖に立ち自分を見下ろしている、自らを突き落とした張本人、ヒッキーを強く睨みつけ叫んだ。
「ちくしょう!!!!なんなんだてめえらは!!!!!!」
焦りや怒りやらを全て怒号に変換し吐き出す。
モララーのあまりの剣幕に押されたのか、ヒッキーはビクリと一度振るえ、更に目を潤ませながら言った。
「ごめん、ごめんなさい!ごめんなさい!!」
突然ヒッキーは謝りだす。本当にすまなさそうに顔を歪めながら。
しかしその割には、モララーを助けようと動く気はないようだ。
「謝ってる暇があるならさっさと助けろォ!!!」
気が動転しパニックに陥るモララーは、いつもの片鱗を微塵も見せない語調の強くほぼ裏返った声でそう叫んだ。
「ごめんなさい、ごめん、ごめん!!」
しかし、ヒッキーは変わらずただ謝り続けるだけ。
モララーの目が憎悪と怒りに燃える。

あのクソガキめ、こんなになるなら真っ二つにしておけばよかった・・・!!
畜生、畜生、ふざけんなこのクソが・・・!!!!

指の力が弱まっていくにつれ、心中の罵声と絶望が強くなっていく。
モララーはふと下を見下ろした。
気が遠くなるほどに海面までは遠く、しかも岩がゴツゴツといくつも水面を割り、生えている。
落ちたら死ぬ。岩に体をぶつけ、肉が裂け骨が割れ、隙間から臓物を滅茶苦茶に散らし、間違いなく、死ぬ。
人生の思い出がとめどなくあふれ出てくる。
こんなとこで、こんなとこで死んでたまるか。

焦りと緊張が、モララーの頭を少し冷静にさせた。

助かるには、目上のこの糞ヒッキーをどうにか利用する以外にない。
泣きながら謝っているという事は、少なからずとも罪の意識はあるという事だ。
それなのに助けないのは、恐らく『罪の意識』と『優勝の誘惑』が心の中で葛藤しているのだろう。
ならば、罪の意識を抉ればいい。
奴の良心をかっぽじって引きずり出すんだ。助かるにはそれ以外にない!

モララーの頭が急回転しだした。

【残り34人】

79 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/29(火) 21:07:03 ID:gmOuHQq8
上げとく

80 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/29(火) 21:31:04 ID:r+jVo1fn
時刻は、午前9時半になろうとしていた。
フーン(男子17番)は、道路向かいに見える寂れた神社(F−6)の様子を、煙草を咥えながら窺っていた。
その冷徹な目は神社の裏口へと注がれ続けている。中ではマニー(男子18番)がイングラムを上等そうなハンカチで磨いているのが伺えた。
先ほどのマニー(男子18番)との戦闘によりギコ、ねこことの戦利品であるイングラムを奪われていた。
不覚、としか言えなかった。マニー如き一匹や二匹殺そうがどうってことなかったはずだった。
しかし、彼にも彼なりのプライドはある。自分より決定的に劣る相手には街中での喧嘩でも“猶予”を与えていた。
それが仇となり、この無駄足を踏む事となったのだが。
「ファーック……」  
チェーンソーの手触りを確かめ直しながら、フーンは歪んだ笑みを浮かべた。
こうして、ジェノサイダー・フーンは生還への第一歩をまた踏み出した。残念だがもう手加減はねぇぞ? 糞餓鬼が。
「Let's party!」

マニー(男子18番)は、神社の本堂から気配を極力殺して辺りを窺う。
そして神経を総動員して一分間ほど念入りに様子を確認した。
やがて誰もいないのがわかると、大きく一息ついて武器の手入れを始める。
「全く、残念だったなぁ、あのフーン君があの程度の奴だったなんてさぁ。
 飛び抜けた運動神経って聞いてたけど、僕に銃を奪われちゃうんなんてさぁ。
 しかも不良共のリーダー格だっていうのにあんなに必死に逃げるなんて・・・。」
マニーは何かにズバ抜けて優れていると言う事はなかったが、言ってみれば話術に優れていた。
巧みな話術で相手を丸め込んだり、ハッタリで自分を実際の何倍も強く見せたり。
「さぁて、腰抜けのフーン君は後回しでいいや。次は誰と遊ぼっかな〜と・・・」

不意にフーンの言葉がリフレインし、鼓膜が鈍い痛みを放った。
『お前は幸せ者だなっ』
下卑的な差別を受けた気分だった。むしろ自分が皆を下卑しているのだ、的外れな表現だと思った。
しかしその滑稽な物言いに対し、ひどく傷付いている自分に気付いた。面と向かって罵倒を受けた事は幾度となくある。
その都度マニーは阿呆の戯言だ、と無視を決め込んだ。後悔の念など微塵もない。
けれど今回に限り、彼の胸を言いようのないやるせなさが満たしていた。どっしりと重い感情だった。

「所詮、ろくでもない不良の幼稚な挑発だよ。僕よ、気にするなっ!」
「ファーック!!」
その時、何者かの怒号でマニーは振り返った。脊髄反射的に素早さだった。視界に映る刃物の存在を見止め、直ちにその身を捻る。
動力源が作動していなくとも、鋭利さが一目で窺えるノコギリの刃がマニーの腰を掠め、畳へと叩き付けられた。
相手の正体を見るや否やマニーは我が目を疑った。転がりながら目を見開いたマニーの前で、フーンがじっとマニーを見詰めていた。
「よう、糞餓鬼。元気で何よりだ。」
続いてフーンが手にしたチェーンソーを目線の高さに持ち上げ、粘着質の視線で眺め始める。
同時に鼓膜を劈く駆動音と共にチェーンソーの刃が高速回転を始める。

81 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/29(火) 21:37:13 ID:r+jVo1fn
「あははは! 君は相変わらず、甘い、なっ!」
ともかく、その期を逃さずマニーはイングラムをフーンの額目掛けて投げつける。
「おう、わざわざ返してくれたのか。ありがとよ。」
フーンはそのイングラムを右手で受け取るとディパックの中に押し込んだ。
マニーは先ほどとはまるで違う反応の速さに一度目を丸くした。
「ちぇっ、大人気ないんだから…。これだから不躾な不良は困るよ!」
こちらにはもうカマしか残っていない。これでは勝ち目は無い。懸命に地面を蹴りつけ走り出す。
数歩とせずに、背後からフーンが追いつき、マニーの目の前に立ち塞がる。
速い。先の戦闘とは比べ物にならないほど。とにかく素早い。
「どいてよぉっ!!」
マニーがディパックからカマを取り出し、フーンへと突き出す。
刹那、甲高い音と共にカマの刃の部分が弾けとび、ドスッ という鈍い音と共にフーンの後方の畳に突き刺さる。
丸腰。
「ちょっとオイタが過ぎたみてぇだな?」
フーンがチェーンソーを振り下ろすと同時に突き刺す衝撃がやってきた。マニーは腹部に激痛と高熱を感じながら、尻餅をついて倒れ込んだ。
身の危険は、死への危惧へと変わる。噴き出した冷や汗がじっとりと肌を濡らす。吐いた唾液には赤みが混ざっていた。
「行儀の悪いお坊ちゃまはお仕置きだ。」
異物感と突き上げる痛みに呻く。うつ伏せにした体を起こそうと試みたが、背中に重い衝撃が走った。
「うぐぁっ!!!」
神社内にマニーの絶叫が響き渡る。フーンがマニーの背中に回し蹴りを放っていた。
自分はとんでもない男をキレさせてしまった。マニーは己の行動、己の言動を後悔した。しかし、後悔先に立たず。
「ご、ごごご、ごめんよ!フーンくん!僕が悪かったよ!そ、そそそうだ!取引をしようよ!そうだ僕はお金持ちだから…」
一気に膨らんだ死への恐怖が、彼のプライドを押しつぶしていた。
フーンは左足をマニーの背にかけているようで、身を起こす事も叶わない。
それでもなおマニーは抵抗を試みた。力んだ際に吐血が飛沫となって宙を舞った。

 ――僕は、ただ遊んでるだけだったのに……! 

マニーは仰向けに転がされ、その腹部にフーンが跨る形となった。右手には私物のものだろうと思われるバタフライナイフが握られている。
日の光を反射してナイフが輝く。それに目を奪われた瞬間、刃先が眼前へと迫り――右目の瞼の裏に違和感と筆舌に尽くしがたい痛みが走る。
フーンはマニーに対し、容赦なくその目にナイフを刺し入れたのだ。骨格の空洞に沿って、刃先がぐりぐりと皮膚を切り裂いていく。
マニーは必死に暴れ狂ったが、フーンの両足による胴の拘束が緩む事はない。フーンにとってマニーの体が発する抵抗は、些細なものだった。
フーンが不気味な笑みを浮かべていた。鋭い痛みが眼球の裏側に走り、急に視界が狭まった。
見上げた先では馬乗りになったフーンが、左手に収まる白い球体を眺めている。眼球を失ったマニーの左目から、痛みと悲しみの混在した涙が流れ出した。
フーンはそれを畳にたたき付けると右足で踏み潰した。続いて左目にバタフライナイフが刺し込まれ、直後に完全に視界を失う。
「どうしてだ!?何も見えない!!!何故だぁ!!?」
マニーは目を開いている感覚があるのに視界が利かないと言う状況に言い知れぬ恐怖を覚えのたうちまわった。
無数のマズルフラッシュが薄暗い室内で暴れ狂い、激発音に合わせてマニーの体が派手に揺れた。
マニーの意識はどこか遠くへ飛んでいった。永遠に。

【残り33人】

82 :254:2006/08/30(水) 23:21:37 ID:rrbHEo0T
陰鬱な空気が、まっさらな壁で覆われた病院(C−8)内に漂っていた。今の院内を言葉で表すならば、黒い静寂という表現がピッタリとはまっている。
負のオーラの源流は内科の診察室、じぃ(女子9番)は地図に目を通しながら、右手に持ったシャープペンシルでテーブルを叩き続けていた。
指が小刻みに動く度にカツカツカツという忙しなくも規則的な音が鳴り響き、花を模した縁取りのテーブルクロスに次々と小さな黒点が刻み込まれていく。
じぃは、脇の椅子に置いた支給品の暗視ゴーグルを恨めしげに一睨みしながら今一度舌打ちする。
色々と上手くいってなかった事が、じぃに苛立ちを募らせていた。
特に、会場の広さや銃声の数から最初の放送で最低でも7、8名と予想していた退場者の数がそれを下回っていた事が大きい。
これで家に帰る時間が考えているよりも遅れる。当たり前のようにそう思った。
彼女の脳内では、自らの優勝は必然の事柄としてそこにある。
じぃは、クラスメイトとの交友は極めて薄かった。自ら誰かに声をかける事は皆無に近い。
寄ってくるのはもっぱらしぃ(女子8番)とねここ(男子15番)の取り巻きコンビだった。
しぃは、何故かじぃに親近感を感じているようで、当のじぃは少なからず不快感を感じていた。
もっともじぃも”寄ってくるなら利用してやる”的感覚からしぃとねここらを突き放さず、傍目には一種のグループに見えていただろう。
シャープペンシルの音が大きくなったのに気付き、指にかけた力を緩める。
大きな音を立てるわけにはいかない。この徹底した静寂の中では微かな物音すれも唯一の存在音として耳に届くだろう。
軍の左官である祖父や専守防衛軍の尉官の父の血を受け継いだ私が、一般生徒なんかに殺されるはずがない。殺されるわけにはいかない。
その思いが神経質なじぃに忍耐力を与え、衝動を封じ込めさせていた。第一回放送から約3時間。
実力者が退場している事を祈りつつ、今後の展開を模索する。そういえば、朝の放送でしぃ(女子8番)が名前を呼ばれていた事を思い出す。
じぃにまとわりついていた、目障りな金魚の糞。到底生還できる人間とは思えなかったが、それにしても早い退場だとは思った。
同時に、順調に弱者から淘汰されている事実から改めて自分の優勝への自信を強めた。
今頃は退場した生徒達と負け犬同士、冥国――あの世で傷を舐め合っているだろうか。じぃはあの世など信じてはいないが、少し考えた。
続いて要注意人物をおさらいする。モララー(男子20番)は言わずもがなだ。
初歩的なミスで命を落とす事もないだろうし、考えたくはないが、いずれ自分と対峙する時がくるはずだと思った。
寒さからくるのとは違う身震いを軽く起こし、別の生徒の事を考える。小癪にもこのクラスには飛び抜けた運動能力を持った生徒が複数存在する。
ガナー(女子6番)。彼女には双子の兄という強力な“盾”がある。合流すればかなりの脅威となるだろう。
他には化け物じみた運動神経のフーン(男子17番)を筆頭にモナー(男子19番)、花瓶(女子7番)やつー(女子11番)といった面子の名前が浮かぶ。
だが所詮は運動神経だけである。詰め将棋にはほとほと弱そうな連中ではある。じぃのような知性を持つ者はモララー以外に居ない。
もっともまだ二十人以上が存命してるであろう現在、危険を冒して真っ向勝負するよりは潰し合って貰うのが効率的で賢い判断だろう。
今は、来るべき時に備えつつ潜み続ける時だ。じぃは自らの心にそう叩き込んだ後、体重を預けていた椅子から背を退けた。
なんとなしに二階へと足を踏み入れると、ひんやりとした空気が肌を刺す。
薄暗い廊下では非常口の目印から放たれる灯りが寂しい淡色の光を漂わせていた。じぃはその緑色の光から視線を外し、今度は自らの手元を見る。
肩から提げたディパックは口を開けており、いつでも手製爆弾が取り出せるようにしている。
その手製爆弾は、祖父の部屋に置いてあった本に載っていたものをじぃが実践したものである。
油に浸した細い縄を導火線として用い、コンビニ(B−8)で調達した玩具用花火に入っている火薬をこれまたコンビニで調達したおもちゃのカプセル容器内に入れて作った実に簡単な作りの爆弾だが殺傷力は申し分ない。それはともかく。
調達する物を調達したら、さっさとこんな場所を出ないと。長く留まるだけ、無駄に神経を磨り減らすだけだし。
左手を鼻に添え、つまむようにしながら顔を歪める。神経質なじぃだけに、病院独特の香りと薬品臭は耐え難いものだった。
一刻も早く物資を調達して立ち去りたいので足早に廊下を進む。

83 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/30(水) 23:26:32 ID:rrbHEo0T
途中、病室を覗くとベッドのシーツがまくられたままだったり雑誌が置かれたままで、雑に散らかっていた。
患者や職員達は唐突に追い出されたようで、まるで映画のゴーストタウンを彷彿させる。
もっとも今のじぃにとっては空想の産物であるゴーストよりも生きたクラスメイトの奇襲こそが最大の脅威だが。
当日手術を控えていた患者もいただろう。じぃは哀れみこそしないが、ただ災難な事だなと思い鼻を鳴らした。
プログラム後は落命したクラスメイト達が幽霊となって漂うのだろうか。だとすればそれこそゴーストタウンだが、それはともかく――
「無駄手間が好きね、政府は」
仏頂面のまま吐き捨て、病室から視線を引き剥がす。廊下の先にはナースステーションが見えていた。
手前に見える入口ドアの延長、幾分斜めになった壁に小窓が見え、その奥には薬品棚や数々の資料が置かれている。
全方向、特にドアの開かれた大部屋のほうに神経を尖らせて、耳を澄ます。
物音がない事を確認して足を進めかけたその時、廊下に反響した靴音を捉えて身を伏せる。
その体勢のまま息を殺して大部屋へと体を滑り込ませた。外の靴音の主は、丁度二階へと到着したようだった。

 ああ、小癪だわ、小癪だわ。誰なのよ一体?
 馬鹿がこんな場所来たって無駄足なのよ、消えなさい!

「誰かいるの?」
その声――女性のものとだけ判断できた――で、じぃは伏せた体をびくんと跳ね上げた。靴音は段々と近付いてくる。
じぃにとって昇天する生徒が誰だろうと興味はない。関心を持つべきは相手の所持物、そしてどうやって敵を討つかだった。
隠れて戦闘を回避する手もあるが、相手がこちらに気付かず近付いているならば奇襲の爆撃で仕留める事ができるわけで、それはそれで悪くない戦術だと思った。
そこでふとある事に思い当たり、心中で苛立ちと焦りが生まれた。通路の主は「誰かいるの?」と言った。何故そう思ったのだろう。
探知機のような物が支給されているのだろうか。首を後ろに向ける。締め切られた窓は施錠済みだろうから外への迅速な離脱は難しい。
窓を開く音を聞きつけられれば即対面の距離に相手はいる。
「誰かいる。」
今度こそ肝を潰される程に驚愕して大きく目を見開く。同時に、確信を込めた声の主がでぃ(女子13番)だという事もわかった。

あのボロ雑巾、どうして私の場所が? なんて小癪なの!
勘がいいとか言われてるけど、そんな不確定要素で戦地を乗り切れたら誰も苦労しないのよ。真っ向からやる奴が馬鹿見るだけじゃない。

脳内で愚痴と罵倒を零そうとも、でぃに届くはずもない。わけのわからぬまま目前に迫った生涯随一の危機。
じぃはあらゆる衝動を抑え込みながら成り行きを窺うしかなかった。

84 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/30(水) 23:29:17 ID:rrbHEo0T
「誰かいる。」
でぃは院内の通路の奥、丁度ナースステーションが右手に窺える付近へ呼び掛けた。通路向かいの大部屋も気になる。
いずれにしてもこれ以上踏み込むのは危険な気がした。

 ――静寂。続いて全身に絡みついてくる得体の知れない緊張。

もしやる気の生徒が潜むならば、この先に進むのは極めて危険と言えた。
相手はこちらの位置が把握できており、逆にでぃは相手の武器はおろか潜んでいる場所すらわからないのだ。
無理に踏み込む必要はない。そう思いながらも、でぃは一つの試みに出た。
そのまま体を半回転させ、来た方へと踵を返した。静寂の中ででぃの靴音が寂しげに打ち鳴らされる。

 一歩、二歩、三歩、四歩。

突如、足元に自分とは違う影が伸びるのを認めて素早く振り返った。
新たなる影の主――じぃが大部屋へと身を戻す暇も与えずに、でぃは視線を彼女へと定めていた。
距離にして約十五メートル。遠目だったがじぃの喉が波打つのが見えた。でぃの脇の床へと伸びている自らの影に気付いたのだろう。
「わ、私、怖かったから。でも、今、また一人になるのが怖いって思って……」
たどたどしいじぃの演技に耳を傾けながら溜息を吐く。続いて口にした台詞は、奇しくもじぃと同調した。
「……なんて、繕うだけ無駄よね」
「繕うだけ無駄」
さすがにこれにはじぃも眉を寄せて驚愕の表情を見せた。そのままじぃはしばらく押し黙っていたが、やがてくすりと鼻を鳴らして呟いた。
「何でもお見通しなのね」
「プログラムだけは見通せなかった。だから、ここにいる」
じぃの微笑の中に覗く苛立ちを肌に感じながら、じぃは真面目ともジョークともとれぬ――実際、自分でも良くわからなかった。
思いついたまま――返答を返す。じぃが今度はふん、と鼻を鳴らした。
「ご愁傷様。それはお互いに、だけれど」
「じぃはやる気?」
「当然」
微塵の迷いもなくじぃが宣言した。自分もそうなのだが、年の程十五程度の彼女のこの割り切りようは何なのだろう。
否、その佇まいにはある種の決意すら感じられる。現実に疲れて自棄になっているわけではなさそうだ。
ならば私怨や復讐心だろうか。ならば誰にそれ程の怒りを抱くのか。それとももっと単純な、生への執着心なのか。
命の天秤は、いともあっさりとじぃ自身へと傾いてみせたのか。
「何故、そうまで割り切った」
疑問は自然と口から出ていた。じぃは小首を傾げ、面倒臭そうな表情になる。
「割り切る必要なんてないわ。最初から私は勝ち抜くつもりだったの」
溜息混じりの返答だったが、言葉尻には強い決意がこもっていた。そう言えばじぃの家は昔からの軍人の家系だった事を思い出す。
それが影響しているのかと考えたが、結論には至らない。いずれにしても、じぃは持てる頭脳の全てを駆使して戦い抜くと誓ったのだろう。

85 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/30(水) 23:32:50 ID:rrbHEo0T
それで思い出した事があり、でぃはズボンのポケットに入れていた紙片と取り出す。
A4サイズのチラシの裏にマジックペンで文字が書き殴られたそれを丸め、じぃのほうへと放った。
「これは、じぃがやったの」
「それ? そうよ。本当に何でもお見通しなのね」
足元で転がる紙片を一瞥し、じぃが心底おかしそうに呟いた。
「軍人の孫娘らしいやり方」
でぃは視線一つ動かさずに言う。紙片には赤い文字で”でぃはやる気”とだけ書かれていた。
根も葉もない事柄を書いた紙をばらまき、嘘の情報を用いてそれを見た生徒をかく乱させる戦術。
かつての戦争で利用されたとされる戦術で、いかにもじぃらしいと言えた。
「私を利用されては黙ってはいられない」
「癇に障った?」
あっけらかんとした口調でじぃがでぃの言葉をいなす。予想以上の曲者かもしれないと肝に銘じ直す。
同時に、得物を向け合う膠着状態が終了を迎える事を直感した。
「口が疲れたわ。無駄話は打ち切りましょう」
じぃが傲然と言った。唐突にカシュッという摩擦音が響いてそちらへと視線を移す。
じぃの肩から提げられたディパックの中に彼女の左手が潜り込んでいた。
じぃはディパックからガムテープで巻かれた球体――手製爆弾と思われる物を取り出しており、その導火線には既に火が点いていた。
今さっきディパックの中で点火したという事なのだろうか。
その危険な行為はいささかじぃらしくないとは思ったが、爆弾が天井へと放られたのを認めると、でぃは即座に体を脇の大部屋へ転がり込ませた。
壁を盾にして伏せるでぃの耳に、遠ざかるじぃの靴音が届いていた。
すぐに自らの判断ミスに気付いて部屋から飛び出したものの、既にじぃは通路の向こうへと姿を消してしまっていた。
「偽物の爆弾か……」
細い煙と嫌な臭いを放っているガムテープ球を掴み、でぃはじぃが走り去った通路の先を見詰めた。

【残り34人】

86 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/31(木) 12:09:09 ID:iJMdEdnq
良い天気だなぁ。
こんな状況の中で、場違いにもそう思った。こんなのはただの現実逃避なのかもしれないが。
しかし本当に良い天気だ。雲一つ無い快晴。澄み切った青い空。暖かい日差し。
第1回目の放送で死亡者が知らされた。俺がぼーっと空を見上げている間にも、プログラムは着々と進んでいる。
その放送を聞いても、別に何をするでも無い。デイバックを枕代わりにして、仰向けに横になりながら今の今まで空を見つめていたのだが。
ふと、腹が減っている事に気がついた。
俺はデイバックからパンと水の入ったペットボトルを一つずつ取り出した。
パンを一口かじる。うーん、お世辞にもうまいとは言い難い。苺ジャムやマーガリンが欲しいね。
今度はペットボトルのキャップを開け、水をこれまた一口飲む。…何の変哲も無い水道水の味がした。まあ喉の乾きは癒されるのだから、それはそれで良いのだが。

それにしても…。
俺は自分に支給されたそれを手に取り、眺めた。ずっしりと重く、冷たい金属の塊。
デザートイーグル。大型のオートマチック・ハンドガン。説明書を見なくとも名前とか使い方は大体分かる。
何故なら俺は、銃マニアだから。
そういえば、あの中学校を出る前、教室で【男子5番】ゲララーが言ってたな。

『あら、銃。モデルガンですかい?ウチのクラスにも1人詳しいのがいるんスよ。』

あれは多分、俺の事だ。
俺は何故かは知らないが、物心付いた時から銃に興味を持ち始めた。
俺は少ない小遣いを全てモデルガンやエアガンに注ぎ込んでいった。時が経つごとに増えていく俺のコレクションの数々。
両親はそんな俺を不思議そうな目で見ていたが、俺は別にそんな視線など気にならなかったし、文句を言われるような事も無かった。
気がつけば俺はクラスメイト達に銃の知識をひけらかしていた。
俺のそんな話をどうでもいいと思って聞き流す奴もいれば、逆に興味を持って真剣に聞いてくれた奴もいた。
いつかは本物に触ってみたいとは思っていたけれど、まさかこんな形で実現するとはな…。
俺は思わず苦笑した。

さて、これからどうしようか。
せっかく銃が支給されたんだから、今からここを出てって見つけた生徒達を片っ端から撃ち殺してやるか?
そんな考えが浮かんだが、すぐに取り払った。
自分から積極的に殺し回るのは体力を消耗するし、何より危険すぎる。
ゲームが始まってから銃声のような音を何度も聞いたから、他の生徒にも銃が支給されているのは間違いない。
相手が銃を持っていた時、果たして自分は勝てるだろうか?
確かに俺は銃には詳しい。だが、あるのは知識だけだ。実弾の入った銃などまだ一度も撃った事は無い。射撃に関しては全くの素人なのだ。

となると、やはりもう暫くはここでじっとして体力を温存しておくのが得策か?
そうだ、他にやる気になってる奴なんてぞろぞろいるんだから、そいつらに任せて数が減るのを待っていればいい。
そして残り数人(終盤まで生き残っている奴等は今までの戦いで傷付いて弱っているはずだ。)になったところで俺が出て行って一気に方を付ける。これだ。
自然と顔がニヤけてしまった。俺は優勝を確信している。

じゃ、その時が来るまで日向ぼっこでもしてるかぁ。


そんなこんなで彼、【男子8番】ターンはB-7のとあるビルの屋上で再び仰向けに横になり、今も青い空を見つめ続けている。
現在時刻、9時28分。

【残り34人】

87 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/31(木) 17:18:11 ID:gJRHi0UQ
命綱である五本の指が悲鳴を上げつつある。
モララー(男子20番)は疑心暗鬼に陥ったヒッキー(男子16番)によって今まさに葬り去られようとしている。
「頼む。ヒッキー。俺の手を引いてくれ!」
「ううぅ… 何だよ、皆して僕を殺人者のような目で見て! モララーみたいな優等生なんかにはわからないよ、苛められている僕の気持ちなんか!」
ヒッキーがモララーを見下ろして叫んでいた。その右手には金槌が握られたままだ。
そう言うのと同時にヒッキーが踵を返しその場から立ち去った。そう言えばヒッキーはクラスだと苛められていたんだったよな。
そりゃ自棄にもなるよな……。ガナー(女子6番)なんかはよくヒッキーを守ってたけど俺は……。
モナー(男子19番)、ショボーン(男子7番)、もう会えそうにない。せめて最後に会いたかったな。
「誰!?その指は!」
モララーの耳に聞き覚えのある声が入ってくる。何とそれはモララーが捜し求めていた親友の一人、ショボーンだった。
右手にはM18・357マグナムを握っていた。モララーの脳内が『絶望』から『希望』で満たされる。
「ショボーン!俺だ!頼む、助けてくれ!」
「モララー!どうしたの? 大丈夫!?」
ショボーンの顔が一瞬にして(`・ω・´) シャキーン顔に変わる。
「理由は後で話す!とにかく今は手を引いてくれるだけでいいんだ!」
「まっかせて!」
ショボーンが両手を差し出す。モララーはその手を掴み、ある程度引き上げてもらうと、モララーは自力で這い上がる。
痛む指をさすりながら悟られまいとショボーンに礼をする。
「ありがとう、ショボーン。恩に着るよ。」
「いいって、他人行儀な事言わないでよ。 それで、モララーを襲ってたのはヒッキー? さっきあっちに走って行くのを見たけど。」
モララーの表情が一転して曇る。
『モララーみたいな優等生なんかにはわからないよ、苛められている僕の気持ちなんか!』
ヒッキーの悲痛な心の叫びがモララーの脳内でリフレインする。「糞ヒッキー」・・・。
それは俺がヒッキーに殺されかけた時に出た言葉だ。「あのクソガキめ、こんなになるなら真っ二つにしておけばよかった 」・・・。
何故俺はそんな事を考えてしまったのだろうか。人は追い詰められると良心すら吹っ飛んでしまうのだろうか。
俺は友人を、引いてはクラスメートを信じようと誓ったんじゃなかったのか?
「・・・モララー?」
ショボーンのいつに無く心配そうな表情が目線に飛び込んで来たことにより現実に戻される。
俺は小石なんか投げてる場合じゃ無いんだ。
「モララー、どうしちゃったの? そんな暗い表情、モララーらしくないよ。」
「ああ…ああ、そうだな。 ショボーン、これから俺はモナーを探す。・・・政府の野郎共を裁いてやる。お前はどうする?」
ショボーンが人懐こい笑みを浮かべ、モララーの顔の前に拳を突き出し、親指を突き立てる。
「OK。行こうぜ、ショボーン!」
そう言って東へ向かい歩みだすモララー。
ショボーン慌てて後を追おうとするが、不意に思い出したようにモララーが振り返ってショボーンに右手を差し出す。
「ショボーン、さっきは本当にサンキュウ。これからこのゲームがどういう結末になっても、最後まで俺達とモナーは一緒だからな!」
「死ぬときは一緒だよ。」
苦笑顔を見合わせて、ショボーンはモララーの伸ばした右手を握り返した。

――俺等がやらなきゃ誰がやるんだ。負けるわけにはいかないんだよ。

【残り34人】

88 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/31(木) 19:58:52 ID:pQ0Zas4n
支給武器の果物包丁を、汗で滑らないようしっかり握り締める。
縦に横に震える手を必死に抑止しながら、前方に微かに確認できる男子生徒の背後に、その鋭い刃先を定めた。


【男子13番】二ダーは、少なくとも開始直後までは『仲間を集めて脱出』など都合の良い希望をその胸の内に蓄えていたかもしれない。
しかしニダーは、開始から何時間も待たずにE-6地点でいきなり生徒同士の殺し合いを目撃してしまった。
【男子17番】フーンと【男子20番】モララーが、お互い鬼のような形相で刃物をぶつけあっていたのだ。
その二人の表情からは――少なくともフーンの表情からは、殺気や狂気といった禍々しい感情が余るほどに溢れていた。
その場からは即座に逃げ出し難を逃れたものの、彼ら二人の『殺し合い』がニダーに植えつけた傷は深い。
ニダーは支給武器の果物包丁をお守りのように抱きしめながら、C−4の民家でその体を震わせていた。
それからどれくらい立ったか、付近で声色の違う二種類の銃声が何度か木霊した。
それが殺し合いの印である事を、二ダーはすぐに理解する。二人の殺人者がたった今、互いの命を奪おうと武器を突きつけあっているのだ。
そしてその殺人者は、自分のクラスメイトであった者達なのだ。
ニダーは咄嗟にレース模様のカーテンを開き、その窓から外を伺った。恐怖よりも、殺人者の姿を確かめたい衝動の方が上回ったのだ。
しかし、窓を覗きこんでからというものの銃声はピタリと止んでしまう。それは、クラスメート同士の殺人劇がひとまず終わった事を示していた。
ニダーの背筋に沿って冷たいものが這い上がる。殺人劇の終了・・・すなわち、たったいま『どちらかが死んだということなのだ』。
ニダーは戦慄に体を大きく振るわせた。そしてそれとほぼ同時に、窓の外のビジョンに男子生徒が映り、また体を二重に震わせる。
ニダーは顔を下に引っ込め、頭と耳と目だけを窓に出すようにして、その男子生徒の顔目掛けて目を凝らした。
まだ薄暗い朝日がその男子生徒の顔を確認するのを邪魔したが、ほどなくその生徒が【男子5番】ゲララーである事が判明した。
そして、その手に握られている銃の存在にも、二ダーは気付いてしまう。その瞬間のニダー胸の振動は尋常ではなかった。
先ほどの二つの銃声のうちの一つはコイツが発したもの。そして、恐らくゲララーはその銃撃戦に勝利し、ここにいるのだ。

ゲララーは不良。そう、あの殺人鬼フーンと最も仲がよい不良だった。
普段でも人を傷つける事を厭わない不良なら、この殺人ゲームに傾倒する可能性もほぼ100%といえよう。
事実フーンがそうだったわけだ。恐らく目の前のこのゲララーもこの殺人ゲームに乗り、そして・・・

ニダーは民家のドアを開け外に出、果物包丁を握り締めながらゲララーの背中を追った。


それからどれくらい経ったか、恐らくもうC-5の辺りに突入している事だろう。
ゲララーは、二ダーに背中を向けたまま岩に腰掛け空を見つめている。
絶好のチャンス。ニダーは少しだけ自分の顔が綻んでいることを自覚しないまま、足音を立てないようゆっくりとゲララーの背中に近づいていった。
柔らかな芝生を踏みにじっていくごとに、包丁の刃先が震える。緊張に汗が滴り落ちる。
暗殺者ニダーとゲララーの位置はもう相当近づいていた。それでも、ゲララーは気付かぬままただ空を見つめている。
ニダーはにやけながら近づく速度を速めた。ゲララーの背中がドンドン大きくなっていく。
裁きだ。ニダーは心中でゆっくりとそう呟き、また無意識に口元を歪ませた。
射程距離までもう少し。あと三歩、二歩・・・・・・

そこまで近づいた時、突然ゲララーの首がぐるりと回った。

ゲララーと目が合ってしまう。二ダーは声にならぬ悲鳴を上げながら、咄嗟に包丁を突き出した。
「バッ、やめろ!」
ゲララーは叫びながらニダーの腕を掴み、力強く捻りあげた。
「ぐああ!」
掠れた呻き声が喉からひねり出され、包丁を握る力が薄れそして取り落としてしまう。
しまったと思う間もなく、ゲララーはニダーの腕を離した。
銃を握るその右手がピクリと動く。撃つ気だ。
殺される。ニダーの心臓が激しく警鐘を打ち鳴らし始めた。
「や、やめるニダ!!撃つな、ウリは、そんな・・・・・・殺す気なんて実はァ!」
恐怖にニダーの口が突き動かされる。
しかし、ゲララーは銃をニダーに突きつけることなく、ディパックにしまってしまった。
「え・・・・・・」
安堵より先に、戸惑いを覚える。
ゲララーは手を挙げ、狼狽した顔のまま一度言った。

「俺は戦う気なんてねェ」


89 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/31(木) 19:59:31 ID:pQ0Zas4n
二つの銃声についてのゲララーの答えはこうだった。
ゲララーは【女子16番】みるまらに襲われ、けん制のために銃を撃っただけだと言うのだ。
ゲララーの笑い声交じりのおどけた口調のせいか、ゲララーという人間のせいか、どこか嘘臭さをニダーは感じ取る。
「人を背後からぶっ刺そうなんてさァ〜、ニダちゃんもやってくれるねェ、ぎゃははは!!」
ゲララーは先程の一連の出来事など気にしていないという風に、大きな笑い声をあげる。
これが、自分を殺そうとした人間に対する台詞なのだろうか。ある種の不気味さに、ニダーは息を呑んだ。
「ぎゃは。ま、ニダーも話せばちょっとは分かるヤツみたいで安心したぜ。」
ゲララーはそう言うと馴れ馴れしくニダーの肩に手を回してきた。
まだゲララーを信用し切れていないニダーにとっては、そのゲララーの行為には若干の不快感があった。

やる気のないらしいゲララーに、ニダーは「やる気がないならどうやって生き残るつもりニダ」と尋ねた。
その問いにゲララーは臆面もなく、自分が数時間前に捨てた希望を口に出したのだ。
いや、『脱出』と正確には口に出してはいないものの、それを匂わせる発言であった。
あの殺人鬼フーンの相棒にしては、何事にも反抗しかしない不良にしては、意外すぎる主張だ。
・・・いや、よくよく考えれば『何にも反抗する不良』だからこそ、政府の意向に反抗し殺し合いはしまいと意地になるのも当然なのかもしれない。
だとしたら不良として異端なのは、殺し合いにアッサリ乗ったフーンの方なのだろうか。ニダーの困惑は長く続いていた。

「ゲララーは、これからどうするつもりニダ?」
ニダーは再び問いを振り掛ける。
「まぁ、とりあえず友達でも探すとするさ。このまま延々と一人旅・・・ってのもいいが、
 一人だとやっぱ何かと恐えーし、なにより観光旅行は友達が多い方がぜってー楽しいじゃんよ」
『なにより』の付ける位置にニダーは強烈な違和感を感じ取る。
ニダーは思う。まさか真面目に言ってはいないだろうが、なぜわざわざコイツはいつもこんなおどけた言い回しを選ぶのか。
無論ゲララーは疑心暗鬼に駆られる目の前の男を安心させようとわざわざおどけているだけだが、ニダーにはその配慮は微塵も伝わらない。
「・・・・・・友達って、例えば誰ニダ?」
三度問うニダーは、ゲララーが何と答えるかは大体分かっていた。
分かっていながら、分かっているからこそニダーはそう問うたのだ。
「・・・・・・んー、そうさねぇ、モララーとか、ノーネとか、やっぱ面白ェやつがいいなァ。
 そういえば紅一点もいねーとな!花瓶チャンなんかは強いしかわいいし是非欲しいな!ぎゃはは!!」
いきなりゲララーとはあまり仲がよくない筈のクラスの知性派【男子20番】モララーの名前が出ることにニダーは驚きながら、
ニダーはまだ耳を傾け続ける。まだヤツの名前が出ていない。
「あとは・・・うん、やっぱりフーンもいねーとな」
きた。
ニダーは待ってましたとばかりに、大声で捲くし立てた。
「いや〜、アイツには近づかない方がいい二ダよ!ウリ見たぞ、あいつがチェーンソー操って人ぶった斬ろうとしてたのを!
 あんな冷徹非道な殺人鬼と組むなんて馬鹿げてるニダ!あいつは殺しのプロニダ!」
言ってやった、言ってやったぞ。
ゲララーの顔が驚きと不快感に歪むのをニダーは見たかった。
しかし、ニダーの期待する反応とは正反対に、ゲララーは高く笑い出したのだ。
「ぎゃっははははは!!な〜に言ってんのさお前!」
「は!?」
腹を抱えて笑い出すゲララー。今のウリの発言のどこに爆笑ポイントがあったニダ。
その心の声が聞こえたように、ゲララーはその答えを口に出した。
「馬鹿らしいぜぎゃはは!なーにが冷徹非道だ。なーにが殺しのプロだ。あいつは・・・俺達はただの厨学三年生だぜ〜?」
もっともらしい事を言う。確かにそうだとニダーは少し納得しかけたが、すぐに反論した。
「厨学三年生であろうと関係ないニダよ!あんたニュースとかは見ないニダ?最近この国ではやたら少年犯罪が流行ってるじゃないニダか。
 いくら若くとも、いや、若いからこそ人の死を何とも思わないんニダよ。まぁ確かにプロってことはないけれど、危ない奴なのは確かニダよ!!」
何でこんなに必死になってるのか喋ってる自分でも途中で思い始めたが、なんとか最後まで言い終え、ゲララーを見つめる。
ゲララーは少しだけ真顔になり、低い声のトーンで反論した。
「ぎゃはっ、そんな事はないさ。俺と奴は幼馴染だから、奴のことは誰よりもよく知ってるつもりだ。
 だから、奴がこのゲームに乗った理由ってのも分かる」

90 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/31(木) 20:01:28 ID:pQ0Zas4n
「このゲームに乗った理由?」
理由なんて分かりきってるだろう、早くお家に帰りたいからでしょ。とニダーは即座に思ったものの一応聞き返す。

「アイツ結構前に何かの事故で家族ほとんど亡くしてんだよ」
「へ?」

ニダーは思わず聞き返した。そんな話一度も聞いたことない。
このゲララーの事だ、所詮また冗談だろう?とは思いつつも、ニダーは耳に神経を集中させる。
「残ったのは妹だけさ。つまりフーンは妹と二人暮しで、一人で妹を養っているんだ」
気がつけば、ゲララーは真顔でまるで自分の事のように語っている。
そのせいか彼の話はひどく真実味を帯びてるようで、ニダーは次第に冗談だとは思えなくなってきていた。
風が木々を揺らす音が、ゲララーの話の雰囲気を演出している。
「フーンってば冷たい印象あるみたいだけど、妹から話を聞けば結構優しくて暖かいお兄ちゃんらしいぜ〜。
 喧嘩も基本的には正当防衛だし、相手をそこまでこっぴどく打ちのめす訳でもねーし、人殴るときも基本的に少し躊躇ってるみたいだし、
 冷徹非道なんてそりゃただの仮面だ。他のヤツらにナメられないための、な。くはは」
ゲララーの最後の笑い声は、なぜかひどく憂いに満ちていた。
重苦しい雰囲気が形作られる。次第に隣にいる男があのふざけたゲララーであることが信じられなくなってきた。
「妹のために、恐らくフーンは意地でも生還したいはずだ。生きるのに必死なんだよアイツは。恐らく、他の誰よりも」
そう言い終えると、ゲララーは深くため息をついた。
ゲララー越しではあるが、フーンのあまりに悲痛な生還の意志にニダーの心が突き動かされる。
何よりも生き残るべきはフーンなのではないか、一瞬だけでもそう思ってしまうほどだ。
「・・・・・ま、俺だって死にたくねーし生きてーからよー。フーンに会ってとりあえず説得くらいしてみるつもりだぜ。
 殺さなくてもきっと生き残れる・・・殺すならホントのホントに絶望してからにしようぜ・・・ってな。ぎゃはっ」
そう言うと同時にゲララーは立ち上がった。パッパッと尻に付いた砂やら虫やらを払い落とす。
ニダーも何となく立ち上がり、ゲララーと並ぶ。なぜだか、自分でも信じられないだろうがニダーは、ゲララーは近くにいなきゃいけないような気がした。
「さーて、体力も回復したし俺は友達探しもとい観光旅行を楽しむとしますかねー!ギャハハハ!!」
ゲララーはうーんと背伸びをすると、ゆっくり歩を進め始めた。
ニダーに向かっては何も言わないまま歩き始める事に困惑を覚え、ついていっていいのか、ついてきちゃいけないのか判断に迷う。
ニダーはゲララーの背中に向かって、勇気を振り絞って言った。
「ウ、ウリもついていっていいニダ!?」
言ってから、ニダーは少し後悔する。冷たく突き放される可能性に恐怖する。
ニダーの問いに、ゲララーは振り向かないまま手を挙げ、笑いながら言った。
「ぎゃはは、ご自由にどーぞ。ただ背後からザシュッ、は勘弁な!ぎゃははは!!」
ニダーの顔が綻ぶ。
先程まではあれほど不気味だったゲララーのおどけた態度が、今の二ダーにはとても心地よかった。
ニダーは足取り軽く、ゲララーの背中について歩き始めた。


「あはっ♪いた、いたァ・・・!」
怒りに燃える一人の女子生徒が、ゲララーとニダーの姿を捉えていた。
少し目を離せば消えてしまいそうなほどに離れている位置関係を縮めるために、
それでいて絶対に気づかれないように、女子生徒は小走りでゲララーの影を追う。
その手にはコルト・ガバメントが硬く握られている。
「ぜぇったいに逃がさないんだから・・・・・・殺してやる、殺してやるぞォ・・・・・・」
女子生徒は殺意の程を呟きながら、心の中で小さく唱えた。

今度は確実に殺せるように。自分が傷を負わないために。慎重に、慎重に。何十分使ってもいいからとにかく慎重に。隙を狙うんだ・・・・・・

「みるみるみるまら〜♪覚悟してなさいよお・・・・・・!」
【女子16番】みるまらは顔を憎悪と興奮に歪ませながら、ゲララーの影を静かに追っていった。

【残り34人】

91 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/31(木) 23:39:32 ID:L87gzL8a
【男子15番】野間ネコはすごく怖がっていた、木の陰に座り隠れていた。
野間ネコは学校でいじめにあっており、誰も信じられなかった。
彼の親は有名な画家で、彼自身そのことは誇りの思っていたし、自慢だった。
だがあろうことか親の作った作品が他の人の盗作だというがニュースになった。
それ以来、学校では、パクリ、インスパイアなどのあだ名を付けられ、彼は今まで築いた友達関係などが崩れ去った、
中には気を使ってくる人もいたけど本当に友達と言える奴が一人もいなかった。
そんな中、巻き込まれたこのプログラム、絶望だったほかの奴らがみんな敵に見えた。
ただ一人信頼できるしたらば先生も自分の目の前で殺され、絶望していた、
身を守るための武器の木刀も今まで聞こえた銃声の音を聞くと頼りなく見えた。

今までずっと隠れていたが勇気を振り絞り移動することにした、殺し合い中の風景とは
思えないほど静かだった、歩いていく内にいろいろと考えた、脱出の方法や見つかった時の対処法など考えたが、
不安は気持ちに押し潰されそうになっただが考えているうちに腹が減ってきた、デイバックからパンと水を取り出した、
パンは味気なく美味しくなかった。

92 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/31(木) 23:41:16 ID:L87gzL8a
少し休憩しているうちに物音がしたので、恐る恐る音がした方に行ってみると、
【男子16番】ジャスティスがグルグルと木の周りを回っていた、ジャスティスは言語障害で「モギャ−」としかしゃべれなかった、
それで最初のうちは野間ネコと同じくいじめにあっていたが、いじめた所でジャスティスは顔色一つ変えずにモギャーというだけだった、
そのうち自然といじめは無くなり、今ではクラスに馴染んでいた。
ジャスティスは成績も運動神経も並でただ必要最低限のコミュニケーションを取ろうとしないだけであった。

そのジャスティスが取っている行動はわからなかったが勇気を出して声をかけた。
「ねぇ何してるの?」
その呼びかけに対し振り向いたジャスティスが
「モギャ」
と返事をしたが、まだグルグル木をまわっていた。
「君は怖くないの?」
と声をかけたが返ってくる答えはモギャーだけだった。
敵意がないことを確認すると持っていた木刀を下げこういった、
「一緒に行動しないかい?」
というとジャスティスは木を回るのを止めるとジッとこっちを見ると
「モギャギャー」
と一言いうとこっちに近づいてきた。
「君の武器はなんだい?」
ときいたらデイバックからアイスピックを取り出しこっちに見せた。

93 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/08/31(木) 23:43:02 ID:L87gzL8a
これで話が通じていることを確認するとうれしくなった、
敵ばかりだと思っていたプログラムで仲間が出来たことが。
そしてウキウキしながら
「別の所に移動しよう」
といってジャスティスの方を見ると
「モギャー」
といった。

これに安心して後を向き歩こうことした時、突然右肩にすごい痛みを感じた、
何かと振り向くとジャスティスがアイスピックを突き刺していた。
あまりの痛みに木刀を落とした。
ジャスティスはアイスピックを引き抜くともう一度刺しに来たので、
急いで走りその場を去った。
野間ネコは本当に誰も信用できなくなった。

その場に残されたジャスティスは地面に落ちた木刀を拾い「モギャー」
と言いつつフラフラと野間ネコと反対に歩いていった。
【残り34人】

94 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/01(金) 06:40:45 ID:bL5nj2f3
目前の敵を目を細めて見据え、踵に力を込める。漆黒のボディに木漏れ日を映し込んだ自動小銃M16の銃口が火を噴く過程がはっきりと見えた。
瞬間、轟音と称するに相応しい音が周囲の空気を激しく叩く。銃口より噴き上がった炎の勢いに押されたように、グリップを握る手にとんでもない反動力が生じた。
右の二の腕の内部に鋭い痛みが突き刺さり、モネー(女子18番)は数発、弾丸を吐き出させると両腕を上に跳ね上げる。
上空には投げ出したM16がくるくると回転しており、溜め込んだ陽光を放出していた。場所はE-8。
すぐに目を振り戻したモネーが見たのは、先ほどフーン(男子17番)の隠れたブルーシートが穴だらけとなっている様子だった。  
「あ、あはは……」
随分と無骨な落下音を立ててM16が地面へと転がる。モネーは右腕の痛みを堪え、左手でそれを回収するとブルーシートの様子を観察した。
ブルーシートに空いた数箇所の穴からは煙が立ち込めているのが見えた。血が所々から飛び散っている。
はみ出た足は微動だにしていない。ブルーシートは作為的に掛けられたような感じで少し気になったが。
モネーは唇だけを開いて無言で微笑する。歯の隙間から熱い息が漏れた。
「そ、優勝するのはあたししかいないのよねぇ」
明るいトーンながらどこか物憂げに、モネーがそう呟く。長年支え続けたモネーのロジックが、彼女をプログラムの前より長年支え続けていた。

 ――あたしには何もない。だから奪っても罪にはならない。

モネーが育った環境は劣悪の極地だった。
父方の家は政府寄り、母方の家は反政府寄りだった。モネーの両親は、母が折れる形で半ば駆け落ち状態の入籍をした。
二人の愛は強烈なまでに深く、離れる事を選択できなかった末の結婚だった。これが全ての災いの始点となる。
互いの家に顔を出す事もなく、モネーは祖父も祖母も知らぬ子として育った。両親の真摯な愛情に包まれ、モネーは真っ直ぐな子に育った。
幼い日のモネーは人並み以上に恵まれていたに違いない。母方の両親が母を取り戻しに家に乗り込んで来た日がターニングポイントとなった。
怒鳴り散らす両親を強引に押し返す事はできたものの、その一部始終を団地の住人達に見られてしまったのだ。
反政府系の家と認識されたモネー達親子は自然と距離を置かれるようになり、時には酷い中傷ビラまで玄関に貼られた。
深夜、窓ガラスを割って石が飛び込んできた事もある。事情を知らぬモネーは得体の知れない恐怖に怯え、両親も必死に彼女を庇った。
しかし徐々に親子を蝕むストレスは、夫婦関係まで侵食し始めた。稼ぎに稼いで事情を知る者のいない場所へと引っ越そう。
モネーの父親は、その思いと共に会社で身を粉にして働いた。しかし管理職としての重圧と過労が精神をも追い込んでしまう。
我慢の限界。鬱積が爆発した時、父親の暴力圧制時代が始まった。既に父親は目指す先を見失っていた。
溜め込んだ衝動の反動は凄まじいものだった。母親の顔は痣だらけとなり、パートにも出られない顔へと醜く変貌してしまった。
それでも夫への愛を失わなかった母親は、離別よりも死別を選んだ。それでも家庭環境は変わらなかった。
絶望で曇った父の目には、妻のいまわの際の想いを解せなかったのだろう。受け入れきれなかったのかもしれない。
モネーは学校で蔑まれ、家では暴力を振るわれる毎日だった。幼い柔肌に固い拳が食い込む感触にはすっかり慣れ、モネーは感情すら麻痺してしまっていた。

モネーは懐から私物のバタフライナイフを取り出し、痙攣一つしないフーンの足をじっと眺める。起き上がる様子は見えない。
この銃の反動を考えると、ナイフで事が済む場合はそうするのが吉と察した。
男子生徒とは違い、腕力の無い自分では肩が外れるかもしれない。以前怪我した時の痛みによく似ていた。
ナイフを逆手に持ち直し、指でその部分をなぞる。
そこはかつて父に煙草の火を押し付けられた場所で、痕を隠す目的も兼ねてガラスの刺青を施している。
逆さまに彫られた滑稽な刺青で、服を着ている際は片足だけが首脇にチラリと見えるようになっていた。
心の傷まで消せないのはわかっているが、それでも。モネーは気付かねど、外見だけでも過去の面影を消したいという深層心理があるのだろう。
フーンへトドメを刺すべく歩き出したモネーの脳裏には、一家崩壊の瞬間が甦っていた。

95 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/01(金) 06:45:42 ID:bL5nj2f3
ある日、覚醒したモネーの前に血だるまの父親が転がっていた。

焦点の定まらない双眸も、半開きで硬直している口も、”死”を理解しきれなかったモネーにはただ奇妙なだけ。
死として認識できなかった。事件の真相は未だにモネーは聞かされていない。知ろうとも思わなかった。
ただ父方の両親、すなわち祖父と祖母に引き取られてから次第に、もう暴力狂の父に会う事はないのだと理解していった。
それに対して、今やモネーは何の感慨も湧かなかった。

荒んだ心で同級生と溶け込めるはずもなく、自然とモネーは孤立した。刺激のない退屈な学校生活に飽きたモネーは、その外へと居場所を求めた。
現在住地である場所は、数駅移れば刺激が豊富な繁華地だった。不法入国者、浮浪者、中には暴力団員や薬物中毒者までいた。
モネーは中学生にして港沿いの繁華地にある飲み屋に居候し、店長の情婦となった。ロリコン店長万歳。
自分同様、安穏とした生活を奪われた人々の体験談を聞くにつれ、いつしかモネーは人を騙す事を覚えた。
”奪う”手段はそれしかないと胸に刻んだ。そして奪われる物のない自分は恐れず攻めの一手を貫く事ができるのだと。
モネーにとって政府にべったりの祖父と祖母は目障りそのもので、家族という対象には到底捉えていなかった。
政府こそ家族を潰した原因で、それに無意識の嫌悪感があったのだ。
開眼したモネーの悪行は同世代の少年少女が絶句するレベルに達していた。
遂には居候先の飲み屋を店長もろとも全焼させてしまった。その際にモネーは下手な証拠隠蔽を行わなかった。
警察は少女がこのような凶悪犯罪を行うとは想像もせず、火元の管理ミスで事は片付けられた。
モネーには天性のセンスがあった。悪事を行う為のノウハウをたちまち吸収し、目立ち過ぎず裏でのみ相手から”奪って”いった。
最も明確な表現をすれば、自らが生きる為に人間の欲望という感情を貪欲に解析し、その操縦法を自己流で身につけたと言うべきか。

モネーはブルーシートのそばで足を止める。ナイフを臓器に突き立てれば全ては終わる。
直接相手に手を下した事はなく、寒気を受けているのは別に震えが生じるのがわかった。
フーンの出発前に数人、不良っぽい男子生徒が彼とアイコンタクトを交わしていた。フーンは不良仲間が多い生徒なのだろう。
「おやすみ。また来世」
大胆な弧を描き、モネーは右腕を振り上げる。それが頂点に達すると同時に両膝を落とし、ブルーシートを捲った。
そこに倒れていたのはフーンではなく、朝の放送でその名を呼ばれていたテナー(男子11番)であった。

 ――ウッソ!? 変わり身の術、みたいな!!?

「ふーん、いいもんもってんじゃん。」
頭上の木の上からフーンの声と共に木の葉が二、三枚落ちてくる。咄嗟にM16を向ける。
近過ぎた。銃撃という判断を選んだモネーの判断は、結果論としては失敗と称される事となった。
「だが、宝の持ち腐れだったみてぇだな!」
同時に上空から降ってきたフーンの踵が頬へとめり込み、モネーは呻き声を上げてM16を宙に放ってしまう。
「あぎぃっ!」
モネーの両足が地面から離れ、全身は遠心力に絡め取られる。
歯と血を散らしながら縦に高速回転する視界の中、首に伝わる凄まじい圧迫感がフーンの驚異的な腕力を象徴していた。
それは梃子の原理等の技術を抜きにした率直な力技で、状況を理解した次にはモネーの背中がテナーの横に叩きつけられた。
受け身が悪かったのだろう。くぐもった音と共に、右腕の骨が折れる感触が伝わってくる。
襟を掴まれて投げられたのだと理解した。これを片腕で行うには相当な力と瞬発力が必要のはずである。
驚愕している暇はない。今は数秒前と逆で、倒れたモネーが膝立ちのフーンを見上げる形になっていた。

96 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/01(金) 06:50:11 ID:bL5nj2f3
その上、モネーの額には奪われたM16が当てられている。
氷点下に近い気温にさらされた全身だが銃口を突きつけられた額だけは熱く、その高熱に痛みすら感じた。
額と銃口の隙間から細い煙が漏れている。声を発しようとしたが、間髪入れずにフーンが強烈な駆動音と共に右手を振り上げるのが見えた。
「じゃーな。また来世、てか?」
その理由に行き着く前にチェーンソーの刃がモネーの脳天に食い込んだ。

モネーの目は散大を始め、色合いを次第に濁らせていく。虚空に目を泳がせるモネーを、フーンが形容し難い複雑な表情で見下ろしている。
フーンはモネーの顔に右手をかざすと、死の恐怖により、見開かれたままの瞼をそっと閉じた。

ともかく。中学校の”ダークヒロイン”モネーは、序盤でその汚れし魂を天に還す事となった。
フーンが素早くM16をディパックに仕舞うとモネーのディパックからマガジンを移す。
それからチェーンソーを片手にディパックを抱えて立ち去る。
モネーの救いは最後まで自らを貫ききった事だろう。銃弾により永遠に意識を遮蔽されるまで死に抗い続けた事だろう。
例え血塗れの道と呼ばれようとそこにモネーの真実があった。奪う為に牙を剥き続けた事が、モネーの人生だった。 

「待ってろ。あと少しガンバりゃ、帰れる。」
フーンはフェルト製のお守り――妹が旅行前夜に作ってくれたものだ――を懐から取り出し、しばらく眺めてからその場を後にした。

時計は10時半を指していた。


モネー(女子18番)
フーンにより頭部損傷

【残り33人】

97 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/02(土) 01:05:41 ID:aZMXnP+d
【男子10番】ッパはF-10の図書館の外壁にもたれるように腰を下ろしていた。
【男子14番】ノーネに襲われてここまで全速力で逃げてきたのだ。息はぜぇぜぇとあがり、心臓の鼓動も異常なほど速くなっている。
もう誰も信用できない、誰も信用しちゃいけないんだ。誰も……
心の中で何度もその言葉を繰り返し、言い聞かせた。他人を疑う事を忘れたらすぐに殺される。畜生、死んでたまるか。
まだ荒れている呼吸を抑えるように、デイバックから水の入ったペットボトルを一本取り出し、ぐびぐびと飲み始める。
あっと言う間に1リットルペットボトルが空になってしまった。ああ、ちょっと勿体無い事したかな、と後悔したが、それどころでは無い。
前方に人影が見える。ッパと人影の距離は50メートルほど離れているため、誰だかはよく分からない。
ッパは立ち上がると、10メートルほど足音を立てぬように人影に近づいて、目を凝らしてもう一度よく見てみた。
セーラー服にスカート。女子の後姿だ。ベレー帽っぽい帽子を被っている。
あんな帽子を被ってる女子と言えば、【女子9番】じぃか【女子12番】づーくらいである。
何度も左右を見ながら前へと歩いている。警戒心が強いのか、それとも誰かを探しているのだろうか。片手に何か握られているようだが、よく見えない。
こちらには気づいていないようだ。
どうしよう、声をかけてみようか? また襲われたら怖いけど…。
いや、大丈夫だ。向こうは女の子なんだ。逃げられる。大丈夫、男の僕が女の子にナメられちゃ駄目だ。
強がっている自分がいた。
本当は心の奥底で誰かに縋りたい気持ちがあるのではないか。希望を捨ててはいないのではないか。いや、そんなことはどうでもいい。

ッパは足音を忍ばせ、その女子にゆっくりと近付いていった。
前方に見える女子の5メートルほど手前で、その後姿に向かって声をかける。
「あの…」
彼女がハッと振り返る。独特なマークのついた帽子にショートヘアの髪型。彼女の正体はづーであった。その表情は少々怯えているように見える。
そして、右手には鋭い刃がギラリと光る牛刀が握られていた。
「何、してたの?」
ッパが問いかけると、づーが答えるべきか、答えないべきか少し迷っていたようだが、口を開いた。
「つー、見なかった? 私ずっとその子の事探してるんだけど、見つからなくて…。」

【女子11番】つーといえば、女子にしては並外れた運動神経の持ち主で、男子でも彼女に敵う者はかなり少ないようだった。
つーとづーは親友同士らしく、二人は殆どいつも一緒にいるようだった。なるほど、通りでキョロキョロしてると思ったら。
しかしッパは数時間前にノーネに会ったきり、他には誰も見かけていなかった。

「ごめんね、ちょっと見てないな。」
ッパが答えると、づーは「そう。」とだけ言って、溜め息をついた。
「ところで、ッパ君の持ってるそれ、何…?」
づーは左手人差し指でッパの右手にぶらさがっているボウガンを指した。
「ああ、これ? 僕の支給武器なんだ。ボウガンって言うの? 危ないから矢はセットしてないんだけど…。」
「貸して。」

98 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/02(土) 01:06:22 ID:aZMXnP+d
え?

本当に唐突だった。
づーが続ける。
「私、つーに会わなきゃいけないの。つーと会って、私が守ってあげなきゃ。でも私こんな包丁一つしか持ってないでしょ?
 つーに会う前に私が殺されちゃったら元も子も無いから、だから、少しでも強力な武器が欲しいの。お願い。」
ッパは、つーの運動神経はづーよりも圧倒的に高いのだから、ほっといても大丈夫じゃないかと思った。
どちらかというと、づーがつーを守るというより、づーがつーに守られるといった方が似合ってるんじゃないかなぁ。
いや、そんな事考えてる場合じゃない。何を言ってるんだこの子は。数時間前、ノーネと話していた時と同じような嫌な予感がする。
「それはできないよ。使わないかもしれないけど大事な武器を渡すわけにはいかない。僕だって死にたくないんだ。」
その言葉を聞いたづーは驚いたような顔をすると、顔だけを下に向けてぶるぶると震え出した。表情がよく見えない。
「づーさん…?」
途端、づーがッパにくわっと向き直り、牛刀を胸の前に構えた。その物凄い形相を見て、ッパは背筋が凍りついてしまった。
「あなたそれでつーを殺す気なんでしょ!? だから渡さないんでしょ!? 私はつーに会いたいんだ!!
 私とつーの再会を邪魔する奴は誰だろうと殺してやる! ぶっ殺してやる!!」
づーがとんでもない事を言い出した。
「違う! 僕はそんな事…!」
ヤバイ。この女はヤバイ。逃げなきゃ、早く逃げなきゃ!
ッパが一歩後退るとほぼ同時に、づーが奇声を発しながらッパに向かって突進し、その胸に向かって牛刀を突き出してきた。

「うっ!」
反射的に右に飛んだため胸への直撃は免れたが、左腕をさっくりと斬られてしまった。破けた学生服から血が滲む。
勢いをつけすぎたのだろう、づーが前のめりに倒れる。その隙にッパは全速力で駆け出した。ああ、走ってばっかりだな僕。
振り返るとづーが立ち上がり、こちらを追い掛けて来ている。殺人鬼顔負けの形相だ。
どこか隠れる所を探さないと本当に殺される。ああもう、何で皆僕ばっかり狙うんだよ。
ッパは前方にある森の中へ迷わず駆け込んで行った。
10秒ほど遅れてづーもその森に辿り着く。しかし、辺りを見回すがッパの姿は見当たらない。
「うわああああああ!!! どこだぁ!! 出てこい!!」
づーが叫んだ。しかし、殺されるかもしれないのにそう易々と出てくる馬鹿はいない。

あいつを生かしておいたらつーが殺されちゃう! 早く見つけて殺さないと。早く早く。
つー、今どこにいるの? 会いたいよ、会うまで死ねない。絶対に死ねない。私の邪魔をする奴は全員殺す。
つー、あなたは私が守ってあげるから。絶対に死なせない。困った事があったらお互い助け合おうって約束したよね。
待っててねつー、今みんな殺すから。二人で生き残って、一緒に帰るんだよ。

づーの理性は崩壊していた。今の彼女の目は狂人の目そのものであり、つー以外のクラスメイトは二人の再会を邪魔する障害物にしか見えなくなっていた。
彼女はつーとの感動の再会の瞬間を想像し、不気味な笑みを浮かべながらE-10の森の奥へと足を踏み入れていった。

【残り33人】

99 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/02(土) 01:20:27 ID:ha12JUGF
薄く広がった雲と混在する灰色の空には、その働きを淡いフィルターで半減させられた太陽が浮かんでいる。
雲の隙間から漏れる光芒――太陽の光は、放射線状に空から地上へと下っており、まるで死者を導く天界への階段にも思える。
しかしその下では生ける死神達の企画した、神も仏もないデスゲームが大好評開催中である。泣けど喚けど、死は黙々とその距離を縮めてくる。
空の景色は次第と流れ、やがて黒く濁った積雲が太陽を覆い隠す。光の筋も吸い込まれるように雲の隙間に収納されていった。
救いの階段は閉ざされた。そんな不吉なイメージを浮かべつつ、ショボーン(男子7番)は口を開いた。
「見付からないね。」
「命がかかってんだ、誰だって慎重だろう。」
ショボーンの脇の木に寄り掛かるモララー(男子20番)が、幅の広い肩を揺らして苦笑した。
飴玉が歯に当る、カラカラという音が小さく口中から響く。

モララーが暇潰しがてら地図を眺めており、ショボーンもそれに倣う。
仲間が潜みそうな場所は数箇所あるが、やる気の生徒が血気盛んな目で手招きしている可能性も否定できない。
扱い辛さが際立つ自らの支給品357マグナムを横目で見ながら、静かに鼻で嘆息する。
モララーの所持する支給品は日本刀で、マシンガン相手ではどうも分が悪く、どうにも派手に動く事ができずやきもきする。
ましてやマシンガンがあのフーン(男子17番)の手にに落ちたとすればそれこそ悪夢である。
「廃墟の割には綺麗でよく整備された場所だな」
切迫した状況に似合わぬ、極めて雑談的な話をモララーが振ってきた。
首を向けたショボーンの表情が不思議そうに見えたのか、モララーが言葉を継ぎ足す。
「硬くなったままじゃこっちが参っちまうぜ?」
立てた親指で自らの心臓付近を突付き、顔の作りとマッチしないやや無邪気な笑みを見せた。
地図を手元からずらし、視線を足元の黒土へと向けている。単に俯いているよう見えた。
「……少し焦げ臭いな」
突然モララーが険しい双眸を持ち上げ、場の空気がにわかに穏やかさを失う。上空の太陽は、丁度黒い積雲の中央に存在しているようだ。

臭気の元は三分とせずに姿を現した。先ほどまで潜伏していた神社の北東の林では、黒煙が立ち込めていた。
まず発見したのはブルーシートの上に寝転がるモネー(女子18番)の遺体だった。
しかし、それは焼けた形跡は一切無く、臭気の元とは違う遺体だった。その奥、なにやら引き摺った跡がある。
辿って行った林の一角、焼け跡と表現するより他ない場所あり、それに頭を着ける形で一体の”炭人形”が転がっていた。
すえた臭気は炭人形から発せられており、日頃、料理をすることの多いショボーンは、それが肉の焼ける臭いだと理解できた。
この”人形”は紛れもなく、生徒のなれの果てなのだ。
「…畜生…一体誰がこんな…!」
さすがに打ちのめされた表情をみせるモララーが、焼死体の検死を始める。
亡骸は文字通り黒焦げだが原型は留めており、体格的にはテナー(男子11番)あたりに思えた。それにテナーは退場済みだ。
「死んでる男子生徒の中だと、テナーだろうな。」
「……まだ燻ってるあたり、ついさっきまで燃えてたんだよ。きっと。」
ショボーンが静かに答えた。テナーの体中には銃創があり、ここで銃撃を受けた事がわかる。
この場所はショボーン達の潜伏場所からごく近場で、つい先ほど銃声があった付近だった。
一刻も早く、このプログラムをどうにかせねば。そんな思いが逸り、ショボーンはテナーの(物と思われる)遺体に手を合わせるモララーの肩を掴んだ。
脱出策を所持しているというモララーから、いい加減その方法だけでも聞いておきたかった。
また心を透かしたのか、モララーが無言で振り返った。その背中向こうでは、焦げた林の一角が闇のように広がっている。

100 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/02(土) 01:22:15 ID:ha12JUGF
「モララー、例のだっ……」
「危ない!」
第三者の声が林に響いた。モララーの物と聞き間違えようがない、はっきりと異なったその声。それは聞き慣れた声だった。
刹那、突き刺さるような殺気を覚えて振り返ると、突撃銃を構えた人影が約十メートル後方の木の上に直立していた。
その奥のぎらついた視線はショボーン達をその命ごと呑み込まんと鋭い輝きを発している。
即座にショボーンがベルトにさしてあった拳銃を抜き出し、数発発砲するが、あっさりと木を盾に避けられてしまう。
直後、金属音が届き、襲撃者の左腕に抱えられたの突撃銃の中心に炎が灯った。ショボーンとモララーは分離するように左右へと散り、遅れて発砲音が木霊する。
死を紡ぐ銃弾は既に死した炭人形へと着弾し、朽ち掛けたその胸部を抉り飛ばす。ゼラチン状に固まりかけた血液が、ごぽっと大ぶりの泡を胸の上で弾けさせた。
前方一回転して起き上がるまでの過程で、ショボーンは場に存在する全ての人物を視界に捉えた。

自分を除く四人の生徒の中、目下注意すべきは――

「手前等は本日初のお客だ。派手に歓迎してやんぜ?」
左腕にM16、右腕にはチェーンソーを携えた彼とは遭遇したくは無かったが、ともかく。
殺意の炎を瞳にこめたフーン(男子17番)を、ショボーンはじっと見詰める。357マグナムを握る手が、滲んだ汗でずるりと滑った。
それを視認したフーンが、嘲笑うような表情を浮かべた。
テナーを焼き、囮として利用したとはショボーン達は考えもしなかった。

【残り33人】

101 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/02(土) 01:26:28 ID:ha12JUGF
発砲音が響き、フーン(男子17番)の手元から禁断の閃光が迸った。
伸ばされた手の延長上、モララー(男子20番)とショボーン(男子7番)が跳躍すると同時に彼らの背後で土飛沫が上がった。
「ん?」 
フーンがM16を真横に振りながらこちらを一瞥した。
内面から噴出されたのであろう赤く禍々しい光がフーンの瞳に宿っており、ガナー(女子7番)が身じろいだ拍子に背後のモナー(男子19番)に接触する。
フーンがM16を構え直すのが見え、ガナーが咄嗟にモララー達の元へ行かんと自慢の健脚に力を込めた。
「駄目モナ!」
静かなれど強い口調で声が響き、腕が掴まれる。逸る心でモナーを見上げ、彼を睨み付けた。
「お兄ちゃんは友達を見殺しにするの!?」
ガナーは涙混じりに懇願した。モララー達が殺されてしまう、その一心で急いた。叫ぶと同時に銃声が響き、ガナーは視線をモララー達へと振り戻す。
腕を拘束したまま、背後のモナーが言った。
「そんなことはしないモナ。とりあえずもちつくモナ。」
それでガナーは察した。腕を掴むモナーの手の震え、振り返った先の彼の表情に宿る悲哀の色から伝わる妹への想いを。
モナーは助けてくれた。死を前にした戦場で、捨て身の覚悟でガナーを助けてくれた。どれだけ感謝しても足りない。
その前で今自分は何を叫び、何をしようとしたのか。拭えぬ罪を背負ったかのような背徳感がガナーを襲う。
「あ、あたし……」
「いいから、しっかりするモナ」 
毅然としつつも優しい声が、ガナーの胸を強く打つ。我を忘れモララーを守ろうとしたガナーの行動に、肝を冷やした事だろう。
しかしモナーはそれを抑え込み、ガナーを支え続けている。

眼前ではフーンがショボーンの銃撃を避けつつM16を乱射している。ガナー達には最低限の注意を払うのみで、あまり気に留めていない様子だ。
モララー達は木を陰に防戦一方で、時折こちらを窺っている。逃げればガナー達が狙われると危惧しているのだ。
「お兄ちゃん、あたし、行って来る!!」
ガナーが言うと同時に横に幅広く口を広げ、深呼吸を行う。ガナーの肩が沈んだ時、丁度フーンがモララー達へと発砲した。
彼の肩が跳ね上がるのに合わせてモナーの腕を振りほどき、ガナーが駆け出す。凄まじい反応でフーンの体がこちらへと向く。あと三、ニ、一メートル。
両者の距離は約八メートル。フーンの目が爛々と輝いていたけれど、ガナーの双眸もそれに物怖じしない強い色を灯している。
フーンの左手とM16も、ガナーへと照準を合わせる。ガナーは短く吐息し、右腕に力を注ぎ込んだ。
「食ぅらえぃ!!」
ガナーが声を張り上げ、振り被った右腕をフーンに向かって思い切り振った。
ガナーは体を泳がせ、モナーの横へと倒れ伏した。

【残り33人】

102 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/02(土) 01:32:08 ID:ha12JUGF
今や耳に馴染み、一撃で容易く背筋と空気を震わせる破裂音。
この音が会場に響いた際は、高確率でクラスメイトが現世から離脱するという現実は、誰もが暗黙の了解として認識し始めている。
その音が立て続けに5発。銃声の重奏は、圧倒的な脅威をモララー(男子20番)達に与えた。
弾丸の出血大サービス放出は、すなわち生徒も体内より出血をサービスする事となる。

斜め向かいに茂る緑の群れから飛び出してきたモナー(男子19番)の姿を捉えた時、既に彼は跳躍していた。
モララーに向けられていたフーン(男子17番)の銃口は、ガナーの特攻と共に照準を彼へと変更させていた。
初撃は既に放たれ、フーンがその身を軽やかに回転させながら照準を合わせ直すのが見えた。
はたして、殺意の鉛玉はガナーの命を削り取ったのだろうか。臓器を直接掴まれたような危機的感覚に陥る。
ガナーの危機が正に己のそれのように五感が覚えているようだった。しかしそれを自らに詮索している場合ではなかった。
「おっと、なんだ?火炎瓶かよ。」
驚いたのは火炎瓶がガナーの手から放たれる前には既にフーンが木の上から飛び降りていた事だ。
ガナーの捨て身の特攻は失敗に終わってしまうのか。モララーはこれが好機とばかりに支給品の日本刀を構え、構え直すと駆け出した。
合わせて5発の銃声が響いたけれど、それはいずれもモララーではなくガナーの背後からフーンへと飛び掛ったモナー(男子19番)へと放たれたものだった。
「あ、ああ、お兄ちゃん!!」
モナーの呻きと共にガナーの絶叫が木霊する。
フーンの銃撃がモナーの左肩を抉り、モナーはフーンの数メートル前へ突っ伏した。モナーの突進が直線的過ぎたのだろう。
時間にして僅か数瞬の出来事だったが、確かにモララーの視界には人の体を銃弾が突き抜ける様がコマ送りで映し出されていた。
テレビのドキュメンタリーで放送される過激シーンなど、所詮はガラス向こうのデジタル画像に過ぎないのだと思い知らされた。
モナーの肩から血が噴出し、彼の制服をドス黒いまだら模様に染める。

その一部始終を見送り、最初に覚醒したのはモララーの真横、木を盾に隠れていたショボーン(男子7番)だった。(顔が顔だけに今はシャキーンというべきか)
飴を噛み砕く音に続き、口から棒を吐き出すと、木陰から飛び出し、銃口をフーンへと向け、装填されている最後の一発を発砲し、またすぐに木陰へと身を隠す。
フーンの銃口も即座にショボーンへと向き、M16が硝煙を横に残しながら、新たな炎を噴き上げた。ショボーンの隠れる木の幹が削れる。
幸い両者共に銃弾は命中しなかったようで、続くM16の空撃ち音が更なる追い風となった。ショボーンが加速を付けてフーンへと迫る。
必殺の間合いに到達しようとしてる二人へと、再度モララーも駆け出しはじめた。横目で窺った先、悲痛な表情で左肩を押さえるモナーが見えた。
しかし今は彼を気遣うよりも、フーンを止める事が彼を含む自分達の安全に繋がる。判断を誤れば死ぬ。集団戦での心構えは喧嘩で経験済みだった。
「おっと、もうパーティの時間か?」
嘲笑と共にフーンが思い切り良くM16を手放し、チェーンソーを両手で強く握り締めるのが見えた。
「モララー、やばい!」
言葉尻は例の機械的咆哮に飲み込まれる。線香花火を連想するオレンジ色の火花を散らし、遂にあのノコギリ刃が高速回転を開始した。
意を決したモララーとショボーンの両者が、躊躇う事なくその懐へと飛び込んでいく。
モララーがフーンの両手首を両手で押し留め、ショボーンが渾身のタックルを緩い腹部へと食い込ませてみせた。
フーンの体はモララーの肩を軸に回転し、手放されたチェーンソーは地面へと落ちる。
それは倒れ込む二人の脇で空運転のレコード宜しく、無意味な回転と共に周囲の草を刈り始めた。ミステリーサークルの原因はこれだったんですね、先生!
形勢逆転の四文字が頭の中で閃光の如く駆け抜けた。この隙にショボーン、もしくはガナーがチェーンソーを回収すれば。しかし、その考えは直ちに覆される。
フーンが回転しながらもモララーの制服を掴み、反動を利用して横へ派手に投げ飛ばすと、彼を尻目に前方へと跳躍するのが見えた。
チェーンソーを拾い上げようと近寄るショボーンの背を擦れ違い様に鷲掴みにし、後方へ投げ飛ばすと、ぐるぐると猛威を振るうチェーンソーの軸をジャンプ一番掴み取り、着地した時には握ったそれを両手で振り上げていた。
香港アクション映画スター真っ青のアクション。モララーも受身を取り、横転する体を止めると、日本刀を正眼に構え直す。

103 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/02(土) 01:38:49 ID:ha12JUGF
発砲音が響き、フーン(男子17番)の手元から禁断の閃光が迸った。
伸ばされた手の延長上、モララー(男子20番)とショボーン(男子7番)が跳躍すると同時に彼らの背後で土飛沫が上がった。
「ん?」 
フーンがM16を真横に振りながらこちらを一瞥した。
内面から噴出されたのであろう赤く禍々しい光がフーンの瞳に宿っており、ガナー(女子7番)が身じろいだ拍子に背後のモナー(男子19番)に接触する。
フーンがM16を構え直すのが見え、ガナーが咄嗟にモララー達の元へ行かんと自慢の健脚に力を込めた。
「駄目モナ!」
静かなれど強い口調で声が響き、腕が掴まれる。逸る心でモナーを見上げ、彼を睨み付けた。
「お兄ちゃんは友達を見殺しにするの!?」
ガナーは涙混じりに懇願した。モララー達が殺されてしまう、その一心で急いた。叫ぶと同時に銃声が響き、ガナーは視線をモララー達へと振り戻す。
腕を拘束したまま、背後のモナーが言った。
「そんなことはしないモナ。とりあえずもちつくモナ。」
それでガナーは察した。腕を掴むモナーの手の震え、振り返った先の彼の表情に宿る悲哀の色から伝わる妹への想いを。
モナーは助けてくれた。死を前にした戦場で、捨て身の覚悟でガナーを助けてくれた。どれだけ感謝しても足りない。
その前で今自分は何を叫び、何をしようとしたのか。拭えぬ罪を背負ったかのような背徳感がガナーを襲う。
「あ、あたし……」
「いいから、しっかりするモナ」 
毅然としつつも優しい声が、ガナーの胸を強く打つ。我を忘れモララーを守ろうとしたガナーの行動に、肝を冷やした事だろう。
しかしモナーはそれを抑え込み、ガナーを支え続けている。

眼前ではフーンがショボーンの銃撃を避けつつM16を乱射している。ガナー達には最低限の注意を払うのみで、あまり気に留めていない様子だ。
モララー達は木を陰に防戦一方で、時折こちらを窺っている。逃げればガナー達が狙われると危惧しているのだ。
「お兄ちゃん、あたし、行って来る!!」
ガナーが言うと同時に横に幅広く口を広げ、深呼吸を行う。ガナーの肩が沈んだ時、丁度フーンがモララー達へと発砲した。
彼の肩が跳ね上がるのに合わせてモナーの腕を振りほどき、ガナーが駆け出す。凄まじい反応でフーンの体がこちらへと向く。あと三、ニ、一メートル。
両者の距離は約八メートル。フーンの目が爛々と輝いていたけれど、ガナーの双眸もそれに物怖じしない強い色を灯している。
フーンの左手とM16も、ガナーへと照準を合わせる。ガナーは短く吐息し、右腕に力を注ぎ込んだ。
「食ぅらえぃ!!」
ガナーが声を張り上げ、振り被った右腕をフーンに向かって思い切り振った。
ガナーは昇る硝煙を見詰めながら体を泳がせ、モナーの横へと倒れ伏した。

【残り33人】

104 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/02(土) 01:43:59 ID:ha12JUGF
>>102のつづき

鬼気迫った表情の両者は、遂にモララーが刀の届く間合いにまで達していた。
遅れる事なく刀を、フーンに合わせて振り上げる。
二つの刃が激しく激突し、しかし回転に圧されたモララーの刀は弾かれ、手放す事はなかったがバランスは崩さざるを得ない。
やや離れた間合いから、今後は横薙ぎにフーンが刃を振るってきた。耳障りな駆動音がまたも接近してくる。
こういった接近戦での順応能力は、フーンが上手だった。命を奪う事に躊躇いを見せないフーンにアドバンテージがありそうだった。
「ちっ!」
バックハンドからの不利な対応となったが、モララーは懸命に反応してみせた。柄を握る手に渾身の力を込める。
再び鮮烈な金属の衝突音が響き、今度はフーンもよろめいた。刀に腕を持っていかれそうになれ、手放すのを堪えた事で、大きくバランスを崩したらしい。
一方のモララーも無理な体勢からの斬撃により、再び膝を折りかけた。視線の先で起き上がりつつあるショボーンへと言葉を発した。
「モナー達連れて逃げろ!」
すぐに視界にフーンの姿を捉え直す。その斜め後ろを影が横切ったのを認め、小さく安堵の息を吐く。
「っしゃぁー!!!」
フーンが鬼神の如き咆哮と共に、チェーンソーを異様な速度で振り回し始めた。チェーンソーの唸りが広く左右に流れ、残像まで見えてくる。
フーンと刃の回転を合わせた二重の風圧がモララーにかかる。最早、ショボーン達の発する物音にまで神経を配る余裕はない。
一見やけっぱちに見える行動を始めた時のフーンは、それこそ手の付けられない強さを発揮するのだ。
「うぉらぁぁっ!!」
突然フーンが片手をチェーンソーから放し、リーチの伸びた刃がフーンの鼻先を掠める。鼻の斜面に真一文字の熱を覚え、また背筋が震え上がった。
「――の――ょだよ!」
ショボーンが何事か言葉を発したようだったが、極限まで高めた集中力のほぼ全てをフーンに投じている今、それは聞き取る事が叶わなかった。
その間もフーンはエックスを描くようにチェーンソーを振るい続けている。あれだけ使い手を選ぶ武器に早くも順応する彼に驚きを覚え、同時に長期戦の不利を改めて予感した。

強い一閃がぶつかり合い、弾かれた二人が距離を置く。驚いた事にフーンが一歩後退し、肩の力を緩めてみせた。
それでモララーもショボーンのいたほうを見やり、木々の隙間へと消えかけている三つの背中を確認した。先ほどよりも深い息が漏れる。
不意に喉からの笑い声が届く。モララーの動作を見たフーンのものだった。肩を激しく上下させて笑っている。
「手前…何がおかしい!」
モララーの質問にフーンは歯を見せ、また粘着質な笑いを漏らす。
「ふーん、やっぱお前ってとんだ御人好し野郎だな?」
その眼光には再び憎悪の輝きが宿り始めている。一分たりとも油断できない。
「他人のためなら自分の事なんてどうだっていいんだかんな、テメーは」
力一杯振られたフーンの一閃を受け、飛び退く。フーンは刃の回転を止めているチェーンソーを肩に立て掛け、ふてくされたような表情で唾を吐き落とした。
やはりフーンの殺意の炎は全く鎮火の気配を見せない。

 ――自分が何をしてるか分かってるのか、お前は?

眼前の殺戮マシーンは、確かにかつてクラスメート達と共に時間を積み重ねたフーンなのだ。悲しいが、認めざるを得ない。

>>103 重複スマソ

105 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/02(土) 01:47:26 ID:ha12JUGF
モララーの心を読み取ったようにフーンが凶悪な微笑を浮かべ、嫌にドスを利かせた声を発してきた。
「俺は手前と違って」
言葉の途中でフーンが身を屈め、既に回転を失ったチェーンソーを地面へと解放した。
左手に四角い小箱が見え、その正体に思い当たった時には彼の腕が足元のM16へと伸びていた。
全てを察したモララーはディパックも手繰らずに踵を返し、全力疾走を開始した。
手放す際、既に現役マガジンを落としていたのだろう。背後でM16へとマガジンがはめ込まれる、カシンという音が響いた。
「死ねねぇ理由があんだよぉ!!」
その声と同時に銃声が鳴り響き、モララーの脇を鋭い風に包まれた銃弾が駆け抜けていく。
モララーは腕を力一杯振り、俊足のフーンを振り切るべく猛加速を試みた。前傾し過ぎた体がバランスを崩し掛けたが、踏み止まって更に強く地面を蹴る。
銃口に背中を向けての全力疾走は、さすがに未体験クラスの恐怖を覚えた。僅か数メートルの距離ですら、途方もない時間を要しているように錯覚する。
背中や足に数発、何かが食い込む感触と激痛を覚えたが、気にしてはいられない。致命傷でもなければいちいち気にしてられない。
林を突き抜けた時、既に背後の殺意は消え失せていた。現れた家屋の背後に身を隠し、息を荒げたまま倒れ込む。どうやら逃げ切る事ができたようだった。
冷たい壁に血に染まる背中を着け、息を空へと昇らせる。その中にモナー達の顔が浮かんで消えた。
「ってぇ……よく生きてられたよな…俺も、みんなも…」
呟いてから、フーンの台詞を思い出した。
『俺は手前と違って――死ねねぇ理由があんだよぉ!!』
「……妹、だよな。きっと。」
フーンが4対1という圧倒的劣勢を覆した戦闘力の理由はそこにある。あえて肯定してみせた。
昂ぶる気持ちの整理には、いま少し時間が必要そうだった。もし、あそこでモナー達が現れなかったら。
もし、ショボーンが居なかったら。嫌な汗が体中から滲み出てくる。

フーンがマニー(男子18番)との対峙により、『躊躇』の二文字を心から失ったという事をモララーは知らない。


【残り33人】

106 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/02(土) 02:11:32 ID:VUNKEixA
【女子20番】リル子は、朦朧とする意識を引き締めるようにブローニングを硬く握り締めた。
【男子17番】フーンの持つ大刃に切りつけられ激しく損傷した肩から腰にかけては、今だ刺すような痛みがジクジクと張り付いている。

――どいつもこいつも・・・・・・!

手傷を負わされ、獲物を逃がし、プログラムが始まってから失態ばかりを繰り返してきたリル子のプライドは今やズタズタに引き裂かれていた。
元よりリル子はプライドが高い人間で、常に人の上に立つ事でその有り余るプライドを保ってきた。
そうして守り通してきた傷一つないプライドに、このプログラムは、
勝手にも土足でズカズカと入り込み、荒らし回り、傷つけていく。
その傷は、時間などという効き目の薄い薬では到底治しきれないほどに深く、
プライドを取り戻すにはヤツラを惨殺する事、ひいては人を殺す事でしか取り戻せない事をリル子は理解した。

傷のせいで大きな動きが出来ないリル子は、いまだE−3の公園の身を隠すには十分すぎるほど高く生え揃った茂みの中で獲物を待っている。
時計は10時40分を指している。朝日が完全に空に昇りきり、陽光のシャワーが空間に降り注いでる。
そのシャワーを浴びながら、一人の男子生徒が公園に踏み込むのを、朦朧とした意識の中リル子は目撃した。
ガナーに逃げられてから約5時間。まさに5時間ぶりの生徒との遭遇に、そして何よりプライド修復の機会に、リル子の胸が躍った。
そしてその男子生徒の姿が、更にリル子を喜悦の高みへと至らせた。
クラスのお坊ちゃまの【男子18番】マニー。取るに足らないにも程がある相手だ。
だが、右手には大振りな銃器がひしと握られている。これは厄介だ。
リル子はすぐに飛び出て銃を撃ちまくる作戦から、慎重に隙を狙う作戦に変更した。
隙を狙えば、いくら強い武器を持っていたとしても取るに足らないはずだ。相手が銃を使う前にドン、ドン、ドン。これで仕舞いである。
それにマニーという人間を考慮すればなおさらだ。あの銃器を彼が人に向けて撃つとは考えられない。
少なくとも撃つ際には迷いが生じるはずだ。リル子は自らの圧倒的有利を確信した。
まぁただ一つ問題があるとすれば、この美少年を躊躇いなく殺せるか、だが・・・・・・
リル子は不良であろうとも、その感性や価値観は一般女子と特には変わらない。
彼女もクラスの大半の女子と同じく、マニーの未熟で清楚な顔に憧れを抱いていた。
ただリル子に限っては、クラスの大半の恥知らずの雌どものように表立ってマニーを崇拝する事はない。あくまで陰から見るだけだ。
それもリル子の高いプライドのせいと言えよう。

汗で濡れる手でしっかりブローニングのグリップを握り締める。
乾いた唇を舌で溶かしながら、リル子は茂みの草の間からマニーの動向を伺った。
それなりに警戒しているようで、キョロキョロと辺りを小さく見回している。
何もないことを確認したのか、先程よりも軽い足取りでこちらに向かって歩いてきた。
気付かれたのか、と一瞬思ったものの自分自身に有り得ないと諭す。
ともかく動揺して物音を立てないように、息を殺し全身に神経を張り巡らせる。
気付かれた、この不安は全くの杞憂であった事を、次のマニーの行動が知らせた。

ブ、ブランコ?


107 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/02(土) 02:13:10 ID:VUNKEixA
ディパックを隣に置き、床を蹴りゆっくりとブランコを漕ぎ始めだしたのだ。
鳥のさえずりが響く朝の静かな公園に、なんとも侘しい鎖のきしむ音が追加される。
リル子は少しだけ戸惑ったが、すぐに暢気なマニーの行動にプッと小さく吹き出した。
――馬鹿じゃないの?
気を落ち着けるためであろう事は分かるが、暗殺者に背中を向け、全く無防備にブランコを漕ぐ図は異様に馬鹿らしい。
何も知らずにブランコを漕ぐ目の前の少年は異様に滑稽で、リル子は可愛らしいとも思ってしまう。
た、だマニーの今乗っているブランコは背もたれのあるタイプで、晒されているのは後頭部のみの上に常に動いているので実際には非常に狙いにくい。
リル子はもう少しだけマニーの様子を伺うことに決め、ブローニングを下げた。
素朴な音が延々と木霊する。
ブランコを漕ぐ少年とそれを陰から見守る少女。最低限の状況だけを抜き出せば何ともほのぼのとしたシチュエーションだ。
少しだけリル子の心が和む。和んだ心は、幼少に家族と公園で遊んだ記憶を蘇らせた。
そういえば私もブランコが好きだった。揺られながら目を瞑るとさながら無重力空間にいるかのような感覚を覚え、それがたまらなく心地よくてたまらなく好きだっのだ・・・・・・
感慨に耽るリル子はふとわき腹の痛みを思い出す。グロテスクな赤い傷跡が痛ましく、ジクジクと疼く痛みがリル子の涙腺を刺激する。
ふと一滴の涙が目から零れ落ちた。涙を滴らせたのなんて何年ぶりだろう。
なんで、こんな事に・・・・・・

「撃ちなよ」

!?

少年の声が「撃ちなよ」と告げた。
その声はまさしく聞きなれたマニーの物であり、そしてそれはリル子に向けられた言葉であることを彼女は瞬時には理解できなかった。
それと同時の事だ。マニーの首がぐるりと回転し、こちらの方角を見つめる。
いや、リル子を見、そして・・・・・・小さく微笑んだのだ。
「うっ」
傷跡が疼くほどの心臓の高鳴りがリル子を襲う。マニーの微笑みの奥に潜む底なしに不気味な何かが、リル子の背筋を嘗め回した。
リル子は考えるよりも反射的に立ち上がり、ブローニングをマニーの頭目掛けて撃った。

ドン、ドン

銃声が二つ。その直前に、マニーが瞬間的にブランコを後ろ足で蹴り上げる様子をリル子は目撃した。
ボスッ、ボスッ、と程なく銃弾を受け止める音が響く。
ブランコの背もたれに弾が当たったのだ、と理解するよりも先に、マニーが凄まじい踏み込みでこちらに近づいてきている事を理解した。
――なに?なに?なんなの、なんなの!?
ブランコを後ろ足で蹴り上げ銃弾を防ぐ。なんという離れ業――・・・・・・いや、離れ業というよりは運任せのバカ業だ。
それを何でこの目の前のお坊ちゃんは。リル子の頭を困惑がかき乱す。
「このぉっ!!」
ブローニングをマニーに向けようとすると、いきなりマニーは小さく跳躍し、ブランコの後方の柵に足をかけたと思うとそれを利用して高く跳躍した。
飛ぶマニーにブローニングを狙い直す暇もなく、リル子の目の前にマニーが着地する。
困惑に澱めくリル子の目をマニーはまっすぐ見据えながら、ニコリと小さく微笑んだ。
「うっ・・・・・・」
「あはっ、残念だねリル子サン」
突然マニーの手が伸びてきてリル子の手首を掴んだ。ブローニングを握る方の手だ。
マニーの細い親指がリル子の脈を締め上げる。鈍い痛みが手首を痺れさせる。
「い、痛い痛い!こ、このォ・・・・・・!」
何とか引き剥がそうと、もう一つの手でマニーの腕を掴むリル子。
と、そのマニーの腕の感触に、リル子は強烈な違和感を覚える。


108 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/02(土) 02:15:23 ID:VUNKEixA
岩のように固く、それでいて絞り雑巾のように引き締まっているこの感触。これは、間違いなく筋肉だ。
それも、自然に付く筋肉などではない。相当鍛えねば身に付かぬ類の筋肉の感触。
リル子は中学生の頃に人づてで、有名なボクサーの腕の筋肉を拝見し、触らせてもらったことがあったが、
マニーの腕の感触は、その感触と酷似していた。
この子は大富豪の御曹司で・・・・・・ただのお坊ちゃんだったはず。なぜ、こんな――!?


マニーの腕が一瞬鉄のように固くなる。
「うぎゃ!!」
脈が握りつぶされたように強く圧迫され、手が自然とその腹を見せてしまう。
ブローニングが取り落ち、マニーの手に渡った。
「あはっ♪やっと銃器手に入ったよォ!」
嬉々とする彼のその声は、もうすぐ高校生になる歳の人間の声なのか、と思うほどに声変わりの片鱗も見せていない。
冷たい物がリル子の全身を駆け回る。今のリル子には、目の前のマニーが何か得体の知れない、『怪物』にでも見えていたことだろう。
リル子は銃を取り返すのは無理と見るや、その思考を逃げへ切り替えた。
その思考の切り替わりの早さが、マニーとっては誤算といえば誤算だったのだ。
「いてっ!」
リル子は、咄嗟に勢いよくマニーの脛を蹴りつけた。
てっきり奪い返しにムキになるものだと予想していたマニーは不意をつかれ、その一撃をまともに食らってしまう。
リル子はつま先に固い骨を抉る感触を覚え、それと同時に駆け出す。この場から逃げる、逃げるんだ。
恐怖が、戦慄が、一時的に彼女の痛覚を消し去っていた。

「クス、意外にみんな弱気なんだなァ。・・・・・・なるほどなるほど、学習したよ。イテテ」
脛を左手でさすりながら、片目を瞑りブローニングの照準をリル子へ定めるマニー。
引き金を引こうとマニーが指を曲げかけたその時、リル子は意外な行動をとった。


――あいつから、あいつから逃げればどうにでもなる――
リル子は考える。


なぜあのお坊ちゃまがここまで強いのか、なぜあのお坊ちゃまに一流格闘家並の筋肉がついているのか。
疑問は掃いて捨てるほどあるが、どれもどうでもよかった。
そう、そんな事は微塵も関係ない。この場からただ、逃げれればいい。そう、生き残れればいい。
確かにプライドは傷つくが、全ては命あっての物種だ。

109 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/02(土) 02:17:55 ID:VUNKEixA
リル子は必死に床を蹴りつける。
まだ銃撃は来ない。だが銃撃が来たら一巻の終わりだ。
その前方に、逃げ切るには何とも都合のいい遊具が置いてあった。リル子の脳内に天啓の如く閃きが訪れる。
「これなら撃てないでしょマニー・・・・・・!」
リル子は目の前のグローブジャングルの棒を掴み、一度大きく横に力を込めた。
「ぐっ!」
力を込めたせいか右肩の傷から、血が飛び出る。
苦悶に腕の力が緩むが、一度力を込めたら、後は遠心力に身を任せるだけだ。
棒だけは離さないようにしっかり掴まり、グローブジャングルの回転に身を預けた。
あっという間にグローブジャングルの裏側にたどり着く。交錯する棒の隙間から、銃を構えながら不都合そうに口を尖らせるマニーの顔が見えた。
例えばいかに銃撃の名手といえど流石に、回転する複雑に交錯する棒の隙間を縫って人間に銃弾を浴びせるなど不可能な話だろう。
この回転する遊具こそがリル子の身を守る最大の盾。リル子は勝ち誇った笑みを浮かべた。
棒から手を離し、身を翻す。目の前には一本のプレイガードと公園の出口。
公園の出口がグローブジャングルの直線上にあったのは、リル子にとってはまさに軌跡のような偶然だったろう。
公園を出るまで、いや、公園を出ても道を曲がるまではグローブジャングルの防御壁の範囲内だ。銃撃を浴びる心配はない。
後は全速力で走りぬけ、近くの林にでも入り込めば逃げ切れる・・・・・・
リル子は走りながらふぅと一度安堵のため息をついた。ようやくリル子の精神に余裕が戻ってきたようだった。

ドン、ドン、ドン

「えっ!?」
三発の銃声と同時に、いや、正確に言うならば『一回目』と『三回目』の銃声と同時に、リル子は両足首に激しい痛みを感じ取った。
肉が抉り出されるこの感触。リル子は痛みと同時に理解した。銃だ、銃で撃たれたのだ。
「ぎゃああああああ!!!」
リル子は足首を撃たれた痛みで、バランスを失いそのまま転倒してしまった。
暖かい砂の感触が体や顔にまとわり付く。
ジャリジャリとした砂の触感や、足首の鮮烈な痛みよりも、まずリル子は『信じられない』といった心情のほうが上回っていた。

――回転するグローブジャングルの隙間から、こんなに正確に足首を――

「クッ・・・・・・!」
歯の隙間から血が染み出る。全身の痛みに意識がぐちゃぐちゃに掻き乱される。
気がつけば目の前に、半笑いを浮かべながら自分を見下ろすマニーの影があった。

「フフッ、哀れだね」

マニーは哀れみの欠片もない口調でそう呟くと、膝を折りリル子に顔の距離を近づけた。
苦しみの一片も知らなさそうなこの無垢な顔に、リル子の憤怒が膨張していく。
「ちくしょうっ、こんなボンボンのお坊ちゃまに・・・・・・ナメやがってェェェェ」
リル子のその声は、苦しさからかほぼ呻き声のようだ。
その言葉に、マニーは眉一つ動かさず、それでいて先ほどよりも更に冷徹な印象を思わせる口調で言った。

「根本的に間違っているよ、キミは」


110 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/02(土) 02:21:15 ID:VUNKEixA
「キミのイメージしてる『お坊ちゃま』は中途半端に裕福な家庭の事例さ。
 ハハッ、ボクくらい本当に裕福な家庭に生まれるとね、辛いもんだよ」
大袈裟に抑揚をつけながらマニーは語る。
彼の喋り方は、さながら舞台のように、目の前の人間に聞かせる喋り方ではなく、場外の無数のギャラリーに聞かせる類の喋り方だ。
リル子は血に濡れた歯を剥き出しにし怒りに震えながら、マニーの話を聞いていた。
「勝ち組はすべからず欲張りなものさ。ボクの親も欲張りで、そして何より完璧主義者だったんだ。
 彼は『理想』の人間、『完璧』な人間を作ろうと、ボクを奴隷のようなスケジュールで調教した。
 遊ぶ時間なんてまったく無いよ。ハングリー精神がなんだか言われてまともな部屋も与えられなかったし食事だってキミらと大して変わらない。
 ボクは大富豪の御曹司なのに!漫画の中でも無いような裕福な暮らしが出来る立場の人間に生まれたはずなのに!信じられる!?」
いやに感情のこもった声で、リル子に向かって叫ぶマニー。
興奮しているのか、喋りながら首輪をカチカチ触っている。
その目の奥から、話の内容は嘘ではないことが伝わる。
何より、あの腕の筋肉の感触が、その話の真実味を濃くするのに一役買っていた。
「・・・・・・分かるだろう。その足首を正確に撃ち抜けたのも『調教』の賜物だ。
 ボクのこの『カワイイ顔』も調教の賜物。分かるだろ?
 このボクの少年声だって・・・・・・調教の賜物さ。喉仏切除されたんだよ、信じられる?」
マニーの言っている事はにわかに信じられない事だ。
だが、れっきとした『証明』があった事には信じざるを得ない。
イメージを完全に覆す『御曹司』の実態。まるでサスペンス映画の独白シーンのように真実が語られていく様に、胸が高鳴る。
・・・・・・そういえば。

私は、いや、恐らくクラスの誰もがマニーの『失敗した所』を見たことが無い。
勉強も、運動も、国語の授業の百人一首や友達の間でのカードゲーム、文化祭での演劇や、人数合わせのために参加させられた麻雀でさえ、
彼は一切失態を犯すことなく一切恥をかくことなく、全てをそつなくこなしていた。
今回の精密射撃の技術といい、アクロバティックな戦法といい、力といい、多才などという言葉ではまだ身に余る。
多分このマニーは、親の調教によりありとあらゆる分野に精通しており、その全てに優れているのだ。
・・・・・・・天才。いや、作られた天才という言葉が的確か。

リル子は一度大きく身震いした。こんなとんでもない男が身近にいたなんて。

「ボクがキミ達を見下すのは、生まれの差なんかじゃなく単純にキミ達がボクより苦労してないからだ。
 好きなときに好きなことをする、キミみたいな不良生徒には特にネ。
 ボク並とは行かないまでもそれなりに苦労してるヤツにはちゃんとリスペクトするサ」
マニーの果てなきエリート意識は、『自らの苦労』に基づくものだった。
壮大な経験を背景に語る説得力のあるマニーの言葉に、リル子の考え方は揺らいでいく。

軽々しくこのマニーを『お坊ちゃま』だとか認識してナメてた私はなんなんだろう?
ただ突っ張るしか能が無いくせに、やたらプライドだけは高い私ってなんなんだろう?
私はちっぽけだ。甘えん坊で矮小なただの『お嬢様』・・・・・・

なぜか涙が溢れてくる。何もかもがどうでも良くなってきた。
リル子の涙を見たマニーは、なにかクスクス笑いだした。
「あはっ、不良生徒でもそーやって泣けるんだ!?
 クスクス、まぁ銃をくれたお礼だ。ボクは手を下さない。生かしといてあげるよん。
 ボクってやっさしィ〜〜!!仏のマニー様だァ!!」
マニーはずっと触ってたらしい首輪から手を離すと、踵を返し公園をウキウキした足取りで去っていった。
待って。そう言いかけるが、声が出ない。

もういいでしょ、早く殺してよ。
もうこんなダサい人生どうでもいいから・・・・・・痛いのよ。早く殺して・・・・・・

朝陽立ち込める公園の中心に、リル子は放置された。

【残り33人】

111 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/02(土) 02:31:57 ID:VUNKEixA
一応言っておくと>>80>>81はスルーになったらしいです

112 :Lv.57 ◆zbvVmAWQpE :2006/09/02(土) 20:07:35 ID:FsxtnsOp
花瓶【女子7番】とルルカ【女子21番】は体を癒すためにH-7の住宅地に向かって歩いていた。
なにしろ先刻、ウワァァン【男子2番】に襲われてからほとんど休んでないのだ。
「ルルカちゃん大丈夫?顔色が良くないけど・・・」
「うん・・・大丈夫・・・」
心なしかルルカの顔はやつれていた。無理もない。あんな恐ろしい目にあってしまったのだから・・・
花瓶から見た普段のルルカは案外活発で、友達と気軽に話をしたり、クラスの前で歌を披露したりしていた。

今ではその面影もほとんどない。こんなにも元気のないルルカは見ていられなかった。

誰が襲ってこようとも必ず私が守ってみせる。
絶対にあなたを死なせたりしない。

花瓶は心の中でルルカに語りかけた。当然返事は帰ってこなかったが。

「花瓶ちゃん・・・」
突然のルルカの呼びかけに花瓶は慌てて答える。
「ん?どうしたの?疲れちゃった?」
「確かにちょっと疲れてきたけど・・・そうじゃないの・・・さっきはありがとう。私を助けてくれて・・・」
「何言ってるの!友達を助けるのは当たり前でしょ!」
正直「友達」と言えるほどルルカと会話したことは無かったので多少抵抗がある言葉だったが、
ルルカを元気づけるには友達という言葉が一番だと思い、あえて使った。
「本当にありがとう・・・あの時花瓶ちゃんが来てくれてなかったら・・・私・・・」
ルルカの目から涙が溢れる。よほど恐かったのだろう。
「大丈夫だよ。私はルルカちゃんの傍にいるから。絶対に守ってあげるから」
さっき心の中で唱えた言葉をほとんどそのまま口に出してしまい、なんだか可笑しくなった。
「うっ…うっ……ありがとう花瓶ちゃん………」
花瓶が無言でルルカを抱きしめる。上品な香水の香りがした。

113 :Lv.57 ◆zbvVmAWQpE :2006/09/02(土) 21:06:50 ID:lD7z7Ttp
「今日はもう休みましょうルルカちゃん。いろいろあって疲れたでしょう?」
花瓶がまだ嗚咽を繰り返しているルルカの手を引き、民家の前に立つ。
デイパックからナタを取り出すと、ルルカに少し離れておくよう命じた。

誰かいるのかもしれない・・・
ゆっくりドアノブを回すとガチャリと音を立ててドアが開いた。玄関の電気は点いていない。
ルルカに手で合図すると同時に素早く家に入る。
台所、居間、トイレや風呂場など様々な場所を確認したが人影らしきものは見当たらなかった。
「この家で大丈夫なようね・・・」
花瓶はふぅ、と安堵の息をついた。
「花瓶ちゃん・・・そういえばさっき二階に続く階段を見つけたんだけど・・・」
ルルカが少し不安そうな面持ちで言う。そういえば外見からしてこの家は二階建てだった。
「じゃあ二階も調べないと安心できないわね・・・案内してくれる?」
「うん」
さっきとは立場が逆になり、ルルカが先頭をあるく形になった。少し自分を情けなく思った。
「この向こうだよ」
二人は廊下の一角を曲がろうとした。

ミシッ・・・

突然の物音に心臓がビクンと縮んだような気がした。背中に冷たい物が流れる。
・・・木のきしむ音だった。しかも音は廊下の向こうから聞こえた。階段から下りてきているのだろう。
迂闊だった。先に二階を調べておけば・・・

逃げないと・・・!

本能的に出た言葉だけが頭の中を巡る。
ルルカの手を引き、なるべく足音を立てないように急いでその場を離れた。
その間に足音は階段を下り終えたらしく、何故かこちらに向かって歩いてきていた。
近くの部屋に入り、更に先に進もうとふすまを開く。
が、二人の目に入ったのは別の部屋ではなく、ただの何もない狭い空間だった。
予想外の展開に頭の中が真っ白になる。真っ白な頭の中で造りだされた答え。それは――――

―――押し入れ!?なんて紛らわしい!!

そんな事を見抜けなかった自分にも非はあるのだが、今は自分のミスを悔やんでいる余裕などない。
この部屋に他のふすまは見当たらない。花瓶は自分自身を追いつめていたことになる。
隠れる場所は? 丸い机と座布団が置いてあるだけで隠れられるような場所は見あたらない。
何か他に武器は?   ・・・上に同じ。
まさに「万事休す」だった。こうなったらこれから来るであろう生徒がヤル気でないことを祈るしかなかった。

お願い・・・!ヤル気じゃなければ誰でもいい・・・!

花瓶はナタを構え、ルルカはまだ見ぬ敵に怯え、震え続けている。
足音が二人のいる部屋の前で一度止まり、無情にもふすまが開かれた。
そしてふすまの奥から現れた生徒が驚きの声を上げた。
「うわぁ!!びっくりした!・・・あれ?花瓶さんにルルカさんじゃないか。どうしたの二人とも?」
ふすまの奥から二人に向かって話しかけたのはドクオ【男子12番】だった。

114 :Lv.57 ◆zbvVmAWQpE :2006/09/02(土) 21:08:38 ID:lD7z7Ttp
>>113
ラストに【残り33人】追加。

115 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/02(土) 22:30:19 ID:VUNKEixA
【男子14番】ノーネは、G−6の住宅街付近を歩いていた。
その鈍い足取りと整いの不十分な醜い顔が、溢れる太陽光の下、住宅街を歩く影としてはあまりに似つかわしくない。
彼自身も、眩しさを撒き散らす太陽の存在がいま鬱陶しくてたまらなかった。
己の醜さを自覚しているノーネにとっては、まさに嫌がらせだ。

妖怪のノーネ。
誰が最初にそう呼び出したかは知らないが、いつの間にかその名が定着していた。
焼け爛れたような不自然な顔のパーツの付き方に、比較的根暗な性格。
そして、何より本人の偏執的な妖怪アニメへの寵愛ぶりが、そのあだ名が彼に定着するに至った最大の理由だろう。
持ち前の短気さもあってか、彼は誰しもから避けられた。いじめられていた、と形容してもいい。
しかし、彼が中学二年生へ上がる頃には、彼の身分は一変していた。
避けられていたという事には変わりない。妖怪のノーネと呼ばれていることも変わらない。
ただし、彼は恐れられる身分になっていた。
不良グループ(と呼ばれる)一団に彼は所属していた。
同クラスでは【男子5番】ゲララー、【男子11番】テナー、【男子17番】フーン、
        【女子16番】みるまら、【女子20番】リル子がその一団の所属者だ。
ノーネはその醜さ(恐ろしさと形容してもいい)とその喧嘩っ早さにより、不良グループの中でも特に危険視される存在になったのだ。
あまり喧嘩が強い訳では無いのだが、その威圧感だけならまさしく不良グループの頂点を争うだろう。
彼はその威圧感で、並み居る不良たちを圧倒し、時には血に濡れさせた。
ノーネはこのプログラムでも同じく、生徒達を血の海に沈め自分が優勝する気でいた。
元より年齢制限のあるグロテスクな妖怪物の作品を幾つも見てきた彼にとっては、
人の肉を削り命を奪い取る事に比較的躊躇は無い方だと言えた。
いや、むしろ『本当の死体』が見れる絶好のチャンスだと彼は思っているのかもしれない。

スタンガンを手に、陽光の下をひた歩くノーネ。
ノーネは右手に持つスタンガンを強く握り締めた。
先刻【男子10番】ッパを逃がした事が、先程からずっとノーネの頭に靄を張っている。
この苛立ちは、血を見なければ当分収まらない。ノーネは残虐な心を沸騰させていた。
獲物を捜し求める彼の目は、希望を象徴する太陽の光とは全く真逆の光を放っている。
丹念に辺りを見渡し草の影や住宅の窓の中までも殺す相手を丹念に探す彼は、まさしく狩人と言ってもいいだろう。
その狩人が曲がり角を曲がろうと体の向きを変えた、その時だった。

ガン

ノーネは、頭部に強い衝撃を感じた。
脳味噌の中に一本の鉄棒を突き刺したような、鈍い痛みが走る。
背後から何者かに叩かれたのだ。そう理解する間もなく、ノーネは地面に突っ伏していた。


「さむい・・・・・・」
金属バットを持ち、冷たい、いや、どこか怯えた目でノーネの体を見下ろすその少女は【女子3番】アリスだった。
ノーネの体はピクリとも動かない。バットの痛恨の一撃が、苦しみを感じさせること無く
一瞬にして彼の魂を天へ返したのだ。即死だろう。ありすは確信した。
アリスは哀れむように目を瞑り、ノーネの亡骸の前で小さく胸で十字を切ると、すぐにその場を後にした。

【残り33人】

116 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/02(土) 22:32:33 ID:VUNKEixA
「待てよ」

突如、アリスは足首を何者かに掴まれる感触を感じ取った。
「!?」
まさか。背筋を悪寒が駆け巡る。
身を捻り足首を掴むその者の顔を確認した時、アリスは顔を恐怖にゆがめ、小さく悲鳴を上げた。
妖怪。その二つの文字がアリスの脳内のビジョンに浮かび上がる。

「テメェ・・・・・・俺を殴りやがって、許さんぞ・・・・・・許さんノーネェェェェ!!!!」

アリスの足首を掴んでいたのは、死んだと思っていたノーネだった。
その垂れ目の奥に溢れるほどの殺気を宿しながら、アリスを睨みつけている。
ノーネは体を少しアリスの方に引きずると、いきなりアリスのアキレス腱に齧り付いた。
「ひぎっ、ひぎぃぃぃ!!」
ノーネの歯が、アリスのアキレス健に喰らい付いたまま縦に横に軋む。
血と肉の擦れ合う音が断続に続き、遂にはノーネはアリスのアキレス腱を噛み千切ってしまった。

「ひぎゅぇあああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

筆舌に尽くしがたい痛みがアリスを襲う。アリスは痛みに金属バットを取り落とし、その場に座り込んでしまった。
食いちぎられた足首に、ドクドクと異常に熱い脈動が響く。
「ひぃ、ヒィ・・・・・・」
アリスは震えた声を出しながら痛む足首に視線を移した。肉が大きく抉れ、真っ赤に染まった骨がその姿を露にしている。
生きていて今までで一度も見たことの無い肉の裏側に、アリスは思わず吐き気を催す。

「どこを見てるノーネ」

怒りに震えた声が響いたと思うと、立ち上がり金属バットを振り上げるノーネの姿が眼の上にあった。
殺される。瞬間的にそう悟ったアリスは、逃げようと足を動かそうとした。
しかし、ただ足首に熱い線が一度走るだけで、足は全く動かなかった。

「死ね」
「や、やめ・・・・・・やめてェェェ!!」

ボクン


117 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/02(土) 22:36:09 ID:VUNKEixA
先程アリスがノーネにバットをぶつけた時とは比べ物にならないほどに鈍い音が響き、アリスの頭が腐ったミカンのようにひしゃげた。
アリスの目が白く裏返り、膝をついたままにゆっくりとその上半身が後ろに倒れる。
目の隙間、鼻の穴、口、あらゆる場所から血を吹き出すそのアリスの顔は、もうピクリとも動かない。即死だった。

グシャッ

しかしそんな事は何ら問題でないという風に、ノーネはもう一度バットを振り下ろす。
アリスの顔に直撃し、顔面が醜くつぶれる。その様を確認しないままに、ノーネはもう一度、二度、三度、バットをアリスの顔中に雨のように何度も振り落とした。
バットを叩きつけるごとに、顔を潰れさせ血をはみ出させるごとに、ノーネの背筋を快感が走る。
歓喜とエクスタシーがノーネの脳内を満たした。
元々ノーネにあった死体嗜好家としての素質が、一気に解放された瞬間であった。

「あはぁ、はは、ひはははあははははァァ!!!!」

昂ぶった笑い声を上げながら、一心不乱にバットを振り下ろし続けるノーネ。
手に、肉を潰し骨を砕く感覚が響くごとに、ノーネは顔を快感に歪め、体をビクリと奮わせるのだ。
例えるならばそれは射精の感覚に似ている。徐々に上り詰め、何かが脳を満たし、甘い物が分泌されるあの感覚。そう、あの感覚だ。
次第にバットの振り下ろす先は顔以外にも移り、アリスだった物のそこら中をバットで叩きつける。
まだ膝をついている足をバットで叩きつけると、骨が砕ける音が高らかに響き、膝の手前に妙なヘコミが出来上がる。
その図が異常に滑稽で、異常に可笑しくて。ノーネは一層声を大にして笑い続けた。

ノーネは、妖怪アニメで特に好きな部分があった。
それは、人が殺される場面だ。
異形の者が人間という整った肉塊を滅茶苦茶な何かに作り変える、その一連の場面が、たまらなくノーネは好きだった。

「いひっ、ひひひっひひ」
だらしなく開かれた口から止め処なく涎をたらしながら、ノーネはスタンガンを取り出し膝をつく。
もう原形を止めていない、ただの赤い肉のへこんだ眼窩に、ノーネはスタンガンを押し入れる。
目玉が潰れる感触が手を支配した。その快感に一々身をゆだねながら、そのままノーネはパワーをMAXにして、電源を入れる。
こもった電撃の放流音が響き、アリスの死体がまるで陸に上がった白魚のようにビチビチと跳ね踊った。
跳ねた事で、膝をついていた足が正常な態勢に戻る。
「うひゃひゃひゃひゃひゃ!!!さ、最高ノーネェェ!!」
アリスの体のそこら中を殴りつけながら、眼窩にスタンガンをグリグリとねじ入れるノーネ。
ノーネは既に上り詰めていた。死体を弄りながら、自分が体のありとあらゆる場所から液体を漏れ出させている事に本人は気付かないまま。


いつの間にか、午前11時の空には雲が一面に多い尽くされている。
それはまるで、ノーネの猟奇的な行為に太陽が思わず目を覆ってしまったかのようだった。


【残り32人】


118 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/02(土) 22:59:06 ID:RHcHufBD
「ダレモイナイ……ショクリョウサガスナライマノウチ……。」

【男子1番】イマノウチはA-8とB-8の境にまたがるように立っているコンビニへ入って行った。
コンビニは既に荒らされた形跡があった。様々な物が無くなっていたり、床に散らばっていた。
商品陳列棚やカウンターテーブルの影に誰か潜んでいるかもしれないという不安も過ぎったが、誰も居なかった。
イマノウチは昆布のおにぎりを一つ手に取り、その場に座り込んで包装を剥がした。
続けておにぎりを口に入れようとしたが、「あ」と口を開けたまま手を止めた。

朝の放送で【男子3番】おにぎり死んだんだよなあ……。

死んだクラスメイトと同じ名前の食品を口に入れる事には少々抵抗があった。
しかし腹が減っては戦が出来ぬ。イマノウチは冷たいおにぎりを口に入れた。

…不味い。

不味いというか、美味しくない。
ふと、イマノウチはおにぎりから剥がした包装を見てみた。次の瞬間、彼の目は驚きにより大きく見開かれた。
…消費期限が1週間も過ぎている。やばいんじゃないの? これ。
一瞬そう思ったが、殺し合いのゲームの中でそんな事を気にしている場合ではない。とりあえず腹が満たされれば良いのだ。
イマノウチはポテトチップスやチョコレートなどのお菓子類を、一応賞味期限が切れていないか確認してからデイバックに沢山詰め、そのコンビニを後にした。
次は武器を探さなければ。流石にこんなものじゃ戦えない。
イマノウチに支給された武器(武器と言えるかも怪しい物であるが。)である双眼鏡を見つめた。数百メートル先までよく見える代物だ。
こんなもんで観光旅行でもしろってか、畜生。自然と顔が苛ついた表情に変わった。
イマノウチはぶつぶつと小声で愚痴のような言葉を呟きながら、南方へと歩いて行った。
定時放送まであと40分。

【残り32人】

119 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/03(日) 00:24:13 ID:8HcfeVW+
フーン(男子17番)の襲撃を受けたモナー(男子19番)はガナー(女子7番)、ショボーン(男子7番)らと共に潜伏場所を求め、行動を開始していた。
モナー、ガナー、ショボーンの並びで地図で言う所のF−4付近を歩いている。
木々の壁を隔てた向こうは割合道幅のある道路でそちらを歩きたかったが、既に太陽は上がっているのでそうもいかない。
やる気の生徒に見付かればターゲットとなるのは明白だ。
「……ッ!」
尖った痛みが左肩に走る。それは先ほどのフーンの銃撃により受けた傷だった。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「いや、これくらい掠り傷だモナ。心配無用モナ。」
振り返り、心配そうな表情のガナーへと言う。そのままガナーの肩越しで立ち止まっているショボーンへと顔を向けた。
ショボーンが心配そうな目つきでモナーを見つめていた。後ろめたいような、そんな背徳に似た感情がモナーの中に生まれる。
「わかってるモナ。しっかりやるモナ!」
その言葉にもショボーンの表情は変わっていない。その表情がモナーを責める類のものではなく気遣いからくる面持ちと理解しているからこそ、心苦しかった。
右手に握っているリボルバー式拳銃が、モナーを一層心苦しくさせた。

モナーは先ほど離別したモララーのことやモナーの肩傷などを酷く心配するガナーに言ってみせた。
「ガナー。モナが絶対守るモナ、だから諦めないで気を強く持つモナ」
その言葉にガナーは笑顔で一つ頷いたが、ショボーンが水を差すように溜息を一つ吐いたのをモナーは聞き逃さなかった。
「何、ショボーン? 文句あるモナ?」
「モナー。」
ショボーンは俯いていた首を上げ、腰から自らの支給品である357マグナムをモナーに投げてよこした。
「それでガナーちゃんを守れるの?」
「……なんだモナ、ショボーン?」
「殺し合いだよ。路傍の喧嘩とは違う。撃てる? クラスメート達を」
それでショボーンが言いたい事を大方理解した。要はモナーの”覚悟”というのに不信を覚えているのだろう。
急に突き放すような喧嘩腰になったショボーンに疑問を覚えながら、体は駆け出してショボーンの襟を掴んでいた。
「ショボーン、何が言いたいモナ?」
ショボーンとは喧嘩なら負けるつもりはなかった。
「お兄ちゃん、止めてよ!」
涙目で駆け寄ってきたガナーが二人の袖を掴み、悲痛な叫びを上げた。しかし完全に頭に血が上ったモナーは更に額に血管を浮き上がらせ続ける。
それでもショボーン(シャキーン状態)は怯まず、鋭い目をモナーに向けて、言った。
「言葉は軽い。そして現実は、重く残酷だよ。後悔したと同時に、全ては終わる。とにかく、妹を守るなら躊躇するなってことだよ」
謎かけにも似た物言いに、しばし考えを巡らせた。その為か、湧き上がった怒りが少し引いた。
そこへ畳み掛けるように、ショボーンが言った。
「これは一発勝負。迷う度に三人が二人、二人が一人になる。そして、死んだらお終い。死んだ皆の教訓を自分の運命に反映させるんだ」
ショボーンの口ぶりにしてはまとまりがないように思えた――ショボーンも内心昂ぶっているのかもしれない――が、その言葉は充分に理解できた。
同時に、ショボーンの発言がクラスメート達を貶める目的ではない事や、この状況でもモナー達に心を砕いてくれている事を察した。
「これだけは覚えておいて欲しいんだ。生き残った人は殺人の罪悪感に悩まされ、相手の死を悲しむ人の存在に永く心を痛める。
 生きるも死ぬも地獄、究極の選択なんだ。実質、このプログラムに勝者はないと僕は思ってる。」
「ショボーン……」
「ショボーン君……」
モナーとガナーの声が被る。ショボーンの表情がやや和らいだように見えた。
「無二の妹を守るのは大切だし尊い事。それを最後まで成し遂げる為に、深い覚悟を刻んで欲しい」
その言葉でモナーは両手をショボーンの襟から離し、無言で一つ頷いた。何に対して頷いたのか、自分でもよくわからなかった。
ショボーンの言葉は、いつに無く強い重みを感じさせた。モナーの手に滲んだ汗が、黒光りする357マグナムのグリップをじっとりと濡らした。
覚悟という事について考えてみたくなった。モナーは、この手の心構えはほとんど考えた事はなかった。
「ショボーン、見てるモナ! モナの覚悟を」
両手で握った357マグナムを眼前で構えてみせた。それでもショボーンの表情は冴えないようだったが、その時がきたら覚悟を証明してやると思い、その場は収めた。 
そして今、なおもショボーンは不安に満ちた目でモナーを見据えている。モナーは目前にある生徒を発見した。

120 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/03(日) 00:31:20 ID:8HcfeVW+
会場南西に位置する場所、年季の入った外装の展望塔(F−3)がある。ドアは鍵周辺のガラス壁を強引に破壊され、開かれている。
塗装が剥げ、錆の目立つベンチ。そこに腰掛けているマニー(男子18番)は、恍惚の表情でブローニングを眺めていた。 
“プロのための拳銃”と呼ばれる。それはその昔、ホームステイで撃たせてもらった拳銃である。
リル子が相当使い込んでいたようで、マガジンが残り一つしかなかったのが癪だったが。

「あは、最初に僕のプロ級の射撃テクの前に沈むのはあの三人に決定!」
マニーは目の前の三人の内の一人、ショボーンに狙いを定める。
その後ろではガナーが怯えきった表情でモナーの制服の袖をつまんでいるのが見えた。
マニーの殺気を感じ取ったのか、モナーが右手に持った357マグナムを持ち上げかけた。しかし、ショボーンがモナーを静止し、こちらへと歩み寄ってくる。
銃はモナーが手にしたままだ。たちまち精神は高揚し、アドレナリンが体内に万遍なく分泌されていく。
先ほどまでの落ち着きかけた自分が別人のように感じられた。自分はこれを楽しんでいる。はは、そうだよ!
「待ってよ。マニー君。ちょっと話しない?」
 ――……(°Д°)ハァ? 何、こいつ。丸腰で飛び出してきてその上やる気満々の僕と話そう?ただの馬鹿じゃないか。 まぁ死にたいなら…
「ホント馬鹿みたいでしょ。僕。でも君と話したいから何も武器を持たないできたんだ。」
その言葉を聞き、マニーは驚愕した。同時に拍子抜けする。こいつは人の心が読めるのか?
普通は後ろの二人でも連れてくるだろう。こいつは僕を馬鹿にしてるのかな?面白い。
動ぜぬ振りをし、ショボーンに向かい言い放つ。
「そう、馬鹿。君はとんでもなく馬鹿だよ。ククク… 悪いけど僕は君達につかぬ間の休息を邪魔されてご機嫌斜めなんだ。バイバイ、ショボーン君。」
マニーはブローニングの引き金を絞る、銃口が火を噴き、強い衝撃が全身へと伝染する。
しかし、おかしな事に気がついた。銃口が上を向いている。
それはマニーが発砲する際、様々な反動のどさくさに紛れ、ショボーンが銃口を掴み、上空へとあげていた為なのだが。
「君に僕は殺せないよ。そんな歪みきった心を持ってる君にはね。」
自分が数時間前にフーンに対して言った言葉と酷似していた。その点にも驚いたが、それより――
マニーは素早く新しい、最初で最後のマガジンを差し込みながら後ろへと跳躍し、ブローニングの照準をショボーンの額へと合わせる。
「ははっ 心理戦でこの僕を負かそうだなんて。無謀にも程があるってものだよ。」
ブローニングの引き金に手をかける。公園内に銃声が木霊する。
ブローニングを構えていたマニーの右手に風穴が空き、ブローニングが宙を舞う。
マニーが激痛に顔を歪ませながら斜め後ろに視線を送る。そこには硝煙の立ち上る357マグナムを構えたモナーの姿があった。
次に視線をショボーンの背後に戻すとそこにはガナーしか居ない。してやられたのか?
そして視線をショボーンへと戻すとそこにはブローニングを構えるショボーンの姿があった。してやられたようだ。
「チェックメイト。」
ショボーンが強気な表情(シャキーン状態)でマニーに言い放つ。
マニーはその状況を理解できずにパニックに陥りかけるが、すぐに持ち直し、打開策を考察し始める。
先ずは僕の18番、心理戦。しかし、たった今自分がかかっている状態だ。
その前に目の前のショボーンにそれが通じるとも思えない。
こうなったらアレしかない。目いっぱいの力を足に込め、跳躍する。とりあえずは三者との距離を置く事に成功する。
すかさず空のイングラムM10とエアガンをディパック取り出し、ショボーン、モナーの両者へと向ける。背後のガナーにも一応は気を配っておいた。
「あは!あははは!あっははははは! 勝負あったね!僕の勝ちぃ!」
モナーは危険を感じたのか、直ぐにその場に身を伏せたがショボーンは表情一つ変えず、ブローニングを構え続けている。
「どうしたの?撃たないの?撃ってみなよ。」
 ――どうして!? このエアガン精巧な作りだし、イングラムもマガジン付けてあるのに!(空だけど)
マニーは心で焦りながらも表情では挑発的な笑みをショボーンへ送り続けていた。
その“作り笑顔”に欠陥はない――筈だった。

121 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/03(日) 00:32:06 ID:8HcfeVW+
「君は正直ないい目をしてるね。マニー君。瞬きの回数が一気に増えたみたい。」
鋭い。決して逃れ得ぬ鋭すぎるツッコミだった。頭の中が真っ白になる。
次の瞬間、マニーはエアガンからBB弾を数発吐き出すと、踵を返し、公園を南へと駆けぬけた。
途中、先ほどまで自分が所持していた銃の弾丸が背中から胸部、腹部など数箇所へと貫通した。
銃声が止むとマニーは膝から崩れ落ち、その場に仰向けに寝転がった。
そして笑った。理由は分からないがとにかく青空を見上げて笑い続けた。

【残り32人】

122 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/03(日) 07:18:30 ID:6oeRKO5W
『アー、アー、マイクテストマイクテスト、本日は晴天なり…』

右手首に着けた政府支給の腕時計は12時を指し示していた。
会場の至る所に拡声器でも設置されているのだろう、第2回目の放送を伝えるノイズ混じりの声が会場中に響く。
俺はデイバックから会場地図と、それに合わせて付いていたペンを取り出した。

『これより第2回目の放送を開始します。まずは第1回放送から6時間の間に亡くなったクラスメイトの名前を読み上げます。
 【女子3番】アリスさん、【女子15番】ねここさん、【女子18番】モネーさん、【女子19番】モラリさん。以上の4人です。
 女子ばかりですね。女子はもう少し頑張りましょう。』

この地図にはご丁寧にクラス名簿まで併記されている。俺は死んだクラスメイトの名前の上にペンで黒い横線を引いた。
…確かに女子ばかりだな。身体能力など女子に勝る男子がまだまだ沢山残っているという事は少々厄介に感じる。
とりあえず、これで10人。あと32人か……先は長いな。
放送毎に呼ばれる死者の名前が、このプログラムが順調に進行している事を証明していた。

『続いて禁止エリアを読み上げます。一度しか言わないので聞き漏らしの無いようにして下さいね。
 13時からI-5、15時からD-4、17時からB-10です。』

地図の禁止エリアに当たる箇所にペンで×印を付けた。幸いにも、今自分のいるB-7は禁止エリアに指定されなかった。

『それでは、18時にまたお会いしましょう。』

放送はそこでブツっと切れた。

俺は地図とペンをデイバックの中に仕舞うと、再びデイバックを枕代わりにして仰向けに横たえた。
…そういえば雲行きが怪しくなって来たな。2時間ほど前までは青かったはずの空が今ではすっかり灰色に染まっている。どこが晴天なりだ。
こりゃあ、もう少ししたら降ってくるかもしれないな。濡れると風邪ひいちまう。一旦中に入った方がいいか。

【男子8番】ターンは残念そうに溜め息を一つつくと、体を起こし、デイバックを片手に階段へと向かった。

【残り32人】

123 :Lv.57 ◆zbvVmAWQpE :2006/09/04(月) 12:45:38 ID:74mcVxvt
ドクオ【男子12番】は少し緊張していた。
先ほどから脳内シミュレートを繰り返していたとはいえ、こんなにも早く女の子に会ってしまうとは。
焦るな俺。落ち着いて対応すれば大丈夫なはずだ。
目の前にいる女の子―――花瓶【女子7番】とルルカ【女子21番】はナタを構えて自分を睨んでいる。警戒しているのだろう。

とりあえず俺がヤル気じゃないことを伝えなければ・・・

ドクオは軽く深呼吸すると、頭の中で何度も練習したやりとりを実行した。
「や、やあ二人とも」
練習はしていたがいざ本物を目の前にすると頭が混乱して思い通りの言葉が出てこない。

あぁ〜ヤバイよ。なんか目つきが更に鋭くなった気がする。
そうだ!とりあえずこのデイパックを捨てれば・・・

「ゴメン、警戒するのも無理ないよね。でも、俺はヤル気じゃないから・・・」
言うと同時に自分のデイパックを花瓶達の方へ放り投げた。花瓶達がビクッと体を震わす。
「その武器君たちが持っててもいいよ。俺が持ってても頼りないでしょ?」
花瓶はデイパックの中からレミントンを取り出すと、ゆっくりとナタを下げた。よし、計画通りだぞ!
「・・・いいわ。あなたは本当にヤル気じゃなそうね・・・」
キタ―――(゚∀゚)―――― !!
なんとか信じてもらえたようだ。だがまだ目からは警戒の色が消えていない。当然か。

ふと、ルルカの方を見た。
!!!今まで花瓶の後ろにいたせいで分からなかったが、ブレザーとYシャツのボタンが取れて下着が覗いている。
まさか。
「ルルカちゃんそれは一体!」
気付いたときにはもう叫んでいた。後からしまった、という後悔の念が押し寄せてきた。
ルルカは叩かれたようにビクンと大きく身震いすると、再び震えだした。尋常じゃない怯え方だ。
花瓶が慌ててルルカを抱きしめ、「大丈夫、大丈夫」と唱えだした。まるで親子のようだった。
一体この二人はどんな目にあったのだろう?聞きだそうか迷っていると花瓶が口を開いた。
「・・・ルルカちゃんはね、とても怖い目にあったのよ。ウワァァンの奴に襲われたのよ!!」

ウワァァン。あいつの仕業か。確かにあいつならやりかねない。
か弱い女の子を襲うなんて許せない。もし出会ったら必ず―――・・・
そこまで考えてハッとした。何考えてんだ俺。クラスメートを殺すなんてそんな事できる訳がないだろ。
この状況下で自分も少しおかしくなってきているのか。危ないところだった。

「・・・そっか。大変だったね。ゆっくり休むといいよ」
そう言ってドクオは部屋から出て再び二階に上がった。あれが必要な時が来たようだ。

部屋に戻ったドクオが持っていたのは裁縫箱だった。
・・・この言葉を言うのはかなり抵抗がある。もしかしたら二人を敵に回すかもしれない。ドクオは覚悟を決めて言った。
「ルルカちゃん、服貸して」





124 :Lv.57 ◆zbvVmAWQpE :2006/09/04(月) 12:49:09 ID:74mcVxvt
花瓶とルルカはドクオの突然の言葉に呆然となった。

・・・こいつもウワァァンと同じなの!?

花瓶に怒りがこみ上げかけたが、ドクオの表情からすると真剣に言っているようだ。
「な、なんで・・・?」
隣にいたルルカがドクオに問いかける。まだ震えは止まっていない。
「その格好じゃ風邪ひいちゃうし、なにより恥ずかしいでしょ?ボタン留めてあげる」
本当にドクオの正直な思いやりらしいが、女子が男子に服を渡すなんて簡単にできることではない。
「やっぱり変に思うよね。でも信じてくれ。俺は君たちを傷つけようなんて少しも思ってないんだ」
しばらく沈黙が続いた。ルルカは悩んでいたようだが一旦落ち着いて言った。
「・・・わかった。私ドクオくんを信じる」
「ほ、本当にいいのルルカちゃん?」
「うん・・・私、やっぱりこのままじゃ寒いし恥ずかしいし・・・」
花瓶の質問に答えるとルルカは押し入れに入り、中から花瓶に服を渡した。
「・・・じゃあお願い、ドクオくん」
「任せてよ」
花瓶から服を受け取るとドクオは裁縫箱から針と糸とボタン(この家の住人にも中学生がいたようだ)を取り出し、縫い始めた。

ドクオの裁縫の腕はかなりの物で、女の花瓶すら関心するほどだった。
「・・・うまいね」
「へへへ、俺、ガキの頃から自分の服は自分で縫ってたから結構裁縫は自信あるんだ〜♪」
ドクオが誇らしげに言った。その様子を見ていて花瓶は少し楽しくなった。
今までドクオと話したことはなかったのでどんな人物かわからなかった。
こんなにまじめな人柄だったなら日常でもっと話していれば良かったと花瓶は少し後悔した。
「よし完成!我ながらなかなか綺麗に縫えたぞ!」
ドクオは糸切りばさみで余った糸を切ると、制服を掲げまじまじと眺めた。
「花瓶ちゃん、これルルカちゃんに渡してあげて」
「あ、うん」
花瓶はドクオから制服を受け取ると、押し入れの中のルルカに渡した。
しばらく時間が経った後、いつも通りのルルカが押し入れの中から現れた。
「これでやっと元通りだな」
「ありがとうドクオくん」
ルルカがニッコリと微笑んだ。
ルルカの笑顔を見るのは久しぶりだったので、花瓶も嬉しくなった。
「れ、礼なんていいよ。s、そうだ。そういえばもうすぐ放送が始まるな」
照れ隠しをしているドクオを見て花瓶とルルカが笑った。
しばし、和やかな空気が三人を包んだ。

(定時放送が始まる5分前の出来事)

【残り32人】

125 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/04(月) 21:31:31 ID:tZacNGDP
ガナー(女子7番)達は、不安を堪えてモララー(男子20番)の到着を待ち続けている。
時刻は正午を回り、強まり始めた陽光が厚い雲を透かしつつあったけれど、モララーが現れる様子は一向にない。
良からぬ想像を過ぎらせては、どうにか打ち消していく。
南西部の海岸(I−2)、そこはモララーとショボーン(男子7番)が朝方に出会った場所らしい。
広大な海原を望むその場所で、ガナーは膝を抱え丸くなっている。両手を擦り合わせ、その中へ息を吐き込んだ。
目の前の兄、モナー(男子19番)とショボーンは岩に腰掛けて先ほどから何やら話し合っている。
ショボーンがどこで手に入れたのか、缶のお茶を啜る音が響く。
「遅いね。モララーさん…」
何となしに呟いてみた。二人はその声に反応し、こちらを振り向く。
「聞き逃したかもね……モララー」
二人は苦い表情を浮かべている。合流場所は離れ際、確かにショボーンが伝えていた。
『朝方の場所だよ!』
それはガナーも耳にしている。ショボーンらしからぬ、明瞭な声だった。
「でもあれが聞こえかったなんて……」
「それは充分にあるさ。極端な集中力を持つ奴は、工事現場の音すら感じなかったりするからね」
失敗した、と付け足した後、ショボーンは地図を開き始める。そういうものなのだろうか。
「……それにモララーは、そんな方向音痴でもないモナ」
「え? と……そう……だよね。うん」
ガナーとショボーンの緊張を解そうとしたのか、訊いてきたモナーの口調は冗談めかしたものだった。思わず苦笑いが漏れる。
先の先頭でモララーが落命していない事は間違いない。先の放送でも男子20番、モララーの名前は呼ばれていなかった。
『あれから銃声はしていないモナ。モララーくんは銃以外でやられる奴じゃないモナ』
それを聞いて一安心したが、殺戮者・フーンも依然健在という事で、そちらの不安は拭えない。

「……こんな殺し合い、どうしてあるのかな」
ガナーは参加者が一度は口にするであろう台詞を、例に漏れず口にした。囁きを耳にしたショボーンが首を上方へと傾け、小さく唸るのが聞こえた。
「ちょっと面白い話する? さっき二人と会う前にモララーと話し合ったことだけど。野外授業、内容は社会ね。生き残れば役立てられるお得な情報。」
口元だけを笑いの形にすると、ショボーンが体をガナーとモナーへと向けた。
ガナーとモナーは少し戸惑い気味に顔を合わせたが、要は雑談なのだろう。首を小さく二回、前へと倒して授業を了承した。
「このプログラムの目的は知ってるよね」
二人は揃って頷く。そこは小学生の授業で学習済みだ。
「来たるべき帝国主義国家との戦に備えて、防衛上の理由から執り行われている……?」
授業で習った際の記憶を辿り、教師の台詞をオウム返しする。
「来たるべき……って、いつやるんだろうね? こんなふざけた茶番で貴重な戦力の筈の若者殺すなら、さっさと喧嘩売っちゃいなよって。」
物騒な事をさらりと口にされて背が寒くなったが、ショボーンは構わず話を続ける。
「本当にこんな事を戦闘実験として役立ててると思う?」
その質問を受け、ガナーはしばし逡巡する。厨房同士の殺し合いで、とても兵士と兵士の戦いに応用できるとは思わない。
首を捻って答えに困窮する。待ちかねたショボーンが答えた。
「まあ、一応は役立ててるはずだけどね。この国は誇張はしても嘘は吐かない。
 九割が嘘でも、一割の真実は残しているはずだよ。それが完成された国のやり方なんだ。逃げ道が確保されていなければ、完璧とは言えないよ」
「逃げ道?」
「嘘っていうは一番まずい。ばれた時に取り繕えないからね。一つ亀裂が生じれば、いかに頑強な建造物でもまとめて崩壊するんだ。
 だからこの国は、嘘は吐かない。僕の見解に過ぎないから、信じるも信じないも自由だけれどね。」

126 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/04(月) 21:41:31 ID:tZacNGDP
なるほどと思い、頷いて理解を示す。それにしてもショボーンやモララーは日常からこんな事を考えているのだろうか。
それともこの場で整理した事なのか。ともかく、よくできた論理だと思った。
「で、ここからが面白い場所。準鎖国政策をしき、あの国を敵性国家と呼ぶこの国は、多分その宿敵と裏で繋がっている部分がある」
これは衝撃的発言だった。ガナーとモナーは目を丸くしてショボーンの顔をじっと眺め、続く言葉を待つ。ショボーンが面白そうに微笑を浮かべた。
「お、気持ちが食いついてきたね、お二人さん。僕の意見をどう思う?」
「えーと……ぶっ飛んじゃってるっていうか…」
「凄い、の一言に尽きるモナ」
「ね?すごいっしょ。あの国は敵。テレビや授業、あらゆる面で垂れ流されてるからね。それにたった今、国は嘘を吐かないと言ったばかりだし」
その通りである。ガナーはこれまでで一番大きく頷いた。
「規制は規制、制限に過ぎない。禁止とは口にしていないし。ただ暗に輸入している事をぼかしている。
 この殺し合いでいい音響かせている銃が裏付けだよ。フーンがぶっ放していた銃は、M16っていう例の『敵性国家』の陸軍採用のアサルトライフルなんだ」
「そうなの?」「そうモナ?」
疑問の声が重なる。
「こんな事で僕が二人に嘘を吐く理由がある?」
ごもっともである。
「あの国は武器の生産で成り立ってる国なんだ。小学校で株と喧嘩の売り方、煽り方を教えるらしいよ。知ってた?」
これも冗談なのだろうけれど、今となってはあながち嘘とも思えない。
ショボーンの話術の巧みさに改めて感嘆すると同時に、次々と耳に届く意外な角度からの考察に驚きを隠せずにいた。
「と言っても年がら年中戦争してるわけじゃない。はい、そこで輸出です。この国の工業技術は世界でも指折り。第三国相手にバカ売れしてる。
 それだけの資金を持った国は、正に上客だとは思わない?」
「でも、一応は敵国なのにそこまで……」
「どうかな。ここから先は本当に推測の域に過ぎない。僕はこの国が裏でそういったやり取りをするのには二つの理由があると思ってる。
 一つは、上客のこの国を失えば食い物にしている国は困る、つまり戦争を拒んでいるんじゃないかな」
ガナーの口から、その見解に対する否定の声はもう出てこない。
「悲しいかな、小さな島国のこの国は土地の面で不利がある。じきに土地の面積で恵まれた国が切迫してくる可能性は低くない。
 そんな中、別の諸外国と喧嘩して消耗すれば漁夫の利を奪われ兼ねないんだ。三竦みって知ってる?」
ガナーはまたも頷く。三竦みは授業で習った記憶があった。まずは似通った強さを持つ三人がいると仮定する。
誰かが誰かに戦いを挑めば勝った方も体力を消費し、残る一人にやられる。それでどこも手が出せない状態だ。今の話に出てきた国々は正にこれに当てはまる。
「もう一つの理由。僕としてはまずこっちが厄介だと思う。内部崩壊の恐れが訪れた際、水面下で敵国の手を借りるつもりなんじゃないかな、この国は」
「え……。でもそれは幾ら何でも」
「ウソになるモナ。」
ガナーとモナーは言葉を返した。それはさすがに嘘は吐かないという内容に反していると思ったからだ。
「そう思うよね。はい、舐める?」
口ぶり的にショボーンは反論を半ば予想していたようだった。
お茶の清涼飲料の入っていた缶を投げ捨てると、ポケットから棒つきの飴を取り出し、二人に勧める。
ッパ(男子10番)もよく人に飴やら菓子やらを勧めていたのを思い出した。一応受け取っておいた。ショボーンが飴を口に含みながら続ける。
「あくまでそれは最終手段だよ。そうなれば嘘もクソもないでしょ。”良く出来た国”から”圧制社会の国”に見事な変わり身をしてみせるさ、この国なら」
一旦会話を止め、ショボーンが周囲の確認を行う。モララーがやってくる気配はやはりない。ショボーンは目を戻し、更に続けた。
「一番国民がすべきなのは、国に対して興味を示す事なんだ。こういう事を語り合うのを面白いと気付き、そこから始めるべきだよ。
 それをさせない事こそが、この国の卑怯かつ巧妙な部分だと思う。反政府組織程度は立ち上がっても、政府に抗する全ての人が一丸になる事はまずありえないよ。」
そうかもしれないと考えた。確かにこの国の教育は大切な物から目を逸らさせて皆の矛先を散らさせているように思えた。
矛先が一つの目標に集中せねば、強大な敵を倒せるはずがない。


127 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/04(月) 21:45:56 ID:tZacNGDP
「反政府組織だって大抵は白か黒かって思想なんだ。要は主観的な考えで動いていたりする。
 この国には正義は欠片もないっていうのは極端っしょ? それじゃあただのテロに過ぎないしさ。
 どちらが実権を握っても一緒だよ。まあ政府の転覆なんて当面想像がつかないケド」
そこも頷けた。ここ二、三年で報道される事が増えたテロの中には、政府の人間よりも一般人の犠牲が遥かに多い爆破事件だったり、一種愉快犯のようなテロが目に付いた。
「互いが互いに踏み込む必要があるんだ。で、次。この話はちょっと面白い話じゃないかな。
 ガナーちゃんさっきなんで殺し合いするのかって言ったよね。」
「あっ、ガナーでいいよ。」
体育座りでショボーンを覗き込みながら、微笑んでガナーが言う。ショボーンはそれに笑みを返して頷き、続けた。
「この首輪の事だけどさ、これは何だと思う? ほら、このちっちゃい穴。」
ショボーンは見えるか見えないかと言うほどの小さい穴を指差して言う。
「多分内側のほうの穴は盗聴器、外側のほうの穴はカメラ。」
ガナーとモナーはそろって目を丸くした。ガナーも盗聴の可能性は考えていたがまさか盗撮までしていたとは。
「政府からすれば、発信機だけでデータ収集をするわけがない。やっぱり生の情報が欲しいはず。
 カメラはもしかしたら、だけど、盗聴器は確実に内蔵されているよ。」
モナーとガナーが同時に頷く。それはもっともな見解だった。
「幾ら何でも今まで逃亡者が数えるほどっていうのは不自然だよね。
 その鉄壁ぶりの秘密は、盗聴器で生徒の生の言動を把握しているからだというのが僕とモララーの推測。
 それにこのゲームは、多分賭けの対象になってる。発信機や音声だけの記録じゃ面白くないでしょ?」
いちいち的を得ているだろうと思われるショボーンの発言に改めて驚嘆する二人。
しかしガナーは、”賭けの対象になっている”の部分が引っかかって首を傾げながら口を開く。
「”賭けの対象になっている”って言うのはどういう根拠?」
ショボーンはすまし顔で返答をする。
「あまりにピンキリな支給品、出発順番はクジ引き、危険エリアもランダムときてる。
 いちいちギャンブル性の高さが目立つでしょ? 何よりも、政府の連中が好きそうな趣向で。
 つまり、このゲームは政府のお偉いさん方のガス抜きの役割も果たしてるってことだよ。」
それを聞いて深く頷いてから、急に我に返ったようにモナーが拳を地面に打ちつける。
「あの下衆ども! モナ達を何だと思ってるモナ!」
ショボーンが肩を震わせて興奮するモナーの肩にそっと手を添える。そして決意を込めた視線でモナーに目を合わせる。
ショボーンは右手をゲンコツの形にした後、親指だけを出して横薙ぎに自分の首を掻っ切るポーズをとった。
勿論これは”自殺する”という意味でも”モナー、殺す”という意味でもない。”政府の寝首を掻っ切ってやろう”という意思表示だ。
それに対してモナーは息を整えてから無言で頷いた。

【残り32人】

128 :コクリュウ ◆jCKbKku1z6 :2006/09/04(月) 22:38:34 ID:RRmv+sWc
【男子21番】モマーと【女子5番】えーはC-8の病院に来ている。
【男子11番】テナーに襲われ、負傷したモマーは、えーに簡単な応急処置を施してもらっていた。
「助かった。ありがとう。」
モマーの右肩には、しっかりと白い包帯が巻かれている。
「いえいえ。これくらいのこと。」
2人は先ほどの定時放送を聞き、このゲームから退場者が10人も出ていることに、ショックを受けているようだ。
「しかし・・・簡単にこのゲームに乗ってしまうやつがいるなんてな・・・。」
10人も死んでいるのなら、その分やる気の人間も多いだろう。
実際に2人が唯一出会った生徒は、ゲームに乗っていた。テナーのことだ。
「これからどうします?」
えーがモマーに尋ねた。
モマーは少し考え、
「とりあえず使えそうなものだけ持っていこう。」
と言うと、よいしょと言いながら立ち上がった。えーもスカートについた埃を払いながら立ち上がる。
モマーもズボンについた埃を払い、薬品が大量に置いてある棚のほうへ歩みを進めた。
そして、念入りに薬品の瓶に貼ってあるラベルを見て、デイパックに入れている。
「薬に詳しいの?」
「まあ、怪我はよくするからなw」
と照れながら、薬を選んでいく。2,3本の瓶を入れた後薬品棚から目を離し、机の方向へ歩く。
すると、その様子を黙ってみていたえーが口を開いた。
「そういえば私、モマーさんのこと誤解してました。」
「え?」
机には無造作に包帯の束が置いてあり、その埃をパンパンと叩いた後、デイパックに詰める。
「だっていっつも不良の人たちと喧嘩をして、怪我を負わせていたから・・・」
いや、あれは喧嘩じゃなくて、悪党を成敗していただけなんだが・・・
と言おうとしたが、そう見られるのも仕方ない。
不良と殴り合ってるやつなんて、ろくなやつじゃないと思われても仕方ないとは思っていた。
実際にクラスではそう思われていたらしく、少し引かれ気味だった(えーのような物静かな女子には特に)。

129 :コクリュウ ◆jCKbKku1z6 :2006/09/04(月) 22:39:34 ID:RRmv+sWc
「ま、まあ正義に犠牲は付き物だ・・・」
「そうでしょうか?」
「?」
モマーの手が止まる。
「本当の正義は、暴力なんて必要のない。話し合いだけで解決するものじゃないんでしょうか?」
「う・・・」
確かに、不良たちを殴り倒して、誇らしげにしている自分に違和感を感じることもあった。
本当にこれでよかったのか、と。
「だけど、さっき私はテナーさんを撃ってしまいました。
 殺されかけていたとはいえ、人を殺してしまったことに違いはありません。
 すいません。そんな私がこんなこと言って・・・」
それは仕方ないだろう。
とも言おうとしたが、人を殺して仕方ないだろう。とは流石に言えない。
ふと前をみると、えーの体が震えている。泣いているのだろうか。
急に申し訳ない気分になった。
「すまん。あのとき俺がちゃんとしていれば、お前があいつを殺すこともなかっただろうに・・・」
やはり泣いていたらしく、涙をぬぐいながら、えーが口を開く。
その涙は、人を殺してしまった罪悪感と、モマーへの感謝の気持ちのという正反対の2つからきていた。
「いえ。そんなことはありません。
 あのときモマーさんが来てくれていなかったら、私が死んでいました。本当にありがとうございました。」
「いやいや、あんたがあいつを撃ったから、俺が助かってるんだ。感謝するのはこっちのほうだぞ。」
えーが泣いてしまったことに動揺しながら、モマーはえーを慰めた。
いや、モマーにとって慰めたと言うよりは、本音を言っただけだった。

「それじゃあいこうか。」
「はい。」
モマーはえーの前を歩き、病院を出た。
病院の裏口の前には、これでもかと言うほどの木で埋め尽くされた林が立ちふさがっていた。
「ん?」
林の奥から、葉と葉がこすれあう音が聞こえた。
「まずい!隠れろ!」
小声でそう言うと、2人は近くの木に陰に隠れた。
葉のこすれあう音はこっちに近づいてきている。
「くそ・・やる気だったらただじゃおかねえからな・・・」
モマーは殺傷能力の高い銃は控え、両手で特殊警防を握った。
えーに出会う前だったら、間違いなくスミスアンドウエソンを握っていただろう。
殺さずにやる気にやつを減らす。
これがモマーの出した答えだった。
林から一人の男が血の流れる首を押さえながら出てきた。
「あ、あいつは・・・」
その男は間違いなく【男子4番】ギコだった。

【残り32人】



130 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/05(火) 00:11:27 ID:de644X5g
「ダレモイナイ……ブキサガスナライマノウチ……。」

【男子1番】イマノウチはG-7の住宅街のとある民家の扉を開けた。
ドアには鍵が掛かっておらず、窓を割って侵入するなどという泥棒のような事をしなくとも入る事ができたのは幸いである。
まず調べるのはキッチンだ。どこのご家庭にも一つはあるであろう包丁。棚を開けたら簡単に手に入った。
続いて調べるのは和室である。畳の独特で落ち着いた匂いが鼻腔をつく。押入れを開けると工具箱や殺虫剤などが入っていた。
一応使えるかもしれないので持って行く事にする。
その他にも、カッターナイフなど武器になりそうな物を次々と見つけては、次々とデイバックに押し込んでいった。
デイバックは先程コンビニで仕入れた食料などもあってか、最早パンパンだ。

続いて2階を調べる事に決めた。
階段を一段昇る度にミシッ、ミシッと木の軋む音が耳に響く。デイバックが重い。
まずは階段を昇ってすぐ前にあるこの部屋から調べる事にする。イマノウチは扉を開けた。

「うっきゃああああああああああああああああああ!!!!!!」

え?

部屋の中に居たのは一人の女子生徒。
それを確認した次の瞬間、振り下ろされた斧はイマノウチの右肩に減り込んだ。
「ギャアアアアァァアアアァァァ!!!!」
イマノウチが絶叫を上げる。切り裂かれた右肩から強烈な痛みが放たれ、彼をパニックに陥らせる。
【女子1番】あいはイマノウチの右肩から斧を勢い良く引き抜いた。
途端、大量の鮮血が迸り、イマノウチの顔を、あいの顔を、周囲の壁を赤く染め上げていく。
間髪容れずにあいは片手に握った斧を大きく振り上げた。

嫌だ、死にたくない。逃げないと、早く、逃げないと殺される。
死ぬ。嫌だ、死にたくない。死にたくない!!

振り下ろされた斧はイマノウチに命中せず、風を斜めに斬った。
しかし、イマノウチは突然襲われた事と、右肩の激しい痛みにより正常な思考が出来なかったのだろう。
イマノウチは斧が振り下ろされる寸前、後ろに飛び退いた。彼の足は空を踏み、体はバランスを崩し、

階段をごろごろと転げ落ちて行った。

1階の階段の前では、操り人形の糸が切れたかのようにぐったりと崩れ落ちているイマノウチの姿があった。
目が虚ろで、首が有りえない方向に曲がっている。彼はピクリとも動かない。
あいは斧を握ったまま階段をゆっくりと降りて行くと、イマノウチの亡骸の傍に転がったデイバックを持ち、2階へと戻って行った。

【残り31人】

131 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/07(木) 18:06:41 ID:17Q9SDHT
【女子14番】ニラ茶娘はF-1の草むらの上に腰を下ろし、青い顔で俯いていた。
朝方、森の中で見かけたあの恐ろしい光景。
【男子16番】ヒッキーが【女子19番】モラリを金槌で殴り殺したところを目撃してしまったのだ。
辺りに散らばったモラリの頭の破片。ヒッキーの真っ赤な顔。
思い出すだけで目眩がする。絶対あんな事にはなりたくない。

彼女には好きな男子がいる。隣のクラスのニラ茶猫という男子だ。
誰にでも公平に「まあ、ニラ茶でも飲めや」などと言ってニラ茶を差し出す、そんな彼の何気ない優しさに心惹かれたのだ。
午後のティータイムに二人でニラ茶を啜りながら、ニラについて語り合ったりした事もある。
そろそろ告白しようかな、と思っていた矢先、このプログラムに巻き込まれてしまった。
早く帰りたい。こんなゲームで死ぬのは絶対に嫌だ。
しかし、彼女の支給武器は無情にもメガホンでだった。こんなものでどうすれば良いのか、考えるだけで気が遠くなる。
彼女自身、クラスメイトを殺したくはなかったし、その点を考えれば、これで良かったのかもしれないが。
ニラ茶娘は深い溜め息をついた。
途端、

ガリッ

地面を擦るような音が聞こえた。
「誰っ!?」
ニラ茶娘がバッと振り向く。後ろにいた人物のその姿を見て、彼女は小さく悲鳴を上げた。
後方10メートル辺りだろうか。匍匐前進で彼女にじりじりと近付いて来る男子生徒、【男子2番】ウワァァンがいた。
彼の顔は何故か気持ちの悪い笑みを浮かべていて、口にはブッシュナイフが銜えられている。
それだけならまだ良かったのだが、ウワァァンの姿は酷いものであった。
まず上半身が黒く焼け焦げている。頭からガソリンでも浴びて、火を点けられたのだろうか。
さらに、彼女はこちらの方が驚いたのだが、右腕の手首から先が無く、左腕は丸ごと無くなっているのだ。そしてウワァァンの後方には赤い点線が延々と続いていた。
腕の切断面ではサーモンピンク色の肉と、白い骨が露になっている。それを見てしまったニラ茶娘は、飛びそうになる意識を何とか堪えた。
続いて猛烈な吐き気が込み上げてきて、口を押さえた。
「ヒ…ヒヒ……ニラ茶娘ちゃんかぁ……。」
ウワァァンがまるで血の気が感じられない声を発した。そりゃそうか。両腕切断されれば血が足りなくなるのは当たり前だ。
もうそう長くは保たないだろう。しかし彼の口調には何とも言えないいやらしさが含まれていた。
ウワァァンは両足と右肘を器用に使ってニラ茶娘に這い寄った。
「い、いや! 来ないで!!」
ニラ茶娘は涙目になり、尻餅を付いたまま後ろに一歩後退った。
「つれない事言うなよぉ……俺と一緒に気持ち良い事しよう、よっ!!」
途端、ウワァァンが跳ねてニラ茶娘との距離を一気に詰めると、ウワァァンは彼女のスカートに噛み付いた。
「いやあああああ!! 離して!!」
「ヒヒヒ…もう逃がさないぞお……今まで俺をコケにしたクソアマ共の分までヤリまくってやるぞ畜生ぉぉ!!!」
ウワァァンが訳の分からない事を喚き散らした。彼のねっとりとした唾液が徐々にニラ茶娘のスカートを濡らしていく。
もう、我慢の限界だ。

「ああああああああああ!!!!」
ニラ茶娘は叫び声を上げながら片手に持っていたメガホンでウワァァンの頭を思い切りぶん殴った。
ウワァァンは顔を苦痛に歪めたが、まだスカートに噛り付いている。
続いてニラ茶娘はメガホンの打撃をウワァァンの顔面に4発叩き込んだ。
ウワァァンはぎぇあ、と奇声を発し、ニラ茶娘のスカートから離れる。
ニラ茶娘はすかさず立ち上がり、ウワァァンを殴った衝撃で所々へこんだメガホンを彼の体に思い切り投げつけた。
「死ね!! この変態!!!」
彼女はウワァァンに向かってそう吐き捨てると、デイバックを持って何処かへと駆け出して行った。
「ウワァァァァァァン!! お前もそうやって俺を見下すのかよ!! ぶっ殺してやる!!! ウワァァァァァァァァァアアアアン!!!!」
残された獣の声が、空しくF-1一帯に響き渡った。

【残り31人】

132 :Lv.57 ◆zbvVmAWQpE :2006/09/07(木) 21:10:25 ID:LBuHGgvB
「ちくしょおぉぉぉおおおお!!!どいつもこいつもぶっ殺してやる!!」
ウワァァンはよだれや涙、いろいろな液体をまき散らしながら叫んでいた。
既に声は枯れ始めているが、叫ぶことをやめる気配は一向に見られない。
自分の体を引きずる力もほとんど無くなり、うつぶせのままひたすら叫んでいた。

ふと、ウワァァンは自分に影がさしていることに気付いた。
後ろ側に首を捻るとスカートが見えた。女子だ。
首に渾身の力を込め上を見るとようやく顔が見えた。あゃなみレイ【女子4番】だ。
あゃなみはウワァァンの異常な体を見てもいつも通りの冷静な顔を崩さずにいた。だが、そのいつも通りの顔もウワァァンには自分を見下してるようにしか見えなかった。
「なんだよ・・・!そんな目で俺を見るなよ!!俺を見下すんじゃねええぇぇぇぇぇ!!!!」
ウワァァンは体中の全ての力を使い、ニラ茶娘と同じようにあゃなみのスカートに噛みついた。
「ひ、ひひひひひ!!殺してやる!!殺してやるぞ!!!」
ウワァァンの顎の力であゃなみのスカートがギリギリと音を立てる。だが、それさえもあゃなみは静かに見つめている。
するとあゃなみが不意に右手を挙げた。スカートを口から離さずにウワァァンの両目があゃなみの右手を追う。

あゃなみの右手には日光に輝く包丁が握られていた。

「あ」とウワァァンが呟いた瞬間、あゃなみの右手が勢いよく振り下ろされた。
握られていた包丁が容赦なくウワァァンの脳天に食い込む。
包丁の刃はギチギチと嫌な音を立てながらウワァァンの頭に埋まっていく。
刃が完全に頭に埋まると、ウワァァンはだらしなく口を開いたまま力なく倒れこんだ。
頭から脳や血が流れ出ている。が、この凄惨な光景もあゃなみにとっては普段の光景と大して差は無かったのかもしれない。
あゃなみは先程民家で手に入れた包丁をウワァァンの頭から引き抜くと、血も払わずにデイパックにしまい、どこかに歩いて行った。
いつもの冷静な顔を浮かべたままで。


【残り30人】

133 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/07(木) 21:47:27 ID:AnSFj/9J
握り続けていた青い鉄柵が、汗でべっとりと湿っていた。
背後に覚える殺意的なプレッシャーはプログラムが与える幻覚か、それとも誰かが、今正に息を潜めて自分を襲うタイミングを計っているのだろうか。
思った途端、息苦しさが増す。廃墟ビル(D−7)の前で支給品のボウガンを構え、聞き耳を澄ませる。
――人の気配は、ないようだった。
ッパ(男子10番)は、小柄な体を鉄の柱に寄り掛からせながら腕の時計を眺めた。時刻は15時を少し回った付近である。
心的不安が積み重なり、ッパは狼狽しきっていた。これまでの放送を思い返す。ッパと親しい面子は軒並み存命している。
ただ望まぬ人物も生き永らえていた。彼ら――ノーネ(男子14番)とづー(女子12番)が息衝いている限り、ッパは窮鼠の真似事を延々と続ける羽目となるのだろう。
ノーネにボウガンを奪われそうになった時は心臓を握り潰される思いだった。彼の殺意満々の眼光は、怯えるッパに追い討ちをかけ、その網膜を焼き貫いた。
心は恐怖一色に染まり、何もかもが見えなくなる。更にッパを震え上がらせたのは、つい数時間前に豹変したづーの姿だった。
図書館(F−10)で休息を取っていたッパは、づーと遭遇し、話し合いの後口論となって手傷を負うハメとなった。
逃走しながら耳にした彼女の咆哮は、鮮烈な色を持って爛々と響いていた。飢えた獣、そんなフレーズが連想された。

 ――駄目だ、信じたら。 信じたら。ダメだ。

歯が耳障りな音を立てて打ち鳴らされている。寒気も重なってそれを止められない。苛立ちが多少体を火照らせたが、到底感情を持ち直す事はできなかった。
弱き者の心情を、初めて垣間見た気がした。それはすなわち、自身の内面でもあった。
記憶を払うように、頭を指で掻き毟る。それでもやり切れない感情は胸の奥でどっしりと根を張り続けていた。
この胴体だけ抉り取れたらどれだけ楽か、そんな事を思う。
「考えるな、考えるな……迷ったら死ぬだけだ。考えるな……」
呪文のように繰り返す。しかしその言葉に魔力が潜むはずもない。
「ッパ!」
それは突然の呼び掛けだった。取り落としそうになったボウガンを慌てて掴み、身を翻す。
ッパはビルの下で、声の主――モララー(男子20番)と向かい合った。その目はッパをじっと見詰めているが、心なし焦りを帯びているように見えた。
「モ、モララー……」
今までに会った人物の中でも親しい部に分類される人物の登場に本来ならば安堵する場面であるが、疲弊した心は闇雲な猜疑心をッパに植え付けていた。
この状況で信用できるのだろうか。モララーは左肩にディパックを掛け、右手には日本刀を所持している。
「ち、近寄るな」
足を踏み出したモララーを声で制する。幾分言い方が悪かったのだが気付かなかった。モララーの表情がにわかに訝しげとなり、それで一層緊張感を増す。
二人の間、二メートル程度の距離がまるで必殺の間合いに感じられた。近付けてはいけない、心の声が促す、根拠のない警鐘。
惑わされ、更に状況が見えなくなる。
「俺は、殺し合いになんかに乗ってない。信じてくれないか。」
ッパの心持を察したモララーが日本刀をその場で手放した。彼らしからぬ弱々しい声だった。欺く芝居、声色、少なくともッパはそう覚えた。
実は悲しさの入り混じった声だったのだが、そこに思考が至る事はない。裏切られる悲しみ、知りえてなお、無情の地獄で悪戯に輪廻する。
警戒を解かないッパを前に、モララーもまた歩を進めあぐねていた。逃げるか、それとも。
動けぬままの状況に対し、モララーが業を煮やしたようだった。吐息の音が静かな空間に響く。
「ッパ、落ち着くんだ。頼む、その武器を」
最も危険なそのキーワードを前に、ッパは反射的に身を震わせた。
「うわぁあぁぁあ!!」
ッパは確認を行う余裕すらなく、モララーに背を向けて全力疾走を開始した。モララーの呼び声も雑音のようにしか捉えられなかった。
方向も考えず、闇雲にひた走る。草を踏み、アスファルトを蹴り、その足が痛みを訴えようとも。
恐怖の念に心を囚われたッパ。彼が信頼できるのは、最早”憎き政府”から支給されたボウガンだけだった。
銃声乱れ舞う戦場の中で、頼りない相棒一つで生き抜くより他なかった。

「おっ、あれは。的の方からやってきてくれるとはな。好都合だ。」
男はデザートイーグルを片手に階段を駆け下りた。

134 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/07(木) 21:48:23 ID:3lVR40tS
波が岸壁にぶつかり、風にのってぱらぱらと雨粒のように小さな海水のしぶきが【女子7番】ガナーの頬にあたり、汗とともに首筋へ流れていく。
時刻は逃げ出してから1時間弱経っているが、未だ【男子20番】モララーが自分たちの居る場所へ戻ってこないのになみなみならない不安を感じていた。
こちらには【男子19番】モナー、運動能力の高い自分の兄と、【男子7番】ショボーン、冷静で知的な対処をいつもとることができる2人が居るとはいっても、
自分にはなんの能力もないし、3人は脱出の手だてを考えているのに自分はただ邪魔なだけではないかと、この困窮した状況でガナーは考えていた。
その不安を双子の兄はいとも容易く感じ取ったのか、ガナーの手を握って彼女を落ち着かせる。
M16は傍らに置いておいた。

「モララーなら、きっと大丈夫モナよ」
「お兄ちゃん…」
不安そうな赤色の眼差しがモナーに突き刺さる。しかしその視線はまるでか弱く、まるでいともたやすく折れてしまいそうな枯れ木の枝のようだった。
ちらりとショボーンの方を向いた。彼はガナーに支給された首輪探知レーダーを持ち確認しながら、わずか数m向こうで辺りの気配をうろうろ動きながら全身全霊で感じ取っているのが伺える。
背中からは「それはモナーの仕事だよ」というのは感じられた。そう、これはモナーの仕事。

フーンがそんなにも生き残ろうとする理由は、分からなくもなかった。
自分を放っておいては簡単に死んでしまうような妹をその辺に、自分の目の届かないところへはおいていけない。
でも。モナーはそこで考える。でも、状況が違う。フーンの妹は、確かに不良の妹だから、兄が居ない間に何か―トラブルがあるかもしれないが、しかしこっちは生きるか死ぬかの瀬戸際にいるのだ。ガナーを守るためなら、たとえ殺人だって、やってやると。
人殺しだってしてみせると、彼は誓ったのだ。

「ガナー。モララーが負ける分けないモナ。だって、あいつは、なんというか生命力そのものがバカだモナ」
「バカって、どういうこと?」
「モララーは、中2の夏休みに他校の不良グループと殴り合いの範囲を超えた喧嘩をしたモナよ」
「!!」
ガナーは驚いた。そんな話は簡単に噂が広まるはずなのに、自分は聞いたことがなかったからだ。
しかし、深く思い出してみれば、夏休み明けにモララーは右足を引きずるように歩いていたような気がする。
「相手は15人、ナイフスタンガン釘バット何でもあり。モララーはそれを相手に素手で5人も一気にはっ倒したモナ。右足は金属バットで殴られて骨折したらしいけど、それでもモララーは武器を使わないで…やっつけたモナ」
「凄い…そのあと、どうなったの?」
「15人が気づいたときには病院、モララーは普通に電車で帰ってから病院に行ったモナよ」
電車で帰る。流石だなぁ、とガナーは彼を賞賛した。
「でも。モララーは相手に誰1人として入院するような怪我は負わせてないモナよ。モララーは、その点の手加減と、骨折しても折れない意地があるモナ。だから、きっと大丈夫モナよ」
「うん、そうだよね…きっと、戻ってくるよね」
ふふ、とガナーが笑った。その瞳はすでに以前のような強みを取り戻していた。
もう安心だと思いモナーはふと3mほど斜め前にいたショボーンを見た。

額に、矢が刺さっていた。


135 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/07(木) 21:49:17 ID:3lVR40tS
「く、そ」
ショボーンの体が後ろに揺らいだ。一瞬倒れるかと思ったが、よかった、足を下げて踏ん張った。つまり、生きている。
ショボーンがあげていた左手を下げると、それは痛々しく矢で貫かれていた。どうやら左手に持っていたレーダーで防御したらしいが、手をいとも容易く貫通したその矢は額にも浅く刺さったらしく、うっすらと血が流れている。

「誰か居る!向こうからだ。でもレーダーには、少なくとも半径25mには誰も居ない!」
珍しくあわてた声でショボーンが叫んだ。もう左手は開いているのに、刺さっている矢は痛々しくレーダーと左手をつなぎ止めていた。見たところ矢はアーチェリーの矢で、黒く細長い矢にはオレンジ色の羽が3枚付いていた。
モナーはM16を構えかけた。弾丸は最大数装填してある。
しかし、誰も居ない。ショボーンが指をさして敵はむこうだというのを伝えたが、それは海岸のすぐ向こう側に小さな範囲で広がっていた森林から飛んできたことを示していた。
これでは銃弾はまず当たらないし、移動されてもわかりにくいだろう。ガナーを自分の後ろに立つように手招きしてから、モナーはじっと森の向こう側を見つめた。
直後、再び矢が向こう側から―先ほどより違う方向から飛んでくる。しかしそれはモナー達の右わずか1mほどずれて飛んでいき、さらに15〜20mほど飛んでからぱしゃと音を立てて海に消えていった。
「モナー、撃って牽制して!ここを離れよう!」
言う前から銃は森のほうへ向けていた。でも―どこへ撃てばいい?
相手は、たとえ小さくても生い茂る木々の中。自分たちは隠れる場所など何もない砂浜の中。後ろは海水よろしく背水の陣。
撃つのではなく、まず相手をこちらに引っ張り出すことのほうが重要だと感じたモナーは、銃を手前に捨てて叫んだ。

「射るのはやめるモナ!モナ達は、仲間を捜してるモナ!」
聞こえるか、心配だった。しかしそんなことは関係ない。聞こえなかったのなら撃つしかないし、聞いてないのなら尚更だ。
「そうだよ!僕たちは、このプログラムを脱出する方法と、仲間をさがしているんだ!」
ショボーンも叫んだ。左手をかばうそぶりも見せないまま。
一瞬の静寂があり、3人は射撃がやんだ、と安堵の息を吐いた。刹那、さらに1本の矢が…今度は若干ぶれた方向に飛んできた。それは地面に刺さり、羽の近くに紙がくくりつけてある。
「矢文…?洋弓でやる人は初めて見たけど…」
ショボーンがおそるおそる矢の方向に進んでいく。左手をあまり動かさないようにしながら矢ごとモナーのもとへ持って行き、モナーがそれを外して読み上げた。
「『海にすねが入るまで進め 銃のある方向に進んだら殺す』…だって」
「とりあえず従おう。多分…それなりに相手はアーチェリーの腕があるから」
そういうとショボーンは率先して海へ歩いていった。モナーはその言葉が引っかかったが、ついていった。

モナーが引っかかった言葉―「アーチェリーの腕がある」
このクラスでのアーチェリー部員は、モナーの幼なじみ…【女子11番】つーしか、居ないはずなのに。


136 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/07(木) 21:51:23 ID:3lVR40tS
やがて、森林から1人の生徒が―制服は私服になっていたが―現れた。やはり、唯一のアーチェリー部の【女子11番】つーだった。
彼女なら、確かに30mや50m圏内は確実、つーの実力や練習量を考慮すればもしかして70mや90m以内の相手に対しても攻撃できるかもしれない。
たとえ銃でも狙撃銃でなければまともに銃を扱ったことがない中学生が30mの狙撃なんて無理だろうから、恐ろしくこのゲームには強そうだ。
おそらく支給武器であろうその洋弓はおもりなどでそれなりにカスタムされている。右の腰には矢筒を引っさげ、中にはショボーンの手を打ち抜いた矢と同じ矢が25本くらいだろうか、入っていた。
左の腰には何か紙袋のようなものが数個かけられているが、中身は分からない。
つーは無言で3人のもとへ歩いていき、デイバックと弓をおいてM16を拾い上げ、構えずに歩き続ける。
やがて海に入らない程度で歩くのをやめると、つーは話し始めた。

「ヨウ、モナー。ソレニオ二人サン…聞キ間違イダロウガ、脱出スルトカナントカ」
「間違ってないモナ。モナ達はその方法を探しているモナ!」
ふん、とつーは鼻で笑った。赤色の体よりも、どちらかといえば紅い眼は真っ直ぐとしていた。
つーの眼はいつもの眼だというのがモナーには感じ取れた。きっと、つーなら仲間に…

「ソンナモン、アル訳ネェダロ。」

その言葉を聞いて、モナーは愕然とした。

「そんな、きっとどこか」
「ネェヨ。政府クラスガコンナチッポケナ島ニ何カ忘レ物スルワケ無イダロウシ、脱出シタラ国外逃亡シナイ限リ殺サレチマウノニ。脱出スルヨリシタ後ノホウガモット厳シイダローヨ」
淡々と述べ続ける彼女は、もはや脱出の希望を失っていたといっても過言ではなかった。しかし、4人とも知るよしもないが彼女の親友の【女子12番】づーと違って思考力ははっきりとしていたし、部活で主将も務めるアーチェリーの腕は鈍ってはいなかった。
そう、まさしく’ゲームに乗った’人間だった。


「残念ダナ。俺、モナーノ事…嫌イジャナカッタノニ。セメテ俺ノ手デ死ンデクレヨナ」
冷酷で、しかし恐らく本心からの一言だからか、愛しさの籠められた一言。やがてつーは勝利の為に銃を上げる。これからは、幼なじみだとか、恋愛の対象だとか、そういう関係を超越―否、まるで消し去って、互いに殺戮ゲームの参加者となる…

つーが銃を上げ始めた。分かっていたかのように、ショボーンが見回りのときから1つだけ受け取っていた火炎瓶を投げつける。しかしそれは膝を折ってよけられた。
直後にモナーの第2投。今度は湿り気を帯びた浜の泥を左手でつかみ火炎瓶にぶつけ、海に落とす。
今度はショボーンが自分の手から抜き取った矢で突いてきたので、しゃがんだままつーは後ろに撥ねてそれをよけた。
ガナーも思い切ってつーにタックルし、転ばせるとともにM16を洋弓より後ろに転がせた。

137 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/07(木) 21:52:47 ID:3lVR40tS
「アヒャヒャ。流石ニマトモナ武器無シデ3人相手ハキツイナ」
腰の紙袋の中身を確認しながら立ち上がりつーが言う。しかしその眼は決して敗北だとか挫折だとかの色を帯びているわけがなく、燃え上がるような「紅」だった。
「…まだ、仲間になる気は無いかい?」
ショボーンが言う。右手で持つ矢の先からは自分の血が流れ、左手からもぽたぽたとそれが流れているが、骨や血管を深く傷つけたわけではないようで、それほど酷い出血ではないようだった。ただレーダーは抜き取る際に海に落ちて使い物にならなくなっているみたいだが。
「ンナ訳ネェダロ。俺ハ死ニタク無インデナ…サテ、ト。単ナル喧嘩ナラ、負ケネェゼ?」
すっと矢筒から矢を3本ばかし抜いて構えショボーンに向かって突撃した。どうやら銃はとらないらしい。最もとろうとするならあと3つ残る火炎瓶の1つがつーに襲いかかることになるのだが。
ぶん、と矢をふるったがショボーンは膝をいち早く折ってそれを避け矢で突く。突きが入る前にすでにつーの右足はショボーンの腰をとらえていて、つーの左側に吹っ飛ばした。
素早く後ろを見ずに右の肘うちを後ろにいたモナーの顔面に当て、ガナーに向かって矢を3本投げつけて怯ませてから跳び蹴りを腹部に当て吹っ飛ばし、矢を素早く拾って立ち上がった。

「ナンダ?モウオネンネカァ?」
挑発するかのようにつーが言う。矢をガナーの首筋めがけて振りかざした…
その背後で、モナーがつーに向けてM16を構えた。

「ガナーには、手は出させないモナ」
「チッ。モナー…撃ッタラコイツモ道連レニシテヤロウカ?」
「いつものつーちゃんはそんな性格じゃないモナ。…モナはガナーに手を出す奴には容赦しない…でも、つーちゃんは殺したくない」
「ハッ。甘イナ。ソンナダカラ…ホラ、後ロカラ狙ワレテンゾ」
ばっ、と3人はモナーの後ろを見つめた。そこには先ほどつーが現れた木陰があり…今度は人の気配が全くしない。
嘘。それに気づき振り返ったときには、すでにつーはモナーの数歩手前に走り出していた。

「バカガ。コンナ’プラフ’ニ引ッカカルカラ甘インダヨ!」
つーが右手に持っていた―矢ではなく、何か丸い…変色した卵をモナーの顔面にぶつけ、怯んだ隙に喧嘩足で銃を持つ手に蹴りを入れ再び銃を吹き飛ばした。
M16は再度がしゃりと砂浜に(何か変な音がしたような気がするが気のせいだろう)落下する。さらに1つ紙袋から卵を取り出すと、今度はショボーンに避ける暇を与えず投げつける。
胸のあたりに当たったそれは割れてもくもくと煙のような粉末があたりに散らばり…煙幕となってショボーンの視界を封じた。
そのまま走り出して、一瞬躊躇したが銃をとらずアーチェリーの弓を取り森へ走り出した。ガナーが銃を持って追おうとするが一歩及ばず、すでに森へ入っていってしまった。
モナーは顔面生卵(しかも腐っていて、異臭があった)まみれ、ショボーンは煤まみれの状態で呆然と立ちつくす。銃を持ったガナーは、言った。
「私たちのやってることって、本当に間違ってないよね…?」
誰も、答えなかった。

矢はもう飛んでこない。
モララーが来ないまま、時刻は午後二時を迎えた。

【残り30人】

138 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/07(木) 21:54:37 ID:AnSFj/9J
>>133から

希望を失った心は、それ以外の選択肢をもう許してはくれなかった。 
ッパは、とあるビルの前(B−7)でその足を止めた。内部に目をやると1階の奥で、見覚えのある男子生徒が立っていた。
「よぉ、元気か?」 
悠然とした面持ちで、ターン(男子8番)がッパへと顔を向けた。
両手はッパへと伸ばされ、そこには黒い塊が握られていた。あれは何だろう。思ったが、しかし――ターンが思考の暇も与えずに発砲してきた。
既に耳に馴染んだ音。直ちに意識が覚醒する。回避及ばず、ッパは的と化した。デザートイーグルの銃弾はッパの胸部を貫くと背中を突き破って突き抜けていった。
握り締めていたボウガンは呆気なくその手を放れ、金属音とそのエコーを残して落ちた。

  ――う、撃たれた……。死ぬのか……僕?

真っ先に心より滲み出た感慨は、怒りでも悲しみでもなく、虚しさだった。
小さくも凶悪な粒に心も体も抉られたッパは、抗する術もなく膝を地面に着けた。
「ああ……」
痛みに体を捻った弾みで横向きに倒れ込む。頬に当たる地面の温度が冷たい死を予期させた。
絶望と痛みに喘ぐッパには目もくれず、ターンが不気味な笑みを浮かべ、デザートイーグルを眺めている。
「ひっ」
思わず悲鳴が裏返る。ターンが躊躇なくッパをうつ伏せに転がし、曇り空から漏れる日の光で残忍に輝くそれの口が、ッパの側頭部へと押し付けられた。
「うぅぉ、がはぁっ…止めで、止めてぇ!」
「む、無駄な抵抗はよせよ。は、はは、はは…。脳漿でもさらしとけよ。」
ッパは、口からゆるゆると溢れ出る血に阻害されながらもなんとか抵抗の声を上げる。
ターンの声は震えていた。殺人者になる事への躊躇はあるようだ。しかし、抵抗の声は無視され、身の毛もよだつ呟きが頭上で垂れ流されている。
「うぅ、動くなぁ!」
ターンが言い、ッパは背中を何かが貫く感触を感じた。鋭い異物感は体の中心を横断し、遂には腹部前方へと突き抜けた。 
新たな痛みを覚えて吐血した。腹部からも血液が流れ出し、地を濡らしていく。
撃たれた事も理解できず、ッパはひたすらパニック状態になった。そこにあるのは最早死への恐怖心だけだった。
程なく自分は、惨めな亡骸をさらす事となるのか。そう思った時、前方の茂みから影が差した。そのシルエットは、これまた見覚えがあった。
「ッパ…! ターン! テメェ…」
見上げたッパの眼前、モララーが憤怒の形相でターンを睨み付けていた。
「な、何が悪ぃんだよ! このゲームじゃ銃ぶっ放して人殺すくらい常識みたいなもんだろが!!」
涙声に近い声色がターンの口から放たれる。顔面を蒼白に染めたターンは、デザートイーグルを手に腰を沈めた。どうやら引く様子はないようだ。
危険を顧みず、ッパを救うべく日本刀一本で銃を持った生徒と対峙する、モララー。その姿に心を動かされた。胸の奥に失われかけた熱が甦ってくる。
強烈な衝動ではない。ただ一つ、このままでは死ねないと感じた。


139 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/07(木) 21:59:22 ID:AnSFj/9J
鉄の香りを帯びた風が、モララーの鼻に刺激を与えていた。到底好めない臭気だが、プログラムらしい事は違いないと思った。
そう思えるだけの場数を既に踏み越えてきた。眼前に筆舌に尽くし難いカオスを拝み、それでもモララーは引くことなくターンとの距離をじりじりと詰める。
突如逃走したッパを追って辿り着いた先で、彼が虫の息と化している。先ほどの躍動感ある姿が幻だったかのようだ。
背中に空いた二つの穴は遠目にも異質で、事の異常さが窺える。四つん這いを崩したような体勢のまま、ッパが血を吐き散らしながら咳き込むのが見えた。
大丈夫なのだろうか。逸る心は、ターンが握るデザートイーグルによって制止された。
デザートイーグルを向けてモララーを威嚇する。 しかし萎縮はしない。逆に心の炎は燃え上がるばかりだ。
飛び道具は何一つない。頼れるのは支給品である今ではすっかりと手に馴染んだ日本刀だけだ。

 ――迷わない。 俺は俺の真実のために…。 

間合いに注意しつつ、足を引き摺るように距離を更に詰める。ターンの運動神経は決して芳しくはない。
畏怖さえ抱かねば、一撃必殺の銃口に心を呑まれなければ。念じつつ、死地とのボーダーラインへとゆっくり爪先を踏み入れた。
してやったり。今のターンの歪んだ表情を形容すると、この言葉がピッタリだっただろう。放たれたボウガンの矢に、思わず回避が遅れる。
何とか刀で叩き落とすことに成功したが、バランスを崩して倒れてしまう。ターンはボウガンを片手で構えて引き金を絞る。
一瞬の集中が戦況を好転させた。身を捻りながらの薙ぎ払い蹴りは、ターンの頬に足型を付けると同時にその体を地面へと転がらせた。
瞬間、金音を鼓膜が受け止めた。モララーは瞬時に身を跳ね起こし、ボウガンへとその身を寄せる。
しかしターンが腰からデザートイーグルを抜き出した事で表情を一変させる。飛び退いたモララーの脇を、銃声と共に弾丸が駆け抜けていった。
慌てて体勢を立て直す。ターンが銃口を向ける。うろたえるモララーは、不覚にも体を萎縮させてしまった。
最悪な事にフーン(男子17番)戦で痛めた背中が痛みを再発させたのだ。デザートイーグルの引き金を絞る様が見て取れた。
回避は叶いそうもない。死を覚悟したその時、横から飛び出してきた影がターンを脇へと突き飛ばした。それでモララーは軽い混乱状態に陥る。
眼前で倒れ込んだのは、青色吐息のッパだった。痛々しく体に穴を空けた状態で、モララーを守ろうと盾になったのだ。
その左脇腹は新たな銃弾によって貫かれている。
「ッパ!」
「死ねぅぁ!!」
ッパに手を差し伸べかけたが、脇からの怒号でその首を動かす。仰向いたままの状態で、ターンが抜き出したデザートイーグルをモララーの目前へと構えていた。
指がトリガーを押し込んでいく過程が見え、反射的に右手の刀を渾身の力で振り上げる。

 肌を切り裂く瑞々しい音が鼓膜へと当たる。

デザートイーグルは地面に転がっており、ターンの顔は縦に割れていた。
しばし鼓動を止めたターンを見入る。自らに殺意がなかったからか、殺害したという実感は不思議と薄かった。
ただ、ターンの死はじわじわと脳も認め始めていた。

140 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/07(木) 22:02:19 ID:AnSFj/9J
「ぐ……あぅ」
喘ぎとも呻きとも取れる声で我に返る。今度こそモララーはッパへと駆け寄った。
胴体に空いた三つの穴からは血が絶え間なく溢れ続けている。絶望的だった。
「何で……何でお前が死ななきゃいけないんだ…?…」
奪われようとしている命を前に、自然と涙が流れ始めた。時間を戻したい衝動に駆られる。けれどそれは叶わない。
自分は余りにも無力だ。
「モラ、ラぁ…ごめん、ぇ…僕…」
「喋るな!」
発声もままならないッパが、それでも懸命に何かを話そうとしていた。
モララーは制服の汚れも構わず、血塗れの体を抱き起こす。そこからはどうしようもなかった。
既に蒼白となった顔に生気を戻す術を、モララーはもたない。
「折角会えたってのに…こんなの…無ぇだろ普通…!」
息を静かに努め、じっとモララーの憤りを聞いていた。小刻みに震え始めた体からは、遂にその魂が失われようとしている。
ッパは震える、というより麻痺する手をポケットに押し込み、自分で作ったと思われる菓子袋を取り出す。
「い、しょ…に、…おか…し、………」

 ――を食べたかった…

言葉が途切れ、ッパの体から伝わる重みが増す。それっきりだった。言葉、感情、温度、鼓動。
それら生の証明を失った。また一つ、命が失われた。神も魂も信じていないけれど、ッパというクラスメートが確かに存在したという証明。
それは自らの余命を察しながらもモララーを救った業によって証明されたのだろうか?
生きてきた事。築いた物は自分の真実となる。傷を負い、それでも真実はここにある。
自分の最期はいつになるのか。目と鼻の先かもしれない。どうあったとしても、真実だけはそこにありたいと思った。
「モナー、ガナー…ショボーン」
仲間達の名を紡ぐ。この地獄のような街のどこかできっとまだ、業を抱えていきている彼らを。

141 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/07(木) 22:13:12 ID:AnSFj/9J
「声がする。気を付けろ、えー」
モマー(男子21番)が木の陰から前方の様子を窺い、えー(男子19番)に声をかけた。
二人は会場の中央部のビル(D−7)で腰を落ち着けギコの治療を行っていた。
銃声はすぐ北からのものだったので、モマーとえーはそれで音のした場所へ行ってみることにしたのだ。
ギコはビル内で待機している。
「撃つんですか? やるしかないんですか……」
「悪党に遭ってしまったなら、場合によってはやるしかないだろ。現に銃声は何発も響いている。撃てる自信がないから俺に全て任せるといい。」
「大丈夫です。がんばります。」
モマーさん、私はあなたに恩を返したいんです。私は撃つ。モマーさんを死なせない為に。
えーがワルサーPPKの撃鉄に指をかけてモマーの背中から半身を出してモマーの視線の先を追う。
木々の隙間から見えるアスファルトに人影が一つ、見えた。
「男子の制服だな……あれは」
モマーが言いかけたところで、その影の正体に気付く。体をややこちらに向けたその人物は、モララー(男子20番)だった。
涙を流しているのは二人の距離からはわからなかったが、右手に持った大ぶりの拳銃と左手に持ったこれまた大ぶりの刀は確認できた。
モララーと言えばつい先ほど『モララーはやる気』と赤字で書かれたチラシを発見していた(じぃ(女子9番)の流したデマなのだが彼らは知らない)。
言いようのない不安がえー達を襲った。モマーを押しのけ木々を掻き分けてモララーに近付いていった。
まるで突如眼前に生じた横向きの引力に引き寄せられるかのように。遮る木々がなくなり、モララーと四メートル程度の距離を置いてえーは立ち止まる。
モララーの足元で血まみれになって男子生徒が仰向けで倒れているのに気付いた。倒れている男子生徒は、ッパ(男子10番)だった。
男子生徒の制服は血で赤く染まっていて、脇腹からは肉片のような物が傷口の周り付着している。
もう一体の死体も発見した。その死体はターン(男子8番)のもので顔面がぱっくりと割れている惨たらしい遺体だった。
えーの精神に強い衝撃が走った。
「イヤぁッ!」
そのえーの声で、ようやくモララーは背後にいたえーの存在に気付き、油の切れた機械のようにぎこちない動きで首を向けた。
目には涙が浮かんでおり、乾いた涙が目の下に半透明の筋になって張り付いていた。
突然、モララーが駆け出した。えーは虚を付かれて何もできないまま脇をすり抜けるモララーを見送る。
「モララ……わっ!」
えーの後ろから現れたモマーと肩がぶつかり、モマーはもんどりうって地面に転がり込むも、すぐさま体を起こす。
「えー、どうしたんだモララーは……!」
そう言いかけ、モマーが自ら言葉を遮った。えーの視線の先、横たわるッパとターンを確認したからである。
「そんな、まさかあいつが……」
大きく目を見開いたまま体を震わせて化石するモマー。歯を食いしばる音がえーの耳に入った。
「畜生! あの悪党め! ただじゃ済まさねぇ!! えー、お前はギコん所へ戻ってろ! 俺はモララーと方をつける!!」
モマーが渾身の叫び声を上げ発砲する。業を煮やしたモマーは踵を返してモララーの走り去った方へ駆けて行った。

142 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/07(木) 22:14:41 ID:AnSFj/9J
地面に落ちた木の枝を踏み折る乾いた音が無数に響く。
モララーは両手に武器を持ったまま、憤怒の形相でモララーを追走するモマーを振り切ろうと死に物狂いで木々の隙間をぬって走っていた。
「待ちやがれ悪党! 貴様が正義を踏みにじった罪は重い!!」
煩わしそうにディパックを投げ捨て、モマーがモララーの背中に叫ぶ。発砲はしたもののその都度かわされてしまい、弾切れとなった。
モララーが武器を抱えていてしかも怪我を負っていて走りにくいはずだが、モマーの運動神経では到底、差は縮まらない。
「くそっ!」
モマーはやきもきして六メートル程前方を走るモララーに向かい、石を投げつけた。その拳大の石は背中の銃創に命中し、モララーの上体が仰け反る。
モララーは勢いのついたまま、すぐ右のやや太めの木に激突した。

 ――何でそんな平然と人を殺せるんだ? そこに正義は・・・

ない。正義を通すにはモララーを……殺すしかない!ッパやターンと同じ思いをさせてやる、その頭をかち割ってやる!
小さな誤解は大きな狂気を生む。モマーがモララーの背中に一気に迫った。

モララーは足元に集中しながらも必死で足を走らせた。走るには武器が邪魔だったが、何としても手放す訳にはいかなかった。

 ――俺のやってることは間違ってるのかよ。

突然モララーの背中を鈍い音が叩き、背中全体に鋭い痛みが走った
それで足をもつれさせたモララーは、体を泳がせて右の木に激突する。
そのまま勢い余って後方回転すると、逆さまになった視界いっぱいに顔を紅潮させたモマーの姿が見えた。
すでに彼は銃弾を装填しながら眼前に迫っている。どうやら倒れ込んだモララーの顔面を撃ち抜くつもりのようだ。
「うあっ!」
モララーは前方回転に勢いをつけ起き上がると、しゃがみ状態から右手を軸にモマーの下っ腹部分に両足を揃えた状態で蹴りを放った。
モマーは呻き、体をくの字に折って後方に蹴り飛ばされる。すかさず、モララーが跳躍し、モマーの頭部目掛けてダーツの要領で日本刀を投げつける。

日本刀はモマーの頭の左脇に突き刺さった。モララーはモマーの手から落ちたスミスアンドエスンを左手に取る。
左手に構えられたスミスアンドウエスンと右手のデザートイーグルがモマーの下顎に突きつけられた。
モララーの鋭利な視線がモマーを貫く。腰を抜かしたモマーはただ唖然としながら黙っていた。
モララーがスミスアンドウエスンを腰に挿すと、空いた左手で日本刀を引き抜きモマーの咽喉に突きつけた。
しばし、沈黙が続く。
「……あー!やってらんねぇ!」
モララーはそう吐き捨てるとその場を後にした。

【残り28人】

143 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/08(金) 22:10:58 ID:NLin1S9M
彼のストレスは既に限界に達していた。
分校を出てからすぐの時【男子17番】フーンにチェーンソーで襲われ、その応戦中に【女子20番】リル子に撃ち殺されそうになり、
【男子16番】ヒッキーからは崖に突き落とされかけ、再びフーンと遭遇し銃弾を足や背中に喰らい、【男子8番】ターンや【男子21番】モマーにまで狙われたのだ。
さらに【男子10番】ッパが目の前で息を引き取った。目の前で友人が死ぬ様を見るのは、やはり耐え難い苦痛であった。
これほどまでに沢山のクラスメイトに襲われてもまだ彼が生き永らえていられる理由は、その高い身体能力、人望、そして恐ろしいまでの運の良さにあるだろう。

「神様はまだ俺を見捨てちゃいないってか……。」
【男子20番】モララーはF-9の林の中の岩に腰を下ろし、怒りを抑えるように右手拳をぐっと握り締めた。
先程モマーに殺されかけたが、何とか振り切る事に成功した。連続で身の危険に晒され、最早生きてる心地もしなかったが、そのおかげで銃を手に入れる事もできた。
ふと、ある疑問がモララーの脳裏を過ぎる。
何故、正義漢であるはずのモマーが自分を殺そうとしたのだろう。
やはり殺し合いのゲームに巻き込まれた事により、良心を失い、やる気になってしまったのだろうか。
まさか、学校であいつが行っていた正義は偽りの正義だったのか? いや、そんなはずは無い。
『待ちやがれ悪党! 貴様が正義を踏みにじった罪は重い!!』
モマーはこんな事を叫んでいた。まさか殺し合いのゲームの中でまで偽りの正義を振舞う奴なんていないだろう。
それにモマーは【女子5番】えーと一緒に行動しているようだった。彼がやる気ならば彼女はとっくに殺されているはずだ。

となると、可能性は一つしかない。彼らは俺がッパやターンの死体の傍にいたのを見た時、俺が殺したのだと勘違いしたのだろう。
いや、実際俺はターンを斬り殺してしまったのだが、殺人鬼のように好き好んでやった訳ではない。
ッパを撃ちやがったあいつが、どうしても許せなかった。
とにかく、またモマーに会う事があったら、その誤解を解かねばならない。説得が通じるかは分からないが、できる事なら戦いたくない。
もし駄目だったらその時は………

何を考えているんだ俺は。そんな思考が簡単に出てしまうほど切羽詰っちまってるのかよ、畜生。
モララーは自分の内面に潜む悪魔の囁きに、いい加減嫌気が差していた。

その時だった。後方の茂みがカサリと音を立てたのは。

144 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/08(金) 22:11:54 ID:NLin1S9M
「誰だ!!」
モララーは岩から腰を上げると素早く振り向き、デザートイーグルの銃口を音がした茂みの方へと向け構えた。
茂みを掻き分けて出てきた生徒は、奇しくも数時間前に自分を殺そうとした、【男子16番】ヒッキーであった。
やはり右手にはまだ赤い物が媚びり付いている金槌が握られている。そして、モララーの姿を見た彼の目は酷く怯えていた。
殺したと思っていたモララーの名前が2回目の定時放送で呼ばれなかった時、彼はさぞかし驚いただろう。
そして不運にも、今ここでばったり出会ってしまった。

ヒッキーは俺を崖から突き落とそうとした。こいつを生かしておいたら俺やモナー達が危険に晒されるかもしれない。
説得するか、逃げるか、殺すか、それとも………

モララーが様々な思考を張り巡らせている内、当のヒッキーはモララーの持つ銃に視線が釘付けになっている。
「何で、君が銃を持ってるの…?」
ヒッキーが震える声を発し、モララーの思考は中断された。
そうだ、この銃はターンが持っていた物で……。そこでモララーはハッとした。
「やっぱり……君もやる気なんだ……。」
予想通りの言葉が、相変わらず怯えているヒッキーの口から放たれた。
ヒッキーに会った時には日本刀しか持っていなかったのに、今はそれに加えて銃を二つも所持している。
ヒッキーにとって、それは誰かを殺した証明と言うに等しいものであった。
「あの刀で、何人も殺したんだ。」
違う、と言おうとしたが、言葉が出なかった。言ったところで、殺人者の言い訳にしか聞こえないはずだろうから。
「脱出しようなんて考えてるのも嘘なんだろう…? 僕には見えるよ……君が恐ろしい殺人鬼に変貌する様が!」
またしても声が出ない。
ヒッキーのその言葉は、通常であればプログラムに巻き込まれ恐怖に駆られた者の妄想である事は簡単に分かっただろう。
しかし、その言葉は実際に殺人者となってしまったモララーにショックを与えた。
ヒッキーはまだ何か言いたそうに口をもごもごさせたが、銃を持つモララーを恐れたのだろうか。
踵を返し、木々の向こうへと駆け出して行った。
モララーはヒッキーを追い掛ける気にもならなかった。ただ、遠ざかって行くヒッキーの背中を呆然と見つめていた。

『な、何が悪ぃんだよ! このゲームじゃ銃ぶっ放して人殺すくらい常識みたいなもんだろが!!』

突然、ターンの言葉が思い出された。
人を殺し、生き残る。それが、このゲームのルール。
そのルールを無視し、仲間を集めて脱出などと考えている自分は、現実を見ていないだけではないか。
もし、本当に脱出が不可能だと分かったら、自分はどうするだろう。ヒッキーの言う通り、殺戮を繰り返す獣と化してしまうのだろうか。

いや、希望を捨ててはいけない。
まずはモナー達を探さなくては。皆で生きて帰るんだ。きっと、必ず。

モララーは構えていたデザートイーグルを下ろし、デイバックにしまうと、西へと歩を進めた。

居るはずもないギコ教授の、不敵な笑みが見えた気がした。

【残り28人】

145 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/10(日) 19:59:49 ID:YgwUAevF
【男子15番】野間ネコは途方に暮れていた。
数時間前、一緒に行動しようとした【男子6番】ジャスティスに不意打ちを喰らい、右肩を負傷してしまった。
頼りない物であったが唯一の武器、木刀までも奪われ、攻撃する事も身を守る事もままならない状態になってしまう。
ジャスティスがどんな理由でやる気になったかは分からなかった。しかも、いつもと全く変わらない表情で自分を刺して来たのだから余計に寒気がする。
ただ単に死にたくないから、というストレートな理由か。それとも、どうしても帰らなければならない理由があるのだろうか。
いや、他人の事を考えるより自分の心配をした方がいい。
そう思って、野間ネコは考えるのを止めた。

彼は今、森の中を歩いている。地図で言うとH-3の辺りだ。
野間ネコは進めていた足を止め、辺りを見回した。
…何か、変な臭いがする。生臭い、あまり良い感じのしない、鉄錆のような…?
前方の茂みの奥から、微かにそれは臭って来ている…と思う。
野間ネコは恐る恐るその茂みに近付くと、一気に茂みを掻き分けた。
すると、視界の右端に、誰かの足とスカートが見えた。視線を右に逸らした時、野間ネコは驚愕のあまり腰を抜かした。
そこに倒れていたのは1人の女子生徒、朝の放送で呼ばれ死亡したらしい【女子19番】モラリであった。
頭の上半分が粉々に砕け散り、その周囲に色々な物が混ざった赤い水溜りが出来ている。
見なければ良かったと後悔したが、もう遅い。心臓の脈動が急激に速くなり、続いて呼吸も荒らくなる。
「ぅおええぇぇえぇ!!」
とてつもない吐き気が込み上げてきて、体の中の物を地面にぶちまけた。口の中が酸っぱい。

落ち着け…落ち着け僕!

自分にそう言い聞かせ、口元を学生服の袖で拭うと、野間ネコはモラリの死体に近付き、改めてその様子を見てみた。
やはり彼女の頭は見た者の気を狂わせるほど無残な物になっていた。死因は恐らく頭部を殴打された事によるものだろう。
モラリの頭から目を逸らすと、視線の先に彼女の物だろうデイバックが転がっていた。
この中にまだ食料とか武器入ってるのかな…。
デイバックを開けると、水や食料が全く手を付けられていない状態で残っていた。
誰かを殺したら普通その人の持ち物を奪わないだろうか? 何で水や食料が残っているんだろう…。
あまり深く考えないようにして、さらに中を漁った。すると、何か四角い機械のような物が出てきた。多分これが彼女の支給武器だったのだろう。

『これは生体探知機です。近くで動き回る生き物がいるとその存在を知らせてくれる機械です。
 半径50メートル以内に自分以外の生き物がいれば、ピッ、という警告音で知らせてくれます。
 また、その生き物が自分の近くにいればいるほど、警告音の間隔はピッ、ピッ、から、ピピピピ、という風に短くなります。
 この生体探知機は犬や猫などの動物にも反応しますが、あまりにも小さすぎる生命体には反応しませんのであしからず。』

「これを使って襲い掛かってくる相手から上手く逃げましょう。か……。」
説明書にはそう書かれていた。
野間ネコが生体探知機の電源を入れると、ランプが青く点灯した。
音はならない。近くには誰もいないようだ。自分のすぐ隣にモラリの体が横たわっているが、彼女は死んでいる。
野間ネコはモラリのデイバックから自分のデイバックへ水と食料だけを移し変え、デイバックを肩にかけ直した。
そして生体探知機を片手に持ち、モラリの死体を見ないようにしてその場を後にした。
心做しか彼の目には、希望の光が宿っているように見えた。

【残り28人】

146 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/10(日) 21:52:29 ID:tYkAJsyQ
西の空では、整然とした夕日が大パノラマを展開していた。
ギコ(男子4番)は廃墟ビル(D−7)の三階の窓際で多量の失血により痺れる両手を伸ばし、天を仰ぐ。
血に塗れた制服を秋風が撫でて肌がひんやりとしたが、ギコはそれには構わず目一杯虚空に手を伸ばし続ける。
死期が目前へと迫った自分はどうするべきか、ただそれだけを考え続けた。
刹那、脳裏にしぃ(女子8番)とねここ(女子15番)の死相が浮かび、ギコは心身共にようやく”覚醒”した。
「あっ!」
その声で身を傾げ、道路のほうへと視線を向ける。戻ってきたえー(女子4番)が、真っ青な顔でギコを見上げていた。
ギコはえーを見詰め、おもむろに微笑んだ。それからまた目を伏せ、一気に窓の縁を蹴る。
「何してるんですか! 危ないから早く――」
その先の声はギコには届かなかった。既にギコの足は窓を放れ、中空を掻いていた。

俺は、恵まれていた。最期にそばにいてくれる仲間がいた。
ありがとう、それから、ごめんな……えー、モマー。
しぃ、ねここ、今行くから。もしかしたら同じ所へは逝けないかもしれないが。最期まで最悪だったな。俺。
しぃ。俺――お前が好きだった。でも、殺してしまったよ。俺を助けてくれたのに。許してもらえないだろうけど、本当にごめん。
ねここ、俺、お前に合わせる顔がない。俺、結局何もできなかったもんな。

瞬間の浮遊感と数秒の落下感。冷たい風が全身を包み込む。続いて夕日が眩い光の筋を作り、視界一杯に駆け抜けた。刹那――
「いやぁぁぁあ!」
一瞬戻った聴覚にえーの悲鳴が響き、その残響に鈍い衝撃音が重なる。全身の骨が砕け散る感触を覚え、激しい嘔吐感が込み上げた。
半身は麻痺したように感覚を失い、視界の半分を占めているアスファルトを自らの血が広く塗りこめていった。
「何故ですか?! ねぇ、起きてください! 起きてよ!!」
悲痛なえーの声とアスファルトを蹴る音が響いていた。赤く染まるアスファルトの上に彼女の膝頭が見えた。
ギコは最後にもう一度だけ思った。
友人達の事、両親の事。幼馴染という関係から加害者、被害者の関係となったしぃの事。
そして、守ってやれなかったねここの事を。
数々の思いは一緒くたになり、程なく自らの灯火と共に沈んでいく。視界が闇の中へと落ちる直前、もう一度だけ目を動かし、天を仰いだ。
「しぃ、ねここ……」
ギコの瞳に、黄昏の空が映り込む。
その光景を瞼の裏に保管するように、ギコの双眸がゆっくりと閉じられた。
もう、二度とその目が開かれる事はない。
砕け散った歯車。その断末魔が哀しげに虚空に舞った。
けれど、目に見えぬ絆は決して断ち切られる事なく――

147 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/10(日) 21:54:19 ID:tYkAJsyQ
「うそ…うそぉ…」
「この大馬鹿野郎! なんでだぁ!!」
えーの嗚咽の中でモマー(男子21番)の絶叫がけたたましく響いている。心地悪い振動が体を揺らしていたが、それは今のギコの意識には入らない。
全身を突き刺していた痛みも既に感じる機能が破壊されており、その中でギコは十五年の生涯を閉じようとしている。
誘惑にも似た快楽的浮遊感を感じながら、意識はどこか自らの深い場所へと沈んでいく。
廃墟ビルの3階から身を躍らせた際の風の音、えーの呼び声。駆けつけたモマーの靴音。既にそれらは意識から葬り去られていた。

瞬間、閃光と共に強烈な衝撃が感覚を支配する。それらの感覚を最後に、ギコの魂は現世から滅失した。  

誘蛾灯のように青々とした光が見えていた。衝動に駆られ、そこへと手を伸ばす。誰かの手がそれを握り返す感触を覚え、強く握り返した。
相手の体温が伝わってくる。それは懐かしく、誰よりも優しい温もり。目に浮かぶ涙は泡沫の如く乳白色の空間へと溶け消えていく。
青い光の向こう、見慣れた顔があった。ギコは口元を緩め、満面の笑みを向けた。純粋な、自然で穏やかな笑顔を。
光の向こう側の顔も、同様に微笑み返す。ギコは手を引かれるまま、青色の輝きの中へと身を投じていく。言葉はいらない。もう迷う必要もない。

 ――その温もりが全てだった。

生者の気配を失った廃墟ビルの三階、ギコのディパックの脇に置かれている写真。
その写真はギコとしぃが揃って写った写真。二人が見せる純粋な笑顔。
それだけが彼等の生きた証として、部屋の片隅でひっそりと輝いていた。

【残り27番】

148 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/12(火) 23:52:55 ID:98R+kghQ
彼女は少々精神不安定のきらいがあった。
それゆえ、他の女子生徒にはあまり好かれていないようで、友人の数も其れ程多くはない。
比較的冷静な性格である彼女の親友の【女子11番】つーが、興奮した彼女をなだめている様子はしばしば見受けられた。

どこだ、あいつはどこにいる……。

彼女は【男子10番】ッパを追い、薄暗い森の中へと踏み込み、その後数時間、彼を殺すために探し続けていたのだ。
しかし彼の姿は一向に見つからず、先程森を出た所である。
【女子12番】づーは今、C-10の林の中を歩いている。何時間も歩き回ったため足は大分疲労しているが、休んではいられない。
ッパが既に死んでいる事など露知らず、彼女はいまだにキョロキョロと辺りを見回しながら歩いている。端から見れば挙動不審だろう。
時計を見ると時刻は16時7分。木々の間から微かに差し込む橙色の光が彼女の体を所々照らした。
づーの表情に焦りの色が窺える。暗くなってからでは特定の人物は余計に探しにくくなってしまう。
早くつーを見つけないと……ッパも殺さないと……。
そう思っていた時だった。

前方30メートル辺りに男子生徒の後ろ姿が見えた。
一瞬、ッパか? とも思ったが、体格や頭の形からしてそうではないようだ。
彼はこちらの気配に気づいたのか、づーの方へと振り向いた。【男子6番】ジャスティスである。

ああ、あいつもつーを殺そうとするかもしれない。
その前に、殺す。

ジャスティスは、牛刀を片手に近付いて来るづーを表情一つ変えずに、じっと見ていた。
づーがジャスティスの10メートル前まで歩み寄った時、彼女はある事に気づき立ち止まった。
それは彼の手に持っている武器。左手には木刀、右手には先端に血の付いたアイスピックが握られている。
因みにこの血は彼が【男子15番】野間ネコを刺した時に付着した物であるが、彼女はそんな事など知らない。

何でこいつは武器を二つも持ってるんだ?
武器を二つ持ってるって事は誰かを殺したのか? だったらこいつを優先して殺さなきゃ。
でも一体誰を殺したんだろう。
……まさか…まさか、つーを?
つーを、刺したのか? その、アイスピックで? つーを、つーを、よくも、よくもよくも。
絶対殺してやる。絶対殺す絶対殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

「うわああああああああああああ!!!!」
「モギャッ!」
づーは耳を劈くような奇声を発しながらジャスティスに向かって突進し、彼の顔目掛けて牛刀を突き出した。
あまりに突然の事でジャスティスは少し驚いたような声を上げたが、彼は顔色一つ変えずその一撃を身を屈めてかわすと、アイスピックを彼女の左足に突き刺した。
「あああぁぁぁあ!!」
づーの口から苦痛に満ちた叫び声が発せられ、その場に膝をついた。ジャスティスの繰り出したアイスピックの一撃は彼女の左太股の肉を容易く貫いたのだ。
ジャスティスはそこに深々と突き刺さったアイスピックを一気に引き抜いた。と同時に、鮮血が勢いよく噴出し、彼女は更に大きな悲鳴を上げた。
「うああっ…!! 殺してやる!! 絶対ぶっ殺してやる!!! 死ね、死ね、死ね死ね死ねぇぇええ!!!」
足を刺され取り落としそうになった牛刀を再び強く握り締め、づーは膝立ちのまま無我夢中でそれを振り回した。
しかし手ごたえは無く、ただ風を斬る音だけが自らの耳に響くのみ。
づーは完全に狂っている。その様子に恐れをなしたのか、それともほっといても問題無いと判断したのか。
ジャスティスは相変わらず牛刀を振り回し続けるづーを放置し、その場から走り去った。
後に残ったのは、既にジャスティスが消えた事にも気づかず、尚も咆哮を上げながら牛刀を振り回し続ける狂人のみであった。

【残り28人】

149 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/17(日) 08:03:18 ID:zKsthfIl
「ま、待って…。」
唐突に【男子13番】二ダーから声をかけられ、【男子5番】ゲララーは進めていた足を止め、後ろへ振り向いた。
後方5メートルほど、そこには大分疲れた顔をしてタラタラと歩いているニダーの姿があった。
「ぎゃはは、どうしたニダちゃん? 休みたいのか?」
一方のゲララーは、まるで疲れていないような声でニダーにそう言った。
ニダーは黙って頷く。もう何時間も歩きっぱなしなのだ。疲れないわけがない。
「へぇ〜、お前いつもはあんなに馬鹿騒ぎしてるのに案外体力ないんだな、ぎゃはははは!」
ゲララーがニダーを嘲るように言った。その言葉にニダーは少々カチンときたが、疲れているので言い返すのは止めた。
「まあいいや。俺もちょっと疲れたしなー、休むかっと。」
ゲララーはそう言うと、近くにあった岩の上に腰を下ろした。ゲララーが手招きしてきたので、ニダーもその岩、ゲララーの右隣に座る。
ニダーは自分のデイバックからペットボトルを一本取り出すと、蓋を開けごくごくと水を飲み始めた。
水はすっかり温くなってしまっていたが、乾いた喉を潤すには充分な冷度であった。彼は水を一気にペットボトル半分ほど飲み干すと、はぁー、と大きく溜め息をついた。
ゲララーも同じように水をデイバックから取り出し、少し飲んだ。
「あーあ、誰も見つからねぇなぁ。」
ゲララーが溜め息混じりに言う。
彼らは仲間を探すために今まで会場の至る所を適当に歩き回っていたが、幸か不幸か、【男子17番】フーンはおろか誰一人として遭遇する事は無かった。
歩き回っている内に遠くで何度か銃声は聞こえたが、行けば自分が殺されるかもしれないと判断し、そちらの方向へ向かうのは止めたのだ。
そのため、やはり誰にも遭遇する事なく今に至るわけである。彼らは今、地図上で言うとE-10の森の中にいるのだが、そんな事は彼ら自身知らない。
「もしかしたらもう殆ど生き残りがいないんじゃないニダ?」
「んー、その可能性もあるかもなー。でもまぁ次の放送で死んだ奴は分かるからよ、あんま深く考えんなよ。ぎゃはは!」
時計を見ると、時刻は丁度16時半を指していた。第3回放送まであと1時間半。
ニダーはゲララーのその相変わらず楽天的な性格に関心していたが、ふと背後に気配を感じ振り返った。

後方の木々の向こう、拳銃を構える人影の姿が見えた。
獲物を狙う、殺気立った鋭い二つの目。人影が両手で構える銃の照準はゲララーに向けられている。
「お? どうしたニダちゃん?」
ゲララーが暢気な声で様子のおかしいニダーへと問いかける。彼は後ろの人物に気付いていない。その時、ニダーの体が勝手に動いた。
ニダーがゲララーの体を突き飛ばすのと、銃声が鳴り響いたのはほぼ同時だった。そして放たれた銃弾はニダーの右肩を貫いた。
ニダーが苦痛に満ちた悲鳴を上げ、俯せに倒れ込む。
「ニダー!」
ゲララーはいきなり突き飛ばされて上半身からどさりと地面に叩き付けられたが、反動を使ってすぐに起き上がると俯せに倒れた彼の名前を呼ぶ。
ニダーがそれに反応するようにううっ、と呻いた。右肩に小さな穴が開いており、そこから赤い液体がどくどくと流れ出ている。
致命傷ではないようだが、放って置くと危険だ。

150 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/17(日) 08:04:04 ID:zKsthfIl
「あーあ、一発で楽にしてやろうと思ったのにぃ。まあいいわ、二人とも仕留めてあげる!」
さぞかし残念そうな女子の声が耳に響く。
木々の向こうから姿を現したのは、銃口から微かに煙を上げたコルト・ガバメントを両手に構えた【女子16番】みるまらであった。
その目には明らかに殺気が宿っており、口元は歪んだ笑みを浮かべていた。
「まずはアンタからよ!」
みるまらはそう言い放つと、間髪容れずにゲララーの頭目掛けてダン、ダン、と2発続けて撃った。
ゲララーは地面を蹴り、右に横っ飛びし銃撃をかわすと、素早くズボンのポケットに差し込んであったベレッタM92を抜き出し、右手に構え銃口をみるまらに向けた。
倒れているニダーが気になったが、まずはこの女をどうにかしなければ。ゲララーとみるまらの距離は約7メートルほどである。
「ぎゃは、お前俺達の事ずっとストーキングしてやがったのか?」
ゲララーのその言葉に反応し、みるまらがムッとした表情を作る。
「何よお! いきなりストーカー認定しなくてもいいんじゃない!?
 まあでも付け回してたのは事実ね。アンタあたしに向けて撃ったでしょ? その銃で。あれで危うく死ぬところだったのよ、あたしは!
 だから絶対ぶち殺してやるって思ってたのよ。あたしを怒らせた代償はデカいよ? ゲララーちゃん。」
みるまらは一気にそこまで言い放つと、その目を再び獲物を狙う目に戻し、ふふっと笑った。
「ぎゃはははは!! そりゃあ悪うござんしたねぇ! でもよ、そういうのは自業自得って言うんだぜ! ぎゃは、ぎゃはははは!!」
その一言を聞いた瞬間、みるまらの怒りが沸点へと到達した。
「黙れこんちくしょおがぁぁ!!!」
みるまらが鬼のような形相で、ゲララーの上半身に向けてガバメントを連射する。
ゲララーは咄嗟に身を屈めその銃撃をかわすと、右手に構えたベレッタをみるまらに向けて撃った。
ベレッタから吐き出された一発の銃弾はみるまらの左腕を掠め、後方の木の幹に減り込んだ。
銃声と同時に押し寄せてきた鋭い痛みによりガバメントを取り落としそうになったが、何とか堪え再びゲララーに狙いを定める。
「こ、このっ…!」

カチン

引き金を引いたが、響いたのは銃声では無く空しい音。
みるまらには一瞬何が起こったか分からなかった。しかしガバメントから弾が発射されない事から察し、すぐに状況を理解した。

た、弾切れ…?

全く予想外の展開だった。
額から嫌な汗がどっと噴出し、限界まで到達した怒りは一瞬にして恐怖に変わる。やばいやばいやばい。
慌ててデイバックを肩から下ろし、ジッパーを開け弾を取り出そうとしたが、額に冷たい物が押し付けられる感触を感じ、デイバックを弄っていた手が固まった。
目線だけをゆっくりと動かし前方を見ると、ゲララーがベレッタの銃口をみるまらの額に突き付けていた。
今まで体感した事の無い戦慄がみるまらの全身に走った。
「みるまらちゃん。」
不意に、ゲララーが彼女の名を呼んだ。みるまらは返事をする事も無く、黙ってその声を聞いていた。
「俺はできることなら誰も殺したくねぇんだ。だから、お前も俺を追っかけ回すの、止めてくんねぇかな?」
その言葉が引き金となり、消え失せかけていたみるまらの怒りの炎が再び強く燃え上がった。

151 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/17(日) 08:04:38 ID:zKsthfIl
ナメんじゃ…ないわよおおおおお!!!

みるまらはガバメントを握った右腕を下から上へと素早く振るった。あまりに突然の行動にゲララーは避けられず、その打撃を顎にまともに喰らってしまう。
ゲララーは顎を砕かれるような衝撃と痛みを覚え、たまらず2、3歩後退る。
間髪容れずにみるまらの強烈な蹴りがゲララーの腹、顔面に炸裂する。とても女子とは思えない力だ。
ああ、そういえばこいつ結構喧嘩強いんだっけな…よく花瓶ちゃんと激しい遊びしてたの見たもん俺。油断したな、ぎゃはは。
ゲララーは暢気にそんな事を考えながら、仰向けにどさりと倒れた。右手からベレッタが離れる感触がした。
「形成逆転だよ、ゲララーちゃん。」
ゲララーが顔を上げた時には既に、みるまらはゲララーの体に馬乗りになり、ゲララーの先程と同じようにみるまらはゲララーの額にベレッタを突き付けていた。
「ジ・エンド! バイバ〜イ。」
銃声が響き、ゲララーの頭に風穴が開いた……

はずだった。

「あああぁぁあああぁあ!!!!」
突然みるまらが悲痛な叫び声を上げ、突き付けていたベレッタを取り落とし、ゲララーの体の上に覆い被さった。
彼女の左脇腹は赤く染まっており、その赤い楕円の中心にナイフのような物が刺さっていた。
「ゲララー!! 早く逃げるニダ!!」
ニダーの大声が耳に響く。
そこでゲララーは状況を理解した。ニダーが彼女を果物包丁で刺したのだ。
ゲララーは呻く彼女の体を跳ね飛ばし起き上がると、ベレッタと自分のデイバックを拾い上げ、ニダーと共にその場から走り去った。
ゲララーは顔と腹、ニダーは右肩が酷く痛んだが、気にしてなどいられなかった。

「ううぅ……ぐぅ…!」
脇腹を刺され、痛みに悶え苦しむみるまら。そこに突き刺さったままの果物包丁に手をかけ、一気に刃を引き抜いた。
鮮血がより強く噴出し、鋭い痛みがより強くみるまらを刺激する。
「はぁ、はぁ…あの……エラ野郎っ…!!」
刃先が4センチほど真っ赤に染まった果物包丁を逆手に握り締めながら、みるまらは2人が逃げて行った方向を忌々しげに睨み付けた。
彼女は気合と根性で何とか立ち上がると、近くに転がっていたガバメントと、自分のデイバックを拾い上げた。
そしてガバメントに弾を最大数装弾すると、右手で脇腹を押さえながらよたよたとその場を歩き去った。

【残り28人】

152 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/17(日) 09:51:17 ID:Q7k4LPV3
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    ̄ ̄ ̄(_二_)

このスレはVIPが占領しますたܷܵܶ

153 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/09/21(木) 19:35:18 ID:4C69E2LX
「ああ、もう、最悪……。」
【女子14番】ニラ茶娘は愚痴を零しながら歩いていた。
【男子2番】ウワァァンに襲われてから、必死で走って逃げた。一応支給武器であるメガホンを反撃に使ってしまったため、今は丸腰である。
全速力で結構な距離を走ったため大量に発汗したようで、セーラー服が少々湿っている。
ただしスカートの一部分だけはウワァァンに噛み付かれたため、違う物で濡れていた。
超不快感。そろそろ精神的にも限界が近付いて来た。
自らの苛立ちを静めるために、足元にあった小石を強く蹴飛ばした。小石は放物線を描くように宙を舞い、10メートルほど右斜め前に飛んで地面に落ちた。
「喉…渇いた……。」
常に緊張状態が続くこのような殺し合いゲームの中では、何故だか無性に喉が渇く。
それに加えて激しい運動を行ったため、支給された水はあっと言う間に底を尽きてしまっていた。
とにかく水を手に入れなければ。脱水症状で動けなくなるなどあまりにも情けない。
そんな時だった。前方の草むらの中、何か四角く大きな岩のような物が見えた。何かに吸いつけられるようにそれに近付く。
突然訪れた幸運に彼女は驚いた。その大きな岩…それはまさしく井戸であった。
さらに近付いてその中を覗き込む。なかなか深そうな井戸だ。暗くて水があるかどうかはよく分からない。
そこで彼女はまた足元に偶然落ちていた小石を手に取り、井戸の中に落とし入れた。1秒ほど間を空けて、小さくぽちゃん、と音がした。
水がある。良かった。
一瞬安堵した彼女であったが、すぐに重要な問題にぶち当たった。それはどうやって井戸の中の水を汲み上げるかである。
井戸の周りを見渡してみたが、水を汲み上げるための道具が見当たらない。バケツとロープさえあれば良かったのに。
「道具、探さなきゃ…。」
井戸の奥深くを見つめながら、彼女がそう呟いた時だった。

どん

「ひゃ!?」
背中に強い衝撃が走ったかと思うと、視界がぐるりと反転し、ニラ茶娘の体は宙に浮いていた。
束の間の自分が落ちていく感覚の後、彼女は頭から水面に叩き付けられ、同時に大きな水飛沫が上がった。
口と鼻から喉へと水が急に押し寄せて来て、気管に詰まった。全く息が出来ず、非常に苦しい状態。
パニックに陥り、手足を使い必死にもがいて、何とか頭を水面から出した。まだ気管に水が詰まっており、このままでは息ができない。
「げほっ! げほっ! ごほがほっ!!」
何度も咳をして水を吐き出した。続いて慌てて井戸の内壁に手を当て、沈まないように堪える。ざらざらとした石の感触が指に伝わるのが分かった。
「はぁ、はっ、何なのよ!!」
何が起こったか全く理解できず、つい思った事を口に出して叫んだ。

154 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/09/21(木) 19:36:19 ID:4C69E2LX
「モギャー。」
その声にびくっと身を震わせ、声がした上方を見上げる。
そこには、井戸の中に浮かんでいるニラ茶娘を無表情で見つめる【男子6番】ジャスティスの顔があった。
そこでようやく疑問の答えに辿り着く。私はあいつに押されて井戸の中に落ちたんだ。
「何て事するのよ! 早く助けて!!」
「モギャー。」
ニラ茶娘は助けを求めたが、相変わらず返答は意味不明な鳴き声のみだった。その返答に彼女は激しい怒りと焦りを覚える。
彼女はまた何かを叫ぼうと口を開きかけたが、不意にジャスティスの顔が彼女の視界から消えた。彼女の耳には遠ざかって行く足音だけが微かに聞こえていた。
「ちょ、ま、待って! 行かないで! だ、誰か、誰か助けてぇぇぇ!!」
井戸の丸い入り口から除く空に向かって彼女は叫んだ。しかし、無情にも誰も来る気配は無い。
やがて、想像以上に冷たかった井戸の水は彼女の体温を徐々に奪って行き、叫ぶ力も段々と弱くなっていく。
そして、彼女が井戸に落ちてから10分が経とうという時であった。



「!!?」
唐突に耳に響いた機械音。その音の主は、どうやら自分の着けている銀色の首輪らしい。
彼女は慌てて時計を見た。この時計は政府支給の物で、当然のように防水加工がしてあったのだが、それはともかく。
時計の針は16時59分6秒を指していた。最悪の事態の予感がした。まさか、まさか……。

『13時からI-5、15時からD-4、17時からB-10です。』

禁止エリア。
その存在をすっかり忘れていた。まさか、まさかここが禁止エリアに指定されている所だなんて。

ピ、ピ、ピ、ピ

警告音の間隔がどんどん短くなっていく。
「い、嫌、嫌、嫌あああああああああ!!!」
彼女は狂ったように叫ぶと、井戸の内壁を手で掴み、這い登ろうとした。
しかし、掴めるような物も何も無い井戸の内壁は彼女の体をいとも簡単に突き落とした。

ピピピピピピピピ

彼女は井戸に突き落としたジャスティスを恨んだ。
しかし、こんな状態ではどうすることも出来ず。

ピー、ピー、ピー

最後の警告音の後、彼女の意識は急に途切れた。
B-10の井戸の中から爆音が響き、透明だった井戸の水は赤く濁った。

【残り27人】

155 ::2006/09/27(水) 18:41:03 ID:s6os/AVk
【残り26人】

156 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/28(木) 07:01:43 ID:I09I8SlP
27であってると思う

157 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/09/30(土) 06:14:50 ID:h15Ab5W9
保守。

158 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/09/30(土) 14:48:34 ID:5lmtM6TH
「ひっひひひ…次の獲物はどこだぁ〜?」
【男子14番】ノーネは金属バットで窓ガラスを割り、いくつかある民家の内の一つに侵入した。
そう、一人でも多くの人間を殺すために。

G-6には彼の残した血みどろの芸術作品が残っている。
【女子3番】アリスを手にかけた時のあの快感が体中に焼きついて離れない。
肉を潰し骨を砕くあの感触。グチャッ、ドチャッっという、常人であれば吐き気を催してしまいそうなあの音も、彼にとっては非常に心地良い音でだった。
彼女を殴る度に噴き出された大量の血液も、それを絡め取るように自らの舌で彼女の体を舐め回した。
人を殺す快楽に目覚め、狂気の笑みを浮かべたその顔。体中真っ赤に染まったその姿。
『妖怪のノーネ』という異名もさることながら、今のノーネはまさしく妖怪そのものであった。

「どこにいるのかなぁ〜、出て来いよ〜。何にもしないからさあ、うひひひひ。」
こんなどう考えてもやる気な奴の前に易々と出てくる者が果たしているだろうか。
ノーネは数時間前からずっとこの住宅地にある民家を荒らし回っていた。
家の中に隠れるのは臆病者のする事という、何の根拠も無い説を立ち上げた。
できれば手負いする事は避けたい。アリスに背後から不意打ちされた頭の打撃跡がいまだにガンガンと痛む。
どこかに隠れる奴など、どうせ支給された物がハズレ武器だったのだろうと。だからそういう弱そうで無抵抗な奴から殺してやろうと、彼はそう考えた。
何せバットとスタンガンだけでは、銃を持つ相手にはとてもとても敵わないだろうから。
それに家の中ならば誰にも見られる事無く、且つ追い詰めて殺す事ができる。
新たな作品を作るのに邪魔する者はいない。まさに最高の環境である。

ノーネは和室の窓から侵入すると、続いて居間に入った。
そこには案の定誰もいなかった。しかし、何となく今まで人がいた気配があるような気がする。
「くくくく、この家か、この家に隠れてるんだな!?」
ノーネが確信に満ちた声を上げた。彼は居間から出ると、廊下を曲がった先にあるトイレのドアを開けた。
ただ洋式トイレがあるだけの狭い空間だった。芳香剤の、良い匂いというよりどちらかと言えば刺激臭のようなきつい臭いが鼻腔をついた。
トイレのドアを開け放ったまま、続いてバスルームを調べる。
水気が無く、乾いていた。洗面器やシャンプーのボトルが無造作に転がっている。人がいない事を確認した。

ついに二階を調べる事にした。
この家に誰かがいる事は間違いない。
今まで様々な民家を探し続け、誰もいなかった事は苛付いたが、逃げ場の無い人間を追い詰めていく感覚からか、今のノーネは上機嫌だった。
階段を一段昇る度にミシッと木の軋む音が響く。この音を聞いて2階に隠れている者が恐怖に震えているのを想像すると、とても可笑しかった。
二階に辿り着いた。そこには左と右、二つの扉があったが、迷う事無く右の扉のドアノブを掴む。
空耳かも知れないが、そちらから物音がしたような気がしたので。
「ここかあ!!!」
ノーネは勢い良く扉を開けた。

「動かないで!」
そこにいたのはショットガン、レミントンM31RSの銃口をノーネに向けこちらを睨みつけている【女子7番】花瓶。
右手にナタ、左手にヌンチャクを構えた【男子12番】ドクオ。
そしてその二人の後ろに隠れるように座り込み、震えている【女子21番】ルルカの姿であった。
ノーネの顔から、笑みが消えた。

【残り27人】

159 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/10/07(土) 03:33:15 ID:HeXx8KQU
「ギコさんは、大丈夫でしょうか……。」
ここまで長い間保っていた沈黙を先に破ったのは【女子5番】えーだった。
「…わからん。無事だと良いんだがな。」
彼女の隣に腰を下ろしている【男子21番】モマーが淡々とした口調で返した。
その口調とは裏腹に、彼はギコの事を非常に心配していた。


時間は少し遡る。
【男子4番】ギコはモマー、えーの二人にD-7ビル内部へと運ばれ、手当てを受けた。
首からの出血は凄まじい物であった。傷口を水で洗い流し、消毒薬を塗った後、包帯で巻きつけた。
因みに消毒薬と包帯はC-8の病院で拝借した物である。
しかしそれでも、少し時間が経つ度に首に巻いた包帯からは赤黒い血が滲み出し、白かった包帯を汚して行く。
この分だと、後に血が足りなくなって失血死してしまうかもしれない。
今、床に仰向けに寝かされたギコの傍らにいるえーは、そんなギコを心配そうな表情で見つめていたが、
当のギコは何も言葉を発さず、どこか虚ろな目で周囲の壁や天井へと視線を泳がせていた。
えーは数分前にモマーと離れた。
モマーに『ギコの所へ戻っていろ』と、そう言われた通りにこのビルへ戻って来たのだが、彼女は不安で仕方が無かった。
つい先程見たあの無残な光景。
【男子10番】ッパと【男子8番】ターンが血の海の中で倒れていた。そして、そのすぐ傍にいた【男子20番】モララー。
普通に考えればあの二人を殺した犯人はモララーでしか有りえない。銃や刀も持っていた。
そんな殺人鬼かもしれない男と決着を付けようなどというモマーの行為は、冷静に考えてみれば無謀である。
もう人が死ぬのは見たくない。まして、今まで一緒に行動を共にして来た仲間の死など。

早く戻って来て、モマーさん…!

彼女は強く懇願する。
と、その時。えーとギコのいる部屋のドアがバン、と耳障りな音を立て勢い良く開かれた。
「二人共! 無事か!!」
「モマーさん!」
酷く慌てた様子で部屋に入って来たその男は、紛れも無いモマーであった。
えーがモマーの方へと駆け寄る。
「そちらも無事だったんですね。」
「あ、ああ。」
えーの言葉にぎこちなく答えるモマー。やや表情が暗い気がした。

160 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/10/07(土) 03:33:54 ID:HeXx8KQU
「何があったんですか…。あの、モララーさんは……。」
えーが問いかける。モマーの表情は、明らかに動揺しているように見える。
暫しの沈黙の後、モマーが重い口を開いた。
「あいつは……モララーは、俺の敵う相手じゃ、なかった。
 逆に殺されそうになって……その時、俺は、びびっちまって……何も、できなかった。」
えーは無言でこちらを見つめている。モマーは続けた。
「でも、あいつは何故か俺を殺さなかった。ただ、銃は取られた。…それだけだ。」
…不思議だった。
殺人鬼であるはずのモララーが、すぐ殺せる状況にあったモマーを何故殺さなかったのか。
さらに、自分を殺そうとした相手である。そんな奴を、後々厄介になるかもしれないのに放置しておくだろうか。
ん? 殺そうとした?
まさか、あの二人が先に襲って来たから、モララーは仕方無く殺してしまったのではないだろうか。つまり正当防衛だったのかもしれない。
実際に殺害の現場を見ていないのに、あの時は混乱したせいで、モララーが犯人だと決め付けてしまっていた。
だけど、今は違う。可能性は一つじゃなかった。
「モララーさんは、やる気じゃなかったのかもしれません。」
モマーが俯いていた顔を上げ、驚きの表情でえーの顔を見た。
「な、何を言って…」
「きっと、事情があったんですよ。
 もしそうでなかったら、あなたは今、生きていないでしょうから……。」
モマーは何も言い返せなかった。ようやく誤解だったのだと気付く。
彼女の言う通りだ。よく考えてみれば、あんな状況でモララーが自分を逃がす訳が無い。
一気に全身の力が抜けたように、モマーはその場にへたり込んでしまった。そして苦笑して言う。
「俺…やっぱ駄目だよな…。正義を貫き通そうとして空回りするし、モララーに申し訳無い事しちまうし。最高の馬鹿だよ俺は……。」
そこまで言ってはぁ、と溜め息をついたモマーの顔の前に、一つの手が差し伸べられた。
それに反応し斜め上を見上げると、えーが体を前屈みの姿勢に、顔は柔らかく微笑んでいた。
「過ぎてしまった事をいつまでも引っ張っていても仕方がありませんよ。
 次から気を付ければ良いじゃないですか。」
彼女のその言葉に、モマーは少し驚いたような表情を作るが、やがてモマーも笑みを返す。
「ありがとう…。」
差し伸べられた手をモマーは右手でしっかりと握り、そして立ち上がった。

161 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/10/07(土) 03:34:41 ID:HeXx8KQU
「そ、そうだ。ギコは…。」
今まで二人のみで話をしていたおかげで、ギコの事をすっかり忘れていた。
モマーがえーの後方を見て、それにつられてえーも後ろを見ると、ギコは既に床から起き上がり、何時の間にやら自分の荷物を整理している。
丁度荷物を整理し終わったのだろうか。ギコはデイバックを右肩にかけ、傍に置いたコルト・ハイウェイパトロールマンを右手で掴み、よろよろと立ち上がった。
「ギコさん! どこに行くつもりですか! 安静にしていないと…。」
モマーが言葉を発するよりも早くえーが口を開いた。
ギコは少し歩き、モマーとえーの前で立ち止まり、二人の顔を見た。
「手当て、してくれてありがとな。でも俺にはやらなくちゃいけない事があるから…。」
そう言って再び部屋の出入り口へと歩き始めるギコだったが、すぐに目の前にモマーが立ちはだかり、進路を塞がれた。
「ギコ、やらなくちゃいけない事って何だ? 教えてくれ。できる限りの協力はする。」
モマーはいかにも、教えるまで通さないと言うような表情をしていた。
その思いを察してか、ギコは溜め息を一つつくと、仕方無く口を開いた。
「しぃとねここの……敵討ちだ。」
【女子8番】しぃ、【女子15番】ねここと言えば、ギコとはとても仲が良かったと、モマーやえーは知っている。
特にしぃはギコと幼馴染らしく、二人で楽しそうに話していたその姿は仲の良いカップルにすら見えた。
だが、二人共既にこの世にはいない。なるほど、大切な者を失った者が復讐に走るというのはよくある話である。
「ねここはフーンが殺した。俺は目の前でねここが殺される瞬間を見た。
 この、首の傷はフーンと戦った時に受けた物だ。…俺はあいつを絶対に許さねぇ。
 これは俺の問題だ。お前らを巻き込む訳にはいかねぇ。一人で行かせてくれ。」
ギコのその口調には、明らかに怒りが含まれていた。
【男子17番】フーン…。彼は不良のリーダー格で、喧嘩が物凄く強いらしい。その身体能力はあのモララーと同等かそれ以上。
そんな強敵に、今でも包帯に血が滲んでいる痛々しい傷を負った者が勝てる訳が無い。
しかし、ギコの目には決して曲がる事の無い強い意思が宿っていた。そんなギコの表情を見たモマーは、止める言葉も出なかった。
ギコがモマーの脇をすり抜け、まもなく部屋から出ようとした時だった。
「待ってください!」
ギコの背中に向かってえーが叫ぶ。そこでギコは立ち止まる。
「しぃさんを殺したのも…フーンさん何ですか…?」
ねここを殺したのがフーンだという事は分かった。しかし、しぃを殺したのが誰かは聞いていない。
もしギコがしぃを殺した犯人を知らないのだとすれば、彼がこれから外に出て、手当たり次第に人を殺す可能性もあるからだ。
そんな事は有り得ないとは思っていても、もしそうだとしたら彼を何としてでも止めなければならない。
ギコは二人の方へは振り向かず、背を向けたまま口を開く。彼の口から発せられた言葉は、さらに有り得ないものだった。

「俺はもうここへは戻って来ない。しぃは…………俺が殺した。」

162 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/10/07(土) 03:35:23 ID:HeXx8KQU
「なっ…!!」
「そんな……!」
ギコとしぃは親友同士だったはずだ。それなのに、何故。
あまりにも想定外の返答に、二人は驚愕のあまり動けなかった。
ふとモマーが我に返ると、部屋の中には既にギコの姿が無く、部屋の外では人が床の上を走って行く足音が聞こえていた。
「まっ、待てっ!! 待てえぇ!!」
思わずモマーは部屋の外へ飛び出し、ギコが駆け抜けて行ったであろう方向に向かって叫んだ。
しかし、足音は止まる事も無く段々と小さくなって行き、やがて聞こえなくなったのだった。


何であいつが……分からない…俺には分からない。

モマーはギコが何故しぃを殺したのか、全く理解できなかった。
不謹慎ではあるが、どう考えても彼が彼女を殺すというような場面は浮かんで来ない。
ギコはこのゲームに乗っている様子でも無かった。嘘を言っていた様子も無い。考えれば考えるほど頭が痛くなってくる。
それに、あの言葉。

『しぃとねここの……敵討ちだ。』
『俺はもうここへは戻って来ない。しぃは…………俺が殺した。』

あいつ……まさか。

「もうすぐ…定時放送の時間ですね。」
突然聞こえた言葉により思考が断ち切られ、ハッとした表情でえーの方を向く。
慌てて時計を見ると、時刻は17時58分を回っていた。
「ああ……。」
太陽は既に水平線の向こうへと沈みかけている。
部屋の中に取り付けられている窓からその様子を一望しながら、モマーはギコの無事を祈った。

【残り27人】

163 ::2006/10/07(土) 09:19:56 ID:d378j28O
【男子9番】タカラギコは【A-4】の森にいた、
5:00ごろ【G-7】で【女子1番】あいに襲われた後ここまで逃げてきて、ずっと隠れているというわけだ、
途中家が何軒かあったがあいみたいな襲撃者が潜んでいるかもしれないので入らなかった、
皆どうしているのかなあ・・・そんなことを思いついたりするが探しに行ったりはしなかった
怖かったのだ、あいに襲われたときのことが忘れられない
手にはそこらへんで拾ったと思われる棒切れが握られていた、
何もないよりはましだと思って拾ったものだ
他の人が僕に会ったらどうするんだろうか・・・襲ってくるのだろうか・・・
頼むから誰も来ないでくれ・・・タカラギコはそんなことを考えていた

【男子6番】ジャスティスは【A-10】の原っぱをうろついていた
彼は17:00前に【女子14番】ニラ茶娘を井戸に突き落とした後、北へ向かっていたのだ、
「モギャ」突然彼は足を止めた、目の前には【男子3番】おにぎりが死んでいた、
他のやつが見たら「お、おにぎり!?・・・あ、そういえば死んだんだったな・・・」のようなことを
言うのだろうが、ジャスティスは「モギャ」しか言わなかった、というよりは言えなかった、
ジャスティスはおにぎりの死体に近づくと、横に置いてある軍用ナイフとかばんを拾い上げ
今度は西へ歩いていった。
18:00の放送まであとわずか・・・

【残り27人】

164 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/10/08(日) 01:54:36 ID:vxpBG7ow
『18時になりました。第3回目の放送を始めます。』
会場の至る所に設置された拡声器から、雑音混じりの、しぃ助教授の淡々とした声が響いた。
『死亡者は5人です。【男子1番】イマノウチ君、【男子2番】ウワァァン君、【男子8番】ターン君、【男子10番】ッパ君。
 女子は一人だけです。【女子14番】ニラ茶娘さん。
 男子の死亡者が増えてきました。女子の優勝も可能です。頑張ってください。』
次々と並べられる死者の名前に、悲しむ者もいれば、喜ぶ者。恐怖する者もいれば、何も感じない者もいた。
『続いて禁止エリアです。
 19時からG-7、21時からH-9、23時からA-2。以上です。』
放送はそこで終わった。


「禁止エリアアアアア!!! うっきゃあああああああああああああああ!!!!」
今の放送に他の誰よりも強く反応し、狂ったように絶叫する一人の少女がいた。
【女子1番】あいである。
それもそのはず、彼女が今身を潜めている民家はG-7の住宅街にある内の一つ。
そしてこのG-7というエリアは、今の放送で見事に禁止エリアに指定されてしまったのだ。

彼女は何か事あるごとに叫び声を上げる、ちょっと…かなり変わった生徒であった。
叫ぶのは、別に精神に異常があるわけでは無い。癖のようなものである。
それが理由で虐められるという事は無かったが、他のクラスメイトの殆どは彼女を『近寄り難い存在』として認識していた。
そのためクラスの中では常に孤立し、友人も一人もいない。
出発前、【女子2番】あめねこが目の前で殺されてしまい、衝撃のあまりやはり絶叫した。
元々臆病なところもあってか、彼女はゲームが始まってからずっとこの民家の中に潜伏していたのだが、
プログラムに巻き込まれた事、そして何よりあめねこのあの無残な瞬間を目撃した恐怖により正常な思考ができなくなっていたためか、
出入り口の扉の鍵を閉め忘れるという失態を犯してしまう。しかもそれに最後まで気付かないとは、何ともはや。
そのため襲撃者(少なくともあいにはそう見えた)の【男子9番】タカラギコや【男子1番】イマノウチがやって来てしまう。
彼らを追い出すために斧を振り回した、その時の彼女の絶叫は、癖もそうではあるが、強い恐怖から出たものだった。
目の前にいる者は誰であろうと全力で追い返す。全力で殺す。それが彼女の恐怖を慎める唯一の方法だった。

彼女は傍に置いてあった斧とデイバック二人分(一方はイマノウチの物である)を乱暴に掴み、隠れていた部屋から出ると、
階段を駆け下り、全く動かなくなったイマノウチの体を蹴り飛ばし、その民家から飛び出した。
目的地も無く、ただ禁止エリアから脱出したいという思いに突き動かされるままひたすら走る。
会場を駆け巡る殺人鬼が、また一人誕生した。

【残り27人】

165 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/10/12(木) 16:24:04 ID:knyl39DT
【男子15番】野間ネコはF-1付近を歩いていた。
彼はH-3にて【女子19番】モラリの死体を発見し、彼女の荷物から生体探知機を手に入れた後、隠れる場所を探している。
この生体探知機は、半径50メートル内にいる生物の存在を音で知らせてくれる物。
これさえあれば危険人物との接触を回避する事は安易である。
ただし、生体探知機が反応する度にそちらの方向を避けて通っていたら、実際にその人と接触する機会も失われるため、仲間を作る事もできない。
彼とて孤独が好きという訳ではなかった。誰かに縋りたい気持ちもあるし、心の支えが欲しいと思っていた。
しかし、一緒に行動しようと話を持ちかけた【男子6番】ジャスティスには突然襲われ、彼は既に誰であろうと他人を信用する気にはなれなくなっていた。

隠れられそうな場所はそう簡単に見つかりそうに無かった。
野間ネコは少し後悔する。生体探知機を見つけてから、何故自分は北西に向かって進んできてしまったのかと。
東に行けば住宅街があり、隠れられそうな場所はいくらでもありそうに見えた。
まあ、その住宅街は先の放送で一部禁止エリアに指定されてしまったのだが。
よく地図を見ておけば良かったと思いながら歩いていると、彼は前方に横たわる一つの何かを発見した。
噎せ返るような血の臭い。
2時間ほど前に体験した、モラリの遺体から発せられていたあれと同じもの。
恐る恐るそれに近付く。
日はすっかり沈んでおり、辺りはかなり暗くなっていたので、それがどのような状態になっているのかはよく見えない。
野間ネコはデイバックから政府支給の懐中電灯を取り出すと、光の出る方向をそれに向けて灯りを点けた。

「ひ…ひゃああ!!」
思わず情けない叫び声を上げ、尻餅を付く。懐中電灯が彼の手から滑り落ち、地面に叩き付けられガチャン、と音を発する。
電灯が点いた瞬間、彼の目に飛び込んで来た物は、頭がばっくりと割れ、そこから夥しい量の血液と脳味噌を垂らした【男子2番】ウワァァンであった。
前に見たモラリの頭部の方が損傷が激しかったが、だからと言って人の死体に慣れる訳がない。
またもや吐き気が込み上げてきたが何とか抑えると、懐中電灯を持ち直しウワァァンの遺体へとその光を走らせる。
よく見ると上半身が真っ黒に焦げ、左腕と右腕の手首から先が無くなっている。
これ程までに人を痛めつけられる殺人者がいるなんて……。
「ここ、こんなの…酷すぎるっ!!」
ウワァァンのその惨状を目の当たりにし、素直な感想を口から出す野間ネコ。
その時だった。

ヒュッ

と突然、風を切る音を立てて目の前を何かが通り過ぎて行くのが分かった。

166 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/10/12(木) 16:25:01 ID:knyl39DT
「な、なんだ…?」
6、7秒ほど間をあけてまた何かが、野間ネコから見て左から飛んで来た。
「ぎゃあぁぁあ!!」
その何かが野間ネコの左腕、肘と手首の間を貫通した。どうやらそれは棒の先端に尖った物が付いた、弓矢のようだった。
ジャスティスに右肩を刺された時より更に強い痛みが彼の左腕に走る。鏃は左腕の骨を貫いたようで、手首から先が思うように動かなくなってしまった。
痛みに悶えながらも彼は生体探知機を見るが、反応は無い。その事が更に野間ネコの頭をパニックに陥らせる。
矢が飛んで来たという事は、自分を狙っている敵がいるという事。
しかし生体探知機が反応しないという事は、半径50メートル内に敵がいないという事になる。
つまり、遠隔攻撃されたのだ。
確かに銃や弓矢などなら50メートル以上遠くから攻撃する事も可能だろう。
しかし、たかが中学三年生。その年でこれ程の遠距離狙撃をするなど、神業というものである。
でも、自分は攻撃されてしまった。左腕は大怪我だ。こんな事を考えている場合ではない。
そう思うや否や、野間ネコはすぐさまその場から逃げ出す事にした。
立ち上がり矢が向かって来る方向に背を向け走り出した瞬間、三発目の矢が彼のすぐ右を通り過ぎて行ったが、幸いにも当たらなかった。
左腕を貫いた矢は依然として突き刺さったままであり、そこからは尚も激しい痛みを発し続けている。
懐中電灯を置いて来てしまったが、そんな物を回収している暇はなかった。


「逃がしたか……。」
野間ネコがいた場所から60メートル程離れた所に、狙撃者の【女子11番】つーはいた。
彼女は前方で懐中電灯の明かりが見えた事から人がいる事を察し、見つけた者は殺せる時に殺しておくと決め攻撃したのだ。
が、いくらアーチェリーの実力があるとは言えど、この距離、そしてこの暗さでは獲物の急所を狙うのはいささか無理であった。
彼女はさっきまで野間ネコがいた所にやって来ると、当たらずに地面に突き刺さった二本の矢を回収しながら、ウワァァンの死体を発見した。
「これは…ひでぇな……。」
流石の彼女であっても、これには目を背けたくなるというものだ。
野間ネコが落としていった懐中電灯で辺りを捜索してみると、ウワァァンの死体の近くにブッシュナイフが転がっているのが目に入った。
それへと手を伸ばした彼女だったが、柄を握った瞬間、ベタベタと妙な感触(ウワァァンが口に銜えていた為付着した唾液である)を感じたので、
気持ち悪くなってそこらへんの草むらに投げ捨てた。
捜索を止め、ウワァァンの死体をちらりと一目し、「こんな風にはなりたくねぇな。」と一言呟くと、彼女はその場を後にした。

【残り27人】

167 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/10/15(日) 19:30:19 ID:R9Ka/9vv
「そ、それ以上近付くな! うう、撃つぞ!!」
目の前の男が怯えた声で叫ぶ。彼が両手で構える銃の銃口は当然の如く僕に向けられているが、彼の手はぶるぶると震えている。
僕は彼の言葉もまるで聞こえないように、さらにその男との距離を詰めて行く。
既に彼との距離は2メートル以下だ。この至近距離、撃たれたらまず避けられない。
だが、不思議と恐怖心は無かった。
「近付くなって言って…」
男が言い終わらない内に僕はさらに一歩前に踏み出し、右手の人差し指と親指で男の構える銃の銃口をおもむろに摘んだ。
彼は突然のその行動に面食らったようだ。そして、僕が銃を摘んだ指先に一気に力を入れると、銃口がぐにゃりと曲がった。
その光景に、目の前の男が驚愕の表情で尻餅を付き、銃を手放した。実際、僕だって驚いている。
そして僕が銃を摘んでいた二本の指をパッと離すと、まっすぐだった銃口が見事なカーブを描いた奇妙な銃がガチャリ、と金属質の音を立てて地面に叩き付けられた。
くくくくく。
急に可笑しくなり、笑いが込み上げてきた。
素手で鉄の塊を曲げて見せた。一体どこからこんな力が沸いてきたのか。そんな事は全く分からないがとにかくすごい、すごいぞこれは!
目の前の男が絶望した表情で震えている。逃げようとしているようだが、足が竦んで動かないようだ。
僕は左手に持っていた金槌を右手に持ち替え、高く高く振り上げた。
「ひっ、や、やめっ…!」
命乞いする男の脳天目掛けて、僕は金槌を容赦無く振り落とした。すると、たった一撃で彼の頭は木端微塵に砕け散ったではないか。
男は粉々になった頭の中から大量の血と脳味噌をばら撒いて、そして体は仰向けにどっと倒れた。
あっははははは。
すごいすごい、すごすぎる! 僕は最強だ! この世の中で誰よりも強い人間だ!
もう誰も僕に敵わない! もう誰も僕に逆らえない!
僕は、完璧超人になったんだあああああ!!
あっはははははははははははははは、はははは…………。



「……。」
有り得ない。
目を開けた彼、【男子16番】ヒッキーは、一時の休息の後、再び現実に引き戻された。
今まで眠っていたベッドから体を起こす。まだ疲れが残っているのか、体全体が酷くだるい。部屋の中は真っ暗だった。
どうやら夢を見ていたらしい。
変な夢だった。現実だけでは飽き足らず、夢の中ですら殺し合いをさせられていたようだ。
それだけならまだしも、銃口が曲がったり、一撃で人の頭が吹っ飛んだりと、変な事ばかりだった。
人は夢の中で、これは夢だとなかなか気付けないものである。
どんなに有り得ない事、非現実的な事が夢の中で展開されていても、『これは夢である』という思考はまず浮かんだ事が無いし、
夢の中の自分は、どちらかと言えば自分の意思で動いているのではなく、何かに操られ、勝手に動いているような気がする。不思議なものだ。
しかし、この殺し合いに参加させられている事は紛れも無い現実だ。
彼も最初の頃は、これは夢だと思っていた。思っていたかった。
そして一度頬をつねってみたところ、やはり痛かった。夢の中では普通痛みは感じない。現実は非情である。

168 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/10/15(日) 19:31:02 ID:R9Ka/9vv
そういえば今は何時だろう。ふと、彼はそう思い、腕時計を見ようとしたが、こう暗くては針が見えない。
彼はベッドの傍に置いてあったデイバックを手探りで探し出し、中から懐中電灯を取り出し、点けた。
部屋の中がほんの少しだけ明るくなる。窓から光が漏れて他の者に居場所がばれてしまうかもしれないが、まあ仕方が無い。
その光を利用して時計の針を読むと、時刻は18時26分を指していた。
何て事だ。放送を聞き逃してしまっている。

ヒッキーがここまでに至る経緯はこうだ。
【男子20番】モララーと再び会い逃げ出した後、自分でも何をすれば良いのか分からなくなり、彼は会場の中心辺りをうろうろと歩き回っていた。
しかし銃声は東で何度か聞こえたものの、誰にも会う事は無く、精神的にも肉体的にも疲れが溜まって来たので近くにあったマンションの一室で体を休める事に決めたのだ。
どういうわけかは知らないが、鍵が掛かっていない部屋があったのはラッキーだった。
部屋の中は意外と綺麗だった。前にいた住民は早々に追い出されたのだろう、日用品などは殆ど残っていた。
疲労に加えて、隠れ家を見つけた安心感からか、プログラムの最中にも関わらず驚くほど早く眠る事ができた。

…そして、放送を聞き逃すという大きなミスを犯してしまった。

ヒッキーは頭を抱える。
放送を聞き逃してしまった以上、誰が死んだのか、あと何人残っているのかが分からない。それはまあ、よしとする。
問題は禁止エリアだ。下手に動けば首が飛ぶ。しかし今、自分がいるここ、E-5が禁止エリアに指定されている可能性も十分に有り得る。
どうしようどうしようどうしよう…………。

…そうだ。簡単な事じゃないか。
誰かを殺して地図を奪えばいい。命がけのゲームだ、皆嫌でも放送のメモくらい取っているはず。
それさえ上手く行けば、何とかなる。
そう決まれば早速行動だ。禁止エリアが一つ増える19時まであと30分も無い。時間が経つごとに危険が増えて行く。
誰でもいいから早く殺さなければ。
そう、これは殺し合い。弱い奴は死ぬ。諦めたら、死ぬ。
もう殺人を犯す事に躊躇してはいけない。
もう僕は迷わない。
絶対生き残ってやる。

ヒッキーは一通り荷物をまとめた後立ち上がり、束の間の休息を与えてくれたこのマンションに感謝しつつ、
出入り口の扉を、戦地への扉を開けた。

【残り27人】

169 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/10/20(金) 23:46:55 ID:ehgmmtXf
【男子9番】タカラギコは相変わらずA-4の森に身を潜めていた。
先程流れた3回目の定時放送では、5人もの人間が死者に追加されたとの事だった。
このゲームに乗った者は確実にいる。こんなふざけたゲームに乗った奴が何人いるのだろうかと、想像するだけで寒気がする。
たった1人で今までに発表された14人全員を葬ったとは思えない。人殺しは複数人いるはずだ。
最悪の場合、このプログラムで人殺しとなった人間は14人になる。即ち、クラスの3分の1が人殺し。
生きてる心地もしなくなる。
しかし、ただ考えるだけで彼らの蛮行を止める事もできず、隠れているだけの自分。
タカラギコはそんな自分の無力さと情けなさを痛感していた。

さっきの放送から10分程経っただろうか。
タカラギコはデイバックからパンを取り出した。
彼はゲームが始まってからというもの、支給された食料には一切手を付けていなかった。
喉は渇くので水は既にペットボトル一本を飲み干し、もう一本も半分程飲んでしまっていたが、食欲はどうも湧かなかった。
しかし、食欲があまり無くとも、食べれる物は食べれる時に食べた方が良い。
この先何があるのか分からないし、いざと言う時に栄養不足で体が動かなかった、なんて事が起こらないように。
そう決断し、彼はやや早めの夕食を取る事に決めたのだ。
パンを一口頬張る。何の味付けも無い、パサパサに乾燥したパンだった。
飲み込もうと思うがなかなか飲み込めず、下手すれば喉に詰まりそうになり、何度も噛む。
噛むたびに口の中で唾液と混ざったパンが不快な感触を産む。
気分が悪くなって来たので、今食べていたパンは半分を残し、デイバックにしまった。
やや俯いて、はぁ、と小さく溜め息をつく。と、その時。

カサッ

と音を立て、前方の茂みが揺れたのが見えた。
ドクン、とタカラギコの心臓が大きく波打つ。すぐそこに、誰かがいる。
「だ、誰ですか!?」
咄嗟に傍に置いておいた棒切れを掴んで立ち上がり、音がした茂みの方へと叫ぶ。返答は無い。
相手の姿が見えない。言い知れぬ恐怖に、彼の体へ戦慄が走る。
やる気の無い生徒なら良いが、もしやる気なら……。
「出て来なさい! そ、そうでないと、う、うう、撃ちますよ…。」
ハッタリ。
とりあえず姿を見せる事を要求してみる。撃つなどと言っているが、当然の如く彼は銃なんて物は持っていない。
極度の動揺のためか、そんなとんでもない事を口走ってしまった。タカラギコは言い終わってから酷く後悔する。
下手をすれば今、茂みの向こう側にいる者から自分へとあらぬ疑いをかけられるかも知れないし、先手必勝で攻撃を受ける可能性も否定できない。
タカラギコは緊張の糸を張り詰めたまま、相手の返答を待った。
しかし、相手は茂みから姿を現す事も無ければ、さっきのように葉が擦れる音を立てる事すら無い。
そしてタカラギコがまた何かを言おうと口を開きかけた、次の瞬間。

170 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/10/20(金) 23:47:32 ID:ehgmmtXf
茂みから何かが飛んで来た。
卵のような形をしたそれは、ゆるやかな放物線を描きながら飛んで行き、タカラギコの足元に転がった。
戦争映画か何かで見た事があるそれ。
手榴弾。
近くで見るとパイナップルのような形状のそれは、ピンを抜いてから数秒で爆発するという物。
で、今飛んで来たこの手榴弾には見たところピンが付いて無いから…つまり………?

「うわあああ!!」
タカラギコは反射的に、足元に転がったそれを思い切り蹴り飛ばし、頭を抱えて地に伏せた。
右足で蹴り上げた手榴弾は左斜め前に10メートル程飛んだ所で凄まじい空中爆発を起こし、砕け散った。
あと少し反応が遅かったら、無事ではすまなかったかもしれない。危うく粉々になるところであった。
安心したのも束の間、再びあの茂みの方からカサカサと音が鳴り、今度こそその人物が姿を現した。
【女子4番】あゃなみレイである。
「あ、あゃなみさん…?」
彼女は、クラスの中ではあまり目立たない存在だった。基本的に無口で、口調も淡々としており、常に無表情だった。
タカラギコは彼女と会話を交わした事が殆ど無かったため、彼女について知っていると言えば、そのような表面的な事のみだった。
あゃなみは無言のまま、ゆっくりとタカラギコの方へ近付いて来る。そして、彼はその時ようやく気付いた。
右手に血錆がべっとりと媚びり付いた包丁が握られているのを。
彼はそれを認識した瞬間、叫び声を上げながら片手に持っていた棒切れをあゃなみに向かって投げ付けた。
棒切れは彼女の包丁を握っていない方の腕でガードされてしまったのだが、タカラギコはそれを確認する間も無く、彼女に背を向けて全速力で走り出した。
木々の間を抜け、何度も転びそうになるが、止まる事無く走り続ける。あゃなみは追いかけて来なかった。

5分程走っただろうか。
タカラギコは激しく息を切らし、目の前に立っていた木に寄りかかる。
そして背中を木の幹に密着させたまま、崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。
「はぁ、はっ、ここまで、来れば、大丈夫………。」
どのくらいの距離を走ったかは分からなかったが、延々と川沿いに進んで来て、
南にビルがいくつも立ち並んでいるのが見える事から、ここは恐らくA-7辺りだと思われる。
まだ多少息を切らせながらも、彼はデイバックから残りの水を取り出し、一気に飲み干す。
水はそれほど冷たくないが、渇いた喉を潤すには充分である。
水が無くなってしまったが、大丈夫。何とかなる。
地図を見ると、現在地から近くにはコンビニがある。既に多くの人間が水、食料を求めてそこを訪れたに違いないだろうが、まだ多少は残っているはず。
そんな事を考えながらタカラギコは、もう暫くの間はここで体力が回復するまで休もうと思った。
しかし、運命の神様はなかなか彼に休みを与えてくれないようで。

171 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/10/20(金) 23:48:06 ID:ehgmmtXf
休憩を始めてから3分と経たない内に、前方から人影がこちらに歩いて来るのが見えた。
思わず身構えるタカラギコ。暗闇のせいで誰なのかはよく見えない。
人影が段々と近付いて来るにつれ、その姿が次第にはっきりとして来る。タカラギコは目を凝らしてそれが誰なのか、じっと見てみた。
言語障害者の【男子6番】ジャスティスだ。
ジャスティスは、その場に座り込んでいるタカラギコにどんどん近付いて来る。
これはどういう事なのだろうか。タカラギコは思った。
ジャスティスの無表情な顔。『モギャー』としか喋らない彼。それはいつもの事。
ジャスティスの両肩にはデイバックが一つずつかけられ、その片方から木刀が無造作に突き刺さっている。
さらに、右手には軍用ナイフ。左手には先端が血で錆びたアイスピックが握られている。その姿はまさしく異常だった。
こいつ……一体何人殺したんだ。
脳が警告を発している。殺される。逃げろ、と。
ジャスティスはそんな彼の思いも構わず、タカラギコの方へとさらに歩みを進める。
ふいに、ジャスティスが右手を振り上げた。月光を反射し真っ白に光るナイフ。
タカラギコにはその刃が、真っ赤に染まったいるように見えた。
そう、それは生存本能。ナイフの刃はタカラギコには当たらず、彼が今まで寄りかかっていた木の幹に深々と突き刺さった。
タカラギコはその身を捩り、既の所でその斬撃をかわしたのだ。
彼はすぐさま立ち上がり、ジャスティスに背を向けてまたもや全力疾走を開始した。
彼の両足には、恐ろしい早さで疲労が蓄積されていく。
しかし立ち止まってはいけない。だってこれは、命を賭けた戦いなのだから。
ビル郡の間を抜け、さらに南下を続ける。やがて道路に出て、アスファルトの上をひたすら走る。
カッ、カッ、と軽快な音が足元から響く。走って、走って、そして。

「うっきゃああああああああああ!!!」
「おわぁぁああ!!」
二人分の絶叫が闇夜で交わり、タカラギコの上半身に強い衝撃が走る。
どうやら相手側の人物も走っていたらしく、正面衝突したようだ。しかしタカラギコにはその相手側の声に聞き覚えがあった。
奇しくも、早朝に自分を襲った【女子1番】あいのものである。
こんな短時間で、何を考えているのか分からない危険人物と3人も。3人も連続で遭遇してしまうとは。
タカラギコは自らの運の無さを呪った。
「ああ、あいさん…ま、またお会いしましたね……。」
そんな悠長な事を言っている場合では無い。
あいはタカラギコのその言葉に反応したかのように、タカラギコとぶつかった際に手から落ちた斧をまるで誰かから奪い取るように掴み取り、
間髪容れずにまたも奇声を発しながらタカラギコに襲い掛かった。
タカラギコはその一撃を左に飛んでかわす。斧の刃はアスファルトに叩き付けられガキィン、と甲高い音を鳴らす。
その音が鳴り響くと同時にタカラギコはまたまた走り出す。今日だけでどのくらい走っているだろうか。
走りながら後ろを振り向くとあいがいつものように叫びながら追いかけて来ている。あの時は追いかけて来なかったのに。
タカラギコはサッカー部であり、走力にはそこそこ自信があった。対してあいは部活には無所属であり、体力も平均以下と言ったところだ。
絶対に追い付けるはずが無い。
だが、彼はもう身体的にも精神的にも限界だった。全力を出し続ければ、あと数百メートルも走れそうに無い。
そんな絶望的な状況の中に一筋の希望があった。
前方に見える白い建物。病院。その入り口の前に誰かが立っているのが見える。
タカラギコはその者に助けを求める事にした。

172 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/10/20(金) 23:48:39 ID:ehgmmtXf
時はほんの少し遡る。
【男子5番】ゲララーと【男子13番】二ダーは怪我の治療のためC-8の病院に来ていた。
【女子16番】みるまらに奇襲され、ゲララーは顔面を負傷。ニダーは右肩を撃たれるという重症を負ってしまったのだ。
しかしまさか、何時間もずっと気付かれずに追い掛け回していたとは。ゲララーはみるまらのその執念深さにある意味関心していた。
ニダーの右肩には包帯が巻かれている。お互い、適切な治療法を知らなかったため、なんとまあ適当に巻き付けてあるだけだった。
ゲララーはみるまらに銃で殴られた顎を痛そうにさすっている。
「はぁ…酷い目にあったニダ……まさかもう追いかけて来てないニダよね?」
「さあなぁ。てゆーかあいつあんなに執念深い奴だったんだなぁ、ちょっとビックリ。ぎゃはは!
 いや〜、でもニダちゃんもカッコよかったぜ〜? 俺の代わりに弾受けてくれたんだもんなー、マジで助かったよ。
 そんでもって俺がみるまらちゃんに逆転されて、わー俺もう死ぬんだー、って思った時に背後からぶっ刺すんだもんよお、驚いちったよ、ぎゃっははははは!!」
まったく、九死に一生を得たというのに暢気なものだ。ニダーは思った。
しかし、何故ゲララーを助けたのだろうか、と疑問に思う。あの時、ゲララーはみるまらに狙われていた。
そして、一心不乱に彼を突き飛ばし、結果的に彼は助かった。それしか選択肢が無かったからかもしれないが。
自分だけ逃げていたらゲララーが撃たれた後、撃たれていただろうし、一対一で勝てそうな相手でも無かった。
でも、そうじゃない。
自分は最初ゲララーを殺そうとしていた。それでも彼は自分の事を殺さず、突き放しもしなかった。
だから、その借りを返したかったのかもしれない。
そしてなにより、死なせたくなかった。
今まで一緒に行動して来た、仲間として。

「さーてとっ、そろそろ出発するかあ! あいつもまだ生きてるみたいだからよ!」
ゲララーが言いながら立ち上がった。あいつとは勿論【男子17番】フーンの事だろう。
ニダーもそれに続くように立ち上がった。
それぞれ荷物を持って病院の外へ出る。
「あ。」
ゲララーが突然声を上げた。
「どうしたニダ?」
とニダー。
「ぎゃはは、別に大した事じゃねぇよ。ちょっと、何か腹が急によ…。
 やべ、出そうだ。ちっと俺病院に戻ってトイレ行ってくるわ。これ、持って待っててくれ。」
そう言ってゲララーはニダーに自分のデイバックを差し出した。
ニダーは何か言おうとしたが、その時には既にゲララーの姿は無かった。
「まったく…この怪我で二人分の荷物はきついニダ…。」
左腕だけで二つのデイバックを持つニダー。
ゲララーが病院に戻ってから5分が経った。
彼はまだ戻って来ない。言われたままに荷物を持ってるのも疲れてきたので、二つのデイバックは地面に置いた。
さらに5分が経った。
遅い。ニダーがほんの少し苛つき始めた、とその時。

173 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/10/20(金) 23:49:26 ID:ehgmmtXf
「たっ、助けてください!!」
と慌てた声で叫びながら、タカラギコがニダーの元へと駆け寄って来た。
「えっ、え?」
何が何だか分からないニダー。タカラギコはニダーの目の前まで来るや否や、すぐにニダーの後ろに回り込み、身を隠す。
いきなり助けを求めて来て、おまけに『はい』の返事もまたず自分の後ろに隠れるタカラギコに、ニダーは多少の不信感を抱いた。
後ろを振り向きタカラギコの顔を見るニダー。かなり怯えているようだ。
「君は…タカラギコニダね? 一体どうしたニダ?」
慌てた相手を落ち着かせるように、ニダーは努めて冷静な声で尋ねた。
「えっ、あ、ど、どこから説明したら良いのか…………! ああっ!! ニダーさん後ろ!!」
「え?」
言われて振り向くニダー。
そこには、斧を両手でこれ以上上がらないくらい大きく振り上げながら、走り寄って来る少女の姿があった。

次の瞬間には、あいの振り下ろした斧はニダーの頭をかち割っていた。
ニダーはぐぅぅ、と呻きながら、斧が突き刺さってからも4、5秒程立っていたが、途端に足がもつれ仰向けにばたりと倒れた。
「あああああぁぁああぁぁぁああああ!!!!」
タカラギコが咆哮に近い悲鳴を上げた。彼の精神はとっくのとうに限界を超えていた。
「うっきゃああああああああ!! 抜けないいいい!! きゃああああああああああ!!!」
一方のあいはと言うと、これまた大きな声で喚き散らしながら、ニダーの頭に突き刺さった斧を必死に抜こうとしていた。
しかし相当深く突き刺さったのか、なかなか引き抜けないようで、割れた頭蓋骨がミシミシと音を立てながら血を噴き出すのみである。
「うわああぁぁああああああ!!!」
タカラギコはもう一度叫ぶと、どこかへと我武者羅に走り去って行った。

すると、タカラギコと入れ替わるように病院からゲララーが慌てた様子で出て来た。
「おいおい、どうした……!!」
ゲララーの目は驚愕により大きく見開かれた。
彼の目に映った光景。
それは今まさに、あいがニダーの頭から斧を引き抜いた瞬間だった。

【残り26人】

174 :コクリュウ ◆jCKbKku1z6 :2006/10/21(土) 22:30:00 ID:NV8mndyx
雑談スレおちたからまた立てといた。
http://aa5.2ch.net/test/read.cgi/aasaloon/1161437341/


175 :ミスター7:2006/10/23(月) 05:37:08 ID:uEjMxh0h
ここはH-7の民家である、ここには今のところ4人の生徒がいる
その4人は、さっき4人になったばかりである、その中の一人が口を開いた
「あなた・・・そのバット・・・・・・」【女子7番】花瓶だ 
そして、次はさっきこの集団に加わったばかりのバットを持っている男が口を開いた、
「ああ、これか?これはなァ。さっきアリスのやつをぶっ殺したときの血だよ・・・ククク。。」
その男【男子14番】ノーネが不気味に笑う、    そこに
―――――――――――「18時になりました3回目の放送を始めます」―――――――――――
放送が入ってきた、それとほぼ同時にノーネが「死ねぇー――――――――――」といいながら、
バットを振りかざし花瓶に殴りかかる、後ろにいた【女子21番】ルルカが悲鳴を上げる、
そこに「花瓶ちゃん!危ない!」と、横にいた【男子12番】ドクオが飛び出してきた、
ドクオは持っていたナタでノーネのバットを受け止めた、
「邪魔するんじゃノーね!」ノーネは今度はドクをに殴りかかる、そのとき
                「ドン!」 
 ノーネが吹っ飛んだ、    「ノ・・・・ネェェェェ!!!!!?????」音がしたときには
ノーネの左腕は吹き飛んでいた、花瓶がショットガンでノーネを撃ったのだ、
「こ、このアマ・・・」ノーネは右腕でバットをとり立ち上がろうとしたが、「動かないで!」
花瓶に止められた、「ここから出て行きなさい」花瓶はショットガンをノーネに突きつけそういった、
ノーネは    「ふ・・・・ふざけるんじゃノー―ーネェェェェ!!!!!」殴りかかってきた
       「ドオォン・・・」


「方向はこっちであってる?」「うん、あっているよ」   花瓶、ドクオ、ルルカの3人は
ノーネを殺した後、もうここにはいれないということで、西へ移動しているのだった、
「禁止エリアは・・・G−7、H−9、Аー2だったっけ?」「それであっているよ」
この3人がこの後どうなるか、それは誰にもわからない・・・・
現在時刻18:08


【男子14番】ノーネ死亡

【残り25人】

176 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/10/23(月) 19:59:44 ID:dnADcnU4
状況説明とセリフを羅列するだけでは小説とは呼べませんよwwwwwwwwww

177 :コクリュウ ◆jCKbKku1z6 :2006/10/25(水) 23:14:22 ID:0p69BDyF
ま、そこんとこは目を瞑ることにしとく。
ただでさえ書き手少ないんだし。
重要キャラ殺さなきゃいいでしょう。

178 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/10/26(木) 01:04:40 ID:SMtJIWzX
とりあえず糞コテは消えろ。

179 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/10/28(土) 22:02:39 ID:X5kvHxQh
「ここらへんで少し休みましょう。」
【女子7番】花瓶は歩みを止め、【男子12番】ドクオと【女子21番】ルルカに言った。
二人からは特に反論も無かったので、三人は揃って近くに倒れていた丸太の上に腰を下ろした。
現在地はH-4あたりだろうか。

花瓶は1時間半ほど前に起きた惨劇を思い出していた。
三人一緒にあの民家の二階で休んでいた時、突然一階で窓ガラスが割れる音がした。三人は驚いたが、すぐに状況を理解し、武器を手に取る。
一階からはいかにもやる気な男子生徒の声。そして暫くすると部屋の扉が勢い良く開かれ、全身血塗れの男が入って来た。
それが【男子14番】ノーネである。
ノーネは三人に金属バットで襲い掛かって来たが、結果的に花瓶が彼を撃ち殺してしまう。
ノーネの頭が砕け散ったあの瞬間。ショットガンの威力をまざまざと見せ付けられた瞬間だった。

「…ところで花瓶ちゃん。俺達これから一体どうすれば良いのかな?」
唐突にドクオが問う。
「え? ………う、ん……実は私もよく分からないんだ。この状況下で私は何をするべきなのか……。」
嘘では無い。
彼女は朝方ルルカと出会うまで、会場内をただ放浪していた。そして彼女なりに色々と考えてみたが、結局答えは出なかった。
ドクオは彼女の返答に対し、「そっか……。」と力無く呟くと、押し黙った。
ドクオも、そしてルルカもこれから何をするべきか、明確な目標は無かった。ただ、死にたくは無い。それだけだった。

そういえば、他の皆はどうしているのだろうか。
自分のように、何をするべきか分からない者もいるかもしれない。死を恐れ、どこかに隠れているだけの者もいるかもしれない。
勿論、ノーネのようにやる気になっている者もいるだろう。彼らの手によって、生き残りがどんどん減っていくんだ。
ふと、3回目の放送の事を思い出す。
ノーネに襲撃された時の事であったため、死亡者や禁止エリアなどを一部聞き逃してしまったが、他の二人が聞いていた分もあり、
それらを繋ぎ合わせ何とか全ての情報を得る事ができた。
三人が全く聞き間違えを犯していないのならば、禁止エリアはG-7、H-9、A-2。
死亡者は【男子1番】イマノウチ、【男子8番】ターン、【男子10番】ッパ、【女子14番】ニラ茶娘、
そして【男子2番】ウワァァンだ。

あの時のウワァァンの悪行が鮮明に浮かび上がる。ルルカを襲い、挙句の果てに強姦しようとした下劣なあの野郎。
彼女をどうしても助けてあげたくて。だから、あのナタであいつの腕を斬ってやった。
両腕を切断された状態では、放って置いたら間違い無く出血多量で死ぬ。つまり、ウワァァンを殺したのは自分である可能性は非常に高い。
死んでせいせいしたとは思ったが、仮にも同じクラスの男子だ。罪悪感を微塵も感じなかったと言えば、嘘になる。
ノーネを殺した時も同じようなものだ。向こうが先に襲い掛かって来たから、私は彼を迷う事無くこの銃で殺せたのだ。
結局、私は何なのだろうか。誰かを守るためなら、躊躇せずクラスメイトを傷付けられるのか。

……まぁいい。二人共当然の報いだ。自分で自分は悪くないと言い聞かせる。
ようやく、私が今ここで何をするべきか分かった気がする。
このゲームに乗った者を、殺すんだ。

花瓶が一人決意を固めた。と、その時。

180 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/10/28(土) 22:03:24 ID:X5kvHxQh
ダダダダダ

と銃声が近くで聞こえたかと思うと、三人の足元の地面が弾け、土煙が上がった。
あまりに突然の事に三人は驚き、銃声のした方向に目が釘付けになる。花瓶は咄嗟にレミントンM31RSを両手に構え、ドクオはナタを手に取り臨戦態勢に入る。
すぐに土煙が晴れ、目の前の景色が露になる。そこに。

「さあ、パーティーの始まりだ。」
M16自動小銃を構え、ニヤリと笑う【男子17番】フーンがいた。
フーンの全身が見えると同時に、再びフーンの手元から激しく火花が散った。
三人は地面に伏せその銃撃をかわす。実際は、ただ一人ルルカの反応が遅れたのだが、隣にいたドクオが彼女の肩を掴み、無理矢理地面に伏せさせた。
花瓶はその持ち前の運動神経を生かして、伏せた状態から瞬時に立ち上がると、レミントンM31RSをフーンに向けて撃つ。
だが、ノーネの時と違い、フーンと三人の間にはそこそこ距離がある上、ショットガンは反動が凄まじい。
反動のため銃口がぶれ、弾丸はあらぬ方向へと飛んで行く。
「ドクオ君はルルカちゃんを連れて逃げなさい!」
花瓶が撃ちながら叫ぶ。
そう、これは銃撃戦。ドクオのナタやヌンチャクは接近武器であり、銃にはとても敵わない。
要するに、ドクオやルルカは戦力外であり、足手まといなのだ。下手に花瓶の傍にいても、命を危険に晒すだけである。
「で、でも花瓶ちゃんを一人置いては行けないよ!」
「私は大丈夫だから、絶対に後で追いかけるから! 早く!」
ドクオの言葉に動じる事も無く、二人に逃げるように告げる花瓶。ドクオは迷った。
本当に彼女を置いて逃げていいのか……?
しかしその彼の思考も、ダダダダ、という音により断ち切られる。フーンのM16自動小銃が放った弾丸は三人のすぐ横を掠めて行った。
「早く!! 逃げてっ!!」
花瓶が怒鳴る。
ドクオはハッとする。迷っている場合ではない。
「行こう! ルルカちゃん!!」
ドクオは今までおどおどしていたルルカの腕を強引に掴み、撃ち合いを続ける花瓶とフーンに背を向けて走り出した。
ルルカはドクオに手を引かれ走りながら、遠ざかって行く花瓶の方へと何度も振り返っていた。

「ほう、これまた気の強いお嬢さんだ。」
空になったマガジンを投げ捨て、新しいマガジンをM16自動小銃に装着しながらフーンは言った。
「理由はどうあれ、あなたがやる気なら容赦しないわ。」
花瓶がフーンに銃口を向け、睨み付けながら強く言い放つ。
「ふーん、そうかい。だがよ。」
花瓶の目付きが一層鋭くなる。しかしフーンは怯む事無く続ける。
「少しの気の迷いは命取りだぜ?」
言い終わらない内にフーンは素早く花瓶に銃口を向け、撃ち始めた。

181 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/10/28(土) 22:03:58 ID:X5kvHxQh
そしてその銃撃戦によって生じた二種類の銃声は、彼ら三人の耳にも届いていた。
彼らの視線は自然と銃声の聞こえた方角へ向けられていた。
「今の銃声……近いね。」
【男子7番】ショボーンがおもむろに呟いた。
「しかも二種類。片方は聞き覚えがある。多分、フーンの持ってた銃のものじゃないかな?」
「誰かが襲われてるんだ、すぐ助けに行かないと!」
ショボーンのその言葉の意味を瞬時に理解し、【女子6番】ガナーが真っ先に立ち上がった。
「待つモナ! 下手に首突っ込んだら巻き添え喰らうかもしれないモナ!」
今すぐにでも駆け出して行きそうなガナーを、【男子19番】モナーは慌てて制止する。
モナーは彼女を、最愛の妹をまた危険な目には遭わせたくなかった。
「そんな事は分かってる。でももう嫌! さっきの放送を聞いたでしょう!?
 どんどん友達が死んでいく……もう耐えられない! 今近くで襲われてるのはモララーさんかもしれないじゃない!」
ガナーがそこまで行った時、また微かにダダダダ、という銃声が聞こえて来た。
モララーは確か銃を持っていなかったはずだ。
モララーがフーンに襲われているとすれば、先程の二種類の銃声の説明がつかなくなるため、モララーが襲われている可能性は極めて低い。
フーンがあの銃以外に別の銃を手に入れている場合は別だが、それはそれで恐ろしい事である。
やはり他に銃を持った生徒がフーンと遭遇し、今まさに銃撃戦を繰り広げていると言ったところだろうか。あるいは。
何にせよ、このまま放って置いたらまた誰かの命が失われるのは目に見えている。
確かに助けられる命は助けたい。しかし妹を危険な目には遭わせたくない。ならば。
「分かった…分かったモナ。じゃあ僕が一人で様子を見てくるから、ガナーはここで待ってて欲しいモナ。それで良いモナね?」
モナーが言ったが、すぐにガナーから反論が来た。
「良いわけ無いじゃない! お兄ちゃん一人じゃ危なすぎるよ! あたしも一緒に行く!」
「ショボーンはガナーについててあげてほしいモナ。頼めるモナ?」
ガナーの懇願するような叫びを余所に、モナーはショボーンに言った。
突然話を振られてショボーンは少し動揺したが、彼はモナーの目をしっかりと見据え、「分かった。」と答えた。
「お兄ちゃん、駄目だよ! 一人じゃ…」
「ガナー!!」
尚も食い下がろうとするガナーに向けて、モナーは怒声を上げた。
普段あまり怒る事の無い兄が、このような大声を上げる事はとても珍しかった。
その声と表情に圧倒され、ガナーは思わず体をビクッと揺らし、顔を強張らせ、反射的に目を瞑った。
「絶対無事で帰って来るモナ!! だからここで黙って待ってるモナ!!」
ガナーの肩を両手で掴み、強く言い放つモナー。その目は真剣そのものだ。
モナーは、呆然とするガナーの肩から手を離し、ショボーンに「それじゃあ頼んだモナ。」と一言だけ言うと、銃声のした方へ全速力で駆け出して行った。
「ガナー。モナーならきっと大丈夫だよ。彼を信じよう。」
モナーの駆けて行った方向を見つめ続けるガナーの肩にポンと手を置き、ショボーンは言った。

182 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/10/28(土) 22:04:30 ID:X5kvHxQh
モナーは走った。地を蹴り、木々の間を駆け抜け、銃声のした方へと。
走るたびに二種類の銃声は音量を増していく。ダダダ、という音と、ドン、ドン、という音。まだ銃声は鳴り止まない。
これだけ長く続く銃撃戦だ。お互い相当な運動神経の持ち主だろう。
400メートル程走っただろうか。木のあまり存在しない、開けた場所に銃を持つ二人の人間がいた。
大きく息を切らせながらも、それらの人物が誰かを確認する。
一人は予想通りフーン。もう一人は、何と女子だ。手にはこれは長いショットガン。
素早い身のこなしでフーンの銃撃をかわしながら撃っている。その正体は、紛れも無く花瓶だった。
その時、片方の人物、フーンがモナーの存在に気付いた。
フーンはちっ、と舌打ちすると、モナーにも注意を向け、片目でちらちらと見ながらも花瓶に向けてM16自動小銃を連射していた。
モナーは片手に持っていたM18・357マグナム(ショボーンに断りもせず持って来てしまったが、仕方が無い)をフーンに向けて構える。
しかしフーンは花瓶の銃撃を避けるために激しく動いているため、なかなか狙いが定まらない。
その時、モナーの頭にある余計な考えがふと浮かんでしまった。

何故この二人は銃撃戦を始めたのだろう。
実際自分は二人がどのような経緯で銃撃戦を始めたのか知らなかった。
この場合、考えられる可能性は二つ。
フーンが先に花瓶を襲った場合と、花瓶が先にフーンを襲った場合だ。
問題は後者だ。後者の場合、花瓶はほぼ確実にやる気と言う事になる。そうだとすると非常に厄介だ。
自分がフーンを撃って、運良く弾が当たって倒れたとしよう。すると、銃声で自分の存在に気付き、今までフーンと戦っていた花瓶は今度は自分を狙って来るのではないか。
彼女がやる気で、全員を殺し優勝するつもりならその可能性は高い。
と言うか、よくよく考えてみれば、フーンが先に花瓶を襲った場合だとしても全然安心できないじゃないか。
様々な可能性を考えてみたが結局のところ、ゲームが始まってから自分は花瓶と一度も接触していないのだから、彼女がやる気かそうでないかは現時点では判断しようが無い。
ならばどうする。自分の身の安全のためにここは傍観に徹するか。いっそ逃げてしまおうか。

「ぁああっ!」
その時、突然モナーの耳に悲痛の叫び声が響いた。
何事かと悲鳴がした方を見ると、花瓶が左腕から血を噴き出しながらレミントンM31RSを取り落としていた。
花瓶が撃たれた!

何をそんなに迷っているんだ。
フーンを撃て。撃て撃て撃て!!

「割り込み厳禁、だぜ?」
フーンは、今まで何をするでもなく突っ立っていたモナーの方へ銃口を向ける。と同時にフーンのM16自動小銃が火を噴いた。
モナーは咄嗟に横へ転がるようにしてその銃撃をかわし、起き上がりざまにフーンに銃口を向ける。
そして引き金を引いた時、予想だにしない事態が起こった。

183 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/10/28(土) 22:05:05 ID:X5kvHxQh
ガシュッ

「!?」
何だこの音は。
しかも弾が出ない。何故だ。弾は入っているはず。
壊れた? 一体いつ、どこで。フーンの銃撃を何とか避けつつ、モナーは瞬時に記憶を辿る。

まさか……あの時。
【女子11番】つーに襲われた時の記憶が蘇る。
つーにこの銃を持つ手を蹴られ、銃は砂浜に叩き付けられ、そして。

(何か変な音がしたような気がするが気のせいだろう)

まさか……そんな偶然が……。

「どうした? 撃たねぇのか?」
銃口を自分に向けながらも、撃とうとしないモナーをフーンは不思議に思った。
撃たないんじゃない。撃てないんだ。
モナーは引き金を引いた。何度も引いた。一発だけなら不発かもしれないと思って。
しかし弾は出ない。
出ろ。出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ。

「でやぁぁあああ!!!」
もうヤケクソだ。モナーは銃を撃つのを諦め、フーンに向けてそれを思い切り投げ付けた。
それと同時に彼はフーンに背を向け、全力疾走を開始した。当然の事ながら、身体能力の高いフーンには、モナーの投げ付けた銃はあっさりと避けられてしまう。
走るモナーの背中に向けて、フーンはM16自動小銃を連射した。
「ぐわぁっ!!」
フーンの放った弾丸はモナーの腹に二発吸い込まれる。モナーは進行方向へと勢い良く突き飛ばされ地面に叩き付けられた。
肉を抉り取られるような激しい痛みと熱さがモナーを襲う。
「安心しな、今楽にしてやる。」
フーンが言い、空になったマガジンを投げ捨て、また新たなマガジンをデイバッグから取り出そうとした、その時だ。

ドン、と銃声がしたかと思うと、フーンの目の前を銃弾が通り過ぎて行った、ような気がした。
フーンは一瞬、花瓶が撃ったのかと思ったが、フーンから見て花瓶は左側、モナーは前方におり、銃声は右方向から聞こえて来た。
銃声がした方にバッと振り向くフーン。そこにいたのは、両手に二つの銃を構えた男。紛れも無い【男子20番】モララーだった。
馬鹿な。あいつは刀一本しか持っていなかったはず。
「てめぇ……どうして銃を…!」
全く予想外の展開に、フーンの額に嫌な汗が浮かぶ。その時、フーンの背後で大きな銃声が響き、何かが横を通り過ぎて行った。
「あなたの負けよ…!」
振り返ると、花瓶が右手にレミントンM31RSを構えており、その銃口から白い煙が上がっていた。
「お兄ちゃん!!」
「ガナー! 待って……モナー!?」
さらにフーンに追い討ちをかけるように、モナーが走って逃げようとした方角からガナーが、彼女から少し遅れてショボーンも駆けつけて来た。
何てタイミングの良さだ。
「ち…てめぇら………!」
おかしいと思うべきだった。モナーがいると言う事は、その仲間も近くにいるはずじゃないか。
あの時、モナーはガナーやショボーンと共に逃げて行った。当然、今までも共に行動して来たのだろう。
それなのに何故、彼は単独行動をしていたのだろうか。それは分からない。
いずれにせよ、今のフーンの状況は絶望的だった。一対五。手元の銃にはマガジンが装着されておらず、チェーンソーは接近武器。
さらに五人の内二人が銃を所持。火炎瓶なども含めると飛び道具持ちはもっと多いかもしれない。
確かに、一度に四人もの人間を相手にし、無傷でいられた彼ならば勝算が全く無いわけでは無い。しかし。

フーンは五人に背を向けると、一気に全速力で走り出した。
後方で銃声が何発か聞こえたが、当たらなかった。

184 :del ◆LPvIsnyBfg :2006/10/28(土) 22:05:38 ID:X5kvHxQh
「モナー! 大丈夫かっ!!」
モララーはフーンが見えなくなったのを確認すると撃つのを止め、慌ててモナーの元へと駆け寄る。その声に反応したのか、モナーが呻く。
「お兄ちゃん!! しっかりしてっ!!」
横たわるモナーの傍にいたガナーが、目に涙を浮かべながら叫んだ。
モナーの腹には小さな穴が二つ開いており、そこから夥しい量の血液が流れ出ている。正直、痛々しくて直視できなかった。
「あ……モララー……やっと、来た、モナ………。」
モナーが掠れた声で言った。
「モナー!! 喋るな、体力を消耗する!!」
モララーが叫んだ。彼もまた、目に大粒の涙を浮かべていた。
「ガナー………黙って待ってろって、言ったのに、来ちゃ、駄目モナ…。
 ショボーン……ちゃんと、止めなきゃ………。」
「モナー!!」
彼はもうそう長くはもたないと、その場にいた者達は分かっていた。
しかし、認めたく無かった。絶対に認めたく無かった。
「モラ、ラー………お願いが、ある、モナ…………。
 もし……僕が死んだら……僕の、代わりに……ガナー、を………守って、あげ、て、欲しい、モナ……。」
「何言ってんだよ……勝手な事言ってんじゃねぇよっ!!!」
モララーがモナーの片手を両手で握りながら、叫んだ。
モナーの呼吸がどんどん小さくなっていく。命の灯火がどんどん小さくなっていく。それを止める事は、誰にもできなかった。
「待て!! モナー!! 死ぬなぁぁあっ!!!」
モララーの悲痛の叫び声が周囲に響く。死ぬな。
しかし、彼らがいくら強く願ったところで、目の前の現実は変えられなかった。
モナーは最後にふっ、と笑ったかと思うと、そのまま動かなくなった。それと同時に、モララーが握っていたモナーの手が重みを増す。

モナーは死んだ。

信じられなかった。昨日も、その前の日も、自分と語り合い、笑い合った彼の死が。
しかし、握っていた彼の手の暖かさが急速に失われていくのを感じ、無理矢理信じさせられる事となった。
もう彼の声を聞く事もできない。もう彼の穏やかな笑顔を見る事もできない。モナーの死が現実となって重く圧し掛かる。
モララーは泣いた。男の癖に情けなく、大声を上げて泣いた。
ショボーンは歯を食いしばり、必死に涙を我慢していたが、やはりそれも限界だった。ショボーンは俯き、唇を噛み締めながら声を殺して泣いた。
そしてガナーは。

「あ……お兄ちゃんが……死ん、じゃった…………。」
絶対無事で帰って来るって言ったのに。
最後までずっと守ってくれるって言ったのに。
何で、何で、どうして。

たった1人の男の死が、ガナーを絶望の淵まで叩き落とした。
彼女はまるで魂が抜けたように、虚ろな瞳でモナーの遺体を見据えたまま動かず、しかしただ一つ口だけを動かして何かをぶつぶつと呟いていた。
彼らから少し離れた所にいた花瓶は、彼らのその様子を見て、ただ目を逸らす事しかできなかった。

男子19番、モナー。
彼はこんなにも呆気なく、15年という短い生涯を終えた。

【残り24人】

185 :名無しさん@├\├\廾□`/:2006/11/09(木) 15:44:42 ID:LfbpqHTT
  __,冖__ ,、  __冖__   / //
 `,-. -、'ヽ' └ァ --'、 〔/ /
 ヽ_'_ノ)_ノ    `r=_ノ    / ----------   ....,, _
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   n     「 |      /= , -―  '''''''' - 、      |
   ll     || .,ヘ   /三, ニ ̄         ヽ     ,. |,
   ll     ヽ二ノ__  {三.{三ニ          .|    /::  ヽ
   l|         _| ゙っ  ̄フ三ニ         |   i::::   i
   |l        (,・_,゙>  /ニ、三ニ;;__    ノ    !:::   |
   ll     __,冖__ ,、  >三         ̄       ::;:  .,
   l|     `,-. -、'ヽ'  \==                ヽ_ノ      />   .<\
   |l     ヽ_'_ノ)_ノ   トー-                 |      //     \\
   ll     __,冖__ ,、 |三三,------     ...,, _     .|      | |       | |
   ll     `,-. -、'ヽ' iヾ三三二'' -- ,,.        ゙゙ '' ,|      | |       | |
   |l     ヽ_'_ノ)_ノ  { 三三三二:::::::::::::゙ '':::-....,_    .,,-'|      | |       | |
. n. n. n        l三三三三二;;;;;;;;;;;;;;;;::::::::::::'':.、:::''::::::::|      \\__   .__//
  |!  |!  |!         l 三三三二::::::::::::::::::::::::: ̄::::::: ̄::::-|、       '-,__工工__,-'
  o  o  o      ,へ l三三三二::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|::ヽ        ||
           /  ヽ三三三二::::::::::::::::::::::::::::::( ⌒):::::::: |::::::\       ノ,シ


186 ::2006/11/19(日) 08:38:08 ID:+gq2iBHS
【男子19番】モナーは暗闇の中にいた、何か声が聞こえる、
「ここが天国なのかな?・・・」そう思った、
―――――――おい、モナーおきろよ―――――
・・・・・・・・・え?・・・・・・・・・・・・・
もう狂都に着いたぞ、 早くバスから降りようぜ、
そんな声が聞こえてくる、
・・・・・・夢?・・・・頬をつねってみた 痛い
――――なんだ!夢だったのか!―――
――今までのは全部夢だったんだ!!―――
それがわかったモナーは、バスから駆け下りて友達とかけていった。


―――――AABR7完―――――

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